ジューン
本日曇りのち雨、お昼ご飯がすんで外は土砂降りの雨が降り出している。
そんな中勉強の息抜きとしてギターをかきならしながら歌を歌う少女りさ。曲は姉さんと慕う梓に教えてもらった尾崎豊のシェリー。
そんなときフリースクール英明塾の塾長の豊川がパソコン室に入ってきた。
「りさちゃんギターうまいね」
「別にうまくはないですよ。まだまだかけだしって感じですよ」
「いいや駆け出しにしてはうまいと思ってね」
にっこりと癒しの笑顔で豊川はりさに言う。
「ありがとうございます」
誉められて嬉しく思うりさ。
今まで誉められて有頂天になって努力をおろそかにしてしまう自分が嫌いだったが、梓はりさに『誉められて嬉しく思っても良いじゃない。それは当たり前なんだから、だからりさは誉められて嬉しいと言う気持ちだけ受け取っておけば良いじゃない』と言うことを教わり一つ心の勉強になったりさだった。
豊川がパソコンの前に座りいつもの引きこもりにメールでエールを送るのかと思ってギターを置いてパソコン室を後にした。
廊下で背伸びをしていると背後から抱きついてくる。
「きゃ」
驚いて素っ頓狂な声を出してしまうりさ。
「りさちゃん」
声からして最近知り合い仲良くなった麻美ちゃんだった。
「麻美ちゃんどうした?」
「いや、りさちゃんが隙だらけだったから思わず抱きついた」
にやりと麻美ちゃんははにかんで笑いりさももらい笑い。
「私はこれから勉強だ。姉さんが帰省中にやっておけっていう参考書がまだ片づいていないから」
「なら私も勉強する」
二人は勉強室に入ってりさは受験勉強で麻美が漢字検定試験の勉強である。
二人は勉学に勤しんでいる。
二時間ぐらいが経過して疲れたと言わんばかりにりさが深い吐息を吐く。それに反応して麻美が、
「りさちゃん疲れたでしょ」
「ああ疲れた」
「私も疲れちゃった」
「麻美ちゃんも頑張るな」
「つーかりさちゃんが頑張るから麻美も頑張れるんだよ」
「そうかあ、私たち切磋琢磨だね」
何て言って勉強室の窓を開いて雨はあがっていた。
「りさちゃんどこに行くの?」
「雨も止んだことだしちょっと気分転換に散歩でもしようかなって」
「麻美も行く」
「じゃあ一緒に行くか」
二人は外に出てりさが原付のバイクに跨りそれに続くように麻美も背後に座った。
「行くよ麻美ちゃんしっかり捕まっているんだよ」
「うん」
と麻美はりさにしがみつくようにつかまり、りさはそれを確認してエンジンをかけ走行させる。
到着した先は以前梓につれていってもらったことのある絶景が見渡せる河川敷だ。
「麻美ちゃんすごいよ。虹が見えるよ」
斜め空を指してりさは言う。
「すごい。麻美虹を見たの初めて」
「私は二回目だな」
「へー」
五分少々虹を眺め黙り込む二人。
そしてふと麻美と会話したくなってりさは、
「麻美ちゃんの夢って何?」
「まだやりたいことは見つかってないけど、りさちゃんと近いところで漢字検定の勉強してれば見つかるんじゃないかって麻美は思うんだけどね。りさちゃんは大学でどこの学部を受けるの?」
「とにかく私は今まで私をバカにしてきた連中を見返すために一流大学に行ってステキな彼氏をゲットして幸せになる事だよ」
もはやみんなを見返すために一流大学に行くという事を不純とは思わなくなったりさであった。
「別に一流大学に行かなくても努力すれば幸せになれるんじゃない」
「何とでも言いなよ。私がそう決めたんだから、それに従うまでだよ」
「そう。りさちゃんもいろいろと辛い目にあってきたんだね」
「麻美ちゃんはどうして英明塾にきたの?」
何てりさが聞くと麻美ちゃんは俯いて涙をこぼしてしまった。
「どうして泣くんだよ。私何か悪いこと言ったか?言ったんなら謝るよ」
麻美ちゃんの涙におろおろと狼狽えるりさ。
「ゴメン麻美も学校でいじめられていたの。もう思い出したくないの」
涙声で語る麻美ちゃん。
「悪かったから、とにかく泣かないでよ。麻美ちゃんが泣いていると何か私辛いよ」
