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そして僕は弓使いになった。 〈続〉  作者: ねここ
〈セノの休日〉
4/5

#04

「はぁ…はぁ…はぁ…」

僕達はようやく森の中に開けた空間を見つけた。

今はそこでセルを下ろし、とにかく上がってしまった息を整えている。


「…セノ。…大丈夫…?」

「…うん…。」

「休んでるところ…悪いけど…。」

「…うん…?」

「敵が来た…みたい。」

「……。」


敵さんも容赦ないなぁ…。

僕はゆっくりと顔を上げた。


確かに、遠くから土煙を上げてこちらに向かってきている。


「…怒ってるね。」

「うん。」


モンスターの中には、自分がピンチになると『怒り』状態になるものがいる。

自分の体を最大限に強化するのだ。

さっきも若干お怒りモードで『体当たり』が『突進』に変化していた。

今はそれに加えて自身の速度と力を底上げしてきたのだろう。

ここまできたら、もう一撃で決めるしかない。

怒り状態のモンスターとの長期戦は危険だからだ。特に、魔導師二人のパーティーでは。


「…セノ、行けそう?」

「あと…一回かな。」

僕はよろよろと上体を起こしながら本日二回目の職業チェンジをした。

「…充分。」

セルも一歩前に踏み出し、僕と並んで構える。

魔導師二人で迫る敵に向かい合う形になった。


「…いくよ、セル。」

「…うん。」

セルの手に宿る赤い光。

僕も残りの魔力で矢を番えた。


グオォォォォッ!グオォォォッッ!!

*毒ソウタケ Lv.33 HP249/550 属性 闇  怒り


モンスターのステータスが再び表示された。

距離がさっきよりも早い速度で詰まっていく。


ガサッとモンスターが森を抜けた。

僕達にとっての最適な場所に現れる。

ここならセルの魔法も問題なく通るはず…!


