君は常識を疑うべきだ
ネタ帳がわりの短編なので尻切れトンボです。
それでもよろしければどうぞ。
彼はパーフェクトである。
完璧である。
超人である。
万能である。
十全である。
無欠である。
私はチートである。
詐欺である。
不正である。
凡人である。
未全である。
虚像である。
私は簡単に言えば転生した、という事なのであろう。
何故前世の記憶があるのか分からないけれど、そういう事なのだと思うことにした。
というか、「転生チートとかできちゃう?やっちゃう?いやっふぅ!」とか馬鹿な考えに支配されていたのでいつ、どこで、だれが、なにを、なぜ、どのように、なんて疑問は1ミリも考えなかった。
そう、私は愚か者であったのだ。
私が愚者であることを分からせてくれたのは彼であった。
大した努力もせずに色々できてしまう現状を「便利な知識もってるしー、結構良い所の家に生まれたしー、なにこれ余裕?」なんて愚かでは片づけられない考えで幼少期を過ごしていた私の伸びに伸びた鼻を切ってくれた。それはもう見事にスッパリと。
今世の父母に友人の子供として紹介された彼。
見事なプラチナの髪の美少年に「ハーフの美少年キタコレ。ありがち設定?はいはい、おねえさんですよーこわくないですよー」と思いつつ彼に笑いかけた。
その場にはその他にもたくさんの子どもがいた。子ども同士で遊びなさいと庭に放逐されたガキ共が大人しくしている訳はなく、ギャーギャーキャーキャー騒いでいる中で彼はひとりだった。
一緒に遊ぶというより子供たちの面倒を見る感覚でいた私はそんな彼にも声をかけた。興味無さそうにしているのを遊びに誘い、ゲームをし、そして、全てにおいて負けたのだ。
自分が子どもに負けたことに最初は呆然としていた。たがその次に自分の驕りを恥じた。
どれだけ見た目が子どもだろうが大人なのだ。だから、負けるわけが無いと思っていた。
大人と子どもの勝負で大人が本気を出せば子どもが負けるのは当たり前で、その当たり前を私は自分の力として当然のように受け入れていたのだ。
自分が愚か者であることに気が付いた私は教えてくれた彼への感謝を忘れ、自分の浅ましさに悶え、引きこもりを選択した。
「私バカだ!大バカだ!!なにやっちゃってんのいやぁああああああ!」とベッドの上で包まっていた。
引きこもって、悶えて、やっと彼に感謝を伝えれたのはそれから1ヶ月も後。
本当に、私は愚かである。
それからは自分の力に驕ることをやめた。
出来て当たり前なんてことはないのだ。
今まで天真爛漫だった娘が謹厳実直になったような変わりぶりに両親は心配をしていた。
「そこまでしなくていい」
「そんなに頑張らなくていい」
「もう十分だよ」
色々言われたが、私は頷かない。
当たり前なんてことはないのだから。
そんな私も花の高校生になった。
感謝を告げてからは一度もあっていなかった彼とも、高校で再会することになる。
入学式の前に新入生代表を務めるために前日に学校へ伺ったときに彼を見かけた。
彼は変わっていた。
無表情で表情筋が働いていなかった顔は柔和な笑みを浮かべていた。
誰にも興味を示さなかった態度は誰にでも声をかける優しい態度に。
彼は変わっていなかった。
全てにおいて完璧である事だけは。
成績優秀で運動神経もよく常にトップである。
変わっていたことに驚いて、変わっていなかったことにホッとした。
何でもこなす彼が性格まで明朗闊達になったのならまさに完璧ではないか。
そしてその隣には楚々とした美人で素敵な彼女がいるのなら、なおさらに。
ここでも私は反省した。
彼は変わっていないと勝手に思っていたことに。
もう再三に当たり前なんてことは無いと自身に言い聞かせてきたのに。
大丈夫、反省はしても私は引きこもらない。これでも少しは大人になったのだ。
ここからは考えは改めよう。
一つ年上の彼は生徒会でトップである統括であるという情報は前々から入手していたため入学後は生徒会の手伝いを積極的にしようと思っていたが、路線変更である。
縁の下の力持ちとして少しでも彼を支えるのならば風紀がいいのではないだろうか。
良いところの子息、子女が通っている学校ではあるが別に生徒会と風紀が仲悪いとかは無い。
