表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

北東アジア情勢(その1)(歴史・地政学等)

作者: 板堂研究所(Bando Research Corporation)

 1.序論



(南北統一ナショナリズム)


(1)北朝鮮の核・ミサイル開発計画に関しては、現政権の維持・延命策としての短期的側面が強調されがちであり、軍事面を中心に、抑止と均衡維持の(戦術・戦略的)問題として論じられがちである。しかし問題の根底にあるのは、南北の統一問題であり、早期に統一民族国家の実現を希求する強いナショナリズムだろう。


(ア)特に世紀転換期の特徴として、ナショナリズムの高まりを背景とした民族運動や独立戦争等の起こりやすい傾向も否定できない。


 〇1796~1815年 ナポレオン戦争 (スペインの混乱を背景に、多くの中南米諸国が独立)


 〇1912~13年 第1次、第2次バルカン戦争

 〇1914~18年 第1次世界大戦(バルカン半島の民族運動がきっかけ)


(イ)もし21世紀に入り、日本との歴史を背景とした南北統一ナショナリズムの高揚があるとすれば、背景要因として韓国が凡そ100年前、日清戦争(1894~95年)、日露戦争(1904~5年)の後、段階的に国家の独立を失い、日本の植民地にされた屈辱的な展開が指摘されよう。


 〇1904年 第1次日韓協約 (日本政府の顧問を採用)

 〇1905年 第2次日韓協約 (外交権を奪う)

 〇1907年 第3次日韓協約 (韓国の軍隊解散、高宗退位)


 〇1910年 韓国併合条約


 〇1914~18年 第一次世界大戦 

 〇1919年 3.1独立運動



(ウ)1945年8月の日本の第2次大戦敗戦をきっかけに朝鮮半島が(日本軍の降伏受け入れのために進軍した米軍・ソ連軍により、予め申し合わせた通り)38度線を境に南北に分断される結果となり、朝鮮戦争の後、未だ再統合されておらず、マクロ的には南北の国家対立、ミクロ的には、多数の家族が南北に離散し、再会困難である等の大きな問題に結び付いている。


 従って民族統一は、北朝鮮、韓国共に共通の強い関心事であり、目的と捉える必要があろう。すると時々不条理に見える両国の行動パターンも、説明可能になるものと思われる。


(注)朝鮮戦争の経緯


 1950年、武力による南北統一を目指す北朝鮮が越境攻撃をしかけてソウルが陥落し、韓国軍は苦戦を強いられ、韓国南部の釜山付近まで退却を余儀なくされた。


 その後、韓国軍を支援するために米軍主体の国連軍が編成され、韓国軍共々、米国のマッカーサー元帥が指揮。国連軍は仁川に上陸し、失地回復しながら朝鮮半島を攻め上り、今度は南北国境たる38度線を越え、北朝鮮と中国との国境付近まで接近した。


 ところが中国の義勇軍が突然、北朝鮮軍の援軍として参戦し、北から攻勢をかけたため国連軍・韓国軍が38度線まで押し戻された。米国のマッカーサー司令官は、困難な戦況を踏まえ、核兵器使用を公に進言し、トルーマン大統領さえ可能性を示唆した。実現しなかったものの、北朝鮮関係者の脳裏に焼き付いたに違いない。


 1951年6月にソ連が休戦交渉を呼びかけた結果、交渉が始まり、1953年の休戦協定において(ほぼ38度線上の板門店を通る)現在の南北国境が出来上がった。



(エ)例えば一見関係なさそうに見える元慰安婦の問題でさえ、結局、南北分断が続く為のやり場のないフラストレーションや怒りが韓国で蓄積し、それが屈折した形で表面化しているのかも知れない。


 旧宗主国日本は、帝国主義・軍国主義に陥り、1392年から続く李氏朝鮮を滅亡させて1910年に朝鮮半島を併合して植民地とし、その後、日中戦争や太平洋戦争を起こした元凶だった。それなのに敗戦しても国家分断だけは免れ、朝鮮戦争の際の特需も手伝い、早期復興を遂げた。


 これに対し朝鮮民族は、第二次大戦の結果、故なくして国家分断との最も重い「厳罰」を受けてしまい、それが未だ解消されていない。


(オ)ドイツは、第二次大戦敗戦をきっかけとして民族国家分断の憂き目に遭ったが、東西統一が1990年に実現し、また第二次大戦と関わりの深いベトナムの南北分断も、ベトナム戦争を経て1976年に解消された。


 朝鮮半島に至っては、平和条約の成立せぬまま、1991年に南北両国が同時に国連加盟し、国際社会に参画しただけである。この様に考えれば朝鮮半島の南北分断は、20世紀の恥ずべき遺物であり、早期に解消すべき喫緊の課題ではないか。


 この様な基本認識から、表向きには歴史認識や竹島の問題を標榜しながら、極めて感情的に日本をバッシングしようとする心理も、理解出来よう。また北朝鮮がミサイル実験を行う場合、方角を日本に向けて発射する際にも、屈折した、特殊な感情が入り混じるのではないかと思われる。


(北朝鮮:経済低迷と体制の維持)


(2)北朝鮮では、旧態依然とした共産主義的な経済運営が続き、1978年頃から中国やベトナム等、他の社会主義諸国が計画経済からの脱皮を目指し、経済の自由化を進めたのに、北朝鮮では経済改革が進まず、特に直接投資による外資導入が進んでいない。そこで経済低迷が続き、近隣の韓国・中国との経済成長力の差が歴然としている。

