トラブル対応・大山さん
普段は御用聞きのような仕事ばかりの俺だけど、緊急の仕事というのも、稀にある。
「大山さん、どうかしましたか?……はい、はい。では、すぐに伺います。
それと、スマホの電話は私が行くまで使わないようにお願いします。どこかに連絡される場合はメールでお願いします」
担当している顧客の一人、大山さんからSOSが届いた。こうなると、予定を変更して対応しないといけない。
俺は詳しい話を聞くため、急いで大山さんのお宅に向かった。
途中でイグニスを拾い、姿を消してもらってから大山さんの家についた。
大山さんは近所に多くの田んぼを持つ農家である。高齢者かつ、そこそこお金持ちなので、詐欺師グループに狙われたようだ。
ヤクザっぽい連中に、払えなくはないけど、かなりの額を請求されていると言う。
「もうどうしていいか分からなくて」
「大丈夫ですよ、大山さん。任せてください」
俺の仕事は、あくまでネット関連トラブルの対応である。今回の件には全く関係がない。
だけどゆるゆるな判定、身内の相談と言うことで、対応を買って出る。そこまで手の込んだ事はしないし。
「やり取りはスマホでしたか? なら、まずはスマホを貸してください」
大山さんだけではなく、俺の顧客の家電とスマホには、自動録音アプリを入れてもらっている。
家電もね、今の時代はパソコンと連動できるから。アプリで管理できるんだよ。
で、録音された内容を確認したら、支払い義務が無いことがハッキリした。ただの言いがかりだった。記憶で話を進めて、曖昧なところを嘘で強引に推し通す手法のようだ。言った、言ってないは断言しにくいからね。詐欺師はそこを突いていた。
上書き保存されないように、録音データは俺のスマホにもコピーしておく。
これで大丈夫。あとは警察に届け出るだけ。大山さんもほっとしている。
「ありがとう、助けてくれてありがとう。
ああ、これは少ないけど、お礼だよ」
「いえいえ。大したことではありませんから」
個人間で金銭のやり取りが発生すると、面倒が多い。
お礼にといくらか包んでくれたけど、それを固辞して物品でのやり取りに落としてもらう。
物なら、高額な物でもない限り大丈夫だからね。そっちは受けとるよ。
後日。
諦めの悪い詐欺師は直接暴力でお金を巻き上げるように方針を変えてきた。大山さんに殴りかかったようだけど。
「よく分からないんだけどね。いきなり男が倒れたんだよ。私もビックリしちゃって」
「まあ、詐欺師なんてどうでもいいじゃないですか。それよりも大山さんに怪我がなくて良かったです」
「そうだね。心配してくれてありがとう」
それはイグニスが上手く処理したようだ。
ついでに、詐欺師グループのアジトも襲撃して色々とやっていた。
イグニスは見た目が犬だけど、犬じゃない。
人間よりも長く生きているし、かなり頭がいい。それこそ、たかが俺程度では比較にならないぐらいに。
イグニスはアジトのパソコンからデータを抜き取り、ネット上にアップロードしていた。
警察は俺が通報したこともあり、そのデータを使って詐欺師グループを検挙、起訴。短期間で実刑判決を勝ち取った。
「ワンッ!」
「いい暇潰しになったみたいで良かったな」
金銭報酬は発生しないが、悪者退治は向こうでもやっているし、慣れたものなので気にしない。ちょっとしたイベントにすぎないのだ。
特に、仕事で外に出る俺と違い、イグニスはこの手のトラブルを楽しんでいるぐらいだ。
俺の周りは、俺視点で平和です。