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ジュライ1

梅雨が明けたと同時にりさの勉強のスランプが抜けさらに偏差値を上げていく。

 マクドナルドからバリューセット買って英明で食べようと持ち帰るりさ。

 靴を脱ぎパソコン室から大勢の笑い声が聞こえる。

 パソコン室を垣間見ると梓が笑い話をみんなに提供しているみたいだ。

「りさったらおもしろいのよ。前にゲームセンターに行った時のプリクラだけど、見て見て」

 梓はりさと一緒にゲームセンター行った時に撮ったプリクラをみんなに見せつけて笑っている。

 そのプリクラはりさにとって誰にも見られたくないような映りの悪いもので誰にも見せないでって梓と約束した時の物だ。

 それを見てみんなげらげら笑っている。

「面白いでしょ。他にも・・・」とげらげら笑っていたみんなは梓の背後を見て蒼白した。

「姉さん」

 りさが梓の背中に向けて言いかける。梓が振り向き、ぎょっとする。

「あらりさ」

「・・・」

 りさはにっこり笑っているが梓やその他の生徒たちには見える。その怒りを通り越して笑顔になっているのを。

「りさこれ可愛く映っているとは思わない?」

 誰にも見せないという約束したプリクラをりさに見せつけ宥めようとしている梓。

「嘘はいけないよ姉さん。せっかくいつもの労いで姉さんの分のバリューセットも買ってきたのに」

「ああ、ありがとう。じゃあ私たちもお昼のしようか」

 りさは梓に買ってきたビックマックを取り出し「ほら食べなよ」梓の口に押しつけるりさ。

「わるはったから。ほへほへ・・・・・・・・」


「麻美今日は喫茶店で勉強しようよ。ドリンクバーでも頼んでまったりしながら」

「でも私今日お金全然ないから」

「そのことなら大丈夫。今日一日姉さんは私の奴隷だから姉さんがおごってくれるって」

「奴隷ってちょっと悪いよ」

「遠慮しない遠慮しない」と麻美に言いかけ「ほら姉さんちゃちゃと行くよ」梓に言いかける。

「はいはい」

 嘆息混じりに梓は言う。

 平井駅周辺の商店街を歩いてお喫茶店へと向かう。 

 商店街は行き交う買い物袋を持ったいかにも奥さん方が専らだ。

 そんな中三人で語り合う。

「麻美はやりたいこと見つかった?」

 りさが麻美に言いかける。

「うん。見つかってはないけど、とにかく今の勉強を続けていれば見つかりそうな感じがするんだ。それと私ボランティア始めようかなって思っているんだけどね。そうしたら手も広がるし自分の中に自信がみなぎってくるんじゃないかって思うんだよね。よくわからないけど」

「麻美ちゃん。そのことならどんと私が乗って上げるよ」

 胸を張って意気揚々にいつもの輝かしい笑顔は健在の梓さんは言う。

「そうだよ姉さん。麻美に姉さんのやっているボランティアを紹介して上げてよ。これは命令だよ。麻美の力になって上げてよ」

「はいはい命令は云々、そんなことをされなくても私は力になるよ」

 そんな話題を繰り広げながら喫茶店に到着した。

 三人はそれぞれドリンクバーを頼み禁煙席に座る。

「じゃあ姉さん。私はアイスコーヒーね。麻美は」

「エッ私は悪いから自分で取りに行くよ」

「はいはい遠慮しないの今日一日姉さんは私の奴隷何だから。ねえ、姉さん」

「・・・」

 笑顔でムカついたのか顔をひくつかせる梓。

 嘆息しながら梓はドリンクバーに行きアイスコーヒを入れる。それで麻美がアイスティー。

 そんなとき見覚えのある人がドリンクバーに来て梓は、

「恵ちゃん?」

「あっ、梓先生。どうしたんですか?こんなところに来て」

「今日は生徒たちと喫茶店で勉強することにしたの。恵ちゃんは?」

 首をちょこんと傾けにっこりと癒しの笑顔を放つ梓。

「あたしはレポートをやりに来たの」

 ここで梓は考える。恵は英明塾での嫌われ者。りさはともかく麻美はすごくいやがっている。それは気づかないところでポロリと人が傷つくことを平気で言うからだ。ここで友に勉強しようかと言うべきか?でも麻美が嫌がっているから、でもここは教師として生徒をそんな目で見てはいけないと思った梓は、

