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正義の見方  作者: 赤糸マト
導入
1/7

虚弱ヒーロー

とりあえず章一つ書いたので、1日1話づつ同じ時間に投稿します。


「……んだ、死ん……のか?」


 誰かの声が聞こえる。

 薄れゆく意識の中、腹部から温かいものが流れる感覚のみ感じ取る。


(……ああ、またやっちまったか)


 数人の武装集団と数十人の市民の中心には腹部から血を流した男が倒れていた。


・・・


 2053年、第3次世界大戦による環境汚染により世界人口が減少し続け、世界の土地の40%が砂漠に変化している中、それに適応するように通常の人間に無い能力を持つ、能力持ちと呼ばれる人間が誕生しはじめた。

 それから50年、世界の人口が減り続ける中、能力持ちは生まれ、世界人口の約20%が能力持ちと呼ばれる人間になった。


―エストラード合衆国、コロヴィル州、レナード、国際銀行

 第3次世界大戦の後整備された、中心から延びる6本の主要道路とそこを繋ぐ幹線道路からなるこの州の中心付近に商業都市レナードがある。この町には高層ビルや商店に囲まれた大通りを中心に様々な商店が並び、多くの人々が仕事や買い物など様々な理由で来る。そんな町の街角には普段は数人の客にに対し、数十人の職員で対応している街角の国営銀行がある。数十人は待つことのできるスペースが外からでも見通せるガラス張りのつくりになっているが、そこは現在シャッターが下りている。


「おい! まだ終わらねえのか!? 早くしねぇと奴らが来ちまうだろ!」


 そんな、シャッターが下り普段より薄暗く感じられる銀行内のカウンターで一人の迷彩柄の服を着た武装ている大柄な男が怒号を飛ばす。


「す、すみません、もうすぐ終わりますので」


 弱々しく職員が答えるのを聞き、男は満足したのかあたりを見回す。そこには銀行を利用しに来たと思われる市民と、銀行の職員と思われる人々数十人が後ろ手に縛られ床に座っている。


「にしても、案外簡単でしたね兄者。人質もこんなにいるし」


 先ほど怒号を飛ばした大柄な男よりも同じ様な武装した小柄な男が大柄な男に話しかける。大柄な男は先ほど作っていた怒りの表情を和らげると、その大きな口の端を吊り上げた。


「あったりまえよ! ヒーローだか何だかしらねぇが、銀行を二人で占拠できるんだから世も末ってもんよ」


 そんな会話を二人がしている中、W.Cとかかれた扉から一人のくたびれたジャケットを羽織った金髪の男が出てくる。


「ふぅーっ、快調快調……ん?」

「お、おい、お前ずっとトイレにいたのか?」


 大柄な男が問いかけると、右手が妙に大きな金髪の男は状況に気付いたのかハッとした顔になる。


「これ、まずくね?」


・・・


――数十分前

 金色の短髪、工業用の油がかすか臭うくたびれたジャケット、何が入っているのか歪に膨らむウエストポーチ、そんな見る人全員に少し貧乏くさく、どちらかといえば犯罪者に見える男、藤見ふじみ 正義まさよしは国営銀行のトイレにてヒーロー連盟からの電話を受けていた。


『藤見!今どこにいる!』

「え?レナードですけど?」

『レナードで国営銀行で強盗だ!すぐに向かえ!』


 電話から鳴り響く怒号とは対照的に男は変わらず能天気な声を上げながら携帯電話を顔と肩で挟みこみ、備え付けられたトイレットペーパーをガラガラと音を立てながら手に巻きつけていく。


「へい、しょーちしましたっよっと……場所は?」

『国際通り沿いの国営銀行1号店だ!』


 電話から響く声を聞くと、藤見はトイレットペーパーを手に巻きつける行動を停止させる。


「あのー……、俺今そこにいます」

『……まさか、捕まっているのか?』

「いえ、捕まっては『なら何してるんだ!今そこには強盗が来てるんだぞ!』」

「いえ、その、下痢で……」

『……はぁ、とにかく今そこに応援を向かわせるからそれまで時間を稼げ。お前なら最悪撃たれてもお前は大丈夫だろ』

「撃たれてもって俺は――」


 藤見の言葉が終わる前に通話は終了する。藤見は大きなため息を一つ吐き出した後に再びトイレットペーパーを巻き取る作業へと戻る。


「……痛みは感じるんですけど」


 金髪の男――ヒーロー連盟の一員である藤見正義は特に焦ることなく、落胆した声を上げた後に汚れた部分を拭き始める。しかし、そんなのんきな行動とは裏腹に最も安全に解決する方法をを思案し始めた。


