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4_18 ハンバーガー給餌法


 ……一通り買い物が終わって、ようやく遅い昼食の時間になった。



「ミハル!"エレフン"の縫製技術は素晴らしいです!」

「……あ、そう」

「この下着の肌触り!安定感!つけ心地!専門の職人の手によるものに違いありません!」

「そうなの……?」 

「本当にすごいんですよ!……ここでは人目があるので無理ですが、帰ったらミハルにも見せてあげますね!」

「アンタは何を恐ろしいことを言ってるんだ……」



 憔悴しきった顔のミハルとは裏腹に、目を輝かせてファム・アル・フートは婦人下着について賛辞を並べ立てた。

しきりに服の上から手をやって、初めての下着の着心地を確かめているようだ。

来るまでに着ていたブラウスとロングスカートはもらった紙袋に放り込み、今では購入した服を試着室から出てきた時のまま身に付けていた。



「……ところでこの恰好は少し恥ずかしいのですが、"エレフン"ではこれが普通なのですか?」



 ハイネックのタンクトップにフレアスカート。

合わせてダークカラーのパンプスという、およそ女騎士という職業が持つ印象とは程遠い恰好になっている。

ここまで服を選ぶのにかかった時間と労力と精神の消耗を考えただけで、ミハルはぐったりと疲労感が全身を重くしていくのを感じた。



「もっちろん!最高だよファムちゃん!」



 自分の買い物は完全に思考の外に置いてファム・アル・フートのコーディネートに全神経を注いだマドカは、予算の枠組みの中で完成した作品の出来栄えに歓喜を浮かべている。



「かわいいし!足長いし!細いし!胸大きいし!もう素材として最高っ!」

「それはどうも……」

「アタシが男だったら絶対ほっとかないね!もうその場でコクって誘って飲ませてホテルに連れ込む勢い!」

「ほ、褒められているのですか!?」

「ごめん、俺にも良く分からん……」



 昼食にはモールに入っているチェーンのハンバーガーショップを選んだ。

休日ということもあってどこも混んでいたし、テイクアウトでフードコートのテーブルを使うことにした。

ミハルは一人で列に並んで順番を待ち、手短に注文すると三人分のハンバーガーとドリンクとポテトのセットの代金を支払った。

ファム・アル・フートはもとより、マドカにも買い物を付き合ってもらった礼代わりに昼食をおごるくらいはしなければならないだろう。

財布を取り出そうとするマドカを軽く制してから、フードコートの隅っこの空いているテーブルに陣取った。



 (ようやく一息つける……)



 軽くため息をつきながらミハルはハンバーガーの包み紙を剥がそうとした。

そこで、ファム・アル・フートが自分のプレートの上でごそごそと何かを探していることに気付いた。



「何してんの?」

「ナイフとフォークはどこです?」

「は?」

「皿はともかく、食器が無くては食べられないでしょう」


 

 大真面目に言ってのける。



「こんなことを忘れるとは教育が行き届いていない店ですね……。仕方ありません。私が取ってきましょう」

「待て。何か勘違いしている」

「ファムちゃんファムちゃん。これはね、こうやって食べるの」



 笑いながらそう言って、マドカが実践してみせた。

包み紙をよけて、手にしたハンバーガーにかぶりついたのだ。



 「なっ……!」



 ファム・アル・フートが瞠目する。

何故か慌てて周囲を見渡し、ハンバーガーを咀嚼するマドカを両手で制しようとする。 



「何をしているのですか、マドカ!ダメですそんな、はしたない!」

「はしたないって……ハンバーガーはこういう食べ物なんだってば」

「手づかみでかじりつくんだよ。気にしなくて良いから。皆やってんだろ」

「て、手づかみ!?かじりつく!?」



 ファム・アル・フートの顔から、みるみる血の気が引いていった。



「無理です、できません!そんな真似は!」

「なんで」

「騎士のすることではありません!」



 大声で断言したファム・アル・フートに、周りのテーブルから驚きの視線が向けられる。

慌ててミハルは顔を近づけると小声で言った。



「……アンタ騎士だろ?戦争に出て敵の騎士を捕まえて身代金取るのが仕事だろ?」

「多少言い方は引っかかりますが否定はしません」

「外で手づかみでメシ食うことくらいあったんじゃないのか?」

「戦場で糧食を口にするのとは違います!室内で手で食事をするなど……まるで労働者階級か、野卑な時代の悪習です!」

「そこまで言うか」 

「聖典にも『指を汚して食事をしてはならない』とあります!絶対に嫌!」



 本当に嫌らしい。かぶりを振って拒否してきた。

かといって、ハンバーガーショップに彼女が望むような食器があるとは思えない。

サイドメニュー用の樹脂製のフォーク程度ならともかく、ナイフはまず絶望的だろう。



 ミハルがどうしようかと悩んでいると、あたりを見回していたファム・アル・フートがぽんぽんと肩を叩いてきた。



「ミハル、ミハル!」

「うん?」

「あれ、あれをやってください!」



 さも妙案を思いついたかのように目を輝かせている。 

 ファム・アル・フートが指さす先では、母親らしい女性が子供用の椅子に腰かけた幼児にハンバーガーを食べさせていた。

具がはみ出したりこぼしたりしないように、両手にパンズを持って子供がかじりつくままにしている。



「食わせてもらうのは良いのかよ」

「はい。あれならば問題ありません」



 そう言って、本当に口を開いて促してきた。

朱唇が妙になまめかしくミハルの目に映った。



「どうぞ、ミハル」 

「……」



 こう待ち構えられては受け入れるしかない。

しぶしぶミハルは、ファム・アル・フートの分のハンバーガーを捧げ持った。



「おー、アツアツカップル!うらやましいぞー!」

「やめてよ……」



 マドカの茶々入れに気を取られた瞬間、思い切りよくファム・アル・フートはハンバーガーにぱくついてきた。


 

「うわっ」 


 

 思わず腕を引いてしまったミハルには構わず、女騎士は美味そうに一口でハンバーガーの半分ほどを咀嚼し始めた。

 ワニか何かに餌をやってるみたいだ、と少年は思った。



「ファムちゃんファムちゃん。ポテトも食べさせてもらいなよ」

「なっ……」

「ほう。揚げ芋ですか。これはぜひ味を見ておかなくては」



 目ざとく女騎士が目を光らせた。



「はい、ミハル。あーん」

「……」

「あーん」



 周囲から、くすくすとした抑えた笑い声が聞こえてきた。好奇と生暖かい優しさが入り混じった視線が突き刺さって、首筋がうそ寒い。



(普通は逆じゃないかな……)



などと思いながらミハルは仕方なくポテトをつまんだ。



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