りさもいじめられたことはあるからその気持ちは解るのだが麻美みたいに思い出すだけで涙を流すほどではなかったのでその点は解らない。
その後涙色に染まった麻美を原付で家まで送りつけ、その後、勉強を始めようと思ったがその気にはなれずにりさは自分の家に帰り、ベットの上で仰向けになり低い天井を見ながら沸沸と頭の中が思い出したくない過去のことを思い出してしまっていた。
原因は知的障害者の姉の愛梨がいるからと言う理由だけでいじめられていたのだ。
親に相談はしたもののいつも愛梨のことでいっぱいで相手にされなかった。
「あいつさえいなければ」
暗闇の部屋の中一人呟くりさであった。そんなときであった。
コンコンとりさの部屋のドアをノックする音が響く。
「何?」
「りっちゃん入るよ」
愛梨がりさの部屋に入ってきた。
「何だよ愛梨」
「りっちゃん。今日はスキヤキだよ。愛梨ちゃんスキヤキ好き好き。りっちゃんも好き好き」
何てふざけたことを言う愛梨に対して憤りが止まらずに殺意さえ抱いてしまう。目の前にいじめられた原因の愛梨がいる。
「・・・」
もう愛梨に対して言葉も交わしたくないほどわなわなとムカついているりさであった。
「りっちゃん?」
にっこりと首を傾けてりさに言いかける。
もう同じ部屋で空気も吸うのも嫌になったりさは憤りが頂点まで達してシャープペンシルを手に取り、愛梨を壁に押しつけ顔面にシャープペンシルを突きつけようとするりさ。
「お前さえいなければな」
と大声で叫び散らすりさ。
その声に反応して父と母が駆けつけ、その光景をみた母は。
「何やっているのりさ」
シャープペンシルを奪い取られ頬にピンタされるりさ。
「やめて。りっちゃんを怒らないでみんな愛梨ちゃんが悪いの。愛梨ちゃんのことりっちゃんは嫌いだからりっちゃん怒っちゃったの」
りさの前にたちはばかり両手を広げ庇う愛梨。
「愛梨は黙っていなさい」
「・・・」
りさはもうこの状況にどうにでもなれと言った感じで黙り込んでいる。
「まあまあ母さん。りさの気持ちも考えて上げようよ。りさは愛梨のことばかり構うから」
と父親は母を宥める。
「あなたは黙ってて」父親に言って「愛梨どきなさい」
「嫌。りっちゃんは悪くない悪いのは愛梨ちゃんなんだって」
幼い子供のように泣きじゃくりながら母親に真摯に訴えかける。
「りさ。今度やったら警察に突き出すからね」
「突き出せば良いじゃない。どうせー私の事なんてどうだって良いんでしょ。いつもこのしんしょうのせいで私が苦しんでいたなんて、誰にも解らないんだから」
りさは母にナイフを突き刺すような鋭い視線で訴えかける。
「愛梨はりさみたいにまともじゃないの。それぐらい解るでしょ。あなたはまともなんだから・・・」
母の説教は続いた。
いつもそうやってりさの気持ちははぐらされてきた。
次の日。
英明塾の勉強室で勉強するりさ。
昨日の一件で憤ったりさは勉強に拍車をかける。
なにやら今日は英明塾に取材班が来ている。
そんなのも関係なしに勉強を続けるりさであったがそんなとき麻美が泣きながら勉強室に入ってきた。
「りさちゃん」
「どうしたんだ麻美ちゃん」
「あの人たちひどいよ。思い出したくない事をカメラを向けながらしつこく聞いてくるの」
「気にするなよ。とにかくシカトしていれば良いんじゃない」
取材班のことを何の気にもとめないりさであった。だが麻美は、
「テレビに映っちゃたらどうしよう。麻美のことが世間でばれちゃうよ」
そんな会話に割り込むようにマイクを持った男とカメラを構える取材班がりさと麻美がいる勉強室に入ってきた。
「君は勉強しているようだけど、何の勉強をしているの」
りさの口元にマイクを向けそれに続くようにカメラも向けられる。
別に聞かれても問題はないと思うりさは、
「受験勉強をしています」
淡々と答える。
「そう。で、どうしてフリースクールに来たの?君も学校でいじめられたりとかしたの?」
「別に」
麻美の方を見ると俯いて怯えているので、りさは、
「あのー出ていってもらえませんか?怖がっている人がいますから」
