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そして僕は弓使いになった。 〈続〉  作者: ねここ
〈セノの休日〉
1/5

#01

~あらすじ~


今日は週に一度の『何もしない日』。

セノも思い思いの休日を過ごそうとしていた…が。


「セノ…ちょっとこの後付き合って。」


そんな仲間の一言から、彼の夢のような休日は終わりを迎えようとしていた。

~ギルド~


「セノ…ちょっとこの後付き合って。」

「え……?」


朝8時。

僕は向かいに座る少女―セルにいきなり声を掛けられ、スープを飲もうとしていたスプーンが空中で止まる。

しばらくそのままで彼女の様子を伺うが、相変わらず黒魔導師らしい真っ黒なフードを深くかぶっているため、隠れた顔から表情は見えず、何を考えているのかイマイチよくわからない。


…さて。これは一体どうしたものか。


多分セルのことだから、暇潰しついでにお小遣い稼ぎの依頼(クエスト)をやろう、とかそういうことなんだろうけど。



とある一件で僕が白魔導師兼弓使いになってからというもの、仲間とのこういったやり取りが増えてきた気がする。

ちょうど7日ほど前は、ノルダに誘われて獣型のモンスターの討伐(もとい狩り)に行って、近くの街の料理店で素材の肉を調理してもらったっけ。

ノルダ曰はく、獣型モンスターには弓が有効とかなんとか、そんな理由だったけど。


あれは…美味しかったなぁ。

今度またノルダと行こうかなとか考えるくらいに。



…とまぁ、今回みたいにノルダだけじゃなくセルにも声を掛けてもらえるようになったということは、仲間の戦力として頼られていると考えてもよいのだろうか。

だとしたら…まぁ、少し嬉しいかもしれない。


―でも、忘れないで欲しい。

今日は僕達皆で決めた『何もしない日』。

…そう、週に一回の休日であることを。


だからだろうか。

ノルダは今日、ギルドに顔を出していない。

朝、二階で挨拶を交わしたシレルもそれきりだ。

彼女をいつもの調子で朝食に誘ったが、

「今日はこれからお買い物にいくんですよーっ!」

とか言って、小さなカバンを下げて気分よく出掛けて行った。

今日のシレルは本当に外出モードで、いつもの戦闘用の服ではなく、白いワンピースを着ていたっけ。



…というわけで、今は僕が朝食を食べていた頃にやってきたセルと二人。

まぁ、こうやって仲間の誰かと二人になる状況は休日にはわりとよくあるわけで。

前にもセルと朝食だけ二人で食べることはあったけど、その時は世間話とかをして終わった…はず。

だから僕は、今日もそうなるのだろうと思って完全に油断していた。


それがまさかこうなるとは。

ど、動揺がバレてないといいけど。

バレてたら…断りづらくなるっ!


何故仲間の誘いを断るのか…。

そう、今日は休日。

そして僕の予定は『何もしないで部屋でゴロゴロする』ことなのである。

だからせっかく誘ってくれたセルには申し訳ないけれど、今日は断るしかないのだ…!



