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満月の歌姫

 立食パーティー形式の披露宴は数刻後、三々五々解散となった。

「ふ……この形式にしてよかったな……」

 レジナルドがどこか黒い笑みを浮かべて呟くのでライアが「?」という視線を向ける。

「だってどこかの会場を借りて座って飲み食いすることにしたら絶対長引くだろ。立ってればみんな満腹になったら休憩したくなるから自主的に帰るし」

「レジー……」

 呆れたような視線を向けてしまうのはもう仕方ない。

 でも責める気にもなれずライアは次の句を飲み込んだ。

 なにしろ、多分このパーティーにおいて一番神経をすり減らして疲れていたのは彼なのだ。


 会場の片付けも人を雇って全部任せてしまっている以上、飲み食いした客を見送ってそれなりに挨拶をした後は本当にやることがなくなっているライアとレジナルドは少し散歩しよう、ということになり森の中に向かっている。


 そんな中でライアはレジナルドの疲労加減を思い直しているところだ。


 ライアにとっては仲の良い友達を呼んで楽しむだけのパーティーだった。アビウスやリアムといったあまり印象の良くない人もいたとはいえ呼び方に工夫をしたおかげで彼らがパーティーで大きな顔をすることもなかったし、ライアに善意だとしても積極的に絡んできて気まずくなるということもなかった。

 でも。

 実は、レジナルドも呼びたくないけど招待状を出した人物がいたのだ。そしてこちらは正式な招待だった。

 ニール・グランホスタ。つまり彼の祖父。そして、彼の叔父にあたるグランホスタ家の現当主。

 彼の少ない身内だし、そこは呼んだ方がいいでしょうとライアが言ったのでレジナルドは渋々招待状を出したのだ。勿論、ライアとしてはレジナルドの気持ちを良く知っているので、彼らが招待に応じてパーティーに来たら彼に代わって接客し、彼が辛い思いを一切しなくていいように立ち回る計画も心の準備もできていた。


 でも……彼らはついに来なかったのだ。

 まぁ、それも理解できないことではない。

 なにしろ町では年明け早々かなり大騒ぎになった渦中のグランホスタ商会だ。問題を起こしたのはテスラート家だとはいえ、一気にイメージダウンしたグランホスタ商会はその後の数ヶ月であっという間にあちこちの店で客足が途絶え商売を縮小することになった。

 現当主はそもそも商売っけのない人物なのでそれでもいいだろうがニールに至っては仕事一筋、仕事が人生の全て、という人だった。

 そんな二人が揃って、町の人間やゼアドル家の人間がいるパーティーになんか……来にくいだろうなと思ってはいたのだ、ライアも。

 だから来なければそれでよし、来たら来たでレジナルドをフォローできるように対策を、くらいに思っていた。というのが実情。


 別にね。

 せっかく結婚するんだから全ての人に祝福してもらわなきゃとか、レジナルドの心のわだかまりも私が取っ払ってあげましょうとか、そんな事を考えたわけではないのよ。

 そもそもそうやって無理に楽しい歓びの場に彼らを呼んで、レジナルドの今日という生涯残る思い出に傷をつける必要はないと思ったし、そんなことで私が彼の心のわだかまりを取り除いてあげられるとかいうのは思い上がりも甚だしい思うのだ。そんな簡単なものじゃないことくらい知ってる。

 ただの形式。やらなかった事を後悔するより、やるだけやったよねって思える方がスッキリする。そんな気がしただけ。それも彼と話し合って納得した事だった。


 そんなわけで、いつ来るかわからない「本心では望んでいない」招待客を警戒していたはずのレジナルドは……きっと疲れ果てているだろう。と思うので。


「……お疲れ様」

 言いかけた言葉を改めたライアがそう言ってレジナルドの腕に自分の腕を絡める。と。レジナルドが元々ゆっくりだった歩く速度を更に落としてライアの顔を覗き込む。

「ライア……僕のこと……気にかけてくれてて……ありがとう」

 一言一言を区切るようにゆっくりと口から出るその言葉はまるで宝石のように煌めきながらライアの胸に落ちた気がした。


 そういえば最近、この人は「ありがとう」を連発するようになった。

 最初はぎこちないタイミングで抑揚の薄い声で発せられた言葉も、今ではむしろ意味深に聞こえるくらい絶妙なタイミングで告げられ、気持ちのこもった感謝の言葉になっている。

