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ジュライ2

次の日朝起きて、机の上のカロリーメイトを手に取り口にくわえようとしたところノックの音がころがった。

「りっちゃん朝ご飯できたよ。昨日みたいにみんなで食べましょ」

 と言って愛梨がりさの部屋に入ってきた。

「今日はこれが(カロリーメイト)あるから良いよ」

「だめりっちゃん。ちゃんとバランスの良い食事をとらないと勉強はかどらないぞ」

 と言って愛梨はりさが持っているカロリーメイトを取り上げ強引に食事が用意されている居間へと連れて行かれた。

 居間に行くと窓から太陽の光が射し込まれ、心地の良い朝を迎える。

「おはようりさ」

 父がタバコをくわえながら新聞を読んでいる。

 とりあえず挨拶をしたところ母が、

「りさも納豆ご飯食べる?」

「うん」

「ちょっと待っててね」

 母が支度している最中に愛梨が、

「愛梨ちゃん達これからコンビニのお仕事をするためにいつも朝は朝食をかかせないの。だからりっちゃんも受験勉強に精を出してもらいたいから食べようね」

 愛梨がにっこりとウインクしてりさに言いかける。

 この朝の朝食何だか懐かしい。

 幼い頃、愛梨を嫌うまではいつも家族と一緒に朝の光に照らされながら朝食をとっていた。超幸せ。


 英明塾に到着してパソコン室で引きこもりの生徒にメールでエールを送っている豊川に挨拶して勉強室へと向かうといつものようにパイプイスに座ってハードカバーの小説を読んでいる梓の姿がいつものようにある。