・・・


「お、おいおっさん、手を後ろに回して後ろを向け!」


 小柄な男はそう言ってダラダラとトイレから出てきた藤見に拳銃を向ける。藤見は特に何をするでもなく両手を上にあげる。


「おっさんかぁ……、銀行強盗なんてやめた方がいいぞ。あと、銃はやめろ」

「じ、銃はきかねぇってか?」

「撃たれりゃ痛いに決まってるだろ。お前しらねぇのか?撃たれた後に弾が中に残ったら激痛がずっと続くんだぜ? それに折れた肋骨が刺さった日にゃぁ……あー、思い出したら痛みが」


 藤見は肩をがっくりと落としながら大きなため息を盛大に吐き出す。しかし、それでも撃たれたくないのは真実のようで、手はしっかりと上へと上げられていた。


「とにかくやめろって強盗なんか、な?金なら貸してやるからさ」


 そう言いながら 藤見は臆することなく一歩踏み出す。すると、大柄な男も拳銃を藤見に向ける。しかし、その拳銃を持つ二人の手はよく見れば震えているのがわかる。


「う、動くな!動いたら撃つぞ!」

「おいおい、手が震えてるぞ、ほら、ホントはそんなことする柄じゃないんだろ?」


 そう言いながら藤見は諭すように言いながらさらに一歩前にでる。


 が、その瞬間――


「く……くるなぁーーー!!!」


 乾いた2発の銃声が銀行内部で鳴り響く。


「あっ……あー、てめぇ」


 藤見が胸部左側の心臓のあるだろうに二つの穴をつくり、倒れる。藤見の周辺にはその間を空けることなく赤い水溜りができ始めた。


「死んだ、死んだのか?」


 大柄な男が声を出す。しかし、その声は体格に似合わずまるで赤子のように震えている。


 恐怖のためか、はたまた脅しのためか、人質も銀行強盗も皆張り詰めた顔で金髪の男を伺う。


(……ああ、またやっちまった)


 藤見は重たげに右手を動かし、大きさでいえば小さな、しかし人間の身体の機能を奪うには十分な自身に開いた二つの穴を確認する。傷口からは未だに血液が流れ出している。


「こ、こいつが悪ぃんだよ! 動くなっつっても動くからっ!」

「で、でも兄貴!「いっでぇぇぇ!!!」」


 藤見がが大柄な男に話しかけた瞬間、撃たれたはずの藤見が叫びながら起きあがる。しかし、激痛に顔を顰めながら起き上った藤見の胸元からは、人間が起き上がれるとは思えない状態であると素人でも分かるほどの大量の血液が蛇口をひねったかのように噴出される。


「いってーなお前ら…… 俺じゃなかったら死んでたぞ ……あー」

「お、お前……何者だ!」

『この銀行はヒーロー連盟が包囲した! 大人しく投降せよ!』


 藤見の返答を待たずに外から拡声器を用いたと思われる声が銀行内に響き渡る。


「あ、兄貴、どうしましょうか?」


 小柄の男が動揺のせいかうわずった声で大柄な男に話しかける。


 屋外の拡声器での声が響く中、藤見は二人の視線が外れたのを確認したのち、藤見はウエストポーチから取り出した黒く丸い球を人質とは逆の二人の男の側の窓へと投げた。

 瞬間、藤見の投げた黒い球が爆発し、鉄製のシャッターに大きな穴が開く。その爆風を受けた男たちは受付のカウンターへと叩きつけられ意識を失った。

 人質が唖然としている中、爆風により立ち上る埃の中から一人のスーツ姿の男が銀行内へ入っていく。


「負傷者なしとは……すごいなお前」

「俺が……怪我……してんだろ……」


 そう、男が話しかけると藤見はまるで友人に話をするように返事をし、仰向けに倒れ伏した。


「別にいいじゃねぇか、不死身なんだし」

「もう……むり……」


 藤見正義34歳、独身。

 現在ヒーロー連盟に加入して8年たつヒーローであり、能力持ちである。

 その能力は例外はあるものの、どんな傷を受けても生き延びる不死身に近い再生能力の持ち主である。

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