 すごいな……と、つい胸が一杯になる。

 私は……ちゃんと言えるだろうか。

 つい確認したくなって一度大きく息を吸う。

 絡めた腕に力を入れるとまるでレジナルドの腕に抱きついているようだが。


「レジー、大好きよ」

 そう言って口角を上げてみると、レジナルドが困ったように眉を下げて笑う。

「ホントに?」

 なんて尋ねてくるところをみると……まだまだ練習が足りないようだ。

 なのでそれを補うように「うん!」と頷く。

 と。

「じゃあ、僕のこと信じてついてきてくれる?」

 と瞳の奥がきらりと光った。

「え……そりゃもちろん……」

 ライアが一瞬目を丸くする。

 それはつまり、一生自分について来い、的なセリフだろうか。でもそれってもう婚姻届を出した段階で誓ってるよね? とも思うので見開いた目を数回瞬いてみると。

「じゃあこっち!」

 レジナルドがライアの腕を一旦解いて今度は手を繋ぎ直し、その手を引いて小走りになる。

 なのでライアもそのまま駆け出すようなことになり……。


「え……ちょ……レジー……そっちは……」

 ライアがふと自分たちが向かう先に思い当たるものがあって息を切らせながらも不安げな声を上げる。


 その小道はよく知っている。

 獣道に似た小道はその先で大きく開けた場所に出る。

 向こう側には大きな池。水面には青空が映り、そのほとりには大きな木があったのだ。水面にまで差し掛かるほどに枝を伸ばした柳の大木。

 そこは……ゼアドル家の一件以来、見るのが怖くて近寄れなかった場所だ。


 無言のまま手を引かれるライアは先ほどの言葉を思って自分の感情を押し殺す。

 レジナルドが、私を苦しめる事をする筈がない。

 そう自分に言い聞かせれば力が抜けそうな膝も少しはまともになる気がする。

 レジナルドは、私が泣くようなことは絶対しない。

 それを思い出せば泣きそうになるのも我慢できる。

 それでも、その場所が近づくと握られている手に力が入って指先が真っ白になっているのが視界に入った。


 ふと、先を行くレジナルドの足が止まった。

 まさに、これは見たくないと、長く思っていたその場所で。


「……ライア、見てみて」

 静かな声がしてライアが視線をそろりと上げる。

 足元に落ちていた視線は、繋いでいた手に。そしてその先で上着に隠れていた木製のカフスボタンがチラリと見える。

 ああ、あの花の模様にはこの人の将来を願う気持ちが込められていた。

 そう思った途端、胸の奥がふっと緩み、温かくなった気がする。

 そこからそろりと視線はアイボリーの上着の袖を上って、こちらを見ているレジナルドの視線に絡め取られる。

 促されるようにもう片方の手で指し示される場所へと視線を落としたライアは。


「……っ!」

 息を呑んだ。

 そして。

 その場にゆっくり膝をつく。

 そっと手を伸ばして、指先に触れるものの感覚を確認して。

 すぐ隣に腰を落としたレジナルドが柔らかく微笑むのは、ライアの表情に歓びの色が浮かんでいるからだろう。


 そこにあったのは柳の、大きな切り株だった。

 そして。

「……根こぎにされたわけではなかったのね」

 ライアが愛おしそうに撫でるのは。

「うん。芽がずいぶん元気に出てきてるからライアが喜ぶんじゃないかと思って」

 くすりと笑みが漏らされた。


 切り株から脇芽が出て、それがかなり成長している。もはや若木と言っていいほどのサイズだ。若木には沢山の艶やかな葉が付いており風が吹いているかのようにキラキラと揺れている。それは見慣れていたいつかの光景にも重なってライアの頰に涙が流れる。