 韓国では1965年に国交正常化と共に、日本から大規模な経済協力が行われ、「漢江の奇跡」と呼ばれる目覚ましい経済発展が実現し、1988年には、ソウルでオリンピックが開催された。

 1991年のソ連崩壊はロシアの経済低迷をもたらし、北朝鮮への経済協力も減ったとされる。北朝鮮では経済低迷に伴い、兵力では韓国を凌ぐものの、通常兵器の老朽化が目立ち、特に制空権、制海権を握れない状態で、時間の経過と共に南北軍事バランスが不利に転じたに違いない。


(3)1994年に金日成の死去に伴い、息子の金正日が最高指導者になった。同年、米朝間で(北朝鮮が核開発計画を放棄し、見返りに発電用の原子炉2基を建設する)枠組み合意が得られた。しかし2006年7月にミサイル発射実験が行われ、10月に初めて核実験が行われた。(1998年のインド、パキスタンによる地下核実験以来、初めてのもの)

 同10月、国連安保理は決議(1718)で核・ミサイル発射実験の停止とNPT復帰を呼びかけ、経済制裁が課された。この後、経済制裁は徐々に強化され、経済にますます悪影響が及んだ。


(4)2011年12月に金正日が死去し、息子の金正恩が後継者になった。2度の世代交代により、共産主義に基づきながら、最高指導者は世襲制との特殊性が明白となった。ついては国民が、諸外国の経済発展ぶりを目の当たりにした場合、欲求不満が募り、世界に類を見ない世襲制の共産主義に批判が集まりかねない。そこで体制擁護の観点から、ますます情報流入を嫌い、外資導入に踏み切れないのだろう。


(5)そこで経済が低迷する中で国家の威信を高め、体制の維持・存続を図るためにも、核・ミサイル開発は必要不可欠と見られていよう。

 北朝鮮の兵力は120万人と韓国の63万人(+在韓米軍2.9万人)を上回るが、機材老朽化のため制空権、制海権を握れないものと見られる。韓米合同軍に対して核抑止力を獲得すれば、この様な軍事バランスを一気に好転させ、経済低迷にも拘わらず核を保有する「一流国家」が実現し、世襲3代目となる金正恩体制の正当化に繋がる。そして1953年の休戦協定(60条)にも言及されている外国軍隊の撤退に向け、米国との対話の縁になろう、との構想か。


(グランド・デザイン)


(6)核・ミサイル開発計画が成功した場合、北朝鮮の論理による朝鮮半島統一の可能性を再び浮上させ、中長期的に朝鮮半島から外国軍隊を排除していく事を目指したいものと考えられる。すなわち核抑止力を手に入れた上で、それを基盤に韓国・米国との交渉に転じ、最終的には米軍の韓国からの撤退を前提に、外国軍隊の駐留しない統一民族国家の実現を目指したいのだろう。

 そして米軍撤退の見返りに関し、「北朝鮮の論理による民族統一国家の為ならば、朝鮮半島の非核化にも貢献しよう。韓国から米軍が撤退するならば、北朝鮮は、核兵器の放棄も視野に入れよう」との発想が窺える。

 他方、累次の国連安保理決議により重い経済制裁を課せられたので、時間と共に国民の生活水準が落ち、軍隊の士気や稼働率にも影響が及ぶものと思われる。この様な中長期的グランド・デザインを構想する余裕も失われていくに違いない。


(韓国)


(7)ソウルは38度線付近を走る南北国境線のすぐ近く(板門店から約50キロ)に位置するため、まるで北朝鮮が人質に取っている構図である。

(1950年の朝鮮戦争勃発の際、北朝鮮は6月25日に侵攻を開始し、同28日にはソウルが陥落)


(8)このため韓国は、朝鮮戦争後の1954年、米国と相互防衛条約を締結し、米軍を駐留させて軍事力均衡を図っている。(有事の際、米側が米・韓合同軍の指揮権を握るシステム)なお在韓米軍は、約25年前のブッシュ(父)大統領の方針により、核兵器を撤去している模様。


(9)2016年9月の核実験の3日後、ソウルで珍しく大きな地震があったが、この頃から北朝鮮に対する脅威認識や危機感が格段に高まり、これが結果的に2017年5月、北朝鮮に宥和的な文在寅政権の成立につながったものと見られる。


(10)短期的に現状維持と緊張緩和を旨としている。(昨年9月21日、UNICEFやWFPを通じて北朝鮮に800万ドルの人道支援を提供する旨表明)


(11)北朝鮮の核放棄に関しては、中長期的課題と見做していよう。また平和条約・民族統一国家の実現を目指す上でも、北朝鮮との交渉には基本的に前向き。


(平和条約が必要)


(12)この様な背景から、北朝鮮の核・ミサイル開発により、にわかに高まった地域の緊張状態を解くためには、常識的に考えれば、平和条約交渉を目指す基本的方向性ないし目的意識が必要ではないかと思われる。

 然るに南北双方とも朝鮮戦争は内戦であり、相手国政府を反乱政府と見做すので、相手国政府を認める様な平和条約の締結には、基本的に前向きでないと言われてきた。その後、両国とも1991年に同時に国連加盟国したが、韓国では、北朝鮮が核を保有していない事を前提に、平和条約締結は、在韓米軍の撤退に繋がりかねないと考え、前向きでなかった側面もあろう。


