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13話:第2王子と親しくなった切っ掛けがありました 1


「え~っ、何それ信じらんない!」

「でしょう?」


 貴族学院から屋敷に戻ったエリルは、早速ミントに事の次第を話した。


 主人であるフィーリアの受けたショックを思うと心が痛むだろう。ミントは胸に手を当て、辛そうに眉を寄せた。


「嗚呼っ、お可哀想なお嬢様! カリオン様の理想的な対応を見た後にコレではあんまりよね」

「ホントですよ。まあ、クソ王……ラシオス様にはキツく言っておいたので、何らかのフォローをして下さるとは思うんですが」


 フィーリアが何に傷付き、どう思っているかは本人にしっかり伝えた。あとはどうにか自力で挽回してくれるのを願うばかりだ。


「お菓子作りを勧めたの私だから責任感じちゃう~! ……って、アンタ、さっきラシオス様のことクソ王子って言った?」

「言ってないです」

「うそ、聞こえたもん!」


 自己陶酔気味に嘆いていたミントだが、エリルの言葉はしっかりと聞いていた。


「あのさあ、前から気になってたんだけど、エリルとラシオス様って仲良いわよね。なんで?」

「別に、仲が良いわけでは」


 王位継承権上位のラシオスと平民出身メイドのエリル。天と地ほども身分差のある二人が何故こんな風に気安く話せるようになったのか。







 話は数年前に遡る。


 婚約が成立して十年。貴族学院への入学を控えた頃の話である。婚約者とは言っても季節の折や王宮での式典の際に顔を合わせるだけの付き合いだったが、既にラシオスはフィーリアに恋をしていた。


 可愛らしい顔立ち。鈴を転がすような可憐な声。そして、侯爵家長子としての凛とした振る舞い。フィーリアの全てを愛しいと感じていた。


 ──そう、全てを。


「済まない、君。ちょっといいかな」

「……はい?」


 スパルジア侯爵家に招かれてのお茶会で、ラシオスはメイドの一人に話し掛けた。茶会も終わり、招待客は皆別室に移動して不在。お茶会会場である談話室に残っていたのは、使い終わったカップや皿を回収している最中のエリルだけだった。


 相手は本日の主賓。テーブルに忘れ物でもしたのだろうかと思い、すぐに片付けを中断して駆け寄った。


「如何なさいましたか」

「君はフィーリア専属の子だよね」

「はぁ、そう、ですけれども」


 エリルが困惑顔で頷くと、ラシオスの表情がパァッと明るくなった。満面の笑みで手を伸ばし、エリルの両手を握り締める。突然触れられて、エリルは一歩後ろへ下がった。相手は王子だ。振り払う訳にはいかない。


「君を見込んでお願いがあるのだけど」

「はぁ、私で出来ることでしたら」


 そんなことより早く片付けないと先輩メイドから怒られてしまう。さっさと言う事を聞いて出ていってもらおう、そう考えた。





「フィーリアの使用済みのカップ頂戴」





「………………はい?」


 王子の口からとんでもない要求が飛び出し、エリルは数秒固まったのち、引き攣った笑いを浮かべて聞き返した。


「フィーリアの、使用済みの」

「あ、私の聞き間違いではなかったんですね。申し訳ございません。ちゃんと正しく聞こえております。意味が分からなかっただけですので」


 エリルの耳がおかしくなったのではない。

 ラシオスの口から出た言葉がおかしいのだ。


「ちなみに何故そのような」

「済まないが、使用目的は明かせない」

「え、こわ」


 あまり詳しく聞きたいとも思わない。今まで経験したことのない寒気を感じ、エリルはラシオスの手から逃れ、一気に部屋の隅まで距離を取った。振り払ったのではない。握られていた手をそっと抜き、一足飛びに離れたのだ。


「……やはり、君は只者ではないね」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主役が悪役令嬢とかじゃなくて、メイドというのが斬新で面白いと思いました。 フィーリアが周りから人気すぎて、もはや危険な域にまで達してる……! 果たして無事生き抜くことができるのか! 続き…
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