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左遷の目的



(どういうつもりなんだ)


安居と飲んだ昨晩のこと。


安居が『デボラシステム』について、胸に何かを含んでいることだけは分かった。


それが猜疑心からなのか、不信感からなのか。

それともただ単にその仕事内容を不満に思っているだけなのか。


詳しい心情は昨晩の飲みの席での会話からは推し量ることはできない。


(αウォッチの電波が届かない場所ならなあ。あんなコソコソしなくて良いんだけどな)


そう口の中で含みながら、課長室のドアをノックする。


実はあれから、ビールやら焼酎やら日本酒やらを浴びるほど飲んで、グロッキーになった安居を飲み屋に放置してきていたのだが。


中へ入ると、机の上で突っ伏している安居の頭。その隣に、報告書をバサッと置いた。


「今日も異常なしでーす」


「……梶井ぃ」


安居が顔を上げる。日本酒の独特なアルコール臭がふわっと漂ってきた。


「お前えぇ、上司を飲み屋にそのまま放置だなんて最低最悪ー。あれから俺、冷たい床で朝まで寝たっつうの……」


「そうなんですか。情け深い店長で良かったですね。それに俺、金はちゃんと払ったんで」


「金な⁉︎ 唐揚げと枝豆の分だけな⁉︎ てめえが飲んだビールはてめえで払えっつーの! ほんと良い性格してんなあ」


「ビールは奢りでしょ。俺、部下だし。安居さん、まだ酒臭いっすよ。飲み過ぎです」


「くっそ憎たらし。お前もう要らねえわ。左遷だ左遷だ。水無先生んとこ行け。そんで帰ってくるな」


思いも寄らぬ言葉に、梶井は一瞬、え、と言葉を詰まらせた。


「飲み屋に俺を置いてった罰ね。先生から一人ちょうだいって言われてて、誰にしよっかな〜って思ってたとこで、俺の逆鱗に触れた、良いタイミングでお前な」


「マジか」


安居は突っ伏していた頭をようやく起こして、側にあった本の山から書類を一枚引っ張り出した。


「はいこれ。ここにサインちょうだい。はい承諾いただきましたあ。じゃあ梶井、元気でな」


そしてまた突っ伏すと、うぇーとか言いながら、デスクにあごをつけて遠い目をしている。


梶井が部屋から出ようとするところで、背中に声が掛かった。


「たまに俺もそっち方面に出張あっから~。あっちで旨いもんでも見つけとけよ」


「はいはい」


後ろ手に閉めたドアの中から「返事は一回で良い‼︎ イエッサーだ‼︎」などと叫んでいる声を聞き流しながら、梶井はなるほどなあと得心していた。


(安居さん、考えたなあ)


水無教授は現在、山陰地方の山の中にラボを構え、隠居も同然の生活を送っている。籠りきりで研究に没頭しているのだと、噂で聞いていた。


『デボラシステム』を構築したという張本人。


その才能、IQは計測不能だという噂もある。


(どんな人物なんだろう)


山奥に建てた立派な研究施設を、その功績と引き換えに、政府から与えられたとも聞いた。


人付き合いを嫌う性格から、山奥の生活を選んだようだが、そんな場所ではもちろん携帯の電波も届かない。


(そして、αウォッチの電波も然り、ってか)


雑談は向こうでっていうわけですか、さすがキレモノ安居さんだなあと思いつつも、居酒屋で泥酔して床で高いびきの安居の姿を思い出しながら、半笑いで梶井は家路についた。




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