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バカにすんなっ‼︎


「うっそ、すごいイケメンじゃない‼︎ ハーフ? 良いなあ、羨ましい」


「もうカナちゃんってば。イケメンに弱いんだからあ。ハーフだけど、日本生まれの日本育ちだって言ってたよ。それに羨ましいったって、別に……か、彼氏ってわけじゃないし」


「良いじゃん、まっちー、コクって付き合っちゃ……ごめん、やっぱ私が行くわ‼︎ 私が誘うわ‼︎」


「ちょ、ちょっと、カナちゃん‼︎」


「スミマセーン、遅くなってえ」


川瀬 町子は渋々、同僚の看護師、小堺こさかい 佳奈かなの後を追っていった。


そのイケメンが頭を下げながら、立ち上がる。


「すみません、職場にまで押しかけて」


丁寧にお辞儀をされて、川瀬は頭を下げた。


「……いえ、」


「梶井さんですよね、私、同じ看護師の佳奈って言います」


小堺は、ブラウスの首回りと袖についたフリルを揺らしながら、頭をペコッと下げる。


「初めまして、梶井と申します」


「梶井さん、今晩はヒマしてますか? 良かったら、一緒に飲みに行きませんか?」


「ちょ、いきなり、カナちゃんっ‼︎」


川瀬は露骨にうわ、という顔をしてしまった。


それが嫌そうに見えたのかどうなのか、梶井は苦笑し、「すみませんが今日は予定があって」と断りを入れた。


断られて、少しホッとする。


「えー、残念です。じゃあ、週末とかあ……」


「いえ、悪いけど」


「そっかあ、仕方がない。あきらめよっと。じゃあね、まっちー」


明け透けにものを言う小堺は、一部の看護師からは敬遠されてはいるけれど、医師からは評判が良い。


友達や彼女としてはお断りしたいが、仕事の助手としては完璧、と評されているからだ。


もちろん、本人はそれを知る由もない、が。


「すみません、カナちゃんが失礼なことを」


川瀬は気恥ずかしさの中、頭を下げた。


「いえ、こちらこそごめん、友達怒らせちゃったかな」


思いがけない言葉に、驚いた。

この前のつっけんどんな態度は、どこにいったのだ。


けれど、直ぐに思い直す。


(この前は、私の態度が悪かったのかも)


イケメンやチャラ男には免疫がない。慎重派な自分。そういう類の男性に対して、初対面から距離を取ってしまう自分を認識している。


苦手なのだ。どうやって話をしていいのか、わからないのだ。


けれど。なかなかちゃんとした梶井の態度に絆された。

先日の他人行儀でつっけんどんな態度を謝罪しようとして顔を上げた途端。


くくっと笑いを堪えている梶井の顔が目に飛び込んできた。


「な、何ですか」


「いや、その……ま、まっちー」


「それがなんですか?」


「ははは、なんか昭和のアイドルみたいだな、と……」


先ほどまでの申し訳なさが一瞬でふっ飛んで消えた。


怒りだけが、ぶわぶわっと身体を駆け巡っていく。


川瀬は唇をぐっと結んだ。


自分の怒りをおさえるのが先か。涙を堪えるのが先か。分からなくなり混乱した。


(バカにされた、バカにされた、バカにされた‼︎)


そして、それは口から溢れた。


「バカにすんなっ‼︎」


川瀬は踵を返して走り出し、カンバセーション室を出て、病院の正面玄関から道路に飛び出した。

タクシーを止めて乗り込む。


そして、自動で閉まるはずのタクシーのドアを、バシンと思い切り閉めた。



♦︎ 小堺こさかい 佳奈かな : 看護師。川瀬 町子の同僚。イケメン好き。ターゲットを決めると積極的。明け透けにものを言うので、一部の看護師からは敬遠されるが、医師には評判が良い。



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