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攻略対象 第一王子 アラン・フォートリエ

 僕はこの国の第一王子、アラン・フォートリエ。

 弟はいるけど特に王位争いもなく、可愛い婚約者もいて、幸せな人生を歩んでると思う。


 そう、僕には可愛い婚約者がいる。

 アンリエット・ベルリオーズ公爵令嬢。

 彼女と出会ったのは、僕も彼女もまだ六歳の時。同年代の沢山の子どもたちが集められて顔合わせをした時だ。

 もちろん、ただお友達になるための顔合わせじゃない。男の子たちは僕の側近、女の子たちは僕の婚約者候補だ。まあそんな顔合わせだから、誰も彼もが僕に媚びへつらっていた。……そんな顔合わせじゃなくても、変わらないかもしれないけど。

 でも、アンリエットは違った。

 僕を見るなり真っ青になって、泣き出してしまったんだ。

 その泣き顔が可愛くて――可哀想で、僕はすぐに慰めてあげようと思って近づいた。けど、少し近づいただけで彼女はさらに泣き出してしまった。

 そのまま親に連れられて帰ってしまったけど、彼女の泣き顔が忘れられなかった僕は、すぐに彼女に会いたいと父上に願い出た。この時はまだ、婚約者がどうとかは考えてなかったんだけど。父上は婚約者にしたい令嬢を見つけたのかと大喜びで、段取りを組んでくれた。


 それから何度か彼女に会ったけど、初対面以降は、僕を見て泣き出したりすることはなかった。

 ただ、二人になるとブツブツと独り言を言ったり、何か考え事をしていることが多かった。アンリエットは、とても不思議な子だった。


 僕は彼女が独り言を言っている間は、黙ってそれを聞くことにしていた。

 いつもよくわからないことばかり言っているアンリエットだけど、その日の独り言はわかりやすかった。


「……まずはりょうりね。りょうりを作れるようにならないと」


 何で公爵令嬢が料理を作るのかわからなかったけど、とても真に迫っていたから、ちょっと協力してあげることにした。


「ねぇ、アンリエットが、ぼくのためにりょうりを作ってくれるって言うんだ。ぼく、アンリエットのりょうりが食べたいから、作らせてあげてほしい」


 アンリエットの侍女は少し迷ったようだったけど、すぐに頷いてくれた。


 そもそも、アンリエットはどこか抜けてる。公爵令嬢がいきなり料理したいなんて言っても、させてもらえるわけがないのに。まぁそこがまた可愛いんだけど。

 アンリエットはそれから、僕に料理――ほぼお菓子だったけど――を持って来てくれるようになった。

 僕はアンリエットの手料理が食べられるし、アンリエットは料理を作れる。一石二鳥だね。


「まちにも行ってみないと。へいのすきまとかから、ぬけだせないかな」


 なんて言っているのを聞いた時には、慌てて行動した。アンリエットを一人で街に出すわけにはいかない。

 この時ばかりは父上に泣きついて、護衛をつけてもらってアンリエットと城下町でお忍びデートをさせてもらった。デートに誘った時、アンリエットは驚いた顔をしてたけど、とても喜んで城下町を堪能していた。


 この頃から、僕はもうすでに彼女から目を離せなくなっていた。

 屈託なく笑う、飾らない彼女が、好きになっていたんだ。




 彼女は日によって態度が変わる。

 その日の第一声で、今日はどういう日なのかがわかるから対応は簡単なんだけど。


「ごきげんよう、アラン王子。べつにあなたになんて会いたくありませんでしたけど」


 僕に冷たくするアンリエット。


「アラン王子ー!見てみて!これ、そこで捕まえたカエル!」


 お転婆なアンリエット。


「……ごきげんよう」


 無口なアンリエット。


 毎回いろんなアンリエットが見られて、僕は楽しかった。

 彼女が、僕に嫌われたくて試行錯誤してるのも知ってたけど、だから余計に可愛かった。そんなことして、嫌いになるわけないのに。

 日に日に可愛くなっていく彼女を堪能できるのは楽しかったけど、彼女が僕の婚約者になりたくないと思ってるのは問題だった。だから僕は、婚約者になりたいと思わせるよりも、まず外堀から埋めていくことにした。


「どこに追放されるかもわからないし、近くの国の言葉だけでも覚えておかないと……」


 この独り言を聞いた時、チャンスだと思った。

 僕はすぐに父上に進言した。

「アンリエットは、王太子妃になるため、近隣の国の言語を覚えたいそうです。未来の王太子妃のため、最高の教師をつけていただけないでしょうか。もちろん、私も一緒に学びます」

「ほぉ、アンリエット嬢がそんなことを……。よかろう。アラン、お前も一緒によく学ぶといい」

 アンリエットは、王太子妃になりたい。

 そして意欲的に学んでいる。

 そんなことを周囲に印象付けていった。


 アンリエットはもちろんそんなこととは露知らず、教師をつけてもらえたことを喜び、必死になって勉強していた。もちろん僕も、彼女に負けてはいられないから、必死に勉強をした。

 でも、アンリエットは抜けてるけど、とても頭がよかった。

 持ち前の真面目さ故か、どんどんと学習を進め、あっという間に数か国語を操るようになった。正直、言語については僕よりも上だと言わざるをえない。悔しいけれど。


「そろそろ、斬り捨てられる最期を避けるために、剣も習うべきかしら……」


 剣? アンリエットの柔らかな手で、剣を握る?

