18話:お嬢様が隣国の王子に気に入られました
シャーロットの言っていた通り、貴族学院に隣国からの留学生がやってきた。
鮮やかな赤い髪が印象的な、見た目や表情からして覇気に満ちた青年である。教壇横で踏ん反り返って仁王立ちし、教室内を見下ろしている。
「えー、隣のアイデルベルド王国から留学して来られました、ローガン・アヴィド・ヴィガンティー殿下です。皆さん、くれぐれも失礼のないように」
紹介する教師の声は緊張で震えている。それもそのはず、ローガンはアイデルベルド王国の第一王子で次期国王。立場だけで言えば第二王子のラシオスをも凌ぐ。
「短い間だが、よろしく頼む!」
その堂々とした振る舞いに、ほとんどの者が気圧されていた。
彼自身には好感が持てるが、下手に関われば外交問題に発展してしまう。アイデルベルドはこの大陸でもっとも豊かな自然に囲まれた国である。食料自給率も高く、近隣諸国への輸出で財政も潤っている。もし次期国王たるローガンの怒りを買えば、それらの輸出がストップする可能性もあるのだ。
「それでは、ローガン殿下の案内役はラシオス殿下にお願いしてもよろしいでしょうか」
同じ王子同士なら多少何かあっても大丈夫だろうと判断した教師により、二人は引き合わされた。
しかし。
「男など要らん。他の者にしてくれ」
ローガンはアッサリとそれを拒否した。
これには教師も、そしてラシオスも唖然としてしまった。王子が駄目なら、それに次ぐ身分の者を案内役として定めねばならない。
このクラスでその立場にあるのは、ただ一人。
クラスメイトたちの視線が一点に集まった。
「……わたくし?」
ブリエンド王国第二王子ラシオスの婚約者で名門スパルジア侯爵家の長女フィーリア。
「おお、これは美しい令嬢だ! 気に入ったぞ、俺の滞在中の案内は全て貴女に任せよう!!」
「は、はい。よろしくお願いいたします」
ローガンはひと目で気に入ったらしく、すぐに歩み寄ってフィーリアの手を取り、その甲に軽く口付けた。
「貴女の名は?」
「フィーリア・パラス・スパルジアと申します」
「フィーリアか、良い名だ」
間近で屈託のない笑顔を向けられ、外見や名前を褒められ、フィーリアは自然と顔を綻ばせた。それは彼女が滅多に見せない自然な笑顔で、クラスメイトはもとより、婚約者であるラシオスも驚きを隠せずにいた。
ローガンから気に入られたということもあり、フィーリアの隣は彼の席となった。机を並べて授業を受け、合間の休憩時間には学院内を案内する。そして、昼休みは食堂でエマリナたちも含めて一緒にランチを食べる。
ここで無理やり割り込めばローガンの不興を買ってしまう。ただでさえも避けられていたというのに更にフィーリアに近付けなくなってしまい、ラシオスは肩を落とした。