 以前ならすぐに気づいて声をかけてくれた柳も、さすがにこんな若木の姿では言葉を発することはない。

 でも……生きている。


「ねぇライア。今夜満月だって知ってた?」

 ライアの背中を撫でながらレジナルドが囁く。

 気づけば昼過ぎから始まったパーティーからだいぶ時間は過ぎて、まだ日が短いこの時期としては当たり前のように陽射しがすっかり暖色を帯びている。

 まもなく日が暮れて東の空に月が登るのだろう。

 そんな事をゆるゆると思い出したライアがレジナルドの方に視線を向ける。と。

「満月の歌姫の歌って、奇跡を起こさないかなって思って」

 と、意味ありげな笑みが浮かべられている。

「え……」

 ふと、その言葉にあり得ないと思えてならない光景が思い浮かぶ。

 だいたいレジナルドはどこでそんな事を知ったのか。

「……老木殿ね……」

 ライアがようやく事態が飲み込めたという目で小さく息を吐いた。


 そういえば最近レジナルドは仕事の帰りが遅い日が度々あった。

 ここに通って柳の木の成長具合を見ていたのかもしれない。

 そういえば最近レジナルドは夜に一人で老木殿のところで話し込んでいる風だった。

 それはもしかして。


 満月の力が緑の歌い手によって普段以上に力を増すことがあるという言い伝え。

 それは古い木が語り継ぐ昔話の一つだ。

 その昔、樹を従える歌い手が満月の夜を好んで歌ったのは彼らと意志を通わせ共に興じる為だったとも、彼らを意のままに操るのに相応しい力が与えられるからだったとも言われている。

 ライアは彼らを敬い彼らの意志を尊重こそすれ、自分の都合に合わせて従えようとかはかけらも思ったことがないのでその種の歌は知ってはいても歌ったことがない。

 まして満月の夜にその種の歌を歌うのは言語道断、くらいに思っていた。

 でも。

 もし、そんな力が本当にあるのなら、今日この日、今この時に、柳の木に自分の幸せな姿を見てもらいたいと思ってしまった。

 自分の都合であるとはいえ、今の自分を見てもらうために呼び出してみたいという気持ちが芽生えた。


 なので。

「大丈夫だよ。ライアなら。……って老木殿が言ってた」

 と、深く頷きながら力づけてくれるレジナルドに応えるようにゆっくりと立ち上がる。

 木の力を呼び出すにはいくつかの歌があるが、記憶を辿って選ぶのは植物を従えようというような目線の歌ではなくて、昔人が樹々と心を通わせたくて収穫期に歌った歌。


 すう、と息をゆっくり吸って、吐き出すと視線を一度空に向ける。

 まだ月は登っていないが満月期であることには変わりない。

 そして若木の方に視線を向け直し、思いを込めて古い歌を口ずさむ。


 それは始めは呟きのように唇から漏れ、徐々に歌としての音節を持つ。

 古すぎて今は誰もそれを歌とは言わないかもしれない。

 詩歌の朗読にも似た歌だ。



 来たれ森に宿りしものたち

 集いて歌に加われ

 月はその生まれ(いで)し日より時を司り

 黒暗(くらき)を夜と呼びし方に仕えんが為

 その力を注ぐなれば


 樹々の麗しさよ 息づく命の流れよ

 尊貴とうとき稜威(みいづ)を纏うはたれそ

 集いて歌い歓喜せん


 悦びをわかつは人の賜物よ

 初生(ういなり)持ちて捧げんと

 我らの心を悦ばせ共に歌うは魂の唄


 いざ集わん

 この夜に



 歌の終わりに差し掛かった頃、柳の木の若木がゆらゆらと揺れた。

 まるで風を受けるかのような揺れ方は眠りから覚めて欠伸でもしているようで。


『我が眠りを妨げるは……誰かと思えば……可愛らしい花嫁よの……お嬢』


 ライアとレジナルドが目を見開いた。

 なんとなれば目の前に、背の高い女性がいる。

 歳の頃はライアと同じかもう少し若いかと言ったところだが、ゆったり微笑んで両手を広げるすらりとした女性は柳の木だとライアは直感した。

 長く腰まで届く緑の髪はまるで若葉のようにキラキラとしている。

 ライアが反射的にその胸に飛び込んだ瞬間ふわりと笑った女性はそのままくつくつと喉の奥で笑い続け。

『それがお前の選んだ花婿か。……いい男ではないか』

 などと茶化してくる。


 そんな言葉を受けてレジナルドが唖然としたままその場で跪いた。

「僕にも見えるようにしていただけるなんて……光栄です……」

 そう言って頭を垂れるレジナルドを我に返ったように振り返ったライアだったが、目を見張ったまま抱き止めてくれている女性の顔を覗き込み。

「すごい……それに……こんな姿だったのね……」


『いやいや。これはまだ木の若さゆえの姿よ。記憶は引き継いでいるがこうなっては暫く古木の力は使えんでな。お嬢の歌のおかげでようやく少しの間だけ人の姿を取れるようになった。……いい時に呼んでくれた。それにお嬢の歌はいつ聴いても心地よい』