「部屋でゴロゴロするってことは…暇でしょ?」

「……。」


だがそんな僕の夢のような休日は一瞬で終わりを告げようとしている。


そうでした。セルの特技は『他人の思考を読むこと』でしたっけ。

…でも、僕はセルが思うほどそこまで都合のいい人間じゃない。

ここは食い下がって……。


「セル、悪いんだけど。僕は今日、忙しくてね…。」

「……。」

「……。」


セルの沈黙と『そんなわけないだろ』と言っているかのような怪しむ視線攻撃。

僕もああ言った矢先、だんだん気まずくなってセルの視線から逃れるように下を向いた。


しばらくして、セルの口から小さく漏れる吐息。

「…嘘ね。…暇…なんでしょ?」

「うぐっ…!」


彼女の『暇』と定義される休日を過ごそうとしている僕は、その一言に思わずビクッとしてテーブルを揺らしてしまった。

嘘が下手かもしれない僕は、悲しいほど動揺全開である。

その上、フードの下から彼女の視線をひしひしと感じる…。


「…そんなに…あたしと出掛けるの、嫌?」

「…えっ!いや、そんなわけないけどもっ!」


別にセルと二人で出掛けるのが嫌なわけではない。

むしろ、彼女と僕は黒魔導師と白魔導師(兼弓使い)なわけで、同じ魔導師同士、話が盛り上がることもよくある。

口数こそ少ない彼女ではあるけれど、一緒にいて気まずいわけではないし、冒険仲間としても、歳の近い友達としても成り立つ関係である…と僕は思う。

でも…。


でも僕は休日くらい依頼を忘れてゆっくりしたい…!

これが僕の主張である。


「あたし、まだ依頼を受けるなんて一言もいってない…けど。」

あ。そうでした。

先入観から入ってはいけないよね!

もしかしたら、街中を数分散歩しようとか、そういうお誘いかもしれないもんね。


確かにセルの言う通りなので、僕は気を取り直して椅子に座りなおした。

「あぁ、そうだったね。それで…セルは今日どうするんだい?」

話はちゃんと最後まで聞かなければ。



「…セノと討伐依頼する。」

「」



僕はテーブルに置いてある残った朝食のスープを一気に飲み干し、席を立った。

そのまま自室へ行き、僕は思い思いの休日を…


と思って歩き出した僕の袖をセルは容赦なく掴む。


「…セノ、一緒に出掛けるでしょ?」


これが()()()()()()の誘いで、可愛く「買い物でもしよう?」的なお誘いなら僕の足も扉へ向かったかもしれない。

しかし、何故だろう。

僕の足は扉とは反対方向、むしろ『僕の部屋』という非常口がある階段へと向かっているではないか!


だってやだもん!

セルと出掛けるのは別にいいけれど、休日までわざわざ依頼をこなすなんてやだもんっ!

しかも討伐依頼!?冗談でしょ!?

僕達そこまでお金に困っていません!ありがたいことに!!

恵まれていることに感謝して、モンスターさんにも休暇を差し上げましょうよっ!


僕は頭の中で盛大に抗議しながら袖を引っ張る。

―しかし、セルに掴まれた袖はビクともしない。


…あれ。セルさん、こんなに力強かったっけ…?


男の僕が女の子のセル(しかも年下)に力で負けるはずない…よね?

僕は純粋に疑問に思い、まさかと思って意識を集中させてみた。


「…セルさん?」

「…何。」

「…何で僕に魔法を使っているのでしょうか。」

「だってセノ、逃げるでしょう…?」

そりゃ逃げますよっっ!!


ってかなんでさりげなく僕に黒魔法使ってるの!?

仲間ですよね!?気づかない内にセルの魔力が僕に流れて術を発動させてたよっ!!

これで僕が魔導師でなければ多分セルが魔法を使っていることに気づかず、彼女との力勝負で負けたと絶望に打ちひしがれていたところだ。

まぁ、これで絶望に染まる休日は避けられたわけだけども、僕にまだ希望の光は見えてこない。



「さすがに討伐依頼は…行かないかなぁ…。」

セルに拘束魔法を使われているという事実を知った僕は、無駄な抵抗をやめ、セルと向き合って『説得』という新たな試みに移った。

こういう時に対抗できるスキルがないっていうのは、白魔導師の不便なところですよね…。


「…そう…。」

席に座ったままのセルは、少しの沈黙の後呟いた。

「……?」

てっきり説得は長期戦になるだろうと覚悟を決めていた僕は、セルの予想外の反応にキョトンとする。


…あれ?意外とプッシュしてこない?


さっきまでの勢い的に強引に連れていかれてしまうのかと思っていたけれど、ちゃんと断れば案外諦めてくれるのか…。

その僕の心の中の言葉が正しいことを証明するかのように彼女の魔力が僕の中から消えていくのを感じる。

僕の腕もやっと自由になった。


「……セル……?」

しばらくセルの様子を伺っていると、彼女はゆっくりと顔を上げた。


「…じゃあ、セノに選択肢。」

「え?」

「あたし、今日やることがないの。…だから、セノと出掛けたい。セノが討伐依頼、嫌だって言うなら…選択肢の中からセノが、選んで…。」


なるほど、そういうことか。

もともとセルは僕を何としても自分の受注する依頼に巻き込みたいだけかと思ったけど、本当はセルが暇だったんだな。

中々可愛らしい提案をするときもあるんだなぁ。

…よし、ここは年上のお兄ちゃんらしく、快く引き受けてあげるか!


