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正義の見方  作者: 赤糸マト
第1章 パペットマンと人形少女
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第4話 人形を操る者

「ええ、そうです。工藤を発見しました。――はい、今追ってます」

「ブレンっ、周囲のヒーローにっ、工藤の事教えろ!」


 路地裏を抜け、煌びやかなネオンが光る大通りに出た二人は工藤の後ろ姿を追って通りを走る。ブレンはテレパシーで周囲の人々に呼びかけながら、藤見は自身の金属の擦れる音が聞こえるポケットをまさぐりながら工藤を追う。


「くっそ、俺スタミナねぇのに」

「なんか道具無いんですか!?」

「んな急に準備してねぇよ! あ、くっそ、あいつ飛べんのかよ、ブレン、先行くぞ!」

「え!?」


 二人の前方を走る工藤は右腕を挙げると、まるで何かに引っ張りあげられるように宙へと浮かび、マンションの側壁を蹴り上げながら上空へと逃げていく。それを見た藤見は「くそっ、指折れてんのに!」っと吐き捨てながら懐から錠の付いた拳銃のようなものを2丁取り出すと、手首に錠を取り付けそれを発射させる。


「いっでー!! くっそ、間接外れたっ」


 拳銃から勢いよく飛び出したアンカーはマンションのコンクリート壁に突き刺さると、藤見の身体を勢いよく持ち上げる。


『おい、誰かいねぇのか!?』

『アミットさんとカテッラさんが近くにいるようです!』

『ムキムキか、ならあいつのをぶっ放させろ! 少しは怯むだろ』

『え、でも……』

『出力くらい調整できんだろ!』


 藤見にはブレンのテレパシー越しに指示を出し、持ち上がる衝撃で折れた腕を動かしながら上へと上昇する工藤を追う。


「あ゛ーー!! くっそ、いってぇ」

「……ッチ」

「おい、少しは手加減しろや」


 痛みに耐えながらマンションの屋上までやってきた藤見は、舌打ちをしながら藤見を見据える工藤へと拳銃型アンカー射出装置を向ける。


「おい、動くんじゃ――ん?」

「……」


 藤見の脅しに工藤は立ち止まると、手首が赤く腫れた自身の右手から藤見に何かを投げつける。


「うおっ、冷てっ!? んだこれ!? 離れねぇ!」


 藤見は自身の身体に張り付いた男の人形を剥がそうとするが、人形はまるで自我を持っているかのように藤見にその木製の小さな指で藤見の身体を掴むと、そこから藤見を凍らせていく。藤見はそれを引き剥がそうとするが、人形は剥がれずに藤見の脇腹を徐々に凍りつかせていく。


「あー、くっそ。おい、待てって!!」


 藤見の制止もむなしく、工藤は自身がマンションから落ちる事など毛頭も考えていないかのように次の建物へと飛び移るための助走をつけ始める。しかし――


『藤見さん! アミットさんが来ました!!』


 そんなブレンからのテレパシーと共に、マンションの屋上に爆音が鳴り響き、工藤は足を止める。爆音の発生源の工藤の目の前には地面が刃で抉られたかのような傷跡が付いていた。


「くっそ、おせぇよ。 で、どうするよ工藤。まだ逃げるか? てか、この人形剥がせよ」


 藤見は脇腹に張り付く人形を剥がそうとしながら立ち止まる工藤に近づく。工藤は諦めようとせずにコンクリートの傷跡の付いていない方向へと進もうとするが、悉く先ほどと同じように爆音と共に工藤の足元が何かに抉られる。


「ほら、あれだ。包囲されてるってやつだ」

「……はぁ」


 警告を促す藤見に工藤は光の籠らない目を向け、小さく溜息を吐き出す。それを見た藤見は工藤が逃走を諦めたと認識し、拳銃を下ろす。


「ほら、とりあえずこれ外せ」


 藤見は野暮ったそうに自身の脇腹の人形を示す。人形は今なお氷の浸食を止めようとせずにその身体に張り付き続けている。そんな藤見の様子を見た工藤はおもむろに自らの左手を前へと付きだす。


「ん? なんだそれ?」


 左手の先からは少女の人形が、まるで見えない糸に吊るされているかのように肘や胴を上に持ち上げられながらゆっくりと落ちていく。そして、少女の人形が右手を挙げた瞬間、工藤と人形は藤見の視界から消え去った。


「あっ、おい! ……なんだこれ」


 消えた工藤を探すために視線を巡らした藤見だったが、工藤が立っていた場所に何かが落ちているのに気が付く。藤見はそれを拾い上げ、非常に気持ち悪そうな表情を作り出す。


「……なにこれ、気持ちわる」


 藤見は拾い上げた内臓を投げ捨てると、まるでそれを待っていたかのように藤見に張り付いた人形は力なく軽い音を立てて地面に落ちた。


「で、どーこにいったんだ? 瞬間移動?」


 藤見は顔を回し周囲を工藤を探す。すると、藤見の思いとは裏腹に、幸運にも3つ先の建物の屋根にそれらしき蹲った人の影を発見する。


「はぁ、くっそ。いって」


 藤見は外れた関節を無理やりはめ込むと、工藤の後を追う為に再びアンカーを発射させる。


「あー、痛ってぇ。で、なんで逃げねぇんだ?」

「……がふっ」


 藤見は再び外れた肩を戻しつつ、自身が来ても逃げようとしない工藤を見下ろす。工藤は藤見には気が付いているらしく、その淀んだ目と口の端から流れ出る流血を藤見へと向けるがそれでもそれ以上の事をしようとせずにその顔を地面へと向ける。


