酒の席の、小難しい話・宰相
「何と言うか、結局、二ホンでも王国でも、やっている事は変わりないのでは?」
「そうか? 全然違うと思うけど」
日曜日。俺はちょっかいをかけていた大臣の心を折ると、その後始末を依頼するついでに、宰相に日本で詐欺師グループを1つ壊滅させた話を聞かせていた。
もちろん、酒を持ち込んでいる。
俺の話を聞いていた宰相は、ツマミを飲み込むと、俺はどちらの世界でも何も変わらないと、そんな事を言いだした。
「結局は悪を討つのだろう。法で裁けぬ悪を討つ。同じではないか」
「全然違うよ。こっちでは勇者としての振る舞いを求められるけど、あっちではもっと慎重に、隠れてやらないといけないし。
そうだな。騎士と冒険者みたいな差がある」
勇者っていうのは、どうしても公人の性質を持つ。
権力者とズブズブなので、そこまで間違った認識でもない。
そんな俺も、日本では私人でしかない。パンピーである。
当然権力の庇護が無いので、何をするにしても隠れてやらないと駄目だ。
つまり、やっている事は同じに見えて、やり方が全然違う。規模も小さくなる。
同じではないのだ。
俺の説明に、宰相は変な顔をした。
「変とはなんだ」
……声に出していたらしい。
突っ込みで微妙な雰囲気になったが、宰相は咳払いではなく、酒を一息に呷って場の空気を換える。
「まぁ、確かに規模は違うな。権力があれば、国全体に影響を及ぼすこともできる。私人でそれをやるのは難しいだろうよ」
「そうそう。まぁ、私人の方が小さい所に手が届くから、一概にどちらが上とは言えないけどね」
「ああ。国は最大多数の最大幸福を追求するからな。少数は切り捨てねばやっておれん。そういった細かい部分は、国以外に任せる他あるまいよ」
「この王国だと、俺は公人寄りの立場だけどな。……やっている事は私人寄り、かもしれんが」
「かもしれん、ではない。そのものだ。まったく。大臣の更迭などという厄介事を持ち込みおってからに」
「すまんすまん。だが、あの大臣は大臣に相応しくなかった。そう思わないか?」
国という枠組みの限界、組織に所属する事で生まれる柵。
権力を得る事で出来る事は増えるが、権力ではできない事も多い。
俺の立場はそういった制限がやや緩めなので、上手く立ち回って国の偉いさんではできない事でも、やれない事はない。
宰相がやったら拙い事も、俺がやる分には抜け穴がある。そういう話だ。
これは日本でも同じで、日本の政治家が作る枠組み、政策は「大勢を助けるためのもの」でしかなく、力の弱い、本当に助けが必要な人の所まで手が回らない事も多い。
そして法治国家特有の「法に守られた悪党」は手出しすらできず、野放しになる。
俺のやっている事は、そんな連中を潰す事。
国に所属する奴では手出しできない部分だ。
まぁ、国がそんな事を始めた場合、独裁国家とか、人治国家といった誹りを受けるわけだが。
「話が辛気臭くなったな。酒が不味くなる」
「ああ。小難しい話は、酒に合わん」
「「乾杯」」
政治の話をしてしまったが、そういった話は素面の時にするべきで、酔っ払いがしても意味が無い。
俺たちは小さく笑うと、グラスを軽く合わせるのだった。