「……今だっ!」

僕の指から離れる矢。


「…爆炎…。」

セルの声と共にその矢に向けて炎の魔法が放たれた。


セルのぴったりのタイミングで放たれた魔法は僕の矢と重なり、その赤い炎に包まれた矢はモンスターめがけて飛んでいった。


グッ…ウゥゥゥゥ……。

*毒ソウタケ Lv.33 HP0/550 属性 闇 

*討伐成功

*経験値を獲得した。

*セノ Lv.43 白魔導師/弓使い /セル Lv.51 黒魔導師

*アイテムを獲得した。


…終わった…。

こうしてとんでもないことになってしまった僕の休日は終わろうとしていたのです。




~胞子の森/出入口~

戦闘を終えた僕達は、重い足取りでもと来た道を戻ってきた。

採取・駆除系の依頼だと思っていたら、僕の予感が的中してしまい討伐依頼になってしまった依頼も無事に終え、時刻はすっかり夕方になっていた。

でも、無事こうして依頼を終えることができた僕は達成感で満たされていて、なんだかんだで充実した休日になったことを満足した……わけもなく。

心の中では「僕の休日を返せっっ」的な不満を唱えている最中であった。


「…でも、無事に終わってよかった…。」

「うん、よくはないかな。もうすっごく疲れたし。……お腹空いたし…。」

「……お腹空いた。」


赤く染まっていく空に僕達のお腹の虫が仲良く鳴り響いた。


「…もう商人はいいから、とにかく帰ろうか…。」

「…うん。」

当然、僕達の口数は減っていく。

ただ無心で森から僕達の街「レスタ」へ向けて歩き始めた。


―それからしばらく歩いて、例の僕達の運命の分かれ道となったあの道に辿り着いた時。


ガラガラガラ……

遠くから何かの音が聞こえてくる。

それは僕達が進むことのなかった右側の道―リッドの方からだった。


「…?」

僕達は何気なく歩みを止めて視線の先にその音の正体が現れるのを待つ。


「…あ。」

セルの呟きと共に見えてきたのは…荷馬車。

茶色い毛並みの馬がゆっくりと荷台を引き、その荷台に乗る人が馬の手綱を握ってゆったりと制御している。

荷台には色々と見慣れぬものが積んであり、荷台の大きさから、どうやら旅人らしいと僕は思った。

その人はこちらへと向かってくる。

そして、僕達の前で手綱を引いて馬を止めた。

「……?」

僕は思わずその荷台を見る。

「やぁ、ごきげんよう。…君たちは旅人さんかい?」

荷台の人から陽気な声が掛けられる。

「…あ、いえ。レスタっていう街に住んでいる一般傭兵です。」

「傭兵…?あぁ、それじゃあ、ギルドにいる人なんだね。」

「はい。」

そんな会話を二人でしていると、セルが間にスッと入ってきた。

「…この依頼をしたのは…あなた?」

そんなことを言って荷台の彼に依頼の紙を差し出す。

すると、しばらくその紙をまじまじと見ていた彼は驚いたようにその紙を手に取った。

「…おぉ!これは間違いなく俺が依頼したものだ!」

「……え?」

「いやぁ、俺は商人でさ、今までリッドっていう街にいたんだが、夕方に隣のレスタへ行って休息をとった後、また遠くの街へ行こうと思っていてね。その時にその『胞子の森』を通るんだ。それで、近くの人から話を聞いてみたら『毒ソウタケ』っていう人にも馬にも害をなす毒キノコがあるっていうじゃねぇか。俺には相棒の馬もいるし、なにかあったら商売どころじゃないからな。念のため、頼れる傭兵さんに依頼を出したんだ。リッドとレスタ、両方に依頼を出したんだが…まさか、アンタたちが受けてくれたとは思わなかったよ。」

…と一通りそんなことを言うと、その商人を名乗る男の人はガハハハ、と大きく笑って荷台から降りてきた。


「…それで、どうだった?俺は近々その道を通りたくて慌てて依頼を出してな…ろくに現地調査もできなかったんだが無事でなによりだ。…何とかなったかい?」

「…。」

言えない。

これがとんでもない人だったら依頼主に文句のひとつでも行ってやろうと思っていたんだけど、この人も本当に焦っていたのだろう。

あなたの依頼が討伐依頼で大変でした…なんて言う気は僕には残っていなかった。

「あたしたちがなんとかした…。明日はきっと安全…。」

「おぉ!そうか!それはよかった!!いやぁ、助かったぜ。ありがとうな!小さな英雄さんっ!」

再びガハハ、と笑うと、僕達の背中を思い切りバシッと叩いた。


…結構痛い…とかも言えない…。

これがこの人の感謝の印なのだ。

僕は苦笑いでその気持ちを受け取ることにした。


ひとしきり愉快そうに笑うと、商人さんはポンっと手を叩いた。

「そうだ…!君たち、さっきレスタの傭兵って言っていなかったか?」

「…そうですけど。」

「だったらちょうどいい!俺もこれから宿を探しにレスタへ行くんだ。依頼をやってくれたお礼にそこまで荷馬車で運んで行ってやるよ!」

「…え、本当ですか!?」


商人さんからの思わぬ提案に、僕達の目は輝いてしまう。

正直、もう街までの距離が永遠と感じるほどに疲れていた。

そこまでの道のりを歩かないで済むのなら、これ以上にありがたいことはない。


「これからどこかに寄るっていうんなら無理には言わねぇが…どうする?」

「お願いしますっ!」

僕とセルは瞬時に答えを口にしていた。



~街/レスタ~


あれから荷馬車で揺れること数十分。

僕達は商人さんから珍しい旅の話を聞いたり、馬車のガタガタと揺れる心地よい音を楽しみながらこの街に帰ってきた。

荷馬車に乗る機会なんて滅多にないので僕もセルも終始ワクワクしていた。


「…じゃあ、ここらへんでいいかい?」

すっかり仲良くなった商人のおじさんは、僕達をギルドの前まで送ってくれた。

「はい!ありがとうございました!」

僕達は荷馬車が止まると、そこからピョン、と飛び降りおじさんにお礼を言った。


「おっと…そうだ、君たち、見たところ魔導師だろ?」

「…はい、そうですけど」

「だったらこれ、やるよ。といってもリッドで商売した後の売れ残りだからたいしたもんじゃないんだろうが…よければ使ってくれ。」

そういって荷台からおじさんが出したのは、見慣れない二冊の本。

「…え。いいんですか?」

これはきっと異国の魔導書なのだろう。

「おう。俺が持ってても意味ないからな。」

そう言っておじさんはニッと笑った。

僕は逸る気持ちを抑え、おじさんに再び頭を深く下げる。

「俺はまた色んなところを旅するからよ、君たちに会うのはいつになるかわからねぇが…また珍しいもん持ってくるよ。」

「はい!楽しみに待っています!」

「おうおう、待ってろ!それまで元気にしてるんだぞ!お嬢ちゃんもな!」

「…うん。」

「どうかお元気で!」


商人のおじさんは再び手綱をにぎり、ゆっくりと馬を歩かせた。

小さくなる商人のおじさん。

商人であるあの人は、こうして明日からまた異国を巡る旅を再開するのだろう。

どこまで行くのかわからないが、次この街へ来るのは何年も先になるのかもしれない。

僕達の物語が続いていくように、あの人の物語もまた、動き出す。

次に僕達の物語が交わる奇跡が起こるのはいつになるか誰にもわからないけれど、彼の向かう先の未来が明るくあるように僕はそっと願いを込めて遠ざかっていく背中に手を振った。

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