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第7話

《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第7話》


「そういえば気になる事があると言っていたな。サヤカ、話してくれ」


ソフィアは泉の方に振り返った。すると彼女の顔は少し明るくなり、一瞬俺の方へも視線を送った。


何だ?


「私、今朝目が覚めた時に恥ずかしながら大きなアクビをしちゃったのね?」


部屋に異変があった時にそんなような事言ってたっけ・・・。


俺はそんなことを思いながらも黙って聞いていた。


「それで、気になる事というか・・・。これが魔法なのかどうか、判断してほしいの!」


まだ出会って1日も経ってないが、こんな彼女は初めてだった。ソフィアたちが頷くと、泉も前に出た。


「私より後ろに下がってもらえるとありがたい、かも・・・。・・・いくね」


「これでサヤカまでも古代魔法だったら、我が騎士団はこの世界で最強になるな」


などとソフィアが笑っていると、泉のアクビが始まった。緊張が少し和らいだのか、それはすぐに出た。


「ふわ、あぁぁぁ〜・・・・・・」


一同が見守る中、誰も予期していない出来事が起きた。アクビをする泉の口元より少し離れたところに、5cm程の黒い球体が現れた。


何だあれ?


と思った刹那、それが周囲の空間をねじ曲げ始め、同時に周りの物を吸い込み始めた。俺は瞬時に理解した。


「ブラックホールだ!!!!!」


その現象も知っている。このままでは危ない。急いで木にしがみつく。


「泉さん早く口閉じて!!」


彼女もそれをしようとしているが、自分もアクビを急に止めろと言われても難しい。部隊長たちも必死に踏ん張っているが、少しでも均衡が破れてしまえば泉のアクビから出現したブラックホールに吸い込まれてしまいそうだ。そんな中、リゲルが口を開いた。


「あのアクビを止めれば良いんだよね?」


と言い終わるより早く泉に向かって飛び出した。それは風よりも疾く、どの剣豪よりも鋭い一筋の滑走。瞬きをする間もなく、泉の口はリゲルの手によって押さえられ、ブラックホールは(おさま)った。放心状態の泉やリゲルを除く部隊長たち。最初に口を開いたのは、そのブラックホールを止めたリゲルだった。


「これ、僕の知ってる古代魔法じゃないんだけど」


「私だってそうだ・・・」


それに反応したソフィアだが、何やら他の部隊長たちの様子もおかしい。


「何だよこの魔法は・・・?」


意外にも、一番驚いていたのはシリウスだ。この中では不真面目な部類の彼がこんな顔をするのだから、泉は相当珍しい魔法を持ってしまったらしい。


「この儂でも見た事ない魔法、だと・・・!?」


プロキオンは腕を組んだ。するとソフィアたち部隊長は集まり、そこで小さな会議が始まってしまっていた。その間俺たちは蚊帳の外で、俺は泉に声を掛けることもできず、側にいる事しかできなかった。そして少しの時間の後、彼女らはこちらを向いた。


「コウキ、サヤカがアクビをした時にできた黒い球体の名前を叫んでいたな。あれは一体何だ?」


ソフィアの顔は、急に血色が悪くなっていた。


「・・・あれは、恐らくブラックホールです」


こちらにはそれがないのか、彼女らは首を傾げた。なんだ、ブラックホールとは。と声に出さなくても考えている事は分かった。


「ブラックホールは、極めて高密度の重力です。その為、あらゆる物質や、光さえも脱出できません。泉さんのモノは少し違うようですけど、現象から考えるとそれが一番しっくり来るかと・・・。こちらの世界にも、宇宙にはあるかもしれませんが、プロキオンさんでも知らないとなると、僕らがいた世界にしかないのかもしれませんね」


俺が理科の授業で習った内容をそのまま伝えると、4人の顔は次第にワクワクとした顔になっていった。


「・・・そうか・・・、この世界にはないものか・・・!」


シリウスはより一層表情が明るくなった。


「うわ、何だよ急に・・・!?」


「すまんな、こう見えてシリウスは魔法の事になると執着が凄くてな。自分で魔法を作ってしまう程の奴なんだよ」


なるほど、魔法オタクってやつか。


ソフィアの言葉に納得していると、今度はプロキオンが口を開いた。


「それにしても、マズくないか?」


それにはソフィアが答えた。


「何がだ、プロキオン?」


「コウキのクシャミといい、サヤカのアクビ。どちらも生理現象で自らの意思ではない。自然に出るものだ」


「それがどうした?」


彼女は呑気に頭を傾けた。


「こうも至る所で発動させてしまっては、いくら王国といえど修繕費はバカにならないだろう。2人の魔法の調査どころではなくなるのではないか?」


「・・・あ」


ようやく事の重大さに気が付いたのか、ソフィアは頭を抱えた。


「お父様に相談してきます・・・」


そして肩を落としてどこかへと歩いていってしまった。そんな背中を見送った後で、プロキオンは俺たちに声を掛けた。


「まぁ、コウキ、サヤカ、お前さん達は俺たち騎士団が責任持って保護してやる。今回のこの古代魔法やら、重力の魔法の事は一旦伏せておいてくれ。王国の研究機関にいる信頼のある学者に掛け合って解明するよう努めよう」


と、俺と泉の頭にポンッと手を置くと、彼もどこかへ行ってしまった。わけもわからず呆けていると、今度はシリウスが寄ってきた。


「2人の魔法をとことん調べたくなってきたぜ!お互い堅いのは抜きにして、ダチのように仲良くしようぜ、な、コウキ、サヤカ!」


コイツは俺たちを解剖でもすんのか?


と肩を組んできたシリウスの腕を払うと、最後にリゲルが一言呟いた。


「今日はゆっくりした方が良いよ。魔力を持たない人間が魔法を使う事はかなりの負担だから」


そう言うと、早足でその場を去っていった。


「何なんだよあの子は・・・」


「アイツが誰かを気に掛けるとは・・・。お前達、気に入られたみたいだな!」


裏表のない笑顔を向けられて眩しかったが、そんなシリウスも俺の肩をポンッと叩くとどこかへ行ってしまった。ポツンと残された俺たち。後ろを向くと俺が出したクシャミによって抉れた地面、泉がブラックホールで吸い込み掛けた、兵士たちが鍛錬で使っていたであろう物。どれもこれもとても信じがたい光景だが、俺は一言ポツリと呟いた。


「部屋、戻りましょうか」


泉はコクリと頷いた。が、彼女の部屋を俺が壊した事を思い出し、急遽だが、俺が寝ていた部屋に向かう事になった。そして太陽は落ち、時間は夕飯時、俺たちは扉を叩く音に呼ばれた。


《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第8話》へ続く。

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