「おはよう姉さん」

「おはようりさ。何だ今日は何だか嬉しそうじゃないか。何か良いことでもあったのか?」

 臨床心理師を目指している梓は表情を見るプロである。

「あったよ」

「へー差し支えなければ教えてよ」

 と言うことでまず姉さんと慕う梓に教えることにする。


「そう。りさの姉さんと和解する事ができたのかあ」

 りさの朗報を聞いて自分のことのように嬉しくなってしまう梓であった。

「それで恵にお礼が言いたいんだ。和解することを勧めてくれたのは恵なんだ」

「りさはそうやって人と巡り会って大人になっていくと良いよ。それと」

「それと?」

「大学は中央に限らずに本当に自分のあった大学に行く気にはならない?」

「いいや。それとこれとは別だよ」

「・・・」

 ちょっとばかし不純している動機に肩をすくめながらため息をついてしまう梓。

「とにかく今日も頑張るから姉さんサポートお願いね」

「はいはい」

 ここでりさはいつものように、いや今日の出来事が影響されていつも以上に勉強の拍車をかける。

 時間は時事刻々と過ぎていき、誰かがりさの目元を覆いかくして、

「だーれだ」

 と問いかけてくる。

 声色を変えていたが暖かい手にりさは、

「麻美」

「ピンポーン」

「おはよう」

 元気そうな麻美を見てつい嬉しくなってしまう。

「うん。おはよう」

「麻美悪いけど勉強しているから後でな」

 傍らにいる梓が麻美に話があるのか勉強室から出ていった。

 それを見ていたりさはきっと喫茶店の件だと思って問題ないことに勉強を続ける。麻美だったら梓の気持ちを分かってくれると信じている。


 お昼が過ぎ、息抜きにりさは梓と麻美に誘われて生徒達と友にバスケをする。

 梓が言うには最大限頭を使いたいなら外で太陽の光に当たりながら体を動かすことも大事だと言う。

 公園に立てかけられた時計を見つめると午後三時を示している。

 幸せになれるすてきな助言をくれた恵はまだかまだかと思っているりさ。

 りさは恵に早くお礼がしたいのだ。そして昨日の愛梨との和解話を聞いてもらいたいと思っている。

 夕方になり、恵は今日は来ないことに残念に思うりさだった。

 そして徳川さんが英明塾に来たことでりさは梓にさよならの挨拶をして麻美と友に帰った。

 夕焼けに照らされながら二人は談話しながら歩く。

 りさは恵の話題を降る。

「今日恵来なかったね。どうしたんだろう?」

「恵ちゃんの話は止めて」

 りさから顔を背け恵の話題を拒絶する麻美。

「どうしてそんなにやだの?あいつのおかげで私は一つ幸せになれたよ」

「りさは恵ちゃんのことを知らないからそう言えるんだよ。あの人すごく腹黒いよ。自分が気に入らない相手なら平気で人をあざけるんだから。私恵ちゃんに欺かれて死にたい気持ちにも苛まされた時があったんだから」