「えー対立とかないの?生徒会と風紀なんていがみ合いがテンプレじゃんかー」なんて思ってない。思ってないぞ。
…コホン。まぁなんにしろ仲悪いなんてことはなく、協力体制が出来ている。
リーダーシップを取っていくのはもちろん生徒会であるから風紀はそれを裏から支える立場として成り立っている。風紀の下にさらにその他委員会が着いていく感じである。
やはりここは風紀の選択で良いと判断した私は先生方との打ち合わせをし終わったその足で風紀の門を叩いた。
「失礼致します」
「はーい」
元気の良い返事とともにドアを開けてくださったのは風紀副長ではございませんか。
わざわざありがとうございます。
「あれ、君…」
「お初に御目文字つかります。今年度入学者の斎条由紀菜と申します」
「知ってるよ。新入生代表を務める才女だもん」
「お褒めに預かりありがたく存じます。つきましては私を風紀へ入れていただけませんでしょうか」
「え…えぇ?」
何をそんなに驚かれるのでしょうか。やはり私の能力では足りないのでしょうか。
当たり前を当たり前と思わず、自分なりに努力をしてきたけれど、中身はただの人ですものね。
所詮は紛い物。本物にはなれません。悔しくないぞ。ぐすん。
「えーっと、まずは中で話そうか」
「はい」
風紀にあてがわれている部屋は程よい広さで清潔感もあります。
中には副長および総長もいらっしゃいました。
他の方が見当たらないのはお仕事なのでしょう。
「お忙しいところ申し訳ございません。お初に御目文字つかります。新入生の斎条由紀菜と申します」
「ご丁寧にありがとう。風紀総長を務めます。明瀬莉南です」
女傑っていいね。素敵やわ~。
大和撫子が風紀総長っていうギャップがまた良い。
「俺は三科則杜。風紀副長を務めてます」
「では、自己紹介はこの辺にして、斎条さん、風紀に入りたいとの事だけれど」
「はい。風紀は他の委員と違って志願制とお聞きいたしまして。お恥かしながら私の微力でも力となればと思い、志願に参りました」
「でも斎条さんは生徒会からお声がかかっているのではなくて?」
「私も新入生代表を勤めさせていただけるほどには勉学をしてまいりましたのでそういったお声をかけて頂いたのは事実です。ですが、生徒会はその…恐れ多くて」
そう、私のような虚像が紛れ込むのには眩しすぎるのだよ、あの空間は!
キラキラしいあの場所のトップには完璧なる彼とその彼女様。
あ、ダメだ。私が画面の端にでも映ってよい立場ではない!!
彼女様以外にも生徒会の面々はどの方も素晴らしいの一言。生徒会には裏方とか必要ないよね。
「それと、元来私は縁の下の力持ちといいますか、裏方が好きなもので。あ、これは決して風紀を蔑んでいる訳ではございません。その場所、その位置なくしては成り立たないものですから。私は目立つことの無い所で力を使いたいのです!」
「なるほど、お気持ちは分かりました。良いでしょう。斎条さん、風紀は貴方を歓迎します」
「ありがとうございます!」
良かったー。新入生代表だし、それなりの家の出だし、拒否される可能性は低いと思っていたけれど何事も絶対はありえないからね。
「本来ならば志願制であっても試験があるのですが、推薦があれば別ですからね。斎条さんなら先生からの推薦はすぐに得られるでしょう。後はここにいる副長からの推薦をもらっておきなさいな。私からでは角が立ちますからね」
「よろしいのですか?」
「いいわ。ねえ、三科」
「もちろん。斎条さんなら即戦力になると思うし」
「ありがとうございます。その評価に恥じないように務めてまいります」
「…とても、楽しみね」
「明瀬総長、何かおっしゃいましたか?」
「いいえ。何でもないわ。では、明日の入学式後もこちらへいらっしゃい。他のメンバーを紹介するわ」
「はいっ」
意気揚々と退室した私は明るい未来に向かって歩めることに胸がいっぱいになっていた。
◇
「今更だけど、いいのかな」
「何がかしら?」
「だって、彼が黙ってないでしょ」
「でしょうね」
「じゃあ何で認めたの?」
「ミスターパーフェクトをからかいたいのよ」
「…あ、そう」
ありがとうございました。
いつか連載にできたらいいな。