ディセンバー4
施設の低いステージの上でリハーサルを行うガールズビーアンビシャスのメンバーたち。
みんなそれぞれの衣装を着て気合いを入れて演奏する。
みゆきちゃんはナナのコスプレをして、麻美はジーパンに黒い皮のジャンバーを着て、恵はお洒落なカーキー色のダッフルコートを着こなし梓はビートルズを意識しているのか黒いスーツ姿だ。ここで問題なのが里中。
一通り演奏が終わりりさが、
「ちょっと明その格好は何よ」
「ヨシキですよエックスジャパンの」
と言う里中は黒い皮のズボンをはき上半身が裸だ。
「何がヨシキよ。コンサートがぶちこわしじゃない」
「大丈夫ですよ。この方が気合いはいります」
てんで話の見えていない里中。
「あんただけみっともないよ」
そこで梓が、
「まあまあ良いじゃないりさ。これが里中君の個性なんだから」
「本当にいいの?こんな格好で演奏させて」
「その方が里中君は気合いが入るみたいだから」
と言う梓。
りさが里中を一瞥するとにやりと笑う。
リハーサルは続けられ、みんなの一人一人の演奏が一つの曲になる。
「演奏はとりあえずこれぐらいにしておこう」
とりさ。
時計は午後三時を示している。開演は午後五時だ。
『おなかすいたね』とガールズビーアンビシャスのメンバーたちがぼやくと梓が、
「みんな開演まで時間あるからその間おにぎり持ってきたからみんなで食べましょう」
さすがは梓、気が利くとメンバーたちは思う。
大きなお弁当箱に大きなおにぎりが入っていて一人三つで果物のみかんが一つだ。それと大きな水筒には温かいお茶が入っていてメンバー一人一人にもてなされた。
「このシャケのおにぎり超うまいよ姉さん」
行儀悪くもりさが口にものを入れながら喋る。
「ほらりさ口にものを入れて喋るな」
りさはゆっくりと租借して飲みくだし、
「ゴメンゴメン」
りさが舞台袖に視線を泳がせると麻美が出ていくところを目撃した。
後を追うと麻美は階段を下りて外の出口を開け外に出た。
麻美は携帯をとりだして耳に当てるところを見るとどうやら、誰からか着信が来たみたいだ。
「麻美あんたたちの言いなりには絶対にならないから」
毅然と携帯に語りかける麻美。続けて、
「私には命よりも大切な仲間がいる。あなたたちみたいな人を蹴落としてまで上に上がろうなんて邪道な考え方じゃないから」
携帯を切る麻美。
りさはそんな様子を垣間見てみると、どうやら麻美をいじめている連中からの電話だってことが分かった。
麻美が振り向いて戻ろうとしたところりさが満面な笑顔で麻美を見つめる。
「りさ。どうしたの?」
「麻美をいじめている連中からの電話だっただろう。一部始終見ていたよ」
「エッ見ていたの?」
恥ずかしくなる麻美。
「麻美、明日に繋がるように今日のライブがんばろう」
「うん」
演奏十分前ガールズビーアンビシャスのメンバーたちは円形に集まり一人一人右手を差し伸べ手を重ねる。そこでリーダーのりさが、
「みんな私たちは今日までやれることだけのことはした。後は自分を信じて演奏するだけ。私もみんなと同じ緊張しているから、だからその緊張をはねのけて必死に演奏しよう」
「おー」
みんなかけ声をして気を引き締める。
りさが垂れ幕から観客を見ると三十人ぐらいの知的障害者の人たちがいる。
そろそろ開演だ。そこでりさが、
「じゃあみんな持ち場に戻って」
みんなが持ち場に着いたところで舞台の幕が上がる。
ここでボーカルアンドアコースティックギターのりさのエムシーが始まる。
「こんばんわみなさん。今日は私たちガールズビーアンビシャスの演奏を見に来てくれてありがとう。それでは一曲目のユニコーンのすばらしき日々」
りさがドラムの里中に目で合図して演奏は始まった。
りさは穏やかな曲調のユニコーンのすばらしき日々を歌っているとまるでガールズビーアンビシャスのメンバーと友にオープンカーに乗って荒野を走っているところを空想してしまう。
そんな気分で観客は手拍子をしている。
中には演奏中に舞台に上がって踊る人やりさからマイクを奪い呂律の回らない声で歌う人がいた。
りさはそれはそれで良いと思いそんな障害者に微笑むりさであった。
