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正義の見方  作者: 赤糸マト
第1章 パペットマンと人形少女
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エピローグ 正義の見方

「いいんだよ俺は……。お前が無事なのが重要だろ」

『違う! 一緒に行くの!!』

「それに……だ……」

『いかないで!! 死んじゃ駄目!!!』

「一人でも……お前なら……」

『だめぇぇぇぇ!!!!』


 エミリーは動けないと分かっていながらも、その木製の身を動かそうともがくが、工藤を抱き寄せるどころか彼に触れる事すらままならず工藤は口から血を流しながら倒れ伏す。


『いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』


 声にならない声はもはや誰に聞こえるわけでも無く、ただ空しく彼女の内側で響き渡る。そして、エミリーの意識はそのショックによりそこで途絶えた。


 ぼやけた意識、薄らと聞こえる声、生身の重い身体の感覚。


 久しぶりに感じるこの重く、そして嫌いなこの感覚を感じつつエミリーはその意識を覚醒へと運んでいく。


「う……すか……」

「……は、……らはそろそろ……」

「本当に、ありがとうございました」


 扉を引く音にエミリーの意識は完全に覚醒し、手の感覚を自身の頭で感じながら先ほどの工藤が倒れた映像を思い起こす。


――夢。


 そう思えればどんなによかったか。しかし、エミリーはそう思いながら先ほど起こった映像と今現在の自身の状況を視線を彷徨わせながら照らし合わせる。


(ここは……どこ……?)


 周囲を見ても、いまいち状況を理解できず、先ほど微睡みの中で聞いた聞き覚えのある声の主へと言葉を投げかける。


「……パパ?」

「そうだよ」


 何かによって籠ってしまった声を耳にしながら、アルバーノの返事を聞く。アルバーノはそれに何を言うでもなく、ただ優しく微笑む。しかし、自身に繋がれた無数の管、息苦しい酸素マスク、重く動くことのままならない生身の身体、そして、白い天井。それらを認識し今自身があの人形から生身の身体へと戻っていることを読み取ってしまったエミリーは、足らない言葉で再び父親へと質問を繰り出す。


「どうして……?」

「先ほど、エミリーを助けた人が来ていたんだ。そのお礼も兼てね」

「違う……」


 アルバーノの言葉に、エミリーは弱々しくもはっきりとした声を返す。アルバーノは驚いたように目を見開くが、それでも愛おしげな視線を向ける。しかし、それでもエミリーは今現在の自身の現状を否定するように、ただその言葉を繰り返す。


「何が違うんだい?」

「違う! 違うの!!」

「……ど、どうしたんだい?」

「違うの!!!」


 数度の否定の後、エミリーは今の自身の現状をはっきりと認識する。


 今自分が勝手知ったるあの憎々しい牢獄のような病院に今にいる事、自身が人形でない事、自身を人形に変えた工藤が死んだこと、そして、その工藤を殺した元凶を。それを、直感的に認識した。


「え……? エミリー? エミリーィィィ!!!」


 エミリーは一部の躊躇をすることなく、自身の能力を発動させ逃げるようにして父親の元から離れ、病院の廊下へと自身を転移させる。


――あれはっ……!!


 エミリーの視線の先にはエレベーターに乗ろうとする藤見の姿が。


――あの……あの男がっ!!


 エミリーは再び自信を藤見の上空へと移動させる。耳から熱い感覚が伝わってくるが、エミリーはそれを無視して藤見へと掴みかかると、勢いよく倒れる藤見に向かって思いをぶつける。


「なんで! なんで殺した!! なんで……なんで……ごほっ……かはっ」

「な……なんだ!?」


 藤見は急にお起こった出来事に思わずあたふたするが、それでも涙を流しながら吐血しながら言葉を叫ぶ少女に、藤見は冷静さを取り戻す。


「なんで……みさおは……私を助けてくれた……のに……かはっ、あんたはなんでっ!!」

「……」


 エミリーは思いの丈を吐き出すと、その後、藤見の胸元で涙を流しながら、意識を失った。


・・・


 藤見とブレンは様々な機器に繋がれているエミリーの姿を再び目にし、そしてアルバートに深々とお辞儀をした後にその病室を後にした藤見はブレンと共に病院の休憩室にその腰を落ち着ける。


「結局、なんだったんだ……?」


 藤見は突然自身へと向けられた自身への憎悪に、歩きながらそんな言葉を繰り出す。決して回答が得られないと確信したこの言葉だったが、それは以外にもブレンの一言により解決する。


「あの子は……工藤に助けられたんですよ」


 ブレンは藤見に缶コーヒーを渡すと、藤見の横に腰を下ろす。藤見は受け取ったコーヒーを飲む気にはなれず、ただそれを見つめる。


「あの子が倒れる間際、僕の……僕の中にあの子の記憶が流れ込んできました」


 ブレンは数秒の空白の後、とても言いづらそうに、しかしその言葉を確実に伝えようと、苦虫を噛み潰したような表情で言葉を紡ぐ。


「工藤の能力は人を人形に変える能力。それは意識以外を人形に変える能力で、使えば元の身体に戻れないものの、彼女のような弱り切った身体でも工藤が生きている限り生きられるようです。彼女は自身の短い命を悟り、それを拒否する工藤に自ら頼んだよう……です。だから、工藤も、彼自身も彼女を長く生かすために不完全である自分の能力を使って……外に……」


 ブレンはそれ以上言葉を続けようとしない。藤見は大きく溜息を吐きだし、そしてその肩を落とす。


「あの子にとって工藤は……救世主だったって訳か」

「……僕らは何のためにここまでしたのでしょうか」


 そんなブレンの横で藤見は自分がした行いを思い返す。そして、その簡単な答えを吐き出す。


「所詮はエゴだな……」


 どれだけ"正義"を貫いても、その見方を変えればその正義は"悪"になる。どんな悪行をしてようと、もしかしたらそれは誰かを守るための行動かもしれない。


 それを思い知らされた藤見は、ただ自身の行いを後悔しつつ、すっかりぬるくなったさとうのたっぷり入った缶コーヒーを開けて一気にその中身を胃袋へと落とす。


「……苦いな」


 藤見は空になった缶コーヒーを見つめながらただ、そう呟いた。

とりあえずここまでです。


また、機会があれば投稿します。

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