「そう。ゴメンね時間とらせちゃって」
取材班は勉強室から出ていった。
「ほら、麻美ちゃん。もう大丈夫だから泣くなよ」
すると麻美はりさに抱きつき、涙でりさの胸元を濡らしている。
「やれやれ」
とこぼして目を閉じて息をつく。
そんなこんなで友達として麻美を励ましたい一心でミニストップでソフトクリームをおごるりさ。
「とにかくこれ食べて元気出してよ」
「ありがと」
受け取り少しずつ笑顔を取り戻す麻美だった。
「私もときどきいじめられたことを思い出すときがあるよ。そのたびにやり場のない怒りに翻弄されて狂うときがあるよ。私はさあ、姉の愛梨が知的障害追っているからって私をいじめるんだよ。だから私は自分の姉をすごい恨んだよ。昨日なんか目に見ただけでシャープペンシルで顔面突き刺そうと殺そうとしたよ」
自分で野暮ったい事を言い出すりさ。
「そういうこと親には言わなかったの?」
「親は姉のことばかり気を使って私の事なんて相手にされなかったよ。そう思うと私は何のために生まれてきたのか解らなくなるよ」
「りさちゃんもいろいろと辛い目にあってきたんだね。麻美は・・・」
自分の過去のことを語りだそうとしているのか?麻美はまた涙をこぼしそうな表情になる。それを見たりさは、
「いいよ。無理して話さなくても。思い出したくないんでしょ。私は麻美ちゃんが私の事を聞いてくれただけで少し気が晴れたよ。ありがとね」
些細なことだがりさは初めて心の底から笑いありがとうが言えた。
「こっちこそありがと。何か元気が出てきたよ」
二人はソフトクリームを食べ終え英明塾に戻って勉強を続けた。
夜りさはベットの上で心の底から笑いありがとうが言えたことに嬉しくてしばらく頭の中で思いめぐらしていた。
三日後の事だった。
りさは梓が帰省している最中に渡された宿題の参考書を片づけてた時。
「終わった」
宿題を終え嬉しくて大声で叫ぶりさ。
「何が終わったの?りさちゃん」
と麻美。
「姉さんから出された宿題」
「そっか、明後日梓さん帰って来るもんね」
りさが勉強室にかけられている時計を見つめて、
「もう六時か」
「今日も頑張ったね」
「そういえば今日が英明塾の放映する日か」
「うん。麻美は写ってないけど、そうだね」
「麻美ちゃん豊川先生に言ってテレビには出ないんだよね」
「うん。写ったら私生きていけないよ」
怪訝そうな表情で麻美は言った。
「ほら、そんな顔するな。写らないならそれで良いじゃない」
「でもりさちゃんは写っているんでしょ」
「みたいだね」
「今日の九時のニュース番組に出るって話だよ」
「さてそろそろ帰るとするか」
りさは勉強道具を鞄の中にしまい豊川先生にさよならと言って帰宅した。
今日も頑張ったので充実している一日だ。
家に戻ると愛梨がりさの帰りを待っていたみたいでりさの部屋のベットの上で腰を下ろして座っていた。
「何だよ愛梨」
「りっちゃん。愛梨ちゃんはりっちゃんと仲良くしたいんだけど、どうすればりっちゃんと仲良くなれるかな?」
悩ましげに愛梨は親指の爪をかじりながら言いかける。
「その気はないから出ていってくれ。お前見ているとムカつく」
「どうしてムカついちゃうの?愛梨ちゃんがおバカさんだから?」
涙を流し始める愛梨だがりさにとってそんなの同情にも値しないので愛梨の長い髪を思い切りつかんで部屋から追い出した。愛梨はりさの部屋のドア越しに向かって、
「それともお母さんとお父さんが愛梨ちゃんにばかり面倒見ていたことにムカついているの」
「・・・」
シカトするりさ。
「答えてよ。私たちかけがえのない姉妹じゃない」
泣きじゃくる愛梨。
そこでりさは決意する。大学受かったら家族がいないところに行こうと。
しばらくドア越しで愛梨の泣き声が聞こえてくる。
そして泣きつかれたのか?愛梨は泣くのをやめ、その場を去った。
りさは愛梨のことはともかくテレビをつけてバラエティ番組を見て九時まで待った。
家族と食事をともにするのも嫌なりさはポテトチップスを夕飯代わりにしていた。
そして始まった。
