表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/49

真実の暴露


「ごめん、遅くなった」


言いながら駆け込んで入ってきた蓬莱に、梶井が振り向く。


「安居さんが更迭されたって、マジかよ」


そこへ蓬莱の後ろから入ってきた川瀬の姿を見て、梶井はぎょっとしてしまった。


(うお、)


蓬莱が川瀬を連れてくる、とは聞いていた。


(……なんだこれ、凄え似てきている)


一日に一度、梶井は環の部屋に向かう。


もちろん毎日見ていても、その成長は外見的には分からない。

けれど、データと照らし合わせて確認すれば、少しずつ成長の兆しが見つけることができるのだ。


髪、爪はもちろん、身長、体重、足のサイズに手の大きさ、そして顔の目鼻立ち。


そうやって、毎日見ていたからか。

川瀬に会った途端、環の面影と重なって見えて、その双子の強い結びつきに驚きを隠せなかった。


(やっぱ似てんな。当たり前か、双子なんだからな)


そして梶井は、その視線を川瀬の顔から離せなくなっている。


ただ、その梶井の驚きの視線に川瀬が気づくと、彼女はバツが悪そうにして視線を逸らしてしまった。


「おーい、梶井ー。安居さんの話をして良いかー」


棒読みに言う蓬莱へと、ようやく視線を戻した。梶井は、ああと頷いて唾を呑んだ。


「安居さん、僕を逃がすので精一杯だった。車を用意して、僕が川瀬さんを迎えにいくよう段取りをつけて」


蓬莱が顔を歪ませた。


「あのオンボロ、誰が運転してもいいように、ちゃんと保険契約、書き換えていたのには笑っちゃったけど」


「マジか。そういうとこ公務員だなあ」


「それで思っていたより早く、公安が動き出したんだ。あれよあれよと言う間に、安居さんの更迭が決まったみたい。それと同時に連行だよ」


「なんでバレた?」


「前から目はつけられてたんだけど、あれだよ、シュレッダー」


「くっそ、そんなところまで……」


「安居さん、何度か部屋の様子がおかしいとは言ってたんだ。急に掃除のおばちゃんが変わったんだって。で、僕たちとのやり取りで完全にバレたってわけ」


「盗聴器はおとりだったのか」


「そう。悔しいね」


「今、安居さんはどうしてんだ?」


「多分、公安で事情聴取かな。でももうこれで、安居さんは動けない。ここもそのうち封鎖しにくるだろうと思う。オンボロ車、かっと飛ばしてきたけど、時間の問題かもね。どうします? 水無先生」


「……うん、そうだね、どうしよっか」


「まだアタックの方法が、確立できていません。それに……」


大賀が気持ち、頼りなげに言い淀む。


応えて水無が続けた。


「うん、そうなんだ。本当は『健康維持管理局』のオペレーター室から、デボラシステムに侵入しようとしていたのに、安居さんがそこに居ないなら、もうそれ自体が不可能になってしまったね」


重苦しい静寂が訪れる。


安居が軟禁されたということは、事実上、『健康維持管理局』は公安の管理下に置かれているはずだ。

ここにいる梶井と蓬莱の社員証やパスワードは使えないと思って良い。

建物に近づくことすら、難しいだろう。


内部にはもう、協力者はいない。


蓬莱が、はあっと深く溜め息を吐いた。


その溜め息に重ねるようにして、水無が訊く。


「健康維持管理局の中に、誰か協力を仰げそうな人はいる?」


水無の提案。梶井と蓬莱が顔を見合わせる。


「もしいれば、その人にオペレーター室からサポートしてもらうっていうのはどうかな?」


「でも、水無先生。梶井くんと川瀬さんの二人が、その場にいないとダメなんじゃないんですか?」


「まあ、できればその方が確実なんだけど。でも、ここからでも梶井くんが侵入することはできるんだ」


「え、どうやって?」


梶井が大仰な様子で訊く。


「だって、ここにはデボラ本人がいるんだよ」


その言葉に皆が水無の顔を見た。


「でも、デボラはネットにリンクしてないって……」


言ってましたよね、と梶井が続けようとしたところを遮られる。


「ネットに接続していないとは言ったけれど、できないとは言ってないよ」


その言葉に一同、また沈黙した。


そして。


その沈黙が終わりを告げる頃、皆の視線が川瀬 町子に集まった。



妹が生きていることを、まだ知らされていない。



神妙な面持ちで佇んでいる川瀬は、どうして自分がこの場に同席しているのがまだ分からないといった顔だ。


(驚くだろうか、死んだと思っていた妹が、実は生きていて、実験体のような扱いを受けている。それにきっと、いや、絶対に。……泣くだろうし、……)


梶井は顔を歪めると、川瀬へとゆっくり近づいていった。


そして、梶井と川瀬を残して、他の皆は部屋からそっと出ていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