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ディセンバー3

 十一時になり、麻美、恵、みゆきが集まりガールズビーアンビシャスのメンバーがそろった。

 明日は本番なので少し早いがスタジオに向かう一行だった。

 曲はミスチルのトゥモローネバーノウズとアライブそしてバンドの結成のきっかけになったユニコーンのすばらしき日々、一通り演奏していい感じに音は合っていた。

 そこでリーダーのりさが。

「明日は本番だ。私たちは全力を尽くしてここまで演奏できたんだから、きっとうまく行くよ」

 りさも含めて演奏が終わった後のみんなの表情はりりしかった。

 そこで梓が。

「まさかここまでくるとは私も思っていなかったよ。あんたたちやるじゃない。この調子で明日の本番に向けてがんばるわよ」

 と言うことで演奏の方は心配はいらないとは言えないけど、みんなは出来る限りのことはした。後は一人一人ががんばって緊張をほぐすまでだ。

 

 ガールズビーアンビシャスの一行は明日のコンサートの準備で機材を豊川から借りたワゴン車に積む作業に移った。

 麻美とりさが二人係でキーボードを持ちながら慎重に階段を下りてワゴン車に運ぶ。

「これ重いねりさ」

「麻美とにかく慎重にな慎重に」

「分かっているよ。麻美すごく緊張しているんだけど、大丈夫かな?」

「とにかく喋ってないで今は機材を運ぶことに専念してよ」

 二人はようやく駐車しているワゴン車の前まで向かい、せーので車に運んだ。

 体力のない麻美が疲れて尻餅をする。

「疲れた」

「麻美さっきの話だけど、私だって緊張しているよ。でも私たちはやれるだけのことはやったんだよ。だから後は私たち一人一人自分を信じるしかないよ」

「信じるって何を信じたらいいのか分からないよ。そのかっこいい台詞どこから引用したの?」

「とにかく私たちはやれるだけのことはしたの。私が言いたいのはそういうこと。麻美は失敗することを考えるから緊張するんだと思うよ」

「そうなのかな?」

「そうだよ」

 そこで梓が口を挟む、

「ほらそこの二人、まだ機材はスタジオにあるんだからさぼってないで早く運びなさい」

「「はーい」」

 りさと麻美の返事がハモる。

 スタジオの中でタンバリンをピョンピョンとジャンプしながら一人戯れているみゆき。

 それを見ている里中は、

「ほら、みゆきちゃん。遊ばないでちゃんとみんなと機材を運びましょうよ」

「だってみゆきの機材はこのタンバリンだけだもん」

「みんなでやれば早く終わるじゃないですか」

「それより里中君はりさお姉ちゃんとつきあっているんでしょ。チューとかもうした?」

 嫌らしい笑みを浮かべながらみゆきが里中に言いかける。

「そんなことしてないですよ」

 必死に否定する里中。

「あっみゆきね。里中君にプレゼントがあるんだ」

「プレゼント?」

 みゆきがポケットから折り畳んだルーズリーフの紙を里中に「はい」と渡す。

 受け取って折り畳んだルーズリーフの紙を広げると「げっ」と言葉をもらす。

 ルーズリーフに描かれていたのは燕尾服に身を包んだ里中とウエディングドレスをまとったりさであり仲むつまじそうに描かれている。

「まだ僕たちはあれもしていないし、手さえもつないだこともないんですよ。いきなり結婚だなんてちょっと僕困っちゃいますよ」

「里中君あれって何?」

「子供は知らなくていいんです」

 はぐらかす里中。

「教えてくれないとホーリセッカンだよ」

 腰につけていたステッキを構え鋭い視線を向けみゆきが里中に迫る。

「勘弁してください」

 スタジオ内で逃げ回る里中とそれを追いかけるみゆき。

 りさが機材を取りに来たのかスタジオに入ってきた。

「何遊んでんのよ二人とも。さっさと機材を運びなさいよ」

 そこでみゆきはりさに近づいて聞く。

「ねえ、りさお姉ちゃん。里中君とりさお姉ちゃんはつきあっているのにあれしてないから結婚できないんだって」

「あれしてない?結婚?」

 りさがしばしみゆきの言っていることを考える。

 数秒がたちそしてりさは理解した。

 鼻血止めのティッシュを鼻につっこんでドラムの機材を運ぶ里中。

「りささん。殴ることないじゃないですか」

「今度言ったら東京湾に沈めるから」

 そんなこんなですべての機材を車に積んで明日の本番に向けた。

 