ゲームをして過ごしている秋葉三人衆。
引きこもりにメールでエールを送っている姿の豊川。
受験勉強をしているりさ。
そんな中だった。
いじめで英明塾に通っている麻美ちゃん。
その瞬間すさまじく麻美ちゃんのことが心許なくなり気が気でなくなったりさはとっさに携帯を手に取り麻美ちゃんに電話する。
「麻美ちゃん。写っちゃたけど大丈夫?」
「りさちゃん」
涙声で答える麻美。
「とにかく泣かないでくれよ」
「私もう生きていけない。私のことが世間で広まっちゃったよ。外にもでれない」
泣き叫ぶ麻美。
「大丈夫だよ。私がついているから。だから元気出してくれよ」
真摯に訴えかけるりさ。
「りさちゃんのことも写っちゃったけど、りさちゃんは気にならないの?」
「うん。私は気にならないけど、だから麻美ちゃんもあまり気にするなよ」
「豊川先生は麻美を写さないって言ったのに約束破られちゃった。写りたくなかったのに」
「豊川先生はそんなことしないよ。きっと取材班が番組をおもしろくさせるためにやったことだと思うよ」
りさは豊川をこの二ヶ月間見ていてそんなことをするような人ではないと思っている。豊川はいつも生徒一人一人を思う先生と言うことをりさは知っている。
「そうだよね豊川先生がそんなことをするはずがないよね。私もそれは認めるよ」
「とにかくあまり気にするなよ。私がついているから」
「・・・」
黙り込み受話器からすすり泣く声がりさの耳に響く。
もはや慰めの言葉も麻美の心に届かないのでりさは、
「麻美ちゃん明日日曜日だから、どっか遊びに行かない?」
「勉強はどうするの?」
「そんなことより私は麻美ちゃんに元気になってほしいから午前中はパスするよ。麻美ちゃんは明日どこに行きたい?」
「じゃあカラオケ」
「よし!決まりカラオケね。で、どこで待ち合わせする?」
「じゃあ平井駅に十時に」
「じゃあ楽しみにしているから」
「うん」
「じゃあ」
電話を切った。
本当は勉強をしなくてはいけないのにりさは麻美ちゃんを優先した。
なぜだろう友達の麻美ちゃんが悲しんでいると自分まで辛くなってしまう。だからせめて悲しんでいる友達のそばにいれば少しは悲しみが癒えると考えたのだ。
次の日九時にセットした目覚ましがけたたましく鳴り、りさは夢から覚める。
そんなときノックの音が聞こえる。
「りっちゃん入るよ」
入ってきたのは知的障害を追っている姉の愛梨だった。りさのための朝食か?お盆にトースト、サラダに目玉焼きが乗せられていた。
「何だよ愛梨。飯ならいらないよ」
「ダメだよ受験勉強に頭が働かなくなっちゃうよ」
「いらないって言っているだろ」
大声でつっけんどんに言うりさ。今までりさの分の親の愛情を独り占めしたことに腹を立てているんだろう。そんな愛梨を許すことが出来ないりさだった。
「ここに置いておくよ」
りさは立ち上がり愛梨が持っているお盆をひっくり返した。
そこで愛梨の堪忍袋が切れりさの頬にピンタをかました。
「何するんだよ」
「あんな奴さえいなければ」
カロリーメイトを口にしながら原付を走行させ、昨日麻美と約束した場所へと赴く。
思えば最悪の朝だった。あの後ケンカになり母親にこっぴどく叱られた。
そんなことを思いながら平井駅の前に到着して時計は約束の時間ぴったしの十一時を示していた。
日曜日でも喧噪な平井駅、そんななかあたりを見渡しても麻美の姿がないことに少々ばかり遅刻するのかと思ってロータリーに設置されているベンチに座り英単語帳で単語を暗記しながら待つことにした。
十分が経過してりさの携帯から電話が鳴り響く。
「はい」
「りさちゃん?麻美だけど」
「どうしたの麻美ちゃん」
「実は私外に出れなくなっちゃったの」
泣きながら言いかける麻美。
「どうしたって言うの麻美ちゃん」
「私もう死にたいよ」
かけがえのない友達の麻美が言った言葉に鼓動が激しくなる。そして、
「そんなバカなことを言わないでよ」
人通りが多い喧噪な駅の前にもはばからずに受話器の向こうに叫び散らすりさ。