(13)第1次大戦に思いを馳せれば、ちょうど百年前の1918年には、1月にウィルソンの「14か条の平和原則」が発表され、3月にブレストリトフスク条約(独・ソの単独講和)が締結され、その後ブルガリア、オスマン帝国、オーストリア・ハンガリー帝国がそれぞれ降伏し、11月にはドイツが休戦協定に調印して戦闘が終わった経緯がある。百年経た2018年には朝鮮半島を巡る危機的な状況に関し、平和を目指す対話が開始された次第である。



 2.概観



(1)朝鮮戦争は、南北の武力統一を目指す北朝鮮が1950年に韓国に侵攻して始まり、1953年の(国連、中国、北朝鮮の代表が署名した)休戦協定により実質的に終結したが、平和条約が未締結であり、また大義名分だった南北統一が未達成なので、技術的に戦争状態は続いていると関係国は認識していよう。これが朝鮮半島における南北間の緊張の最大の原因であり、元凶と理解される。


(2)1961年に朴正熙が韓国で軍事クーデターを起こして反共軍事政権を樹立すると、北朝鮮は韓国が米国と結託して武力攻撃を仕掛けてくることを危惧し、1961年にソ連、中国とそれぞれ同盟条約を結び、武力攻撃を受けた場合に支援を受けられるような枠組みを構築した。


 ソ連との条約は1996年に失効し、2000年に軍事的支援の提供義務のない、新たな条約が成立したが、中国との中朝友好協力相互援助条約は更新され、今なお有効である。


 しかし中国は、昨今の経緯を踏まえ、北朝鮮が先制攻撃を受けた場合には軍事支援するだろうが、北朝鮮が先制攻撃を行った結果、武力衝突が発生した場合には、もはや支援する意志を持たないのではないか、と言われている。


(3)一つの理由としては、1978年頃から中国やベトナム等、計画経済中心だった他の社会主義国が、「社会主義市場経済」、「ドイモイ(刷新)」を標榜して開放経済政策を導入し、外資を誘致して大きな成功を収めた。


 然るに北朝鮮だけ(外国からの情報流入による統制弱体化を嫌うためか)旧態依然とした統制経済から脱皮出来ていない。そのため経済成長に大きな限界を来し、外貨稼ぎが十分出来ず、軍事力低迷に結び付いている。


 更に国連安保理決議に違反して核・ミサイル発射実験を繰り返し、重い経済制裁を課されて経済運営が困難を極めており、周辺国として、その付けを払わされるのはたまらない、との発想があろう。


(4)北朝鮮は、韓国の様に領内に核兵器国(米国)の軍事基地を置いて国の安全保障を確保している訳ではないので、国防については自己責任との意識が強く、中国が北朝鮮のために直接派兵することを躊躇する時代は特段にそうだろう。


 しかるに朝鮮戦争時代に敵対的関係にあった核兵器国で「相互確証破壊」の働かない米国、しかも「戦略的忍耐」からの訣別を標榜し、「従来の宥和的なアプローチは、北朝鮮に対して効果的でなかった」として軍事圧力を強め、特に米韓合同演習に米空母も(時として複数)参加させるトランプ政権下の米国に対して、強い不信感と尋常ならぬ脅威認識を持つに違いない。


 ついては核搭載可能なICBM(SLBM?)で米国に対する抑止力を手に入れ、国家の安全保障並びに政権存続を確保したいに違いない。一応、2018年9月9日の建国70周年記念日が目標と観測されている。


(5)北朝鮮は、対話を模索する韓国が脅威だとは認識せず、ましてや専守防衛政策を堅持する日本についても脅威とは認識しないはずである。従って核・ミサイル開発は、米国からの武力攻撃を抑止するのが目的であり、また米国との対話を実現させるための手段だろう。自ら先制攻撃するのが目的とは思われない。


(6)米国の強硬姿勢


(ア)2016年の米国大統領選に至るキャンペーンの際、トランプ陣営の標語は「Make America Great Again」だったが、1980年の大統領選挙で同様の標語を使ったレーガン大統領を強く意識していよう。

 レーガン大統領は、ソ連のゴルバチョフ書記長と首脳会談を重ね、軍備拡張競争の末、1987年にINF全廃条約調印を実現させた。続くブッシュ政権時代の1989年11月、東西ベルリンの壁が撤去され、1989年12月、米ソ首脳会談 (マルタ)にて冷戦終結が宣言され、更にソ連崩壊(1991年12月)へと続いた。この様な「栄光の時代」を意識し、模範としていよう。


(当時との重要な相違点は、IT革命、情報のグローバル化そして「情報戦争」、中国の勃興と中ロ接近、また気候変動と大規模自然災害の頻発か)


 この様なトランプ政権は、米国の最大の比較優位を軍事力と位置づけ、例えば中国の海軍拡充はあるものの、米国が世界最強のSea Powerである事には変わりなく、これを維持・強化しながら権益を守り、増進しようとの姿勢。


(イ)北朝鮮に関しては、1994年の米朝「枠組み合意」や「6か国協議」等により、米国は従来より軍事圧力をなるべく控え、平和的に核開発問題を解決しようと外交努力を重ねていたのに、特に21世紀に入り、北朝鮮が再び積極的な核開発に転じ、攻撃的な姿勢を示しているので「騙された」「裏切られた」との強い不信感があろう。