 そう話す柳はとても嬉しそうで静かな笑みを浮かべっぱなしだ。



「私……たくさん話したいことがあったのに……」

 若木のそばに座り込んでいる女性の姿の柳にもたれかかるように座り込んだライアがポツリとこぼす。

 終始柔らかい笑みを浮かべている彼女はその視線をずっとライアに注いでおり、とても満足そうだ。

 そんな二人をライアの隣に腰を下ろして盗み見るレジナルドもどこか満足げで。


『気にするな。お嬢の歌がまた聴けただけで我は幸せというものよ。……それに……いつかこうしてお嬢に触れてみたいとも思っていた……』

 そう言いながらもたれかかっているライアの肩をそっと撫で、肩にかかっている髪の一房を指に絡めた。

「ふふ……くすぐったいわ……」

 ライアが小さく抗議の声を上げても満足げな笑みは崩されず。


 そして暫くたわいもない会話を交わした後、柳はゆっくり大きな欠伸をして。

『ふむ……お嬢、別れは惜しいが暫しの別れと割り切ってくれるか。人の形を取るにはまだ木が若すぎたようだ……この分だとまだ数年は眠らねばならんだろう』

「そう、ですか。やっぱり無理をさせてしまったかしら?」

 ライアが心配そうに顔を覗き込むとくすりと悪戯っぽい笑みが漏れる。

『いや。少し我儘をさせてもらったゆえ、我は満足じゃ。気にするな』

「我儘?」

 ライアが姿勢を起こして彼女に向き合うように座り直して尋ねる。

 レジナルドもそろそろ本当に「お別れ」となりそうな二人を見て柳の言葉に耳を傾けようと座り直した。

 と。

『ふん……この姿よ。お嬢に触れてみたくてこれを選んだ。若い男の姿ともなればその花婿が黙ってはおらぬであろう?』

 くくく、と笑う柳に。

「え!」

「な、なんだって!」

 ライアとレジナルドが同時に声を上げた。

 ライアはそのまま唖然とした様子で目を見開き、その隣のレジナルドは……先ほどからのライアに対する柳の仕草や行動が若い男の姿だったら、と想像してしまったのか一気に眉間に深いシワを作り。

「……とっとと眠りやがれ」

 と聞こえるか聞こえないかの声で呟くに至る。


 そんなこんなで。

 わりに呆気なく柳は女性の姿を消した。

 レジナルドが毒づくのをライアは宥めるのに精一杯で……気づけば涙の別れではなく……笑いが込み上げてきている。


「ねぇレジー、うちに帰ったら裏庭で宴するでしょ?」

 どうやら本当に眠りについてしまったらしい柳に背を向けてライアは不機嫌そうなレジナルドの顔を覗き込む。

 一応それは今日の予定であったので。

「いいけど……あそこの植物を人化させるのには反対だからね」

 何かのトラウマを抱えてしまったみたいな顔でレジナルドがライアの目をまっすぐ見つめる。

「うん……そうね……私もなんだかイメージが崩れそうだからそれは遠慮しとくわ。歌は歌う約束だけどね、違う歌にするし」

「ああ……そのドレス、歌いやすいようにそのデザインにしたんでしょ?」

 ライアの変な決意に安心したのか、貼り付けたような不機嫌はどこへやらの微笑みをレジナルドが向けてくるのでライアは肯定の意味を込めて微笑み返した。

 腰を締め付けないデザイン。

 これは恐らくパーティーの後に裏庭で歌うことになるであろう事を見越してのリクエストだったのだ。

 コルセットを使わないドレスなら腹式呼吸がしやすいから歌いやすい。

 そんな配慮。

「結局ライアが優先するのは彼らだよね」

 ため息混じりにそんなセリフが呟かれ、ライアがハッとした。

「ああ、別に怒ってないよ。僕はそういうライアが好きなんだから」

 慌てて訂正するかのように言葉が足される。

「あの……でも……」

 ライアがレジナルドの意図を確認するように瞳を覗き込む。

 冗談めかした雰囲気ではなく、かと言って深刻な雰囲気でもなかった。聞き流してもいいように思えたが、まるでレジナルドを蔑ろにしているような言い方にライアの胸が痛んだのだ。

 そんなことはない!