「恵ちゃんも私たちと一緒に勉強する?」

「はい。喜んで」

 二人は麻美とりさが座っている席へと向かう。

「お待ちどうさま」

 と梓が二人に頼まれたドリンクを持って恵をつれてきた。

「麻美ちゃんにりさちゃん。おっす」

 活気よく恵は二人に挨拶を交わす。

「おー恵ちゃん。オッス」

 とりさ。

「・・・」

 麻美は露骨にイヤな顔をして俯いてしまった。

 その様子を見た梓は失敗したかと自嘲してしまう。でも気を取り直して梓は、

「とにかくドリンク代は私が持つから勉強を賢明にがんばりましょう」

 意気揚々に拳を振りあげ盛り上げるように言いかける。

 そんなとき麻美は。

「私急用思い出したから、帰るね」

「エッ急用ってどうしたの突然」

 りさが言いかける。

「とにかく急用だから」

 いそいそと立ち上がり荷物をまとめて喫茶店から出て行ってしまった。

 その姿を見た梓は理由を取り繕って帰ったんだなと丸わかりで教師としてどうしたもんか複雑な気持ちになってしまう。その後の学習は梓に教わり夕方六時まで続いた。


 三人は喫茶店から出た。

「あー今日も充実したなあ、絶対に中央合格してやるって感じだよ」

 りさ。

「ありがとうございますね梓先生。おかげでレポート済みましたよ」

 恵。

「姉さん」

 威圧的にりさが梓を呼ぶ。

「何よりさ」

「今度私の事で笑い物にしたら、今度は殺すからね」

「解ったから、冗談でも殺すとか言わないの」

 やれやれと言った感じでりさに注意する。

 三人は別れそれぞれの帰路へと向かっていった。


 お風呂から出たりさは寝間着に着替え最近梓にあこがれて伸ばし始めた髪を拭くために肩にタオルをかけ部屋に戻る。

 そこで牛乳を一気のみ。

「あー明日も頑張るぞ」

 幸せを感じるりさであった。

 そんなときである。りさの携帯が鳴り出し着信画面を見てみると麻美だった。

「もしもし麻美」

「あっりさ私、麻美だけど」

 すすり泣く声で麻美はりさに言いかける。

「どうした麻美」

 そんな麻美に心配するりさであった。

「梓先生私に嫌がらせでもしているのかな?」

「はっ?」

 話の見えないりさは疑問の声を一つ上げてしまう。続けて、

「姉さんが嫌がらせ?」

「うん。私が恵ちゃんのことを嫌なのを知っているのに喫茶店で一緒に勉強しようと言ったからさ」

「恵ちゃんが嫌いなのはともかく姉さんがそんなことするはずがないよ」

 りさは梓が麻美に対して嫌がらせをするような人ではないことを百パーセント断言できる。

「じゃあ何で喫茶店で麻美の嫌いな恵ちゃんを連れてきたの?もう一度言うけど梓先生は麻美が恵ちゃんを嫌いなことを知っているんだよ。にもかかわらずに連れてくるなんて」

 泣きじゃくりながら言いかける麻美。

「それはさておいて、どうして恵ちゃんのことが嫌なの?」

「恵ちゃん私にひどいことを言うんだもん」

「何言われたの?」

「思い出したくないから聞かないで」

「解ったから泣かないでよ。あんたが泣いていると私までブルーになるよ。とにかく訳は私が直接姉さんに聞いてあげるから、もう泣くな」

「どうしよう私今日眠れないよ」

 相変わらすに泣きじゃくんでいる。

「・・・」

 困惑してブルーになったりさはため息をこぼしてしまう。

「・・・」

 受話器の向こうから麻美のすすり泣く声を聞いてりさは、

「じゃあ解った。とりあえず私が姉さんに直接聞いてあげるから、また電話するよ」

「いいよそんなことしなくて、とにかく迷惑でしょ」

「困ったときはお互い様。麻美の悩みを解消させるなら、こちらは喜んで引き受けるよ。じゃあまた後で電話するから」

「ありがとう」

 電話を切り梓に電話をかける。

「もしもし姉さん。夜遅く悪いんだけど聞きたいことがあるんだけど良いかなって、今日一日奴隷だっけ。洗いざらいはいてもらうよ」

「どうしたのりさ?」

 りさは梓に事情を話した。すると梓は、

「うん。今日喫茶店で偶然恵ちゃんに出会ったのよ。だから誘ってしまったのよ。先生として仲間外れはいけないと麻美ちゃんも解ってくれると思ったんだけどね、そこまで恵ちゃんのことを嫌がっていたなんてね。麻美ちゃんには悪いことしたね」

「恵ちゃんとはあまり喋ったことがないから分からないけど恵ちゃんってどんな人なの?」

「うん。麻美ちゃんに限らず生徒みんなに嫌われているよ。あの子気に入らないことがあると平気で人を欺くところがあるのよ。その点は私もほとほと困り果てているんだけどね。とにかく今日のところは明日麻美ちゃんに謝っておくよ」