「…わかったよ、セルがそこまで言うなら。…で、選択肢は?」

「…うん。ありがとう、セノ」

少し機嫌の良さそうな声を出したセルは、僕の前に指を突き出した。


「選択肢1…推奨Lv.50のモンスターを討伐しに行く。

選択肢2…推奨Lv.50のモンスターを討伐しに行く。

選択肢3…推奨Lv.50のモンスターを討伐しに行く。

………どれがいい?」

「どれもよくなぁぁぁぁいっっ!」


セルの『どれがいい?』を言い切る前に全力でツッコミを入れる。


セルの出した手が1、2、3…と指を立てるのにつれて僕の嫌な予感が増幅していったことは言うまでもないだろう。


しかも何でLv.50に行こうとするの!

僕のレベル知ってる!?つい最近Lv.43になったばかりなんですよっ!?

セルはLv.51くらいだからそのくらいがちょうどいいのかもしれないけれど、君も二人で行く気満々にしてはかなりギリギリを攻めてるからね!?

僕に至ってはギリギリどころじゃないよね!?ただのスパルタ教育受けてるよねっ!!


…まぁ、僕も前、自分のレベルと同じ推奨レベルを受けるという暴挙に出たことはあるけれど、Lv.50は次元が違うから!

この誘いに乗ってこのギルドの扉をくぐったら最後、僕だけ帰ってこないオチが見え見えなんですけど…!


僕の後ろに存在する扉が『死への扉』に見えて仕方がない。

この子は休日になんて怖い思いさせるんだ…!


「絶対に行かない。悪いけど、ノルダとか探して誘って。」

さすがの僕も完全拒絶コースである。


「…だめ。選んで。」

「選ぶものが何もないんですけどっ!?君は『選択肢』という言葉の意味を調べてから提案してくれませんかっ!?」

「…ちゃんと答え用意した…。」

「できてないからっ!君のは二つ以上の答えがあると見せかけて一つの答えが影分身してるだけだからねっっ!?」

なんで僕が朝からこんなに盛大なツッコミを入れなければならないのか。



「…。」

「…。」


そうそう、一度落ち着こうじゃないか。

周りの人たちが僕達のことを見ているよ。

まったく、人様の迷惑になってしまうんだから、セルも大人になりなさい。


「…セノがうるさくするから、皆見てる。」

「なんで僕ぅぅぅっ!冤罪(えんざい)すぎるよね!?自分の命を助けるために抗議する声はノーカンですよねっ!?」

まさかのセルの切り返しに、僕のツッコミマシンガンは止まりそうにない。


ギルドで朝食を楽しんでいる皆さん、この子がうるさくて申し訳ない!

…え、僕?

ぼ、僕は自分の命を救うための全力抗議をしているだけです!

決してネタとしてふざけているわけではなく!

僕は真剣なんです!!



「…選ばないのなら、あたしが決めちゃうけど…。」

はいぃぃぃ、ちょっと待てえええぇぇぇ!

この話はまだ終わってなかったの!?

選ぶものがないんだってばぁぁ!


…いや、…待てよ…?

僕は若干息を切らしながら、頭の隅に残ったわずかな冷静さで考える。


僕はこの類の返し方を知っているような…気がする。

一体誰とこんなやり取りをしたのだろうか。

でも、その人のおかげで僕は今、窮地を脱出しようとしているっ!


こういうときは…そう!


「…わかった。じゃあ……」

僕はコホン、と咳払いしセルの目の前に指を掲げた。


「…第4の選択肢、今日は大人しく各自の部屋で休息。」

この予想の斜め上をいく4本指には敵うまい!!