(ウ)そこでトランプ政権は、オバマ前政権の「戦略的忍耐」から訣別。昨年4月、シリアが内戦で化学兵器を使用したとしてクルーズ・ミサイル攻撃を行い、また北朝鮮のミサイル発射や核実験準備の動きに対応し、空母攻撃部隊を朝鮮半島に派遣した。更にアフガンでは大規模爆弾を使用したが、北朝鮮への威嚇の意味が込められていただろう。新たな核実験準備の動きに関し、これを牽制し、中止させる意図が強く働いたものと見られる。


(エ)米国から見れば北朝鮮は(テロ支援国家に再指定した事にも表れているように)その軍事独裁制、予測不可能性、不安定感と国際協調性の欠落ゆえ、絶対に核兵器を保有して欲しくない国なのだろう。

 特に統一を目指す分断国家の片方が核武装するシナリオは、恐らく前代未聞であり、しかも共産主義国家である点が特筆される。何故ならば共産主義者は基本的に宗教を否定するため、天国や地獄等の死後の世界も否定される結果となり、国家の指導者が生前、どんなに冷酷非道な事をやっても地獄へ行く事はない、との発想があり得るからだろう。

 それには無駄に多数の国民や相手方国民の生命を奪う戦争に訴える場合も含まれるに違いない。かつてソ連兵が残酷で悪行の限りを尽くすとの評判があった模様だが、これも宗教に基づく倫理的制約の欠落と関係あろう。

 天国も地獄も認めない共産主義者にとって、きっかけが何であれ、「どうせ米国と戦争になったら、自殺も同然。いずれ破滅するなら多数の敵方を道連れに」との自暴自棄な乗りで核兵器使用を検討しようとする場合、如何なる道徳的・倫理的な制約が期待できるのだろうか。


(オ)なお歴史的に見れば、朝鮮半島の南北分断は、1945年8月、日本が降伏した後、(ソ連軍を含む)連合軍最高司令官だった米国マッカーサー将軍の一般命令(第1号)として、日本の植民地だった朝鮮半島に関し、日本軍の投降を受け入れ武装解除するため、便宜的に北緯38度線で二分し、北部をソ連軍に、南部を米軍の管轄に割り当てた事から始まった。(この南北分担は、当時のトルーマン米国大統領とソ連の指導者スターリンとの間で事前協議の上、合意されていた)

 その後、1948年に大韓民国、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)がそれぞれ成立した。1950年に北朝鮮が、南北の武力統一を試み南に侵攻して朝鮮戦争が発生し、1953年に休戦に至ったが、平和条約は未締結。そして民族の南北分断は解消されぬまま、南北の悲願となっている。そして南側で南北国境を維持するため、米軍が韓国に駐留している。

 従って南北分断とその継続、北朝鮮の脅威等については、米国の歴史的関わりや責任が重いと言わざるを得ず、単なる軍事バランスや抑止力、国境維持の問題として捉えようとすると、問題の本質を見失うだろう。



(7)毎年恒例の米韓合同軍事演習に関しては、次の様な目的が認められる。


(a)軍事面を含め、北朝鮮を巡る最新の動向を踏まえ、想定し得る有事への備えに万全を来す事。


(b)北朝鮮に対して圧倒的に強力なる米韓合同の軍事力を誇示し、目に見える形で圧力を加え、抑止する事。


(c)韓国の首都ソウルに関しては、北朝鮮との国境から約50キロと近接しており、有事には当初から徹底的なる遠隔攻撃の対象と想定され、まるで人質に取られているかの様な脆弱性が認められる。


 ついては米国として韓国の政権及び国民に対し、韓国防衛への変わらぬコミットメントを確認し、強いモラルサポートを送ろうとしている。




(8)ミサイル発射


(ア)これは毎年恒例の米韓合同軍事演習への反作用の側面と共に、2017年は年初から韓国大統領弾劾への動き、続いて韓国大統領選挙との特殊事情も加わり、例年になく頻繁に発射実験が行われ、南北間の緊張が著しく高まった。この中で北朝鮮のミサイルについて、潜水艦からの発射技術獲得・精度向上・飛距離増大等、長足の進歩を認めざるを得ない。


(イ)ミサイルが発射されると、仮に予定通りの軌道で飛行して海上に落下し、何も事故が起きなかった場合でも、安保理決議に違反し、また日本のEEZ等、管轄領域に落下した場合には、国際法上の問題が生じよう。


(ウ)飛行中あるいは落下地点で、周辺を飛行する旅客機や航行する船舶を脅かすだろう。日本の領土の上を飛行する場合は、尚更のことである。何らかの事故や計算違い、あるいは特異な気象条件により、予定の軌道を外れた場合には、不測の事態を起こしかねない。

 北朝鮮のミサイルは、通常、日本海や太平洋上空を飛行するが、これは米国と日本・韓国・中国等、西太平洋側を結ぶ航空ルートと一致し、往来する旅客機には、多くの米国人、日本人、韓国人、中国人等も乗っていよう。


(エ)ミサイルやその破片と旅客機が接触する事故が起き、犠牲者が出る場合には、普段からの高い緊張感に鑑み、特に米国を含む関係国から強い報復措置を招くだろう。(旅客機以外の航空機、あるいは漁船・貨物船を含む船舶との事故の場合も、同様)

 従ってこの様なリスクを計算し、これ以上の発射実験を控えるべきだろう。



(9)核実験(地球物理学)