 と梓とのやりとりを終えりさは麻美に事情を説明した。麻美は眠れないと懸念されていたが、ぐっすりと眠ることができたようだ。


 次の日。

 英明塾に朝一番に到着してパソコン室で引きこもりの生徒にメールでエールを送る豊川に挨拶した。勉強室に入ると梓がハードカバーの小説を読んでいる。

「姉さんおはよう」

「おう。りさ、今日も元気だね」

「当たり前じゃん。絶対私は中央に受かってやるって感じでやっているんだから」

「中央に限らずに私は本当にやりたいことを前提に受験に勤しんでほしいんだけどな」

 やれやれと言わんばかりに吐いたため息と友に肩をすくめる梓。

 お昼になり、お腹が空いたりさは麻美と友にマックでも行こうと思ったがあいにく今日はお休みみたいだ。

 勉強室から出て廊下で一人悩ましげにうずくまっている恵をりさの網膜がとらえる。

「恵ちゃん。どうしたの?」

「みんなあたしを仲間外れにするの」

「仲間外れ?またどうして?」

「解らない」

「とにかくお昼行くんだけど一緒にいく?」

 恵とお近づきになっておくのも悪くないと考えるりさだった。

「うん」

 マックは平井駅周辺にあるので二人は談話しながら歩いて向かう。

「りささんだっけ。昨日梓先生と私とりささんで勉強しましたよね」

「別に敬語じゃなくても良いよ。私のことはりさって呼んで。仲の良い友達はそうよんでいる」

「じゃありさ。あなたの携帯番号教えてよ」

「良いよ」

 マックに到着して二人は姦しく談話を続ける。

「へーりさはバカにされた連中を見返したいからあの天下の中央目指しているんだ」

 感心して恵は言う。

「恵は?昨日レポートやっていたけど、何のレポートをやっていたの?」

「うん。私通信制の高校通っていてそのレポートを片づけていたところ」

「エッ恵も通信制の高校に通っていたの?」

「うん。そうだけどそれが何か?」

「実は私も何だよ。中学校の時受験で行く高校がないから仕方なく通信制に行ったって感じ」

「そうなんだ」

「恵はどうして通信制の高校に通っているの?」

 自分と同じ通信制の高校に通う恵に興味を持ち始め、そんな質問をしていた。

「私のうちは母子家庭でお金がないから仕方なく行っているって感じ」

「そうなんだ」

 恵の深刻な事情を聞いて目がうつろむ。

「それに小学校から中学校にかけてまで私が片親だからって散々いじめられたよ」

「そうなんだ。私も姉が知的障害者って言う理由でいじめられたこともあったよ」

「そう。でも私はそんなもんじゃなかったよ。カッターナイフで切りつけられたり、屋上から突き落とされそうにもなったこともあったよ。学校だけじゃなかった。家でも母親に虐待されたことも何度か会ったよ。ここ見てよ」りさに右腕についているやけどの後を見せ「うちの母さんの虐待の後なんだ」

「・・・」

 恵のさらに深刻な事情を間の当たりにして言葉を失うりさであった。

「私何度自殺を考えたか分からないよ」

 自殺という単語にぎょっとしたりさは。

「とにかくそんなバカな事は考えるなよ。頑張って生きていればきっと良いことだってあるよ」

 恵に宥めるように力説するりさ。

「そんな言葉に何度裏切られたか分からないよ」

 唇をグッとかみしめ憤りそうな恵。

 そんな恵をほっとおけないりさは。

「とにかく何かあったら私の携帯にかけてよ。私協力するから」

 恵の両手を掴み握りしめる。

「ありがと。それとりさは知的障害者のお姉さんがいたからっていじめられたって聞いたけど、お姉さんのこともしかして恨んでいるの?」

 何て聞かれて恵の視線を逸らしてから、十秒後「うん」と認めた。

「だったら和解する事を勧めるよ。今は許せない気持ちでいるかもしれないけど、少しずつ許せる自分を作って行けば幸せになれると思うよ。それにそんな許せない気持ちでは人は愛せないってね」