一曲が終わりりさが、
「聞いてくれてありがとうございます。この歌は私の姉さん的存在の梓先生が初心者の私たちにバンドをするのはうってつけと言って進めてくれた曲です。みなさんどうでしたか?」
「あたしこの歌好きになりそう」「プラボープラボー」「私もバンドやってみたいな」「すげえ良い歌だ」などなど黄色い歓声を浴びるガールズビーアンビシャス。そこでエムシーを任されているりさが、
「続いての曲がミスターチルドレンのトゥモローネバーノウズと言う曲です。みなさんご存じですか?」
「知っているよ」「その歌大好き」「歌ってくれるの?」
と知的障害者たちの歓声。
「それでは演奏します」
りさが後ろに振り向いてドラムの里中に合図を送る。
そして演奏が始まる。
歌っていてりさはガールズビーアンビシャスのメンバーと友に黄昏に染まった町を語り合いながら歩いている姿を空想してしまう。
特にりさはこの詩のサビの部分に心打たれる。それは知的障害者の人たちに励ましのエールとしてガールズビーアンビシャスの人たちと友に選んだ曲だ。
観客の知的障害者の人たちは切ないメロディーに手拍子をしている。中には相変わらずに演奏中に舞台に上がって来て恵が奏でているキーボードをでたらめに押したりした人は責任者に注意され観客席に引きずりおろされている。
そんな行為も笑ってすませられるんだから、もはやガールズビーアンビシャスのメンバーは緊張などなかった。
曲が終わりりさが、
「はいありがとうございました。ここで私の素敵なメンバーを紹介します。まずは」
後ろを振り向いて里中を指さして、
「ドラムの里中明。彼はヨシキの真似をして上半身裸で演奏しています。そんな彼に笑ってあげてください」
すると観客の人たちは、
「江頭だ」「本当に江頭そっくり」「おもしろい格好しているね」
とみんなの笑いもの。
「次にキーボードの恵」
とりさが紹介するとトルコ行進曲を弾いて恵自身をアピールする。
「次にベース麻美」
麻美は深くお辞儀をした。
「次にガールズビーアンビシャスのマスコットみゆき」
タンバリンを叩いてアピールするみゆき。
「次に私たちの先生でありメンバーでもあるとても頼りがいのあるギターの梓」
ここで梓が十六ビートで早弾きを披露してにこりと微笑む梓。
「そして最後にボーカルアンドアコースティックギターのりさです」
ここでりさはアコースティックギターをかきならして自分自身をアピール。続けて、
「次の曲が最後になります。曲は同じくミスターチルドレンのアライブ。この曲を選んだ理由はどんな困難なことにもくじけないようにと思いを込めて練習しました。みなさん聞いてください」
里中に合図を送り演奏が始まる。
このアライブと言う曲は暗い曲調で歌っているりさはかすかな光を求めて困難に立ち向かっていることをイメージしてしまう。
そしてその困難を抜けたガールズビーアンビシャスのメンバーたち。それはこのライブを大変な練習をして成し遂げたことだった。
「ありがと。私たちの演奏を聴いてくれて。心から感謝いたします。ここでメンバー一人一人に今の気持ちを語って貰います。まずは江頭じゃなくて里中」
マイクを里中の口元に当てるりさ。
「僕は江頭じゃありません。この格好はエックスのヨシキにあこがれて感化されてそうなったんです」
「江頭だ」「江頭だ」「江頭だ」・・・・・・。
観客のみんなに笑われる里中。思わずメンバーも笑ってしまう。
次に恵にマイクを向け、
「私は本当に嬉しいです。こんなにもみなさん私たちの演奏を聴いてくれて。本当にありがとう」
にっこりと笑って手を振る。
次に麻美にマイクを向ける。
「私はこんな体験初めてです。どうしてか涙が止まりません。本当にありがと」
次にみゆきにマイクを向ける。
「みなさんみゆきはガールズビーアンビシャスのマスコットです。またここでみなさんに演奏したいと思いました」
次に梓にマイクを向ける。
「私はこんなにも盛り上がるとは思いませんでした。私は非常に嬉しいです。さっきみゆきちゃんが言っていたようにまた機会があればみなさんの前で演奏したいです。本当にありがとう」
そしてりさ、
「みなさん。また会えるその日まで」