お仕事タイム・柘植さんちの親子
異世界のゴタゴタは、日曜日に処理をする。
それまでは日本でお仕事だ。
「それでねぇ、うちの娘が転んじゃって」
「大変ですねー。怪我はしませんでした?」
「怪我はしなかったんだけどね、持っていたアイスが落ちてワンワン泣いて――」
「お母さん!! ちょっと、何を話しているのよ!!」
俺のお仕事は、顧客の様子を確認すること。
何か困っていないか聞きだすこと。
普段は何も無いからね。気楽なものだ。
独り暮らしの柘植のおばあちゃんのところで話をしていたんだけど、今日は珍しく娘さん――俺の母親と同年代――が顔を出していた。
今は旦那さんの仕事の都合で家を出ているんだけど、前は一緒に住んでいたんだよね。彼女は一人暮らしの母親を心配して、こうやってマメに顔を出す、親孝行な娘さんである。
お孫さんも居るんだけどね。その孫娘は東京の方で就職したって言っていた。年上らしいけど、俺は一度も見ていない。
ちょっと年上の孫娘さん本人に興味はないけど、「柘植のおばあちゃんの孫娘」には興味を持ち、話のネタにしていたりする。
興味の起点はおばあちゃんの方。そこは間違えたらいけない。
「おばあちゃん」は孫娘の事を語りたがっているからね。興味ゼロは論外、本人に直接興味を持つのもアウト。近しい誰かのお話をしたいのだから、気持ちよく話してもらうのが正解と。それだけである。
まぁ、たまにと言うか、よく孫娘から娘の話になるのはお約束。
娘さんがこっちに戻ってくるのって、おばあちゃんが変な話をしていないか、監視するためだったりして。
去り際、二人にこっそり回復の魔法を使う。
多少調子が悪くても、これでしばらくは健康だ。
異世界といってもステータス画面などは無いし、ゲーム的にスキルやら何やらが手に入るわけでもない。
HPが減ったから回復魔法でHPの上限いっぱいまで回復させる、という手順にはならない。
このあたりはフィーリング、ゆるふわな話なんだけど、回復の魔法を使って怪我が一瞬で治るとか、そんな都合の良いものではない。
怪我を超高速で治すことは可能なんだけど、普通と比べたらって話。重傷になれば、回復の魔法を使っても数日寝込んだりするよ。
その代わり、HP上限とか、そういった話も無い。回復の魔法を使えば、HPの上限的なものも増加する、と言えばいいのかな? 元の状態から、もっと健康な状態になるんだ。
でも、元の状態っていうのはそれまでの日常に適応した状態で、回復魔法でHPの上積みをしても、しばらくすれば元通り。魔法の効果は失われる。
言葉を返すと、上積みされた状態の維持もできるんだけどね。「もっと健康な状態」を維持するのは大変なので、精々が“持病が治る”程度じゃないかな。
それだって、普段の生活状態が悪ければまた患うようになるわけだが、何もしないよりはいいだろうよ。
俺がこうやって魔法を使うのは、タダだからね。毎朝の弁当受け取りの方が、よっぽど負担が大きいんだよな。
柘植のおばあちゃんが健康なら、俺がおばあちゃんに特に何かする必要もなく、仕事は変わらず話を聞くだけでいい。
お金関係とか、健康とは全く違う問題が出てくることもあるけどね。そういう事を言いだせばキリが無い。
問題が一つ減るだけで気が楽になる。それでいいじゃないか。