 恵のセリフにりさは複雑な気持ちになり心の中をうまく整理がつかなくなった。

 まだ会って間もないけど、恵は良い奴だと思ったりさだった。どうして恵は英明塾の生徒達それに麻美に嫌われているのか疑問に思ってしまった。

 食事も済んで二人は英明塾に戻り勉強室で梓の元で勉強をする。

 二時間ぐらいが経過してりさは麻美のことが気になった。

 席を立ちりさは。

「ちょっとトイレに行ってくるね」

 トイレに入り、りさは携帯を開き麻美に電話する。

「りさどうしたの?」

「今日あんた英明休んだからちょっと心配になってさ。大丈夫?」

「ありがと。心配してくれたんだ」

「心配したさ。昨日なんか泣きじゃくんでたから」

「大丈夫。今日はちょっとお休みしたんだ。だから部屋で映画見ているよ」

 安心の吐息を吐いてつい笑顔になってしまうりさは、

「何の映画を見ているの?」

「崖の上のポニョ」

「あーあのジブリの」

「うん」

「おもしろいか?」

「ユニークだね」

「まあ、あまり心配させないでくれよ。明日は来るのか?」

「うん行くつもり」

「じゃあ待っているからまたな」

 電話を切ってトイレからでた。

 再び机に向かって勉強を始めるりさ。

 勉強室はりさと恵のペンを走らせる音しか聞こえない。

 梓はハードカバーの小説を見て眠いのか、うとうとしている。

 そして日は暮れてそれでも勉強を続けようとするりさだが高齢者の大学受験者の徳川さんが勉強室に入ってきて。

「じゃあ姉さん。私は徳川さんの勉強のじゃまにならないように今日はこれぐらいにしておくよ」

「別にじゃまじゃないよ。気にせず続ければいいのに」

「そうともりささんよ。俺に気にせず勉強を続けると良いよ。あんたのそばで勉強していると俺っちの勉強の拍車がかかって良い刺激になるんだけどな」

 と徳川さんが意気揚々に言いかける。

「うーん」

 目を泳がせ考えるりさ。

 りさは以前徳川さんに失言してしまい梓に叱られたことを思い出すと自分は徳川さんの前で勉強すると迷惑だと思っている。だからりさは、

「やっぱり帰るね。また明日ね姉さん」

「今日も頑張ったねお疲れさん」

 満面な笑顔でりさを労う梓。

 りさはそんな梓を見て英明塾の生活は朝梓の笑顔で始まり夕方梓の笑顔で終わるというスタイルで勉強に拍車がかかる感じである。

 恵を見てみるとレポート用紙に涎を垂らしながら眠っている。よほど疲れているみたいだ。

 そっとしておこうとして勉強室のドアを開けるとその音に反応したのか?恵が起き出し、まどろんだ瞳でりさに目を向け、

「あれ、りさどうしたの?」

「ゴメン起こしちゃったかな?私は帰るところ」

「じゃあ私も帰るから一緒に帰ろう」

 と言うことでパソコン室で引きこもりの生徒にメールでエールを送っている豊川にさよならの挨拶をして英明塾から外に出た。

「んんー」

 と両腕をあげ思い切りノビをするりさ。

「りさはよく頑張るよね」

「今日も充実したよ」

「明日もお互い頑張りましょう」

「おー」

 夜空の三日月に拳を振りあげるりさ。

 二人はそれぞれの分かれ道で「バイバイ」と言って分かれた。

 りさは一人になり恵に言われたことに思い返してしまう。

 それは知的障害者のりさの姉の愛梨のことだ。

 憎しんだって虚しいから和解を勧められたことだった。

 知的障害者の姉がいるからと言う理由で小中学校の時いじめられたこと。

 りさは幼い頃早く大人になって愛梨がいない世界に行きたいと何度も思っていた。

 今でも愛梨のことを思い出したらそれだけで気がおかしくなるほど憤慨してしまう自分がいる。

 憎しんだって虚しいだけ。

 でも愛梨の存在自体許せないと思う気持ち。

 りさの心の中で一つの葛藤が生じる。

 自宅に到着して待ちかまえていたのが姉の愛梨だった。

「りっちゃん。おかえり」

 首をちょこんと傾けてにっこりと笑顔で言いかける愛梨。

 そんな愛梨を改めてみると憎むのがバカらしくなったりさは小さな声で。

「ただいま」

 と言った。

「およよ。りっちゃん愛梨ちゃんに挨拶してくれるの?」

 目を丸くして驚く愛梨。

「そうだよ」

 靴を脱いできょとんとしている愛梨を後にした。

 部屋に戻りベットの上でうつ伏せになり恵に言われたことが頭の中がいっぱいだった。

 そこでりさは机の棚にあるアルバムを取り出してベットにうつ伏せになりながら見つめていた。

