明かされる狂気
このだだっ広い研究施設。
その立入禁止区域に存在する、まるで宝箱のような一室。
ドーム型の天井は高く、照明は白熱灯の淡いオレンジ色。
柔らかい光に包まれ、温かく守られている印象。
部屋に入った時、梶井は確かにそう思ったはずだった。
だが、その印象はいとも簡単にも覆されることとなる。
部屋の真ん中に据えつけられている、卵型の装置。ポッド。
覗き込んだ。
一瞬。
死者のための棺なのかと思った。
背中に冷たいものが走り、ぶるりと身体が揺れた。何度握り直しても、手先の震えを止めることができない。
「なんだこれ、は……で、デボラシステムは先生が創ったんじゃな、い……のか?」
息継ぎをするように。
梶井は長い時間をかけて、言葉を繋いでいった。
背後で水無の力ない声がようやく届く。
「……うん。僕じゃ……ないんだよ。この子が、」
水無もまた、言葉を繋ぐようにして言った。
「この子がね、デボラなんだ。この子の、……この子の脳が、今あるデボラシステムを創り上げたんだ」
卵型の装置の中。横たわる身体。閉じられたまぶた。唇に少しの隙間。マイセンの白磁のような滑らかな肌。
確かに美しい少女。だがどう見ても。ただの女の子だ。
背格好。幼さが残る顔。
まだ若い。その事実が、梶井の身体をさらに凍りつかせた。
彼女を覆う透明なドームは、特殊なガラスでできているのだろう。触れただけで、耐久性に優れたそれだということを直ぐに理解し、この少女が特別な扱いを受けているのだと知れる。
「……い、生きて、いるのか?」
震える指で、首元のシャツのボタンを外し、首元を緩める。息苦しさが頂点に達した。
答えの返ってこないこの問い。それをもう一度繰り返す。
「この子は生きているのかっ‼︎」
大声で叫んでいた。
喉や胸につかえたものを吐き出すように。
梶井は、叫んでからはぁはぁと短い息を吐き、襲いくる目眩と戦いながら、淡いオレンジの光に包まれた少女を見た。
「……生きて、いるのか?」
今度は呟くように。
そして顔を上げ、水無を見る。
顔色の読めない表情で立ち尽くしている水無が、こくんと頷くのを、スローモーションのように見ていた。