 昨年9月3日の核実験は約1年ぶりであり、その規模の大きさ(M6.1。北朝鮮は水爆実験と主張)から新たなフェーズへの転換が感じられる。例えばそれ以降、中国・ロシアも国連安保理の経済制裁に協力的姿勢を見せている。北朝鮮としては、可及的速やかに関係国から核保有を認知されたいに違いない。

 ところが米国から控えるよう、強く働きかけていたにも拘わらず実施した核実験であり、唯でさえ国際的な非難を免れない上、そのほぼ直後に起きた地震については、地下核実験が誘発したとして責任を追及される可能性があろう。


(ア)米国の強い警告の背景には、米国自身の今までの核実験の経験を踏まえ、この様な地球物理学的な配慮が含まれていた可能性があり、例えば日本が地震国である事も勘案されていよう。


(a)地下核実験の行われた昨年9月3日のほぼ直後、近隣の中国の国境地域の延吉や日本の秋田県、また9月24日、北朝鮮北東部の核実験場の近くで地震が発生した。


(なお北朝鮮の核実験との関連性は憶測の域を出ないが、9月7日、環太平洋の特定地域でM8.2の大きな地震が発生し、90名以上の死者が出た。例え全くの偶然だとしても、北朝鮮に対する厳しい見方があり得るだろう)


(b)2016年に北朝鮮は昨年、1月と9月に地下核実験を行い、9月9日の5回目の実験はM5.3と観測された。その直後の9月12日、韓国で珍しく大きな地震(M5.8)が発生し、そのため北朝鮮に対する脅威認識や危機感が大幅に高まったものと見られる。日本でも大方予想されなかった沖縄(9月末)や鳥取(10月)で地震が起きた。


(c)2006年10月に北朝鮮は初めて地下核実験を行い、M4.9規模と観測されたが、翌11月にM8.2の千島列島沖地震が発生した。また2007年1月には千島列島沖地震(M8.1)が発生し、ソウルでも地震が起きた。



(イ)大きな地震は、地理的な遠隔地にまで余波が及び、察知可能である事が古くから知られており、地下核実験でもその原理は同じはずである。


(a)関東大震災(M7.9)は、1923年9月1日に起きたが、当時、豪州のシドニーに出張中だった大森房吉(東大の地震学教授)は、現地の最新鋭の地震計を見学中だった。針が大きく揺れたのを見て、日本で大地震が起きたに違いないと直感した由。


(b)2011年3月11日に東日本大震災の起きた当日、ノルウェーのフィヨルド(アウランド・フラム)で1.5~2メートルの波が観測された。フィヨルドでこの様な現象が起きる事は古くから知られており、1755年のリスボン大地震や1950年の(チベットで起きた)アッサム大地震の際にも観測されている。


(c)2013年5月24日のオホーツク海地震(M8.3)の際、その余波は東京、南京やモスクワに到達し、モスクワでは、めったに起きない地震に住民が驚き、900人が家から避難した。



(ウ)2011年3月11日の東北大震災は、原発危機まで誘発してしまった。爾後、原発の安全性は、活断層の有無と関係する地盤の安定性、地震の起きる蓋然性と深く関係する事が認識され、公に論じられる様になった。

 もし地下核実験が、地震発生の蓋然性が高くない地点でも、不自然な地震を誘発させる可能性のある場合には(大げさな言い方をすれば)韓国や日本の原発の安全性・信頼性を根本から揺るがしかねない。原発の操業・運営に当たり、付近の活断層に加え、北朝鮮による地下核実験の可能性まで勘案せざるを得なくなるだろう。



(エ)今後、北朝鮮が核実験を行い、その直後に、例えば米国の西海岸で大きな地震が起こり、多数の犠牲者が出た場合、あるいは強い放射能により、航行中の船舶で米国民に犠牲者が出た場合、それが全く偶然だったとしても、米国はこれを北朝鮮による先制攻撃とみなし、復讐を大義名分とし、報復攻撃する可能性があろう。(犠牲者が、同盟国の韓国や日本の国民の場合も、米国民に準じて対応するだろう)


 この場合には中国も因果関係を斟酌し、米国の「報復攻撃」を受ける北朝鮮に対して軍事支援を控える可能性があろう。

 従ってリスクが高過ぎるので北朝鮮は、これ以上核実験すべきでない、との結論が出るだろう。



(オ)1963年に発効した部分的核実験禁止条約に基づき、放射性物質による汚染を防ぐため、核実験は大気圏内外や水中で禁止され、地下核実験のみが許される事となった。しかし地下核実験について、地震を誘発し得るとの認識が一般化すれば、包括的核実験禁止条約発効の機運を高めるきっかけとなろう。




(10)経済制裁


(2017年)


(ア))9月3日の核実験を受け、同11日の国連安保理決議2375号により、北朝鮮に対して追加的な制裁が課され、繊維製品の輸出が禁止された。また石油精製品へのアクセスが減る様に輸出の上限を設け、石油については過去12カ月の輸出実績が上限とされた。(海外からの石油関連製品が約3割減少するものと観測されている)更に北朝鮮労働者の海外派遣を制限すべく、新規査証発給が禁止された。

 北朝鮮は石油を自給できず、輸入に頼っているので、輸入制限は、軍の活動全般にわたり、その継戦能力にも影響を及ぼすだろう。

 北朝鮮は、これに反発して9月15日、北海道上空を超える軌道で再びミサイルを発射した。


(イ)10月に中国共産党の党大会が開催され、11月初旬からトランプ米大統領のアジア歴訪が行われた。この2つのイベントと重なるタイミングで、米海軍の空母機動部隊が西太平洋から東シナ海、日本海に複数展開し、北朝鮮があらぬ動きに出ないよう、牽制。

