10話:お嬢様は婚約者の第2王子に歩み寄ろうとしております
オウレリアとカリオンの仲睦まじい様子を見て、フィーリアは婚約者のトレードを断念した。そして、今までラシオスに向き合っていなかったことに気付き大いに反省をしていた。
「わたくしは肩書きに甘えていたのかもしれないわ。そもそもラシオス様に何かしようだなんて思ったことすらないんですもの。恋愛してみたいだなんて言いながら、婚約者に対して無関心過ぎたのね」
「では、何か贈り物でもなさいますか」
「そうね……でも、記念日でもないのに急に差し上げたら不審に思われてしまうのではないかしら」
あの王子は貰えるものなら何でも喜びそうだけどなあ、とエリルは思う。
それと言うのも、ラシオスとエリルが裏で交流を持つようになったのは、彼がフィーリアの私物を欲しがり、密かに要求してきたことが切っ掛けだった。その時にひと悶着あって以来、何故か意気投合してしまったのだ。
「確かに、何でもない日にプレゼントしたら驚かれてしまうかもしれません。では、ここはオウレリア様に倣ってお菓子はいかがでしょうか」
「お菓子?」
「はいっ! ラシオス様とは毎日学院でランチをご一緒されますでしょう? 食後のデザートとしてお出ししたらどうかと」
「な、なるほど、それは名案ね!」
ミントの提案にフィーリアはすぐ同意した。
問題は何を作るかだが──
「クッキーは避けましょう。見たくもないわ」
「あれ、そんなにヤバかったですか」
「意識を保つのに精一杯だったのよ」
オウレリア特製クッキーは味もさることながら、食感や匂いも酷かった。最早トラウマと化している。
「カリオン様、完食してましたよね」
「あれこそ愛の為せる業です!」
「あれが……愛……」
愛さえあれば多少の失敗作でも受け入れてもらえる。ならば、フィーリアを溺愛している第二王子は生ゴミすら喜んで口に放り込むだろう。
「お嬢様、厨房に立ったことは?」
「もちろん無いわ」
「ですよね、知ってました」
高位貴族の令嬢が料理を作るなど有り得ない。
初心者が見様見真似で作ったら大惨事になると、オウレリアの件で身に染みて理解した。ならば簡単なものを作ればいい。
「では、料理長特製タルト生地に料理長が作ったカスタードクリームと料理長がカットした果物をお嬢様が綺麗に盛り付けてフルーツタルトを作ってみてはいかがでしょう?」
「……それは最早料理長の手作りでは?」
「いいえ! お嬢様手ずからクリームやフルーツを飾り付けたのでしたら、それはお嬢様の手作りと言っても過言ではございませんっ!」
「ちょっとミント、強引過ぎない?」
「でも、これなら失敗は有り得ないわよ」
「それもそうね」
相手は王子だ。変なものを食べさせるわけにはいかない。フィーリアは無理やり自分を納得させた。
「……出来たわ!!」
翌朝少し早起きをして厨房に入り、数十分の格闘の末、フィーリアは無事にフルーツタルトを作り上げた。
初めて厨房に立ち、エプロンを身に付け、震える手でクリームを絞り、フルーツを飾り付けた。仕上げのナパージュは料理長の担当だ。
「素晴らしい出来栄えです、お嬢様!」
「そ、そうかしら」
「ええ。これならばラシオス様もお喜びになるでしょう」
やや配置は微妙だが、素材と仕上げのお陰で見栄えの良いデザートが出来た。あとはこれを昼食の時間にエリルが届けるだけ。
「ランチタイムが楽しみですね、お嬢様っ!」
「え、ええ、そうね……」
出来上がったタルトを前に、フィーリアは何故か不安そうな表情を浮かべていた。




