マーチ1
スタジオでガールズビーアンビシャスのメンバーたちは会議の途中である。そこでリーダーのりさがみんなに言いかける。
「最近私たちは演奏をする目的がないからだらけている感じがするんだよね。それに演奏もムラが出てきたし、このままじゃまずいと思うんだよね」
「はい」
と提案があるのか麻美が手を挙げる。
「じゃあ麻美」
「じゃあ、私たちでクリスマス会のように気合いを入れてどこかでコンクールに出るとかどうかな?」
「確かにね、コンクールか」
「もしかしたら大賞ゲットしてプロデビューなんか出来るかもしれないよ」
目をキラキラと輝かせながら麻美が言う。
「そんな夢のような話があるんですか?」
呆れたように里中が麻美につっこむ。
「分からないじゃない。クリスマスの時あんなに盛り上がったから」
「僕たちはあくまでアマチュアだから出来たことですよ。麻美さんはプロの人たちの血がにじむような練習を知らないからそう言えるんですよ」
「じゃあ血のにじむような練習をしようよ」
興奮した麻美は立ち上がって言う。そこで恵が、
「まあ麻美落ち着けよ。プロのことは置いといて、とにかく私たちは楽しく演奏しようと言うのが目的でガールズビーアンビシャスを結成させたんじゃない。そんな血がにじむなんて堅苦しいことを言っていると、何か私ついていけないな」
「分かったよ。じゃあせめてコピー曲だけじゃなくて、オリジナルの曲もやろうよ」
「オリジナルって誰がそんな曲を作るの?」
そこで麻美はりさの方に目を向けると里中、みゆき、恵がいっせいにりさの方に目を向けた。
きょとんとしたりさは自分の顔に人差し指を向け「私?」と無理難題そうなことを振られ困惑して苦笑いをして言った。
「そうだよ。ここはリーダーに作ってもらわないと」
「みゆきも賛成」
「りささんならきっと良い曲を作れますよ」
「麻美もそう思う」
早速恵、みゆき、里中、麻美はオリジナル曲の提案をりさに任せた。
「ちょっと待ってよ。私にそんなことが出来るわけがないじゃない。姉さんからも一言言ってあげてよ」
この状況を梓に助けを求めようとする。梓はさっきからボーっとしていて、
「エッ何?りさどうしたんだ」
「ちょっと聞いていなかったの?」
「ゴメンちょっとボーっとしちゃって」
悩ましげに頭などをかいている。
りさはそんな梓を見ていていつもと様子が違う感じだ。何か深刻な悩みでもありそうな表情だった。
そんなこんなで会議は終了した。
その後ガールズビーアンビシャスは演奏を改めてしてみると合っておらずむちゃくちゃな演奏だった。
それを改善するにはりさの作った曲が必要だと言うこと。
解散してりさと梓は英明塾に戻った。
勉強室に行くとりさの姉の愛梨が勉強していた。
「りっちゃんおかえり。今日もりっちゃんに勉強を教えてもらおうかな?」
「がんばっているみたいだね愛梨お姉ちゃん」
愛梨は一週間前に英明塾の生徒として勉強を始めたのだった。
愛梨のカリキュラムはりさを上回る高校レベルであった。
彼女は知的障害を負っているが知識的には結構レベルが高く障害者の学校ではトップであったのだった。
「りっちゃん。ここの古文の文章だけど分かる?」
愛梨がりさに質問する。がりさは、
「愛梨お姉ちゃんが分からないところ私が知る訳ないじゃない。私が教えられるのはせいぜい中学校一年ぐらいの問題ぐらいだよ」
「じゃあ豊川先生に聞いてくるね」
勉強室から出て豊川のいるパソコン室へと足を運ぶ愛梨。
そんな愛梨にりさは、
「豊川先生は忙しいからあまり面倒なことは頼むんじゃないよお姉ちゃん」
「分かっているよりっちゃん」
りさが机上で何をやっているのかというと、先ほどガールズビーアンビシャスのメンバーに頼まれた曲作りだ。
初めての経験にどうすればいいのか嘆息の吐息が止まらない。