 11月20日、トランプ大統領は、北朝鮮をテロ支援国家に再指定する旨発表し、同29日、弾道ミサイル(火星15)が発射された。


(ウ)米国は国連安保理の経済制裁に実効性を持たせるため、北朝鮮との取引のある企業等に対する「セカンダリー・ボイコット」を提唱。中国は10月の共産党大会以後、経済制裁に熱心になり、中国の北朝鮮レストランの閉店等に結び付いている。


(注)2016年の輸出の93%が中国向けだったが、中国は2017年、北朝鮮からの輸入に関し、次の制裁措置を発表している。


 2月18日 年内の石炭輸入を暫定的に停止。

 8月14日 石炭、鉄、鉄鉱石、鉛、鉛鉱石、海産物の輸入を全面禁止。

(北朝鮮は8月に黄海側、日本海側の漁業権を中国に売った模様)

 9月22日 繊維製品の輸入を禁止。


(エ)12月23日、国連安保理は11月29日のミサイル発射を受け、制裁措置を一層強める決議2397号を採択した。北朝鮮海外労働者の24カ月以内の帰還等。


(オ)今後、石油関連製品の輸入減少によるガソリン価格の高騰等、冬と共に効果が現れるだろう。なお北朝鮮は石炭の産地であり、輸出制限もあり、代替燃料として国内消費が観測されている。

 2018年には、外貨収入の大幅減少が見込まれている。(2016年の年間輸出総額は約27億米ドルで、90%超の削減か)

 最近、日本に漂着する北朝鮮の漁船は、今年、中国に周辺海域の漁業権を売った事が背景と見られる。


(カ)他方、累次の安保理決議が、関係各国により厳密に実行された場合の理論的効果には歩留まりがあり、割り引いて考える必要もあろう。

 いくら中国等が実施を喧伝しても、中朝国境付近には朝鮮族も多数居住しており、末端では実際の生活上のニーズに応じ、密輸等の脱法行為が後を絶たない模様。仮想通貨の詐取、また最近、北朝鮮船舶による石油等の「洋上の瀬取り」も度々指摘されている。

 ついては北朝鮮の首脳部が、国民の困窮ぶりを目の当たりにし、外交的手段に訴えて譲歩する姿勢を示すまで、時間を要するだろう。


(2018年)


(キ)2月23日、米国は、海上で石炭や石油を積み替える北朝鮮との密輸対策として、独自の追加制裁を発表した。中国など9か国・地域の海運会社等27企業、28船舶、1個人に関し、米国との取引を禁じる等の内容。




 3. 国際的側面



(1) 中国


(ア)伝統的に北朝鮮を朝鮮半島の緩衝地帯と見做し、在韓米軍が南北国境を越えて北上し、中国に近づくのを阻止するのが中長期的な目標。そのため北朝鮮の崩壊は避けたく、何らの形で存続して欲しい。(崩壊すれば大量の難民が中朝国境を越えて流入する惧れあり)

 北朝鮮の対米恐怖感を理解し、核武装も場合によりやむを得ない、との考え方さえあっただろう。


(一昨年7月、北朝鮮で軍事パレードの際、弾道ミサイルの運搬車が中国製ではないかと取りざたされた)


(イ)ところがその後、北朝鮮は中国の安全保障上の脅威との論調が現れ、また同盟条約の存在にも拘わらず、北朝鮮支援に躊躇する姿勢が見られる様になった。特に一昨年9月の核実験以降は、その実験規模(M6.1。北朝鮮は水爆と発表)や、直後に中朝国境地帯(延吉)で地震が発生した事等から、北朝鮮に対する見方が格段に厳しくなったものと見られる。

 その後、米国から北朝鮮に対する経済制裁を強化し、実効性を持たせるよう期待表明を受け、2017年9月の国連安保理の制裁審議でも協力姿勢を示した。

 同年10月の共産党大会(習近平政権の基盤が強化された)、また11月のトランプ米大統領訪中を踏まえ、経済制裁に実効性を持たせる上で更に協力してきた。


(ウ)中国は、2018夏以降、米中貿易戦争の激化と共に、対朝政策を再び転換させ、北朝鮮への非核化圧力を弱め、中朝関係の緊密化を図っている模様。他方、米中間の貿易協議で成果が得られ、米中関係が改善すれば、再び北朝鮮の非核化に向けた協力姿勢を示すものと期待される。


(エ)北朝鮮が核・ミサイル開発を急いだ一つの理由として、中朝関係が暫く冷え込み、中国が、北朝鮮有事の場合でも原因が北朝鮮にある場合、その安全保障にコミットしない姿勢をとった事が挙げられよう。中国はこれを理解し、その後、北朝鮮の懸念払拭に努めている模様。




(2) ロシア


(ア)北朝鮮は、1945年の終戦後、1948年の独立までソ連の統治・庇護下に置かれ、初代の最高指導者金日成はソ連から帰国した抗日パルチザンであった。1950年に北朝鮮が韓国を軍事侵攻する際、金日成はスターリンの事前了解を得ており、朝鮮戦争でソ連は陰ながら北朝鮮を支援していた模様。また北朝鮮の経済困難の大きな原因は、1991年末にソ連が崩壊し、北朝鮮に対する経済協力が滞ったためと言われる。