 恵の話題を語る麻美は思い出すだけでも辛いのかついには涙を流してしまった。

「頼むよ。泣かないでくれよ。私が悪かったから」

 りさは麻美の泣いているところを見ているだけでも気が気でなくなり抱きしめた。続けて、

「お願い泣かないで。私何度も麻美に言っているけど、麻美の涙を見ていると辛いの。だから泣かないでくれ」

 麻美はしばらくりさの胸元をぬらす。人知れず夕焼けに染まりながら。


 部屋の中机の上で頬杖をつきながら考えごとをするりさ。

 麻美が泣いたあの後、りさの全身全霊の包容のおかげで悲しい気持ちは癒えたが、気になることがある。

 それは恵のことだ。

 彼女はあんなにいい奴なのに麻美を始め英明塾の生徒達に嫌われているみたいだ。

 まあそれはさておいて、恵には、はち切れんばかりの感謝の気持ちを今日光よりも早く伝えたいと思ったりさは携帯で恵の携帯に電話する。

「もしもし恵?私りさだけど、あんたに感謝感激雨嵐って感じなんだけど」

「はっ何のこと」

 素っ気なく言葉を返す恵にすっかり拍子抜けしてしまうりさ。気を取り直してりさは、

「だから昨日言っていたじゃん。愛梨と和解しなって。それで私はあんたに改めて言うけど感謝しているの」

「そう」

 と相づちをつく言葉がいかにも元気なさそうにも感じるりさは。

「どうしたんだよ。元気ないじゃん」

「私死にたい」

 小さな声で呟くように言っていたがその大変な発言に聞き捨てならなかったりさは、

「どうしたんだよ恵。何でそんなことを言うんだよ」

「私さあ英明塾の人たちに嫌われているんだよね」

 とそれは麻美を始め生徒達が言っていたことだ。しかしりさは、

「みんなはともかく私は恵のこと嫌いなんかじゃないよ。頼むからそんな死にたいだ何て悲しいこと言わないでくれよ」

 そんな恵が心許なくてつい自分まで涙を流してしまう。すると受話器の向こうからすすり泣く声に乗せて恵が、

「私の運命呪われているよ。幼い頃から虐待されたし、学校ではいじめられて最悪の運命だよ。挙げ句の果てに英明の生徒達にも嫌われてさ」

「恵嫌われているのはともかく私がいるじゃん。そのことなら借りを返すがてら相談に乗るよ。麻美達ならきっと分かってくれるよ」

 真摯に訴えかけるりさ。

「ありがと。優しいんだね」

 プッと電話が切れた。

「恵」

 その後何度も恵の携帯にかけたが一向にでない。

 恐ろしく恵のことが心許なくなり目の前の視界が真っ暗になってしまった。

「ショック受けている場合じゃないだろ」 

 と自分に言い聞かせ豊川の携帯にかける。

「豊川先生ですか?」

 息を荒くして受話器の向こうの豊川に言いかける。

「はーい。りさちゃんどうしたのそんなに慌てて」

 穏やかな口調はいつものこと。聞いているだけで安心するような錯覚に陥ってしまうが今はそんな悠長なことをしている場合ではない。


 豊川から恵の住所を聞いて家から飛び出し原付は今修理中で愛梨のチャリンコを借りて激しくペダルをこいで地平線を走るりさ。

 恵の住所は隣町の亀戸だ。

 信号無視して警察に注意されながらも急ぐりさ。

 ビルが盛んに立ち並ぶ町亀戸。

 ここも入り組んでいて住所を知っているだけでは分からないので駅前の交番を頼りに恵の家へとチャリンコを走らせるりさ。

 途中躓いて転げ落ちるりさは自転車をそのまま放置して走り出すりさ。

 そして到着して恵の自宅を見てみると三階立てのベランダがついた立派な家だった。

 外線マイクがついた呼び鈴を鳴らして。外線マイクから品のいい女性らしき人の声。

「はいどちら様でしょう?」

「夜分遅くすいません。私は恵さんと同じ英明塾の生徒の橘りさですが恵さんはいますか?」

「ええ、娘ならいますが」

 それを聞いた気が気でないりさは他人のうちにも関わらずに門の柵をよじ登り中に入っていく。

 玄関で、

「ちょっとあなた何ですか?人のうちに勝手に上がり込むなんて警察呼びますよ」

「はい不法侵入で訴えてもかまいません。恵さんの部屋はどこですか」

 息を切らしながら言いかけるりさ。

「帰ってください」

 と言われたのにも関わらずに土足で中にズカズカと入っていくりさ。

「恵」

 と叫ぶと二階に続く階段から恵が降りてきた。

「りさ来てくれたんだね」

 抱きつく恵。

「・・・」

 恵が無事なことに言葉もでないほど安心して目をつぶって恵を抱きしめる。

「恵これはどういうことなの?」

 恵のお母さんらしき人が威圧的な口調で事情を聞き出そうとする。

「あんたには関係ないよ」

 すれた不良のような口調でおざなりに吐き捨てる恵。

 そんな光景を見てりさは虐待をしたことに許せない気持ちでいるのだろうと思った。

 とりあえず恵は落ち着いてくれたみたいで、

「ありがとねりさ。元気が出たよ」

 玄関に見送られにっこりと笑顔を取り戻してくれた恵。

「もうバカなことは考えないでよ」

「大丈夫。私にはりさがいるから」

「過去のことにあまりクヨクヨするなよ。どんな辛い過去でも過去は変えられないから」

 念を押して真摯に訴えかけるりさ。

「じゃあ明日英明で」

「うん。待っているよ」

「私たちには約束なんかいらないね」

「うまいこというじゃん」

 帰ろうとすると柵の手前で思いも寄らない人物に出くわした。その人は、

「どうして姉さんがここにいるの?」

「りさ。あんたって優しいんだね」

 この上なく嬉しそうな笑顔でりさに言いかける。

「姉さんも恵が大変になったことを知っていたの?」

「そのことでちょっとあんたに話しておかないといけないことがあるし、まあ立ち話も何だから私の家に来る?」

「でも今日はもう遅いですし」

「とにかく大事な話だから家族には私が言っておいてあげるから」

「分かりました」

 帰ったら愛梨たちと楽しい食事を楽しみにしていたのだが、梓の大事な話の方が重要だと思い梓に従った。

 りさはとりあえず家に電話して遅くなるから夕食はいらないことを話すと愛梨が露骨に残念そうにしていたことに対して謝っておいたみたいだ。

 りさは乗り捨てた愛梨の自転車で梓と二人乗りしてアパートに向かった。

 場所は英明塾の近所の平井にある簡素な住宅地の中にある質素でボロいアパートだった。

 梓の話によると築三十年の古いアパートらしい。

 家賃は安いが正確な値段は教えてくれなかった。なぜだろう?

