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フェブラリー1

「分かりました豊川先生新小岩の七瀬君の家ですね」

 梓が何かに了承した。

「うん。頼むよ一刻を争うときなんだ」

 目を丸くしてせっぱ詰まっている豊川。

 傍らで見ていたりさが。

「姉さんに豊川先生、いったい何のことなんですか?」

「あんたには関係ないことだよ。とにかく私は先を急ぐから」

 梓もせっぱ詰まった表情で外に出て原付のエンジンをかけ走行していった。 

 梓が出ていってパソコン室はりさと豊川だけになった。そこでりさが、

「豊川先生姉さんはいったいどこに行ったのですか?」

「うん。僕の引きこもりの生徒が家で包丁を振り回して大変なことになっているんだ。それで梓ちゃんにその家に行ってもらって止めに言っている訳」

「大丈夫なんですか?」

 と言ってりさはぞっとする。

「うん。大丈夫。梓ちゃんは強いからね」

 さわやかな笑顔で答えるものだからなぜだか安心してしまう。

 でもりさは梓がすごく心配だ。

 気が気でいられずにりさはパソコン室で豊川が引きこもりの生徒にメールでエールを送る姿を垣間見ていた。

 そこで一本の電話が鳴り豊川は出る。

「はいもしもし」

 と豊川は出る。

 話の内容は分からないがりさから見るとなにやら深刻そうな感じで話し合っていた。そこには癒しの豊川の笑顔はなかった。りさは梓に何かあったのかと心許なくなってしまう。

 電話がすんで受話器を元の場所に置く。

「豊川先生姉さんは?」

「・・・今墨東病院にいるって」

 放心状態の豊川が言う。

「墨東病院ですね」

 と梓の居場所を聞いて飛び出すように外に出て原付のエンジンをかけ走行させた。

 地平線を切りつけりさが錦糸町にある墨東病院に向かう。

 そんなときりさを阻むように突然大雨が降り出して視界が見えなくなりやむを得ず原付を乗り捨てて墨東病院まで地平線の上を走る。

 到着して梓はERに運ばれたみたいだ。

 心配で心配で呼吸が激しくなり体を引きずるようにERに向かった。

 無事でいて欲しいことを切に願いながら。

 そして、ERに到着して梓は、

 みるに、

 耐えない、

 姿に、

 変貌して、

 この世を、

 去った、

「いやああああああああああああああああ」

 と叫び散らした。

 気がつくとりさは体を上半身起こしていた。

 夢だった。

 何て恐ろしい夢だったのだろう。

 でも本当によかった。

 呼吸が安定しない。

「りっちゃんどうしたの?」

 ドアが開きりさの心配をする姉の愛梨だった。

「何でもないよ」

「でも叫んでいたから、怖い夢でも見たの?」

「そう」

 別に隠すほどのことでもないので認めるりさであった。

「りっちゃんかわいそう」

 愛梨がりさを抱きしめた。

「愛梨お姉ちゃん私は大丈夫だから」

 と愛梨の抱擁を解こうとするりさであったが愛梨がものすごい力で、

「ダメりっちゃんが辛い目にあったらその辛いことを愛梨ちゃんと半分こするの。そうすればりっちゃんも愛梨ちゃんも安心するから」

 愛梨のいうことはどういう理屈なのか分からないが、抱きしめられると安心してしまうりさであった。

 時計をみると午前三時を示している。

 りさは愛梨の抱擁の中、安心して再び眠りについた。


 朝起きると時計は七時を示していた。

 相変わらずに愛梨はりさを抱擁したままで起きているみたいだ。

「りっちゃん起きた?」

 にっこりスマイルの愛梨をみて安心してしまう。けど、

「愛梨お姉ちゃん今日は早番だから店に行かなくてもいいの?」

「大丈夫だよ。お母さんとお父さんにはちゃんと事情を説明したから」

「私のことなんかより仕事の方を優先してよ」

 真摯に訴えかけるりさ。

「愛梨ちゃんは仕事よりりっちゃんの方が大事だもん」

 真摯に訴えかける愛梨。

 りさ自身を愛してくれる愛梨の気持ちは本当に嬉しい。

 窓の外を見ると空は灰色の雲に覆われて太陽が遮断されている。不気味な天気だ。

 愛梨と食事しながら天気予報をみてみると夕方から雨が降ると予報されていた。