 この様な背景から北朝鮮に特有の親近感や責任感を抱き、中国と共に影響力を持ち得る国だろう。


(イ)2011年9月の発表に依れば、ロシアは北朝鮮に対する110億ドルの債務免除(借款の帳消し)を決定し、同年中に調印した模様。また昨年4月以降、北朝鮮の豪華客船・万景峰号が、ラソン・ウラジオストク間で定期便を開始、時々中断しつつ運航の模様。

 また昨年8月、英国際戦略研究所(IISS)によれば、北朝鮮の弾道ミサイルのエンジンは、旧ソ連の改良型と見られ、ウクライナから流出した可能性がある由であり、流出の原因が取りざたされている。

 更に今年の1月末、ロシアの駐北朝鮮大使が、北朝鮮は去年12月の国連安保理の追加制裁を「戦争行為」と表現しており、人道的配慮からこれ以上原油・石油精製品の供給を減らすべきでない旨述べたと報じられている。


(ウ)北朝鮮を在韓米軍との緩衝地帯として重視する発想は中国と同じであり、現状維持を選好するだろう。米国が朝鮮半島に勢力を集中させている間は、例えばシリアを巡る中東やウクライナで圧力が減るとの発想から、事態が暴発しない限り、多少緊張状態が続く事にも不満なかろう。


(エ)なお中国と北朝鮮との関係が複雑化する中で、周辺国の中では北朝鮮との関係に問題が少ないので、対話の仲介者足り得る事も意識していよう。

(因みに朝鮮戦争の際、1951年6月に休戦交渉を提案したのは、ソ連だった)



(3)日本



(ア)日本は朝鮮戦争の勃発当時、未だ独立を回復しておらず、駐留米軍が朝鮮半島に出動した経緯はあるものの、朝鮮戦争の当事者ではない。


 しかし朝鮮戦争勃発は、日本を占領統治する米国の対日政策に影響を与え、サンフランシスコ平和条約をもって日本が早期に独立を回復し、また同時に米国の同盟国となるきっかけとされる。


 1945年8月 日本がポツダム宣言を受け入れ、降伏。米軍等の連合国軍による日本占領の開始。

(日本の植民地だった朝鮮半島に関し、38度線を境に米ソ両軍による分断統治が始まる)


 1945年9月 降伏文書の署名。GHQによる日本統治の開始。

 1948年   大韓民国・朝鮮民主主義人民共和国が成立。


 1950年6月 北朝鮮が韓国に侵攻し、朝鮮戦争が勃発。

 1951年7月 朝鮮戦争に関し、休戦会談が始まる。


 1951年9月 サンフランシスコ平和条約(対日講和条約)調印。

 日米安全保障条約調印。(米軍駐留を認める)


 1952年4月 サンフランシスコ平和条約発効。(日本が独立を回復)


 1953年7月 朝鮮戦争に関する休戦協定調印。



(イ)朝鮮半島で有事の場合には、次の事情から日本も米軍や国連軍にフルに協力する事が求められるだろう。


(a)日米安保条約第6条の規定(抄)


「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用する事を許される」


(注)これは旧安保条約第1条「(在日米軍は)外部からの武装攻撃に対し、極東の国際平和と安全の維持、また日本の安全に寄与するために活用され得る」との内容を踏襲しており、翻って旧安保条約については、1951年9月8日、サンフランシスコ平和条約と同じ日に調印され、朝鮮戦争の最中だったので、「極東」とは取り敢えず韓国を想定したものと考えられる。


(b)歴史的経緯から、横田飛行場に朝鮮国連軍の後方司令部が置かれているところ、有事には、ソウルの朝鮮国連軍司令部と連携し、朝鮮戦争当時、韓国防衛に派兵した米、英、加、豪州、仏等の関係者が参集し、後方支援を調整する拠点となる事が予想される。


(c)横須賀に母港を置く米国海軍の第7艦隊は、管轄海域に朝鮮半島が含まれる等、地理的な近接性、また朝鮮戦争の経緯から、朝鮮半島有事の場合、在日米軍基地は、韓国の後方支援との最重要任務を負う事となろう。



(ウ)この様に日本が有事の際、後方支援に協力を求められる点は、朝鮮戦争当時と同様だろうが、今や北朝鮮は、日本に届くミサイル、また場合により核兵器を保有しているので、もはや「対岸の火事」と見做す事は出来ない。従って有事に至らず、平和的な問題解決が、日本の利益に適うだろう。


(1962年のキューバ危機の際、米国と対峙していたソ連が、核ミサイルのキューバ配備を画策していた。キューバを北朝鮮に置き換えると、東京までの距離は、ハバナ周辺から米国南部アトランタ位しかなく、対応時間は極めて限られている。但し北朝鮮の想定する相手国は、取り敢えず日本ではなかろう)



(エ)日本は、日朝間の問題として核・ミサイルと共に、拉致問題を重視しているが、その原因を探れば、1953年に朝鮮戦争の休戦協定が成立したものの、平和条約が未締結なため、技術的に戦争状態が続く点が指摘される。すなわち日本人を拉致し、工作員の日本語教育に当たらせたのは、(客観的に人道に反する犯罪行為でも)当時の北朝鮮当局にしてみれば、戦争中のサバイバル・ゲームの一環と推察される。

 その意味で拉致問題は、朝鮮戦争が技術的に続く故に起きた悲劇であり、戦争状態が未終結な事と深い関係があろう。更に言えば、朝鮮戦争が終結すれば、沖縄を含め在日米軍の縮小も可能になるに違いない。



