『あまおう』の味わい
安居が出て行った部屋は、なぜかがらんどうで空っぽだ。それだけに安居の存在感の大きさを思い知らされる。
水無の様子。沈み込んでいるようだった。
大賀はそんな水無の様子をちらちらと見ては、気にしているようにも見える。
(でも安居さん、大賀さんにも話を聞けって言ってたよなあ)
黙りこくった三人が、顔を見合わせる。
そんな雰囲気の中。
居たたまれなくなったのか、大賀が話をし始めた。
「安居さん、丸投げなんて酷いな。いつも、あんな調子ですか?」
梶井は苦笑しながら、答えた。
「そうですね。ムカつきますよね。いつもああですよ」
大賀がそろりと立ち上がる。
「プリン、冷蔵庫にしまっておきましょうか」
「あ、水無先生がまだ……先生は、何味が好きなんですか?」
梶井が水無に声を掛けた。
「……そうだな、これかな。イチゴ味。あまおうっていう高級な苺を使ったやつです」
水無がひとつ取ったのを見届けてから、大賀がプリンを四つ重ねて持ち、冷蔵庫の方へと向かう。
「ははあ、だからあまおう味とキャラメル味の数がめちゃ多いんですね。安居さん、一応考えて買ってくるんだな」
水無はというと、梶井の安居への微妙な嫌味に微笑みをたたえながら、スプーンの袋を破り出した。
「ん、うま」
「それにしてもイチゴですか。天才でも意外と好みは普通なんですね」
今度は水無への皮肉。
あまりに重い秘密の暴露に対して、つい口を滑らせた格好となった。
けれど、水無の顔は無表情のままだ。
「んー、まあね。周りのみんなと自分のかけ離れた違いがわかってくるとさ。嫌でもみんなに合わせたくなるでしょ。普通ってのを求めたくなるんだね」
「そっすか。まあ凡人の俺にはわかんねえけど」
冷蔵庫から戻ってきた大賀が、席に座る。
「何から話していいんでしょうか」
「そうだね、まずは君自身のことから始めよう」
水無に促されて、こくっと頷くと、大賀は梶井を真っ直ぐに見据えて話し始めた。