 それは駄目だ。

 でもアンリエットは、誰かに斬られることを恐れている……。そんなの、僕が守ってあげると言いたいけど、そういうことじゃないんだろう。

 僕は早速、教師を用意させることにした。


「アンリエットが、王太子妃として自衛のために剣を習いたがっている。その心意気は素晴らしいと思うが、私は彼女に剣を持たせたいわけじゃない。そこで、彼女がもし襲われた時に逃げられるような、体の使い方を教えてやって欲しい」


 僕の依頼により、アンリエットは体を鍛えることになった。

 ただ勉学とは違い、あまりそちらの方の才はなかったらしい。最終的にアンリエットは、咄嗟に攻撃を避けるくらいの瞬発力と、あとは走って逃げるくらいの体力がついた辺りで鍛錬を終了したらしい。

 その後も自分で体を鍛えてるらしいアンリエットは、本当に頑張り屋だと思う。




 アンリエットは昔から、僕にそっけないことが多い。

 こちらを見ず、笑顔を浮かべて相槌を打ってる時は、だいたい僕の話を聞いていない時だ。


「アンリエット、次も僕のためにお菓子を焼いてきてくれる?」

「……えぇ」

 アンリエットが覚えてなくても、後ろに控えている侍女は僕らの会話を覚えてる。

「アンリエット、君のことを愛称で呼んでもいいかな?」

「……えぇ」

 だから僕はこの状態のアンリエットに、たくさんの約束を取り付ける。

「じゃあ今日から、二人きりの時はアンって呼ぶね」

「……えぇ」

 アンリエット、僕の可愛いアン。

 そんな無防備な姿を、他の人の前では見せてはいけないよ。

「アン、今度また二人で街へ出かけようね」

「……えぇ」

 普段は貴族らしく生きることを頑張ってるアンが、僕の前では適当に相槌を打って、無防備に言質を取られているのが本当に可愛くて、やめられない。

「アン」

「……えぇ」

 本当に――。

「正式に、僕の婚約者になってくれる?」

「……えぇ」

 アンは迂闊で、可愛くて、仕方ない。




 さて、僕の婚約者となったアンは、学園に入学してから、ある少女を避けることに集中していた。

 エマ・オードラン子爵令嬢。

 彼女は平民育ちだが、実際にはオードラン子爵とメイドとの間にできた子どもらしい。母の死をきっかけに、オードラン子爵に引き取られ、子爵令嬢になったと聞く。

 そんな彼女を、アンが避けている。

 どうやら子どもの頃からの独り言の重要人物らしい。

 それは構わないんだけど、でも最近、他の男達を目で追うアンが、気に入らない。


「モーリスは教師と生徒以上の関わりはまだなさそうかな。クロードはたまに話してるところを見かけるけど、どうなんだろう……。ジェラルドに至っては、騎士だから、頻繁に見かけるわけじゃないし……」


 彼女の独り言に、頻繁に出てくる男達。

 教師のモーリス・ジファール。ノルマンディー公爵の長男、クロード・ノルマンディー。騎士のジェラルド・バルビエ。

 アンが積極的に会いに行ったり話しかけたりすることはないけど、彼女が気にしている、というだけで苛立ちを覚える。

 特にクロード・ノルマンディーは駄目だ。彼は、六歳の時の顔合わせにいた僕の側近候補であり、僕がアンと婚約していなければ、一番に彼女の婚約者候補として挙がっていた人物だ。特に悪評もなく、頭もいいらしい。まだ婚約者、という状態の僕とアンは、今後どうなるかわからない。だから少しでも不安要素は排除する。クロードだけは、アンに近づけてはいけない。


 僕は学園にいる間、ほとんどの時間をアンの傍で過ごした。

 アンに興味を持つ男達を牽制し、アンの独り言から情報を得て、アンの望みを叶えてあげた。


 エマ・オードランへの嫌がらせの犯人にされることを恐れていたようだったから、そもそも嫌がらせを行わせないように手を回した。

 エマ・オードランと、モーリスやクロード、ジェラルドが接近するのも警戒していたようだったから、同じような身分の男を傍に置き、二人が仲を深めるように工作した。もちろん僕も近寄らない。

