表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/71

2話:第2王子はお嬢様の心変わりにショックを受けております


 ブリムンド王国には二人の王子がいる。


 第一王子、ルキウス・ダルム・アルメンドラ。

 第二王子、ラシオス・ウダル・アルメンドラ。


 それぞれ幼少期に婚約者が決められており、貴族学院卒業後の成婚を目指して日々交流を深めている。


 貴族学院の昼休み。

 第二王子ラシオスは、いつものように婚約者と昼食を共にしていた。今日は天気が良いから中庭にある東屋で食べている。籠の中身は二人分のサンドイッチとサラダ。ポットには温かいスープ。昼食は毎日王宮の厨房で調理し、使いの者が昼休みに届けてくれる。


 向かいに座る婚約者フィーリアは何故か浮かない顔をしている。サンドイッチが口に合わなかったのだろうか。 それとも、何か気掛かりな事でもあるのだろうか。


「今日は元気がないようだね、フィーリア」

「あら、そう見えまして?」

「さっきから全然食べてないだろう、体調が悪いのかな?」

「いえ、ご心配なく」


 取り繕うように笑顔を見せるフィーリア。

 それが作り笑いだとラシオスにはすぐ分かった。彼はずっとフィーリアだけを見てきたのだから。


「ラシオス様、至急お耳に入れたい事が」

「僕も君に聞きたい事がある」


 昼食を終え、フィーリアは先に教室に戻った。

 そのタイミングで声を掛けてきたのは、フィーリアの側付きメイド、エリルだ。東屋の柱の陰に隠れ、お互いの姿が見えない状態で言葉だけ交わす。二人は時折こうして情報交換をする仲だ。


 高位貴族といっても学院への使用人の同行は原則認められていない。エリルは厳重な警備網を突破して忍び込んでいる状態だ。


「フィーリアがよそよそしくなった気がするんだ」

「ああ、まさにその話です」

「えっ何? どういうこと?」

「お嬢様は最近恋愛小説にハマっておりまして、昨日ついに恋愛結婚がしたい!などと言い出しました」

「へぇ~恋愛小説読むんだ、可愛いな~」


 ラシオスはエリルからもたらされたフィーリアの新情報に目尻を下げている。その様子を見て、エリルは小さく息を吐いた。


「親が決めた婚約者は嫌だとも言ってました」

「そっか~、……、……え!?」


 言葉の意味が脳に浸透するまで、たっぷり数十秒。衝撃の発言に、ラシオスは思わずエリルの方に顔を向けた。


「フィーリアは僕が嫌いになったのかい!?」

「お静かに。周りに聞こえます。……いえ、単にときめきや刺激が欲しいだけだと推察します」

「なるほどね~。……ん? つまりフィーリアは僕にときめいてないってコトかな?」

「平たく申しますと、そういう事です」


 何処からどう見ても非の打ち所がない完璧な王子、それがラシオスの周りからの評価である。血筋はもちろん、見た目も成績も良く文武両道、加えて穏やかな気性。誰もが憧れる王子様だとラシオス自身も自覚している。

 だから、婚約者のフィーリアも自分の事が好きなはずだと信じ切っていた。


 しかし、現実はそうではなかった。


「だ、だから今日あんなにつまらなそうにしていたのか……!」

「そのようですね」


 淡々と返事をするエリル。

 ラシオスが身を乗り出してくるので、仕方なく柱の陰から庭の茂みに場所を移して身を隠している。身分の違い過ぎる二人が密談しているのを誰かに見られたら不味いからだ。

 というか、エリルは学院の敷地内に不法侵入しているので、それ以前の問題である。


「お嬢様には何としてもラシオス様と結婚していただかねばなりません」

「エ、エリルは僕の味方なんだね」

「もちろんです。お嬢様はこの先なにをしでかすか分かりません。ラシオス様も、この危機に真面目に立ち向かって下さいませ」

「わ、分かった。ありがとう」

「それでは失礼いたします」


 エリルはそのまま中庭から姿を消した。


 彼女の目的は、結婚したフィーリアに付いて王宮勤めのメイドになる事。平民出身のエリルにとって、王宮は最高の勤め先だからだ。もしフィーリアが何処の馬の骨とも解らぬ男と出奔でもしたら、側付きメイドは解雇されてしまうかもしれない。解雇とならなくても、王宮からは縁遠くなるのは確実。仕事命のエリルにとって、それだけは絶対避けねばならない。


 わざわざラシオスにフィーリアの気持ちを知らせたのは、それを回避する為。


 ラシオスはフィーリアに惚れ込んでいる。立場上デレデレした態度を見せられないから普段は平静を装っているが、本当は一緒にいるだけで舞い上がって浮かれている。 エリルはそれを知っているから利用したのだ。



「恋をしたいのならラシオス様としたらいいんです」



 全ては自分の将来の為。

 エリルは第二王子のラシオスに発破をかけた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