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そして僕は弓使いになった。 〈続〉  作者: ねここ
〈セノの休日〉
5/5

#05

~ギルド~


今度こそ、本当に僕達の『今日』が終わろうとしている。


おじさんを見送った後、僕達は依頼の報告を済ませて報酬を受け取り、今遅めの昼食兼夕食を取ろうとしている。


「お待たせしましたーー!」

「いただきますっ」

注文した料理が僕達のテーブルに届くと、とりあえず僕達は無言で料理を食べ始めた。

空っぽになった胃に沁み込む温かいシチュー。

一緒に頼んだパンを添えて僕達はただひたすらに食べる。

両者よほどお腹が空いていたのだろう。

僕もセルも普段はしないおかわりをしてしまった。

まぁ、頑張ったご褒美ということでいいだろうっ!


お腹もいっぱいになってきて、追加の報酬ももらった僕達はいつもより上機嫌だ。

追加の報酬…商人のおじさんからもらった魔導書は白魔法と黒魔法用の二冊があり、それぞれ自分の職業の本を受け取った。

まだ中は確認していないが、それなりに楽しみである。

向かいに座るセルも、嬉しそうにカバンにしまっていた。


その時、チラッとセルのカバンから商人のおじさんからもらった本とは別の背表紙が見えた。

「…あれ?セル、今日は何か本を持っていたの?」

「…うん。…あ、そうだ。これ…。」

気になって本を指さすと、セルはその本を取り出した。


『森に潜む恐ろしいモンスターに気をつけろ!~初心者でも大丈夫!モンスターの見分け方と対処のコツ~』


なんて本を持っているんだ、この子は。

しかもそれを何故か僕に差し出してくる。


「街の図書館から借りたの。…セノが気になっていたみたいだから…はい。」

「…え?別に興味ないけど…」

「…そう…?でも、『毒ソウタケ』が載ってた本、気になってたみたいだった…」

「…え?」

そういえば…森の中でそんなことを言っていた…ような…?

「…つまり、この本に載っていたってこと?」

「うん…ほら。」


セルがさっとテーブルに本を広げる。

そこには確かに、今日僕の休日を台無しにしたモンスターの姿が記載されていた。

「…。」

僕は無言でその本を受け取り、サッと表紙を見る。


「…セルさん…?」

「…なに。」

「これ、いわゆるモンスター図鑑ですよね。」

「…そうかもしれない。」

「そうかもじゃなくて、そうじゃないですかぁぁぁっ!?」

このタイトルを読んでモンスター図鑑以外何の認識ができるだろうか。いや、できない。

つまり、だ。

セルはよーーーく考えれば今回の依頼が採取・駆除系のものではなく、討伐系のものであると気づけていたはずで…!


「…あ、凶暴なんだって。…でも、美味しいみたい。」

僕が頭を抱える中、必要なさそうな情報を本から取り上げるセル。


事前に僕も調べておくべきだった…!

僕はセルの全ての言葉を無視して今日の最大の反省点を振り返る。

事前に対象のことについて調査しておくこと。…また一つ、大切なことを学んだ。


「…でも、楽しかった。」

「…あぁ…そうですか…。セルが楽しかったのなら、良かったね…。」

終始セルの思い通りの結末で終わをうとしている僕の休日。

でも、目の前にいる少女が本当に楽しそうにしている様子を見ていると、なんだか憎めない僕がいた。


「セノは…どうだった?」

…何かを期待しているかのような問いかけ。

「…。」

僕がどう答えるべきか少し考えていると、にゅっとセルの小さな手が伸びる。


「…?」

「選択肢1…楽しかった。

選択肢2…楽しかった。

選択肢3…楽しかった。

…どれ?」

いたずらっぽく訊ねる彼女の声。


この時僕はふと思い出した。

このやり取りは彼女としかしたことがない。

そういえば、以前僕が彼女に選択してもらうよう訪ねた時に、『選択肢4』という新手の戦法を使ってきたんだっけ。

…つまり、僕は彼女に同じことを教わり、同じことをしただけということ。

(…なんだか、セルには振り回されてばかりだなぁ…)

これが年上としての使命なのだろうか…?

理不尽さを感じてならないが、彼女の自由さには敵いそうにない。

それに、さんざんな休日になってしまったが、思わぬ報酬も手に入ったし、結果的に会いたかった商人にも会えたわけで。

…まぁ、百歩譲ってそこそこ充実した一日だったのだろう。


…しかし、このままセルの選択肢に流され続けるのも癪である。

僕はワクワクと答えを待つセルを見て、溜め息をついてから指を立てた。


「…第4の選択肢。…それなりに楽しかった…かもね。」

「…うん…!」

セルは非常に満足そうに頷いた。


…ちょっと甘やかしすぎただろうか…。

でも、彼女の嬉しそうな様子を見ると、今の僕には反省も後悔もなかったのである。



こうして終わる僕の一日。

僕の休日。

僕は『次の休日こそは部屋でゴロゴロするんだっ』と胸に誓ってギルドから去るセルに手を振った。


「……ありがとう、セノ。」

そんな彼女の小さな呟きが、人々の声に紛れて聞こえた…ような気がした。

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