 と言いたかった。

 と。


「捕まえた」

 向き合った位置からさらに一歩近づいたレジナルドがライアの腰に両腕を回す。

「え?」

 意味がわからなくてライアが目を丸くするのを眺めるレジナルドは人の悪い笑みを薄く浮かべており。

「植物は大事でも、僕のことはちゃんと特別なんだよね?」

 そう尋ねられたら肯定するしかない。その瞳に怪しい光が見えるとしても。

「じゃあさ」

 レジナルドの右手がライアの腰から離れてその頰をそっと撫でる。

「木にはあんなに触らせるのに僕にはダメってことはないよね。……結婚したってのにキスのひとつもさせてくれないってちょっと酷いと思うんだ」

「え……いや……それは……」

 ライアが言葉の意味を察して身をよじる。

 そういえばこの人、ナギにもそんな事を言っていた。

 ……っていうか。

 うん。

 ちょっと心当たりはあって……ちょっと確信犯なんだけど。

 彼がキスしようと雰囲気たっぷりに迫ってくると、つい条件反射で話題を変えてしまったり、目の前のお酒を一気飲みしてしまったり、大きな声を出して気を逸らしたり……してしまっていたのだ。もう何だかこれは……条件反射の照れ隠しです、ごめんなさい。


 そう思えてならないので、この度もその条件反射とかなんとかでついレジナルドの腕から逃れようとライアが後退りしそうになっていると。


「ちょっとじっとしててくれないかな?」

「え? え?」

 慌てふためき始めるライアにレジナルドが「ふ……」と笑いを漏らして視線を逸らした。

 その、ちょっとの「間」でライアの緊張が緩む。


「……ライアってさ。木のイメージなんだ」

「え……木……?」

 頰を撫でる手は止まらないままにそんな言葉が紡がれる。

「うん。強くてしなやかで優雅な感じ」

 うっとりと細められた目はライアの視線を優しく絡め取っているが、先ほどの怪しい光はどこかに行っていてライアは少し気持ちに余裕が出た。

「……木って……優雅?」

 なんて聞き返してみて。

「違う?」

 レジナルドの問いについ笑みが漏れる。

「んー……普通さ、女の子を例えるなら儚くてか弱い草花とかじゃない?」

 そう答えながらくすくす笑ってしまう。

「ライアは草花と木のどっちに例えられるのが好きなの?」

「……木、かな」

「よかった!」

 問われるままに直感で答えるとレジナルドがぱっと笑顔になった。

 そんな表情を見れたらもっと喜ばせたいと思ってしまうのは惚れた者の弱みだろうか。などと思いつつも。

「それに……木を見て優雅っていう発想がある人って……大好き!」

 あ。今回は自然に言えたんじゃないだろうか。

 ライア自身、自分の言葉にちょっと驚いたところで、レジナルドも一瞬それに反応するように目を見開いて。


「……ああ、でも……そうだな……僕の腕の中にいる時のライアは細い若枝みたいだ。しなやかで……繊細な若葉をつけてキラキラしてるイメージ」


 その言葉は優しく言い聞かせるような音も含んでおり、恭しく捧げられる言葉のようでもあり、そしてうっとりと細められる目にライアはつい見入ってしまう。

 そんな風に自分を見ていてくれる人の腕の中にいることが幸せだと思えてならない。


 ゆっくり近づいてくるレジナルドの顔が自分の顔に影を落とし、唇が重なるのを……この度のライアは小さく笑みを浮かべて受け入れた。


ここまでお読みくださった皆様。ありがとうございます。

本当に、ありがとうございます!

なんとか最後まで書けました。

こんなお話にお付き合いくださった方に心から感謝します。


「物語シリーズ」を書き終えたあと「もう、しばらく執筆はしない!」と思っていましたが、結局そのあと二つもお話を書いてしまいました。

「物語シリーズ」は長いこと私の中に眠ってたキャラクター達の話だったのでどうにか形にしたくて長々と自己満足で書かせていただきましたが。

あとの二つはほぼ出来心で書いたお話です。


この話に至っては「一度軽い感じのやつを書いてみようかな」という出来心です。

軽い話をさくっと書いて終わらせる筈でしたが……長くなってしまいました。本当は7~80話程度でした。そしてコキアが……想定外でした。この子、表に出てくる筈のない子だったんだけど……。他の話に出てくるカイ、ナタリア、ユリウスに並ぶ危険人物。(解る方は「ああなるほど」とニヤッとしてください)

そのせいで途中からプロットをガン無視して話が暴走しました。


というわけで、本当に「終わってよかった!」という気持ちで一杯です。


書いてみたいなと思っていたタイプのお話は取りあえず書いたので。

今度こそ当分は書かないと思います。

今まで長らく、それこそ最初の頃からお付き合いくださった稀少な方(まだいらっしゃるかな……?)には本当に本当に感謝してます。

読んでくださる方のおかげでここまで辿り着けました。

感想を下さった方にも心から感謝します。

ありがとうございました。

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