こうして僕は長いやり取りの末、セルを説得させることに成功した。

めでたし、めでたし。



「…わかった。第5の選択肢、Lv.45の討伐依頼を受ける…ね。」

「謎のこだわりぃぃぃっ!」

ギルドに再び響き渡る僕の声。


「え、この子聞いてた!?僕達共通言語で話してるよね!?僕だけ異国の言葉使えるようにとかなってないよねっっ??」

さすがの僕もこの子の大胆なスルースキルに驚きを隠せない。

それにレベル下げただけで討伐依頼に行こうとするものすごい執着しか感じないっ!

なんでこのやり取りを終わらせてくれないの!?

どんだけ今日を僕の命日にしたいのこの子はっっ!?


僕はついに頭を抱え、一体どうしたものかと真剣に悩み始めた。


何か…何かいい策は……っ!


その時ふと思い出した。

何やら今日の僕はいつも以上に冴えているようだ。


とりあえず、このことをセルに告げようと僕は顔を上げる。


「……あれ?」


しかし、僕の目の前からはセルがいなくなっていて。

彼女の姿を慌てて探すと、何故か依頼を受注する掲示板がある方へスタスタと歩いているのが見えた。


なんで僕の話を無視して依頼の掲示板に向かっているんですか彼女はっっ!?

あの僕の華麗なツッコミさえもスルーしたというのかっっ!


…いや、僕だってなにがなんでもセルに依頼を受注させるわけにはいかない。

僕は少し混雑している人の間をすり抜けて、歩き続けるセルの前に回り込んだ。


「ちょ、ちょっと待って、セル!」

「…何。」

何故か迷惑そうな声を出すセル。

僕の方がすでに貴重な休日を潰されかけてて迷惑なんですけどねっ!?


「そういえば、隣街の『リッド』に、珍しい商人がやって来ているっていう噂を聞いたんだけど…。僕、そこに行く予定があったなぁって!」

「…隣街に商人…?」

「そう!もしかしたら、珍しい魔導書とかも売ってないかなってさ!」

「……。」

歩くのを止めるセル。


実際この噂を耳にしたのは本当だ。

人が多く集まるこのギルドなら、どうでもいい情報から有益な情報までよく入ってくる。

…まぁ、あくまで噂だから本当かどうかは行ってみないとわからないわけだけれど。

逆にこの曖昧な信憑性が今は僕の味方になってくれているようだ。

本当は今日、外出する気なんてこれっぽっちもなかったけれど、ここまで来てしまったらしょうがない。

僕の命と引き換えにはできない。

それに同じ魔導師なら、商人がたまに運んでくる魔導書に興味をもつ者も多いはず。



実はこの世界、場所によって同じ職業の魔導師でも使える魔法、得意とする魔法は異なる。

もちろん、僕達の知らない魔法もこの世界にはたくさんあるだろうし、さらに言えば知らない職業だってあるのだろう。

…つまり『商人』という様々な街を旅して売買を行う専門家は、魔導師である僕達にも貴重な存在であるわけで。

遠くの街で仕入れた魔導書を僕達が手に入れ、読むことで適正があればその魔法を習得することも不可能ではない。

本当はその僕達の知らない魔法を使う人から直接教えてもらったほうが、わかりやすくて早いんだろうけど。

今の時代、魔導師の旅人なんてそうそう見かけないし、僕達のいる街に旅人は滅多に訪れない。

だから、商人が来ると多くの人が興味をもって集まってくるのだ。


「…わかった、そういうことなら…。」


しばらくして、セルが口を開いた。


これは決まった。


僕は安堵する。

まぁ、どちらにせよ『何もしないで家でゴロゴロする』ことはできないけれど、せっかく隣街まで来ている商人。

僕も外出が面倒くさかっただけで、興味がないといえば嘘になる。


ここまでくるのは大変だったけど、なんだかんだで充実した休日になりそうだ。

そんな僕は、セルも行くというので待ち合わせの時刻を決めると自室へと戻った。


約束の時刻は今から約30分後。

セルと色々話していたので9時にギルドの外で会うことにした。

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