異世界交易・王様
「すまん、助けてくれ!!」
そう言って、衆人環視の中で王様が土下座を披露した。
土下座ってあれだよね。外から見ているぶんにはいいけど、自分がされる側になると「さっさと止めろよ」としか思えない。特に偉い人にそれをされるとね。
分かってやっているんだろうな。
そう思うんだけど、見捨てられないのも事実な訳で。宰相からは「甘い男だな」等と言われるが、本当に困っているのも事実なので助けることにする。
面倒くさいお仕事に、俺は大きくため息をつくのだった。
何があって王様が土下座をしたのか?
それは、大規模な「蝗害」が発生したからだ。
バッタが大量発生して、複数の村が食い尽くされてしまったのである。
バッタは魔法使いが何とかしたけど、食われた作物は戻らない。王様はその食料の埋め合わせを俺に依頼したのである。
よその国に、という選択肢は、無い。
中国の海外支援(笑)のように、よそに頼れば借金のカタに色々と差し押さえられる。便宜を図らないといけなくなる。
国が弱味を見せるのは不味いのだ。
よって、王様は弱味を見せても問題にならない俺に頭を下げるのだ。
俺に頭を下げてもそこまで痛くないし。部下の目の前だが、ある意味では「部下のためなら頭も下げる」「頭を下げる相手はちゃんと選んでいる」って評価になるからね。
もちろん、タダ働きはしない。
経費を含めて、かなりの額を預かった。宝石という形で。
宝石を売るのは大変なのだが、大金を得るのならば金よりもハードルが低い。さっさと換金し、売却額の2割を税金として払い、報酬と軍資金にする。
こういう手段で日本円を稼ぐのは、ハイリスクなんだけどね。背に腹は代えられない。
「もしもし、明保野農場さんですか?」
資金を得た俺はそこそこの大きさの倉庫を借りると、いくつかの農場に電話をして、売れ残りの農作物や牛乳などの買付けを行った。
最近は飲食店の自粛などで作物などは売れ残りが多いとニュースでやっていたが、情報がなくて怪しい、そして継続的な購入を予定していない俺には売っていいと言ってくれる農場は少なかったので、電話するだけでかなり大変だ。
それでも売れずに困っているいくつかの農場は話を聞いてくれて、中には捨て値で物を売ってくれるところもあったので、なんとか予定していた量の作物の確保に成功する。
「農家、やべーな」
農家や農場と交渉して思ったのは、彼らの提示した売値。小売りではなく卸売りだけど、とても安い値段で食料が集まったのだ。
今回の支払いでは、倉庫の賃料と運送費の方がよほど高く、売り物である食料のほうがよほど安かった。野菜用にはム◯オの冷蔵車両を使ったとはいえ、農家はこれで食っていけるのかと心配になるほどであった。
「俺が考えても仕方がないか」
俺は日本では一般人にすぎない。農家の現状など、俺が考えても何も出来ない話だな。
精々、普段から感謝の気持ちを持つことぐらいである。
その後、倉庫でコッソリと購入品をマジカルな手段で異世界に持ち込み、俺の仕事は終わった。
俺の持ち込みだけですべてが解決するわけではないが、これで飢え死にする人は大きく減ったはず。
大きな仕事を終わらせた俺は、達成感に浸るのであった。