 りさは夜見た夢を思い出すだけで恐れおののいてしまう。

 食事がすんでりさは、

「愛梨お姉ちゃん。今日はありがとね。愛梨お姉ちゃんの言うとおり私は安心したよ」

「りっちゃんは愛梨ちゃんの宝物です。宝物を大事にするのは当然です」

 にやりと笑って胸を張って言う愛梨。

 そんなこんなで愛梨は実家のコンビニに向かった。

 りさは今日は天気予報によると雨が降りそうなのでレインコートを鞄に詰めて原付で英明塾に向かう。

 英明塾に到着してパソコン室に入ると梓と豊川が、

「じゃあ豊川先生一刻を争うときですね」

「うん頼むよ梓ちゃん」

「分かりました」

 梓が部屋から出ようとしているところりさがドアの前に立ちふさがっていて、

「りさおはよう」といつものスマイルで言い「ちょっとどいてくれるかな、私は行かなくてはいけないから」

「行くってどこに?」

 りさは夢と同じようなシチュエーションに梓が恐ろしく心配になる。

「あんたには関係ないことだから、早くそこをどいて」

「どかない」

 首を左右に振って両手を広げ立ちふさがる。

「いったい何なのよ。今日のあんたちょっと変よ」

「おかしくてもいいから私はここを退かない」

 りさは大粒の涙を流して言いかける。

「どうしたって言うのりさ」

 そこで豊川先生が、

「ゴメンねりさちゃん」

 と言って豊川はすさまじい力でりさを押さえつける。

「何するんですか豊川先生」

 もがくが両腕を捕まえられているので身動きがとれない。

「さあ、梓ちゃん今のうちに」

「りさ、その涙の理由は後で聞いてあげるからね」

 と言って飛び出すように英明塾から出て原付を走行させた。

 やっと離してくれた豊川にりさは、

「あんたは鬼畜かよ。姉さんに危ないことを頼んだんだろ」

「大丈夫。梓ちゃんはちゃんと帰ってくるよ。そんなに心配なら梓ちゃんが行ったところに行ってみる」

 りさは何のためらいもなくコクリと頷いた。

「じゃあ現場に着いたら絶対に梓ちゃんのそばから離れちゃダメだよ」

 念を押すようにりさの瞳に言いかける豊川。

 りさはたじろぐが梓が危険な目に遭ってしまう方が嫌だった為りさは現場に行く決意を固める。

 行き先を豊川にメモしてもらった。

 りさはメモを受け取り英明塾から飛び出して原付に跨り走行させる。

 行き先は隣町の新小岩。夢と同じ場所によけいに梓のことが心許なくなる。

 夢で見たあの見るに耐えない梓の姿を想像すると気が気でなくなるりさであった。

 なんとしても止めなくてはならないと思って原付のスピードを最大限にあげる。

 鉄橋を越えアスファルトをタイヤを切りつけ走行するりさ。

 トラックや車をかき分け先を急ぐ。

 到着したのが新小岩の駅の繁華街だ。

 場所を記したメモを見ると繁華街を抜けた住宅街だと言うことは分かった。

 ここから原付は走れないので乗り捨ててメモを頼りに人混みをかき分けながら繁華街を走る。

 繁華街を抜けメモに記されている住宅街に出た。

「この辺なんだけどな」

 息を切らしながら住宅街を走る。

 そこで目に付いたのが梓の原付が止まったところの一軒家。

 メモを見ると間違いがないようだ。ここだ。

 すかさずドアの前に行き呼び鈴を押す。

「誰かいませんか」

 といいながらドアを激しくたたく。が誰も出ない。

 仕方がないのでドアノブを捻りると鍵がかかっておらず中に入った。

 玄関はガラスの破片が散らばっていて足の踏み場もない。

 奥の方から人間とは思えないようなおぞましい叫び声が聞こえる。声からして男性の声だということは分かる。

「てめえは豊川の回し者か?」

「やめようよ翔太君。君の気持ちは分かるよ。でもこんなことをしたって虚しいだけだよ」

 人を安心させる口調の梓だと言うことがりさにはよく分かる。

 その声に反応したりさは土足で梓がいると思われる奥の部屋へと向かった。

 そこでりさが目にしたのはあまりにも衝撃的なものだった。

 包丁を持った翔太という少年とりさが姉さんと慕う梓が対峙している。そして頭から血を流している母親らしき人がよつんばになって涙を拭っている様子だ。部屋も玄関と同じくガラスの破片で敷き詰められている。

