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作戦開始


「急ごう、玄関で公安が騒ぎ始めている。梶井くん、準備は良い?」


「はい、どうぞ」


梶井の隣に川瀬 町子が座っている。


もう少しで、肩が触れるという距離。こんなにも近くにいるというのに、梶井には川瀬が遠い存在のように思えていた。


ちらと横目で見る。川瀬の視線は水無のパソコンの画面を映し出す、前方のモニターに釘付けになっている。


引き結ばれた唇と握り込まれた手。その緊張の度合いが一目瞭然だった。


「大丈夫だよ、俺がついてる」


そう伝えたかったが、喉に突っかかって声にならなかった。


緊張しているのだ。自分も。しかも計画通りに上手くいくのか、上手くやれるのか、正直自信も何もない。


クリーム色のガウチョパンツのひざの上。川瀬のぎゅと握られた手が、揺れている。


(……震えているのか?)


その小刻みに揺れる手を、横からそっと握ってみる。


ピクリとした。川瀬は梶井に振り向き、驚いた様子を見せた。


「か、梶井さん、」


そして薄っすらと頬を紅色に染め上げていく。


(綺麗だとは思っていたけど、……ほんと可愛いんだな)


手は振り払われなかった。その方がきっと心強いのだろうなどと勝手に解釈した。




「じゃあ、行くよ」


水無の声が部屋に響く。二人はそれぞれ前のモニターに顔を向けた。


梶井と川瀬がヘッドセットを通して、環を通して、外部リンクを通して、そしてデボラシステムのネットワークへと繋がろうとしている。


目をつむる。すると梶井の脳内に広がるひとつの光景。大きなドア。そのドアの前で一瞬、立ちすくむ。


けれど、頭の中では変わらずに、そのイメージは膨らんでいく。


このドアを開けるイメージ。そのドアから入り先へと進んでいくイメージ。その両方が重なり合って、頭に思い浮かんだ。


(こうやってやりゃあいいわけだ……)




『デボラシステムに入る。ルーイー、開けてくれ』


誰かの声が聞こえてきた。

いや、これは自分が発した声だ。


ルーイーからの返事はない。


けれど、デボラシステムの扉は、ゆっくりと開かれた。


中へと入る。


仕事としてデボラシステムを処方している光景とはいささかの違いはあるが、構造上はいつもの通常業務のはずだ。


(いつもと感覚が違う。なんか道でも歩いているみてえ。でもこれ、余裕でできちゃうんじゃねえの?)


だだっ広い空間をひたすら歩く。


そして、一瞬の目眩と浮遊感。


(うわ)


それまでは目の前には何もなかった空間に、ずらりとドアが並んだ。


AからZ。26のドアが。


水無が言うところの各地区ごとの入り口、葡萄ぶどうの実を支えるつたの枝、果梗かこうの部分だ。


唖然としてしまった。

その光景があまりにも殺風景で、なんの手応えもない。


『やべえ……こんなところでタイムリープやっても、なんの意味もねえぞ』


呟くと、全身の力が抜けていってしまう感覚に襲われた。



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