 梓に案内されりさは梓が住む部屋へと入っていった。

 中は1LDKの狭い部屋だったが床は綺麗な黄色でフローリングされてあり、壁には幻想的なラッセンの絵が飾られて机やテーブルそれにパソコンやベットなどうまくレイアウトされており狭い部屋だが入ってみると広々とした感じだった。

 なぜかパソコンが起動しっぱなしでスクリーンセイバーが作動している。

「おじゃまするよ姉さん。とにかく大事な話って何?」

「とにかく今お茶入れるからテーブルの席に座って待っていて」

 りさは言われるままにテーブルの前に置いてある座布団の上にあぐらをかいて梓のおもてなしを待つ。

「お待たせ」

 と梓が透明なコップにアイスティーを入れてお盆の上に載せてりさにもてなした。

「ありがと姉さん。ちょうどのど乾いてたから」

 りさはアイスティーにストローがさしてあるのにそれを使わずにグラスに口を付けて飲み干した。

「おいしい?」

 にっこりと頬杖をついてりさに言いかける。

 りさはグラスをおいて、

「とにかく大事な話って何よ」

「りさは恵ちゃんのことどう思っている?」

「まあ、麻美ちゃん達は嫌っているみたいだけど、私は別に親しい友達だと思うよ。それに彼女のおかげで一つ幸せになれたことがあったから」

「幸せなことって何?」

「私には知的障害者の姉がいるって言ったじゃない。その姉のせいで今までひどい目にあって来て恨んでいることを話したら、それは間違っていると否定されて和解を勧められたの」

「そうしたら」

「実際に和解して一つ幸せになったよ」

「そう。そういえば以前そんな事言っていたわね」

 梓が複雑そうな表情をしている。

「姉さんそれがどうしたの?」

「今日さあ、豊川先生にりさが恵ちゃんの住所を聞いてきたってことを聞いたの。もしかしたらと思って麻美ちゃんの時のように家まで駆けつけるんじゃないかって思って恵ちゃんの家まで行ったの。そうしたら案の定あなたが恵ちゃんの家にいたってこと」

「それがどうかしたの?恵が自殺しようとしたんですよ。私はそれがほっとくことが出来なかっただけだよ。もし恵が・・・って考えただけでも気が気でなくない?姉さん」

「まあ確かにね。でもあの子自殺する気何か更々ないのよ」

「はあ?」

 疑問に思うりさ。

「あの子りさに自分が幼い頃虐待にあったとか、いじめられていたなんてこと言わなかった?」

「言ったけどそれが」

 さらに疑問に思ってしまうりさ。

「全部嘘なのよ。あの子は愛情ほしさに嘘を言っているの。そう言えば誰かが構ってくれると思っているのよ。それで構ってくれなかったら平気で人を欺くのよ」

 りさは梓に恵のことを話してくれてよく分かった。

 恵は自殺する気もないのに一時の愛情ほしさにあたかも自殺すると言いかけ豊川先生は振り回されて何度か困っているみたいだ。

 それで気に入らなかったり構ってくれなかったら平気でその人を欺いたりするのだ。

 実際に気の弱い麻美ちゃんは一時の愛情ほしさに繰り返して言ってくる恵ちゃんに対して呆れてシカトしたら欺かれて死ぬほど辛い目にあったみたいだ。

 麻美ちゃんだけではない他の生徒たちもみんなそうみたいだ。だからみんなに嫌われているみたいだ。

 なぜそうまでして一時の愛情が欲しいのかは梓が豊川先生に聞いたところ昔虐待はなくてもいじめられたことはあったみたいだ。いじめを聞いた当時の恵の担任は『あの子は虐待の憂さ晴らしにやっていたのだから、その気持ち分かってあげてね』と叱らなかった。そしてさらにいじめはエスカレートして仕舞には登校拒否になってしまったという辛い体験があるみたいだ。それを豊川先生は恵の両親から聞いたみたいだ。

 りさは恵の気持ちは痛いほど分かった。実際に同じようなことがりさの身にもあったからだ。


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