 その他の煩わしいことも、アンに降りかからないように、アンの耳に入らないように、内密に処理をした。




 そして今日、ついに卒業パーティー、アンが言う『断罪イベント』を迎えた。

 全ての不安を払ってあげたのに、アンはずっと緊張していた。でもエスコートする僕の手をぎゅっと握るのがとても可愛らしいから、僕はアンに何も言わない。

 ただ、ずっと彼女の傍にいて、最後の日も、彼女の憂いを払えるように備えていた。

 もちろん、彼女の言う『断罪イベント』なんて起こらないから、卒業パーティーは何事もなく終わった。


 今日は僕とアンの、始まりの日だ。


「アンリエット、大丈夫?」

「……えぇ」


 パーティーが何事もなく終わったことに安心してるのか、信じられなくて放心してるのか、アンはいつも通り笑顔を浮かべて僕に適当な相槌を打つ。


「アンリエット、聞いてる?」

「……えぇ」


 近くの人間に聞こえる程度の声量で話しかける。

 何人かがこちらを向く。

 これで、証人は用意できた。


「アンリエット、少し疲れたのかな?」

「……えぇ」


 僕も、今日この日のために頑張ってきたから、少し疲れたかな。

 でもこれからの幸せを考えれば、これくらい何でもない。


「アンリエット、今日、ついに僕たちは卒業したね」

「……えぇ」


 先日、ベルリオーズ公爵に、アンとの結婚の許可を願いに行った。彼は渋い顔をして、結婚に条件をつけた。

 卒業後、アンから結婚の承諾を得ること。

 公爵はアンが子どもの頃から、僕との婚約を嫌がっていたことを気にしていたし、目に入れても痛くないという程、一人娘のアンを可愛がっていたから、これは想定内の条件だった。

 僕は必ず、アンと結婚する。

 そのためには、多少卑怯な手段も辞さない。

 だって、ずっとアンの願いを叶えてあげていたんだ。たった一つの僕の願いも、叶えてくれていいよね。


「アンリエット、明日一緒に街に行かないかい?」

「……えぇ」


 この僕が、珍しく緊張しているのか、口の中が渇く。


「アンリエット、僕のこと、愛してる?」

「……えぇ」


 本当は僕の目を見て言って欲しいけど、今はおあずけだ。


「アンリエット、僕と、結婚してくれる?」


 アン。アンリエット。たった一言。承諾の言葉をくれるだけで、僕は一生かけて、君を幸せにすると誓うよ。


「……えぇ」


 待ちに待ったその返事に、僕は衝動を抑えられず、アンを抱きしめた。

「ありがとう! アンリエット!」

「へっ?」

 ようやく意識がこちらに戻ったらしいアン。でも、考える暇は与えない。

「みんな! パーティーは終わったが、聞いてくれ!」

 近くにいた人間だけでは足りない。

 アンの腰を抱いたまま、声を張り上げる。まだ会場に残っていた全ての人間に、証人になってもらわないと。

「この私、アラン・フォートリエは、婚約者であるアンリエット・ベルリオーズ公爵令嬢と、結婚する!」

 あぁ、この日をどれだけ待ちわびたことか。

 会場は一瞬静まり返った後、盛大な拍手と歓声に包まれた。

 皆口々に祝いの言葉を述べる。僕がアンに一途であることは、アン以外の皆にとっては周知の事実だからね。

「正式な式の日取りは追って伝える!共に学園で学んだ皆を、必ず招待すると約束しよう!」

 歓声がまた一段と大きくなる。

 隣のアンは全く状況が飲み込めていないようで、目を白黒させていた。

 そんな彼女の耳元に顔を寄せ、彼女だけに聞こえるように囁く。

「アンリエット」

 ビクッと震える肩を抱いて、さらに距離を詰める。

「君の父上からは、もう結婚の許しはもらっていたんだ。条件は、学園を卒業し、そして、君の口から結婚の承諾を得ること、だ」

 呆然とするアンをもう一度抱きしめた。


「一生大切にするよ、僕の可愛いアン」


 ずっと我慢していたその唇に軽く触れると、アンの体から力が抜けた。

 もちろん僕が抱き留めて、倒れさせるようなことはしなかったけど。

 会場に残っていた人間に再度解散するよう告げて、僕はアンを抱き上げた。

 護衛の一人が代わろうと申し出るが、そんなのはお断りだ。せっかく手に入れた僕のアンを、誰かに渡したりするわけがない。




 あぁ、僕の可愛いアン。


 君が恐れていた『断罪イベント』は何事もなく終わらせてあげたから、これからは、僕のことだけを考えてね。


 愛してるよ。

 僕の可愛い悪役令嬢、アンリエット・ベルリオーズ。

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