 写真は幼いりさと愛梨が無邪気に笑ってVサインをしている。

 アルバムを見つめていると愛梨との思いでは悪いことばかりではなかった。

 いつまでかは忘れてしまったが愛梨のことをお姉ちゃんと言っていた。

 いつも一緒だった。どこへ行くにも何をするにも。

 自転車で二人のりして冒険気分で隣町まで行ってよく遊んだ。

 おやつの時、いつも多めに分けてくれた。

 何に悲しんでいたかは忘れたけど、そんなときいつもそばにいてくれた。

 夜一人で眠れないりさを添い寝してくれた。

 愛梨は世界一優しく純粋なりさだけのお姉さんだった。

 いつからだろうか?歯車がゆがみだし愛梨を敵視してしまったのは。

 そんなことを考えていると自然と涙がこぼれてくる。

 どうして知的障害を持っている愛梨が姉だからってりさを蔑ろにしていじめるんだろう。

 そんなの滑稽だ。

 いや滑稽なのは愛梨を敵視するりさの方か?

 でも愛梨を許せないと思うりさ自身は健在だ。

 何で矛盾するんだろう。

 頭が壊れそうになってくる。

 気がつけばりさは恵に電話をかける。

「もしもし恵?りさだけど」

「あーりさどうしたの?」

「今日恵に言われたことなんだけど、・・・」

 りさは恵に自分の姉の愛梨に対する気持ちを伝える。

「りさ。人間には良い心も悪い心もあるんだよ。どちらも切っては捨てられないものだから、自分自身で認めて、りさがその愛梨さんだっけ、その憎む心を時間をかけて小さくしてしまうしかないのよ」

 真摯に訴えかける恵。

「認めるのは分かったけど、どうやって小さくすればいいの?」

「それは時間をかけて小さくするしかないよ」

「だからどうやって?」

「それはその愛梨さんと少しずつ距離を縮めてみるのはどうかな?」

「距離を縮める。分かったやってみるよ」

「頑張って」

「うん。また明日」

 電話を切った。

 そこでりさは不思議に思うことがあった。

 恵はこんなに良い奴なのにどうして英明の生徒達に蔑ろにされているのか?

 それはさておきどこから距離を縮めるか?考えるりさ。

 そんなときりさの部屋からノックの音が転がった。

「りっちゃん。夕食今日も一人でとるんでしょ。愛梨ちゃんのこと大嫌いだから」

 りさはドアを開け愛梨と面と向かう。

「今日はみんなと食べるよ」

 その言葉を聞いた愛梨は目をきらきらと輝かせ、

「本当にりっちゃん」

「ああ」

「りっちゃん愛梨ちゃん嬉しいよ」

 嬉しさのあまりりさを抱きしめる愛梨。

「よせよ愛梨」


 りさは愛梨に手を引っ張られて家族がいる居間へと向かった。

「お母さんお父さん。今日はりっちゃん愛梨ちゃん達と食事をとるって」

 それを聞いた両親は目を丸くして驚いている。

「りさ。珍しいじゃないか」

 と父。

「りさも愛梨のことを分かってくれたのね。食事は家族で食べた方がおいしいよ」

 と母。

 久しぶりに家族との団らんに何を話していいのか緊張してしまうりさだった。

 愛梨はりさと向かい側の席に座りにこにことしながらりさを見つめる。

「どうしたんだよ愛梨。そんな見つめられると食べにくいよ」

「愛梨ちゃん嬉しいの。りっちゃんを囲んで食事をするのが。何年ぶりだろうね?」

 家族との食事も悪くはなかった。明日恵に感謝かな。

 食事が済んで「ごちそうさま」と言って席を立って部屋に戻ろうとしたところ愛梨が。

「りっちゃん良かったら愛梨ちゃんとお風呂に入ろうよ。愛梨ちゃんがりっちゃんの体をキレイキレイにしてあげるよ」

「それはいいよ」

 断固断るりさ。

 湯船につかりながら恵は愛梨との距離を縮めろと言ったが縮めるまでもなかった。

 愛梨は誰よりも優しく純粋で心が草原のように広い。

 でも知的障害を負っているからと言って両親の愛情を独り占めされたことに許せない気持ちもある。

 その気持ちも時間をかけて小さくして心の引き出しにしまえるような感じにしたい。

 そんなことを考えながらお風呂から出ようとしたら愛梨が素っ裸で入ってきた。

「何だよ愛梨入ってくるなよ」

 と言って拒絶するりさ。

「良いじゃん。愛梨ちゃんとりっちゃんはかけがえのない姉妹なんだから」

「そういう問題じゃないだろ私たちはもう子供じゃないんだぞ」

「愛梨ちゃん昔みたいにりっちゃんと洗いっこがしたいの。ダメ?」

 食事の次はスキンシップ。


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