仕方がないので困ったときはもう一人の姉的存在の梓に相談しようと机から立ち上がり梓のもとへと足を運ぼうとするがパソコン室かと思いきや、梓は珍しくおたく三人衆とともにゲームを嗜んでいる。
「何これすごくすかっとするんだけど」
格闘ゲームに夢中の梓。りさから見ていつもの梓ではないと不審に思う。
「姉さん」
「ちょっと後でね、今良いところだから」
「そこですよ梓先生」「初めてとは思えないほど上手ですね」「梓先生もおたくとして目覚めましたね」
おたく三人衆は梓のゲームプレイに歓声をあげている。
「あーやられちゃった」
「ドンマイです」「まだ続きありますので」「初心者とは思えないほど上手です」
「じゃあコンテニューするね」
「姉さん」
語気を強調してりさが梓を呼ぶ。
「話なら後にしてよりさ」
ゲームの世界にはまりこんでいる梓。
「りささんもどうですか」「我々とゲームをしましょうよ」「このゲームはストⅡと呼ばれるゲームです。僕たちが生まれる前に流行したゲームです」
英明塾おたく三人衆はりさをおたくの道へと誘い込もうとしている。
そんな呼びかけを無視してゲームに夢中の梓のもとへ身を乗り出して近づき、
「姉さんどうしたんだよ」
「どうしたもこうしたもないよ。私はゲームをやりたい気持ちなのよ。だから邪魔しないで」
「何だったらりささんと梓先生で対戦してみてはどうですか?」「良いねえ」「二人ともゲームで萌え萌え」
なんて言っているおたく三人衆。
「悪いけど私はゲームをやったことないからわかんないよ」
「大丈夫」「僕たちが手取り足取り教えますから」「さあこのコントローラーを」
コントローラーを受け取るりさ。
「何これ?」
ゲームには無頓着のりさはコントローラーの使い方に戸惑う。
「よし、りさ対戦しよう」
対戦して約三分。
「りさ弱すぎ。私のパーフェクト勝ちじゃん」
「まあ最初はこんなもんですよ」「練習次第で強くなれますよ」「もう一度やってみては」
りさはつまらないと言った感じで嘆息して、
「もう良いよ私は勉強室で新しい曲を作っているから」
と言ってりさが立ち上がりゲーム室から出ていこうとすると梓がりさの手を取り、
「ちょっとつれないわね。もうちょっとつき合いなさいよ」
口を尖らせ、だだをこねる梓。
「私は曲作りもあるし、愛梨お姉ちゃんに勉強を教えなきゃいけないから」
「曲なんてまともな感覚じゃ作れないよ。それにあなたのお姉さんはりさには手に負えないでしょ。だから今日は私につき合いなさい」
「どうしたんだよ姉さん。今日は何か変だよ」
すると梓は口をつぐんで悩ましげに黙り込んでしまった。そんな表情を目の当たりにしたりさは、
「姉さん何があったんだよ。差し支えなければ教えてよ」
梓は人目につかないところで話したいと言うので外に出る。
三月に入ったというのに夜は相変わらずに肌寒い風が舞っている。
そんな風にさらされ梓とりさは梓のとっておきの場所まで原付で走行する。
河川敷に設置されているベンチに座りながら川の向こうの夜を彩る鮮やかなネオンを放つ町並みを眺める。
「やっぱり姉さんのとっておきの場所はいつ来ても心が落ち着くよ」
「そうだね」
「それで姉さん。さっきから悩ましげな表情をしていたけどなにがあったの?」
「まありさには関係ない話だけど私の妹の盟が大変なことになっているの」
「大変なことって何か深刻な病気にでもかかったの?」
「そうじゃないんだ」
「じゃあ何なの?」
「妹のパソコンにハッキングしたら日記にこんなことが書いてあったの」
ポケットから一枚の紙をりさに渡す。
りさがそれに目を通すと、
私の友達のマリリンは私のことが好きになり告白されたのだけれども、私はレズの気は満更なく断ってしまったから自殺未遂をした。
もう一人の友達の榊は私が触発して無謀にも雪山に挑戦して危うく死ぬところだった。
私がこの世に存在しているだけでかけがえのない仲間にひどいことをしてしまった。
私は何のために生きているのだろうか?