「私は最後に会話をしたのがりさちゃんだから、この先どんなことがあっても私のことは忘れないでね」
プッと通話が途絶えた。
「麻美ちゃん。麻美ちゃん」
ツーツーと、どうやら本当に通話が途絶えてしまったみたいだ。
もし麻美が死んだことを考えるとりさは体が小刻みにふるえだし、呼吸が困難になりそうなほどのショックを受けてしまう。
「やだ。麻美ちゃんが死んじゃうなんてあり得ないよ」
何て涙を流しながら呟きどうすればいいのか困惑してしまうりさだった。
だったら麻美の家に行くしかないと考えるが麻美の家の住所なんて知らない。
そこで豊川に聞くことを決意して豊川の携帯に電話をかけた。
「もしもし橘です。橘りさです」
「ハーイおはようさん」
豊川の穏やかな口調を聞いていると少しだけ気持ちが落ち着いたりさだった。
「豊川先生。一刻を争うときなんです」
「どうしたの?」
「麻美ちゃんの住所を教えてもらいたいんですけど、良いですか?」
「どうしたの?麻美ちゃんやっぱりテレビに映っちゃったからショックで部屋に閉じこもちゃった?」
「その話は後にしてください。とにかく麻美ちゃんが大変ですから、麻美ちゃんの家の住所を教えてくれませんか?何度も言いますけど一刻を争うときなんです」
「解った」
住所を聞いて麻美ちゃんの家は平井駅の隣町の新小岩だった。
すかさず電車に飛び乗り麻美の家に向かうりさ。
新小岩に到着してここからがやっかいなところだ。
×丁目×番のところに麻美ちゃんの家はある。漠然と住所を語られただけではこの入り組んだ住宅街で探すのは困難だ。
そこでりさは交番に行き麻美の住所を語り正確な場所を教えてもらった。
この喧噪な商店街を抜けたところを右に曲がって本屋がある角をさらに右に曲がったところと警察に教わった。
りさはすかさず地平線の上を走り出す。
麻美とはどのように仲良くなったのか過去を思い返しても覚えておらず、いつの間にか仲良くなったって感じだった。まだ会って一ヶ月か二ヶ月しかたっていないけど。
それでも麻美が死んだ事を考えると呼吸が困難になり、そのままの状態でいると過呼吸に陥ってしまうほどショックを受けてしまうので、あまり考えないようにする。
だから今はそんなことを考えている場合ではない。一刻も早く麻美のところに行かなくては。
「麻美お願いだからバカな事だけはしないでくれ。それは友達として私の一生のお願いにしても良い」
と呟きながら喧噪な商店街を抜け警察に行われたとおりそこを右に曲がり、角の本屋にたどり着きそこをさらに右に曲がる。
そこで朝倉と言う麻美の名字が書かれた表札を見つけ呼び出しボタンを押す。
誰も出ない。
中に不穏な空気が漂っていたので、柵を飛び越え玄関のドアノブを開くと鍵は掛かっていなかったので進入するりさ。
中は誰もいないのか?りさは勝手に上がり込んでくまなく麻美を捜し出す。
そして二階に上がり部屋のドアに麻美と書かれた表札を見つけりさは恐る恐る開きそこに果物ナイフを持った麻美がいた。
「麻美ちゃん」
無事だったことに安心してほっとしていたのもつかの間みたいだ。それは麻美ちゃんの腕にためらい傷から血液がこぼれていたことに。
「りさちゃん」
「麻美ちゃん。バカなことをするのはやめようよ」
恐る恐る刺激しないように麻美ちゃんに近づくりさ。
「来ないで」
大声で張り上げ果物ナイフを首もとに近づける麻美。
「私思うんだけどさ、確かに麻美ちゃんはテレビに映ってしまってそれが世間にさらされ、悲しいことは解るよ。でもその悲しみの裏を見てごらんよ」
にっこりと穏やかな笑顔で冷静に話すりさ。
「その裏って何?」
「誰よりも幸せになれるんだよ」
「誰よりも幸せ?」
「そう。麻美ちゃんはつらい目にあったんだからその分この先に出会う誰かを優しく大切に出来る自分が麻美ちゃんの中で生まれるんだよ。つまり人は傷ついた分人には優しくできるんだよ。だからバカなまねはやめようよ。私思うんだけど自分を傷つけるのは麻美ちゃんの目の前にいる私を傷つけるのと一緒だよ。私は麻美ちゃんがいない世界で生きるなんて考えられないよ。だからそれを置いて私のところに来てよ」