「おい……大丈夫――」

「……うるせぇ! がはっ、かふっ」


 藤見が声を掛けようとすると、工藤は大きな声を張り上げる。しかし、そのせいで身体のどこかに響いたようで、工藤の口から血が吐き出される。


「うるせぇ、気にすんな。お前には関係ないだろ……」

「いや、あんだろ。とにかく、あれだ。医者行くぞ」

「いいんだよ俺は……。お前が無事なのが重要だろ」

「あ? 何言ってんだ? 聞いてんのか?」

「それに……だ……」


 どうにも話がかみ合っていない。そう感じた藤見は工藤を振り向かせるために肩へと手を置こうとする。しかし、工藤の肩は手が触れる前に地面へと落ちた。


「藤見さん、大丈夫ですか!? ……え?」


 どこからかやってきたアミットは、昼に視た時よりも明らかに細くなった腕を藤見に伸ばそうとするが、それが届く前に口から血を流しながら倒れる工藤を見て絶句する。


「藤見さん……これは……?」

「とにかく病院だ!! ムキムキ、こいつを運べ!!」

「はい!!」

『おいブレン! 救急車呼べ!!』

『え? ……は、はい!!』

「藤見さん、どこへ運べば!?」

「ブレンのとこに……ん?」


 藤見は工藤の身体の下敷きになっていた血に汚れた人形を拾い上げる。人形は無機質な笑みを浮かべているが、それでも藤見には何故か酷く悲しんでいる様に感じた。


・・・


 真っ白な清潔感のある個室の中、一つのベッドに少女が一人、多くの機器に繋がれて眠っている。その側ではその少女の父親であろう大柄な男、アルバーノ・ステッツは難しい表情を少女に向けながらその髪を撫でる。


「……本当に、ありがとうございました」


 アルバーノは娘の顔から視線を外し、なんとも言えない居づらそうな表情をした藤見とブレンに深々と礼をする。


「いえ、俺は何もしていません。それに、なにもできていません」

「そうだとしても、あなたのおかげでこうして娘とまた会えたのですから」

「それでも……娘さんは……もう……」


 藤見は歯切れの悪そうに、その言葉を続けるのを中断する。それはアルバーノも同じようで悲しげに表情を曇らした。


 結局、藤見たちは工藤を救急車に乗せ病院まで連れていったが、その時には工藤の心拍は止まっており、帰らぬ人となった。医者の話によると工藤の心臓の一部がまるで何かに切り抜かれたかのように無くなっており、そのせいで血液の循環が行われず亡くなった。そして工藤が死に至った後、藤見が持ってきた人形が今機器を繋がれているアルバーノの娘、エミリーへと変化した。


「しかし、何故エミリーさんはこんな……」


 藤見は眠るエミリーへと視線を向ける。エミリーはかろうじて呼吸はしているもののその身体は細く、今にも衰弱死しそうに感じる。


「……娘は能力持ちでしてね」


 アルバーノはぽつりぽつりと語りだす。


「君たちも知っている通り、能力を持つ者は高確率でその能力に関わる欠点を持つ。それは身体的欠点であったり、精神的なものであったり。それは娘はも同じでして、娘の能力、"座標移動(テレポーテーション)"は不完全でして、これを使用すると……その……身体の一部が残ってしまうんですよ。まるで移動し忘れたように……。幼少の頃に一度これを使用したため娘の命は短くなってしまって、幸いにも一命を取り留めましたが、その後は病院で寝たきりで……」


 アルバーノの表情は怒りの表情へと変化していく。


「そしてあの日、自殺するあの男を、工藤を助けるため、娘は能力を使いました」


 アルバーノはいつの間にか握りしめていた拳の力を緩め、エミリーへと視線を向ける。アルバーノは先ほどとは変わらない、決して健康的では無い状態エミリーの姿を悲しげに見る。


「その時も場所が病院という事もあり、何とか一命は取り留めましたがこれら機器が無いと生きていけない身体になってしまって……寿命も……」

「そう……ですか……」

「では、俺らはそろそろ……」

「本当に、ありがとうございました」


 藤見とブレンは重い足取りで頭を下げるアルバーノに背を向け部屋から出ていく。アルバーノは藤見たちを見送った後、再びエミリーの側に来るとその髪を優しく撫でる。


「……パパ?」

「そうだよ」


 いつの間にか見開かれ、周囲に視線を彷徨わせるエミリーの瞳を見つめながら、酸素マスクによって籠ってしまった声にアルバーノは返事を返す。


「どうして……?」

「先ほど、エミリーを助けた人が来ていたんだ。そのお礼も兼てね」

「違う……」


 アルバーノの言葉に、エミリーは弱々しくもはっきりとした声を返す。アルバーノは驚いたように目を見開くが、それでも愛おしげな視線を向ける。


「何が違うんだい?」

「違う! 違うの!!」

「……ど、どうしたんだい?」


 アルバーノはエミリーの慌てぶりに少し慌てながら言葉を投げかける。しかし、エミリーは涙目になりながらも微かに首を振る。


「違うの!!!」

「え……? エミリー? エミリーィィィ!!!」


 気づいた時にはベッドにエミリーの姿は無く、不自然に切り取られた彼女のと思わしき毛髪のみがベッドに残っていた。

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