プロローグ
それはちょっとした好奇心だった。
神の降誕を祝う“降誕祭”前夜。
街にはしんしんと雪が降り続いている。
夜会帰りだろうか、酔った男女が行き交う。
街はどの家も、どの店も、明かりがともされ、神の降誕を祝うように様々な飾りつけされている。
そんな街も夜半を過ぎ、大通りを走る馬車も徐々に数を少なくしていた。
(ただの噂でありますように……!)
馬車も使わず使用人の通用口から出ていく年の離れた夫、シルビオの後を、妻である12歳の少女エレオノーラは祈るような気持ちで、こっそりと追いかけた。
彼は路地に入ると、ある建物の前で足を止めた。
何かの店だろうか、看板は出ていない。
シルビオがドアをノックすると、中から女性が出てきた。
豊かな黒髪を揺らし、毛皮のコートに身を包んでいる。首元には大きめの宝石。
彼女はシルビオをうっとりと見つめ、腕を絡めた。
エレオノーラは息をのむ。
(噂は本当だったんだ……)
昼間、使用人たちが噂していた、絶世の美女とはきっと彼女のことだろう。
(あんな美しい人と、毎夜会っていたなんて・・・。)
失意の中で、屋敷への道をとぼとぼと歩いていると、頭の上にふと大きな影。
真っ黒で大きな塊から、勢いよく前足が下りてくる。
(馬??)
その瞬間に、体は宙に投げ飛ばされ、考える暇もなく地面にたたきつけられた。
「・・・っ!」
痛みで声も出せない。
雪で滑った馬車に、小さなエレオノーラは跳ね飛ばされてしまったのだ。
あわてて、御者がおりてきた。
中にいた貴族の姫だろうか、着飾った少女がもあわてて降りてくる。
「大丈夫?!しっかりしなさい!」
御者が呼吸を確認する。
「息はあるようですが、意識が・・・。」
着飾った少女は、少し思案した後、
「そう……この時間では医師も対応してくれないでしょう。ケガはないようだけど心配ね。ひとまず、連れて帰って手当てしましょう」
そういうと、馬車にエレオノーラを運び込み、あっという間に、走り去ってしまった。