真摯に訴えかけるりさ。
「・・・」
黙り込んで果物ナイフを落とし涙腺が故障したかのように涙を流す麻美。
「麻美ちゃん」
麻美に近づいて抱きしめるりさ。
そして麻美は嗚咽を漏らしながらりさの胸を涙で濡らすことに夢中になった。
本当のところりさは自分に心配させた麻美のことをぶっ飛ばしてやりたかったが今の麻美は充分反省しているから、止めて置いた。
数分後麻美ちゃんの涙も落ち着いて、
「りさちゃん。せっかく来たんだから、お昼一緒に食べようよ」
「そんな悪いよ」
「遠慮しないで私が得意のオムライスをごちそうして上げるよ」
「じゃあお言葉に甘えるよ」
と言うことで少しずつ麻美は元気を取り戻していった。
ご馳走になりりさは今日のことは誰にも言わないように念を押して言った。それは何故だがこっぱずかしいからだ。
「じゃあ、麻美ちゃん私は帰るけど、今は外にでれなくてもいつかでれるように私も協力するから」
「りさちゃん。麻美のこと麻美って呼んで」
「別に良いけど、どうしたの?突然」
「じゃありさちゃんのことりさって呼ぶから」
「解ったじゃあ麻美、私は英明塾に戻って勉強を続けるから」
「じゃあ私もりさを駅まで送って上げるよ」
目を思い切り閉じながら思い切ったことを言ったとりさは思った。
「無理するなよ」
心配するりさ。
「とにかく今の弱いままではいけないのだから送らせて」
自分から強くなりたいと思う麻美。
「解った」
そんな麻美に協力して上げたいと切に思うりさであった。
案ずるより生むが易いとはこのようなこと。
麻美はどうやらいつも通りに天下の道を何も気にせずに歩いていけるみたいだ。
そんな麻美を見て友達として嬉しかったりさであった。
次の日りさが姉さんと慕う梓が東京の英明塾に帰ってきた。
その日りさは勉強室でいつものように勉強をしている最中に梓が極上のスマイルをしながら部屋に入ってきたのだ。
「あーおかえり。何にやにやしているの気持ち悪い」
「・・・」
梓は黙って嬉しそうにその極上のスマイルでりさを見つめる。
「だから気持ち悪いよ・・・」何なの?と続けて言いたかったがりさは悟る。これは麻美を助けたことを聞いて私を見ているのだと。それに誰をも癒しそうな極上のスマイル。
「りさ」
「何よ」
知られたと悟ったらなぜだかこの上ないほど照れてしまうりさだった。
「私今すごい嬉しいんだけど」
「うざいから何も言わないで」
照れ隠しか?つい突っ慳貪な口調で言ってしまうりさだった。『麻美の奴あれほど人には言うなって言ったのに』と心の中で思う。
「どうして?私のもう一人の妹のりさに極上のご褒美を上げたいんだけど」
「何その極上のご褒美って」
「とりあえず、これ新潟のお土産スノーホワイト。りさが喜びそうだから買ってきた」
そのスノーホワイトと言うのは透明なプラスチックに水が入っていてその真ん中に雪だるまがあり揺らすと発泡スチロール状の白い雪みたいなのが散らばりあたかも雪が降っているような幻想的な代物だ。
そんなお土産にりさは、
「かわいい」
とついこぼしてしまう。
「気に入ってくれた?」
「うん」
「じゃあ話は戻るけど、麻美ちゃんから聞いたよ」
「その話は良いからこれ宿題」
梓に出された宿題の参考書を差し出し話題を逸らそうとするりさ。
「そんなことより、麻美ちゃん言っていたけど、傷つくだけ傷ついたらその分人に優しく出来るかあ、まさかりさがそんなことを言う何てねえ」
どこか遠くを見てうっとりとしながら梓が語る。
りさは顔を真っ赤にしてすごくはずかしい感じだ。だからりさは、
「やめてよ姉さん」
叫びりさは梓に飛びかかろうとして梓は逃げる。
「怒ることないじゃない。別に私はりさに対してやましいことをしているわけじゃないんだから」
「充分やましいよ」
傍らで豊川がその様子を垣間見て喧嘩するほど仲のいい姉妹みたいだと思って一人知れず微笑んでいた。
そんな調子で梓が国から帰ってきてりさの受験勉強が始まる。