(オ)北朝鮮の核武装により、日本が北東アジア地域で(韓国を除き)唯一、核兵器の非保有国となる事態を懸念。また同様の理由から、朝鮮半島が統一された暁に、統一国家の核保有は受け入れられない。


(a)朝鮮半島の統一国家が核兵器国である場合、日本は、地域で唯一の非核兵器国となり、対抗措置として核保有の可能性を検討するだろう。しかし過去の不幸な歴史もあり、これは中国等の周辺国にとり、受け入れがたいだろう。


(b)加えて勘案すべきが、朝鮮半島における植民地支配の歴史だろう。日本から見れば、今や、昔の植民地が独立し、核武装に至っている。片や日本は、20世紀末までに経済大国となったものの、防衛面では核武装せず、憲法9条に基づき専守防衛を旨とし、米国の抑止力を頼みとする国である。すると日本の国民感情の動きも、容易に推量可能であり、北朝鮮に地理的に近接している事も有り、米国以上に非核化に熱心だろう。


(仮にフランスが非核兵器国であり、片や昔の植民地だったアルジェリアが、最近、核武装した場合、フランス国民は、如何に反応するだろうか?)



(カ)日本が北朝鮮の非核化を求める際、重要なのが、核兵器に関する基本的なスタンスだろう


(a)唯一の被爆国であり、核武装しない選択をしながら、核兵器禁止条約に反対し「国際社会の現実を踏まえれば、平和と安定のため抑止力による核兵器は当面、不可欠」との立場であるが、これでは米国の立場に自らを収れんさせているだけと見られよう。そして米国追随路線だけでは、独自の主張や哲学を持たない政治小国と見られ、非核化に関する日本の発言や見解に重みを付与する事は至極困難であり、得策でなかろう。


 北朝鮮から「だから北朝鮮としても核開発を行い、核兵器を保有するに至った次第。米国を主たる相手とする朝鮮戦争は、技術的に継続されており、軽々には手放せない。」との反応が即刻予期できそうである。


(b)核兵器の廃絶は、すぐには困難だろうが、中長期的目標として日本も大いに主張すべきであり、唯一の被爆国として独自の立場があり得るのは、米国でも理解可能なはずである。「広島・長崎に原爆を落としたのが当時の米国なので、言及するのは、はばかられる」との意見もありそうだが、相手が誰であれ、日本が被害者だった事に変わりなく、忖度のし過ぎは、国の独立性の失墜に繋がるだろう。


(c)この問題は、北朝鮮との関係だけでなく、各国との関係にも影響しよう。例えば日ロ交渉において、ロシアが日本に対し、どれだけの重みと敬意をもって接するかにも影響するに違いなく、米国の延長上にあるだけの存在では、あまり真面目に関わり合っても意味がない、との受け止め方があり得よう。



(キ)北朝鮮を巡る最近の動きは「人間の安全保障」上の大きな問題。


(a)日本は北朝鮮の隣国であり、地震国でもあるので、地下核実験により誘発地震が起きる惧れがある。またミサイル発射実験の場合には、破片が領内に落下し、あるいは船舶・航空機等が被害を受ける恐れなしとしない。


(b)韓国における多数の在留邦人を保護する必要がある。また在日コリアンの大きな存在もあり、朝鮮半島有事の際には、日本を目指す難民・避難民が少なからず発生し、社会に多大な影響が及ぶ可能性があろう。


(c)複数の米空母動員を含む様な大規模な軍事演習や北朝鮮の核・ミサイル実験が際限なく交互に繰り返される場合、北朝鮮から近い事もあり、日本社会では不安と疑心暗鬼によりストレスが尋常でなく高まり、国民の精神衛生や健康に悪影響が及ぶだろう。長期化すればするほど、強いストレスにより見た目の支出以上に社会的コストがかかるに違いない。


(d)米国が日本の防衛にコミットしているだけに、在日米軍も北朝鮮を巡る不測の事態に備え、稼働率高く、高い緊張状態がここ1~2年続いている。軍関係者のストレスや疲労も尋常でないと推察される。最近、ヘリ関連を含め事故や事件が頻発しており、不運な場合、邦人が巻き込まれるが、過労と関係が深いのは明白だろう。然るに在日米軍を休め、調整の余裕を与える観点からも、北朝鮮との対話の可能性を探るのは、時宜に合っているに違いない。



(ク)日本は専守防衛を旨とするので、有事には米国の核を含む抑止力を頼みとし、自らはミサイル防衛能力を充実させ、関係各国との対話を通じ、北朝鮮の核放棄と朝鮮半島の非核化に向け、外交努力を続ける方針。


(注)北朝鮮は、潜水艦発射型の弾道ミサイル(SLBM)も開発中なので、日本は今後、米国本土攻撃能力を抑止する観点からも、ミサイル防衛のみならず、日本海の北朝鮮潜水艦を察知し追跡する役割・任務が増々期待されよう。



(ケ)日米韓の連携を重視し、経済制裁を含め北朝鮮に対して圧力を強めていく姿勢は、米国と同様。




 4. 要注意日



 1月8日  金正恩最高指導者の誕生日(1983年)


 2月8日  朝鮮人民軍創建記念日


 2月16日 故金正日最高指導者の誕生日(1941年)


 4月15日 建国の父、金日成主席の誕生日(1912年)


 9月9日  北朝鮮の建国記念日


 10月10日 朝鮮労働党創立記念日




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