このようなものを見て悩ましげにしている梓に対してどのような顔をすればいいのか分からなかったりさであった。
つまり日記の内容をまとめると何気ない行為に友達二人に死に至る行為をさせてしまったことに梓の妹は自分を責めているのであろう。
りさはどんな許されない行為をしてしまっても自分を責めてはいけないと思っている。
それは知らぬ間にどこかで身を持って知ったことを覚えている。
りさは梓の妹の日記が記された紙を返す。
「私は妹が元気がないと私までブルーになっちゃうよ」
「姉さん。あんたのやっていることは矛盾しているよ」
ここで梓に一喝。続けてりさは、
「私には姉さんの危険なことに関与していることに対して信じろなんて偉そうに言うけど、姉さんは妹にハッキングしてまで心配するなんておかしいよ。矛盾している。ハッキングはやめて妹さんのことを信じてあげたらどうなの?」
「あんたに何が分かるのよ」
体を震わせ怒気を込めた口調であった。続けて梓は、
「あの子はねえ、一度自分のことを責めたらどこまでも責め続けてあげくには引きこもっちゃうのよ」
怒気を通り越して涙が止まらない梓であった。
「初めて見せてくれたね。姉さんの涙を」
そんな梓になんて言っていいのか分からずに今はどうでも良いようなことを言うりさ。
梓が泣いている側で見守るようにそっと隣のベンチで足を組んで頬杖をつきながら川の向こうのネオンがきらめく町を見ているりさ。
そんな状態で一刻の時が過ぎる。
梓はようやく落ち着いてきて、
「ゴメンなりさ。確かにりさの言うとおりだよ。信じてあげなきゃな」
「そうだよ。信じてあげなよ」
「でもね、あの子はすごく純粋で優しい子なの。何かあると自分が許せないあまり攻め込んでやがて何も見えなくなって自殺を考え込んじゃう子なの。だから私は心配なの」
涙が乾いた瞳から再びポタポタと膝に涙をこぼす梓。
「・・・」
自殺と聞いて、梓が心配する気持ちが解る。
信じろなんて言ったがそれは無理があったんじゃないかと思った。
「母子家庭で育った私にとって家族は命よりも大切なものなんだ」
感慨深そうに涙を飾りながら星がきらめく空をみやげ薄くほほえむ梓はりさから見たら美しい。そんな梓は続けて、
「私は夢を叶えるために家族から離れたけど、やっぱりあの子ことが心配だった。私が東京に行くときあの子わざと素っ気なくあしらってたけど、ハッキングしてあの子の日記を見て内容が『涙を見せないように必死だった』って書いてあったの。それに『もう姉さんには面倒をかけないように自分の翼で羽ばたいてやる』ってのも書いてあった。それに・・・」
梓の話の途中にりさは、
「もう良いよ」
「りさ」
きょとんとする梓。
「そんなに心配だったら今から新幹線で行ってあげれば良いじゃない」
「でも私には引きこもりの生徒や英明塾の生徒だっているからここはりさの言うとおり盟を信じることにするよ」
涙を袖で拭う梓。
「だったらそれで良いんじゃない」
とりさがそこで空を見上げると夜空にきらめく流れ星が横切る。
二人の話題は流れ星に代わり、もしも願いが叶うなら何を願うか話し合ったところ。りさはいつまでも幸せでありたいと願う。梓は妹の悩み事が消えることを願った。
そんなこんなで梓のとっておきの場所を後にして二人は英明に戻った。
時計を見ると午後八時を示していた。
「じゃあ愛梨お姉ちゃん。そろそろ良いところで区切りをつけて帰ろうよ」
「愛梨ちゃん今日もがんばったんだよ。それにみんなとゲームして新しいお友達が出来たんだよ」
本当に楽しそうで無邪気に笑う愛梨。
「そうか」
りさは英明塾を愛梨に紹介して心から良かったと思えた。
二人は梓と豊川それにおたく三人衆に『さよなら』と挨拶をして外に出た。
りさは原付にエンジンをかけまたがり、
「愛梨お姉ちゃん。私の後ろに乗って」
「うん。りっちゃん」
英明塾での一日が終わろうとしていた。