 明日の本番に向けてりさは部屋の中でギターの練習をしていた。

 緊張する。その緊張をどうにかならないか一人必死に飲まず食わずにがんばるりさ。

 そんなときりさの携帯が鳴り出して着信画面を見てみると恵だった。

「はいもしもし恵?」

『うん私だけど』

「どうしたの?」

『やっぱり緊張して明日が越えられるかどうか分からない高いハードルに思えてきたよ』

「それは大げさだけどみんな緊張しているよ」

『うんそうだね。梓先生からの伝言だけど明日思い切りカッコつけるからそれなりの服装を着てこいだって』

「わかった」

『まあ緊張するけど明日がんばろうねりさ』

「ありがと」

『じゃあおやすみ』

「はいおやすみ」

 携帯を切った。

 急に明日のライブに向けてそれなりの衣装を着て来いって言われてとまどうりさであった。

 女なのに服には無頓着のりさはタンスを開け有り合わせの服を探している。

「りっちゃん」

 背後から愛梨の声が聞こえた。

「あっ愛梨お姉ちゃん」

 振り向いてみてみるとお盆にカレーライスを乗せている。

「明日はライブでしょ。愛梨ちゃんも見たいな、りっちゃんのライブ」

「参加は自由だからお姉ちゃんも来たら」

「でも愛梨ちゃん明日仕事だから残念」

「じゃあそのシーンをビデオに撮るから、見せてあげるよ。私たちのライブを」

「ところで服散らかっているけど、何を探しているの?」

「明日の衣装を有り合わせのもので考えているの」

「それなら任せてよりっちゃん。愛梨ちゃんが良いもの貸してあげる。とりあえずカレー食べてね」

 りさがカレーライスを食べ終えて十五分が経過して愛梨が戻ってきた。

「じゃーん。愛梨ちゃんのお気に入りの長袖の赤いワンピース」

 とりあえず着てみた。

 等身大の鏡で見てみるとりさは八十年代のアイドルみたいで今一だった。

「りっちゃん似合うよ」

 愛梨には絶賛であったのでりさは断れずにこれに決めることにした。

 愛梨に貸して貰った赤いワンピースを着て練習を再会した。

 時計は二十三時を示している。

 そういえば梓に今日は話があるんだった。

 夜分遅く悪いが梓の携帯にかけるりさ。

「もしもし私だけど」

『もしかしてあんた緊張しているからって電話かけたんじゃないでしょうね。こんな時間に』

「違う全然」

『じゃあ何?』

「昨日姉さんは私に人を心から思いやれるって言ったけど私はそんな人間じゃないから。今日話そうとしたんだけどタイミングが合わなくて」

『何?そんなことで電話してきたの?』

「そんなことって言うけど、私昨日すごい悩んじゃったんだから」

『私から見たらりさは人を心から思いやれる素敵な女性だと思うよ』

「だから誤解しないで私はそんな人間じゃない。わがままだし自己中だし、結構こう見えても私は腹黒いから」

『じゃあ、言い方が間違っていたみたいね。人はいろいろな気持ちを持っているの。わがままな自分がいたり、自己中な自分がいたり、腹黒い自分がいたり、りさはそのいろいろな心の中で私が言う人を思いやる気持ちが大きいんだよ』

「大きいの?」

『そう大きいの。それにもっとその気持ちを大きくすればりさは素敵な人になって誰からも愛されるよ。現にりさの周りには麻美ちゃんや恵ちゃんにみゆきちゃんに里中君がいるじゃん。そのほかにも英明の生徒でりさとお近づきになりたいと思っている人たちがいるんだから』

「そうなの?」

 誉められて初めて心の底から喜べた。

『うんそう。だからりさは胸を張って生きれば大丈夫だよ』

「ありがと姉さん。何だか勇気がわき起こってきたよ」

『だからって無理するなよ』

「ありがと姉さん。明日の緊張も解れたよ」

『それは良かった』

 最後はお互いにお休みと言いかけ電話を切った。


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