 その光景に言葉をなくすりさであった。

「りさ、どうしてここに?」

「てめえも豊川の回し者か?」

 悪魔のような罵声で言う翔太と言う少年。

 りさは怖くて体の芯からふるえだしてしまったが夢のようなことがあってはならないと言う気持ちがりさに勇気を奮い起こさせ翔太に飛びかかる。

「やめろーーー」

 包丁を持っている手を押さえつけるりさ。

「離せこのやろう。てめえぶっ殺されたいか?」

 翔太は手をふりほどきりさはその反動で転げ落ちてしまった。

「死ねこのやろう」

 りさに包丁を突き刺そうとする翔太。

 りさはどうしようもなく目を閉じるしかなかった。

 そのときである。梓が翔太の隙をわずかにとらえ身を乗り出して翔太の腹部を蹴りつけた。

「ぐっ」

 包丁を手放し転げ回り悶絶する翔太。

 翔太は包丁を拾おうとするが再び梓が腹部を蹴りあげ「ぎゃああ」と悪魔のような断末魔を上げ気絶してしまった。

「翔太、翔太」

 翔太のお母さんが立ち上がり気絶した翔太に近づこうとする。そこで梓が、

「お母さん」

 怒鳴り上げ翔太のお母さんが驚いて動きを止める。続けて、

「まだ油断してはいけません。目覚めたら何をするか分かりませんので」

 梓がベルトを外して手錠代わりに翔太の両手を縛った。そこで翔太のお母さんが、

「お願いします。このことは警察沙汰にしないでください。この子は本当はこんなことをするような子ではないのです。学校でいじめられてその憤りを私にしかぶつけられなくてこうなったのです」

 梓の腰にまとわりついて泣きながら懇願する翔太のお母さん。

「私もそのつもりはありません。翔太君には心のケアーが必要なので目覚めたら私が話を付けますので」

「よろしくお願いします」

「りさ」

 名前を呼び一喝。

「・・・」

 言葉も出ないほどおののいてよつんばで伏している。

「ちょっとこっちこい」

 りさの襟首と髪をつかみ上げ玄関までつれていく梓。

 そこで梓はりさに戒めのピンタをする。

「どうして来たんだよ。もう少しであんたは殺されるところだったんだよ」

 そこでりさは思う。どうしてピンタをされ、怒られなくてはいけないのかと。

 そう思うとりさは憤り梓に仕返しのピンタをして反駁する。

「私の知らないところでこんな危険な仕事をしていたのかよ。私は姉さんが心配だったんだよ。夢で見たんだもん。姉さんが死んでしまう夢を。私姉さんが死んでしまうことを思うと悲しくて辛いよ」

 こらえきれず涙を流すりさ。

「りさ」

 小さく呟く梓。

 二人の間に沈黙が三分。

「翔太気がついたのね」

 翔太君のお母さんが玄関に聞こえるぐらいの大声で言った。

「じゃありさ、そんなに私のことが心配ならついてこい。ここからが本番だよ」

 梓は翔太がいる居間に戻る。その後をりさはついていく。

「気がついたか翔太君」

 誰をも安心させてしまうような癒しの笑顔で言うが、

「何笑ってんだよ」

 翔太には逆効果だったみたいだが、梓は続けて、

「翔太君。人を傷つけることは自分を傷つけることと一緒なんだよ」

「じゃあ俺をいじめる連中は何なんだよ。俺がただとろいだけで悪魔のようにあざ笑いながら集団でリンチしてくるんだよ」

「大丈夫そのような連中にはきっとしっぺ返しがくるから」

「そんなの関係ない。俺の手で殺してやりたい」

「気持ちは分かるけど、そんなんで悔やんでいたら、人生もったいないと思わない。これからのことを考えながら前向きに進んでいけば将来幸せになって翔太君をいじめた連中を見返せるよ」

 真摯に訴えかける梓。

「もういいよ。俺のことは警察に通報すればいいよ。俺は許されないことをやったからな」

 とりさの目を見る。そこでりさは、

「私は気にしてないから、姉さんが言ったように翔太さんは翔太さんらしい夢を追いかければ良いと思うよ。私も学校でいじめられていたけど、いじめられてよかったと思っている」

「どうしてだよ」

「それはここにいる姉さんや私が通っている英明塾の人たちとそれに今日は翔太君と友達になれるような気がするからね」

 なんて恥ずかしそうに笑っているりさ。

 そこで二三分ぐらいの沈黙が続いて、翔太から意外な一言がりさと梓と翔太の母親が耳にする。

「お前等とはもっと早く出会えていれば良かったのにな」

 残念そうに笑う翔太だった。


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