会社の食堂・後輩女子
昼の社員食堂。
某県某所の田舎町で会社員をしている俺は、いつものように弁当箱の蓋を開ける。
「せーんぱいっ。今日は焼肉弁当なんですね」
すると俺の隣に座った女、入社半年、俺から見ると1年後輩の「三橋 結花」がパーテーション越しに弁当をのぞき込んできた。
今のご時世、なんでもパーテーションで区切られてるよなぁ。
「本日はお高い御牛様だ。――やらんぞ」
「そんなぁ。こちらのサラダを御納めしますので、ぜひに、ぜひに~」
「はぁ。しょうがないなぁ、結太くんは」
この三橋は、小柄で童顔、愛嬌のある性格で、社内のマスコット――もとい、人気者だ。
独り占めしても邪険にしても角が立つので、俺としてはほどほどの距離感で付き合うべく、こんな小芝居をしている。
タダで弁当を分ける気は無い。けど、絶対にあげないわけではない。
物々交換であれば応じよう。
そんなスタンスで今日も牛肉二切れを三橋の弁当、やや白いご飯の比率が多いそれの上に乗せる。
こいつ、俺に集るのが前提で、ご飯の比率を増やしてるんだよな。
俺が休んだらどうするつもりなのか。
肉を口にすると、暴力的な脂の旨味が広がる。
少々くど目ではあるが、サラダや漬物を間に挟めばちょうどいい。とにかく旨い。
やっぱり牛の脂は偉大だ。肉が旨いから脂。そういう事だろう。
「うまっ! メチャクチャうま! 先輩、結婚してください! そしてこの御牛様の弁当を、毎日私にも作ってください!」
「アホか」
「ああっ!? 今、私の胸を見ませんでしたか! セクハラですよ!」
「黙れアホ娘。ありもしない罪をでっちあげるんじゃない」
「私の胸は、どうせ上げても寄せても持ち上がりませんよ!」
「誰もそんな事は言ってねぇ!!」
同じように隣で肉を口にした後輩が騒いでいるけど、適当にあしらう。時々ツッコミを入れる。
このあたりのやり取りは周囲も微笑ましいものを、仲の良い兄妹を見るような目で見ているようなので、たぶんセーフ。周囲と軋轢を生まないだろうよ。
結婚とか、そういった際どい台詞が混じっているけど、誰も本気にしていないと思う。
しかし。それにしても。
「今度はどこの部位を使うかねぇ。
醬油ベースでホルモン鍋? いや、それは冬の方が美味しいな。ローストビーフにして、ソースとワサビで食うか?」
今は9月。天高く馬肥ゆる秋。
俺は異世界で美味しく育て上げた牛の、肉の在庫を思い出して、次のメニューを考えるのだった。