決着
試合開始時間から約十分。今までの試合でもそれ以上の試合は勿論あった。だが、それでもここまで白熱した試合はなかった。見る者は皆、固唾を飲んで新月 雫とアリアナ フローラの試合を眺めていた。
『‥しずく。雫。雫ってば!!』
背中からそんな声が聞こえた。
『そろそろ起きてよ。じゃないと僕ももう限界だよ‥。』
「・・・?ん?‥あ‥あぁ!!悪いデビト!!」
どうやら僕は気を喪っていたようだ。デビトの必死な声掛けでどうにか意識を取り戻せれたが危なかった。
「ん?てか、何でお前はそんなに必死なんだ?」
『そんなの雫が僕に乗ってるのと、この力を長時間使用しているからに決まってるでしょっ!!早くどうにかしてよこの状況!!』
「は?この状況?」
言われてみればそういえば?と思う。
僕は何故か空が近い。その状況をゆっくりとだが思い出した。
「そうか!お前は僕を‥。ありがとう。」
『お礼はいいから早くしてよ!じゃないと僕も雫も死んじゃうよ!!』
「いやぁ、まぁ、そうだな。分かった。取り敢えず下に降りよう。」
試合の勝敗は確か降参を訴えるか戦闘不能・気絶になるかのどれか。こんな上空でその判断も曖昧な状況では既に試合が終わっている。その可能性もあるわけだ。急ぐに越した事はない。
そして案の定。
「Winner アリアナ・フローラァァァァァァ。」
などという声が響き渡ろうとしていた。
「待った。待った。まだ僕はやれます。その宣言、待ったぁぁぁぁぁ!!」
フローラさんが出現させた植物の上を駆けながら僕は大声で戦闘可能な事を伝える。
「おぉと。どうやらまだミスター シズクは戦えるようだぞぉぉぉ。ミス フローラには悪いが試合続行だぁぁぁぁぁ!お前ら熱すぎだぞぉぉぉ!!」
マイクス先生がマイクを片手、声を発す。すると試合観戦していた生徒等は我慢できずと言った勢いで席を立ち上がった。
「はぁ、はぁ。悪いな。まだ終われないんだよ。」
地面に足を着けるも早々、僕は彼女を目にやった。耳鳴りはまだない。
「知ってたわよ。私には貴方のソレが防御魔法なのかしら?をするのが見えたから。」
彼女は肩に掛かった髪を振り払いながらそう言う。
「そうかよ。だが、コイツはソレなんかじゃない。デビトって名前のある僕の友達だ。」
「友達‥。そう。魔獣なんかとそんな関係を結んでいるの?本当に愚劣なのね?」
「なんだと‥」
「まぁ、いいわ。私は殺す気でソレを戦るから。」
「ふ、ふざけるな!」
背中でデビトが震えている。彼女の言葉は本気だ。本気でデビトを殺す気でいる。さっきの攻撃もそうだ。先端の尖った植物を僕とデビト共に、突き刺そうとしていた。
無論。殺す為にだ。
「ふざけているのは貴方の方よ!魔獣なんかと組んで人間の敵にでもなりたいわけ?それとも貴方は私達とは違うとでも言うの?」
「うっ‥」
妙に鋭い。まぁ、本気で言っている訳ではなさそうだが。
「まぁ、いいわ。ソレを本気で友と認めるのなら貴方も全力でやることね。さっきまでの私とは違うわよ。」
「は?何を‥」
「ムーブ プラント。」
僕との会話を中断。彼女は両手を静かに地面に置いた。
「うぉっ!?」
彼女が触れたそこから数本の蔦が出現。僕に向かってくる。
「デビト。とにかく空に回避だ。‥って、デビト?」
声を掛けたのに反応がない。その為、自身の足でその蔦を回避…ができない。まるで生き物のようにその蔦は僕を追跡し、向かう。
「まさかさっきのこと気にしてんのか?」
追跡植物もどうにかしたい問題ではあるがそれよりもデビトの方をどうにかするのが先である。僕たちは二で一。しかも相手は強敵だ。それぞれが全力を出さなくては勝てる相手ではない。
「大丈夫だ。他はどうであれ僕はお前を裏切らない。だからこの勝負、勝とう。勝ってドヤ顔で彼女の前に立ってやろうぜ。」
『‥し、しずく?』
顔など見えないが今、デビトがどんな表情をしているのかは何となく分かった。
「とにかく今はこの蔦をどうにかしたい。上に逃げるぞ。」
『う、うん。分かった。その‥ありがとう。』
「おう。」
デビトの声が通常に戻っていた。それに一つ胸を撫で下ろし、足裏に力を籠める。
バッ!と高らかに跳躍。どうか?という思いで下に目をやる。
「嘘だろ‥」
なんと蔦は下から上がってくるようにこっちに向かってきている。そのスピードもさることながら。
「羽だ。デビト。スピードを上げないと追い付かれる!!」
『う、うん。』
間一髪。僕の背中にまたも純白に光る翼が生える。蔦はそのスピードに付いてこられず、そしてその先にもいけず(長さの問題で)僕達はどうにか彼女が出したソレから逃れられた。
「はぁ、はぁ。まさか、彼女がここまでやるとは‥。どうしようか。デビト。」
『う、うん。そうだね。まさか二種類の魔法が使えるなんて‥』
上空。僕達はやっと息が整えられる。だが、それをしている時間は短い。理由は勿論。審判における判断が曖昧になるのもあるが、大きな理由としてはデビトの問題である。
翼を出し、飛ぶ。それは相当な体力がいるのだ。
「仕方ない。どうせ僕達の戦闘は一つしかない。どうにか彼女に近付き、攻撃を当てる。さっきは不意を突かれたが注意すればあの植物攻撃も問題ない筈。正面突破だ。」
『‥やっぱ、それしかないよね。』
戦闘スタイルが決まればもうここに居る意味はない。まぁ、全く変化はないのだが‥。
とにかく僕達は戦場へ戻る。
「行くぞ、デビト!」
『うん!』
戦場に足を着けると同時。僕達は彼女の元へと全速。全力の移動を開始する。その際、動きを止めていた蔦も動きを再開しだしたが今は気にしない。
そんなモノで止まるような僕達ではない。
「懲りないわね。」
彼女に近付くとそんな溜息が耳に入った。
だが、僕も学習している。同じ技を二度もくらう程、僕も馬鹿ではない。
今だ!!
心の中でそう叫び、僕はおもいっきり地面を蹴り上げる。
ドバッ!!
予想通り。あの時と同じタイミングで地中から大きな植物が出現。だが、今度は僕にそれは当たらない。それを見越してのさっきの加速だ。
が。
「残念。私も同じ技で貴方を倒せるとは思ってないわ。フラワー ストーム。」
「‥え?」
驚きの声と表情が隠せれない。何故か?声は真横から聞こえ、僕の耳を通過したからだ。
「ぐっ‥」
横から放たれた鋭利に尖った花の数々。それに体の至るところを削られる。しかもそこに追撃中だった蔦も追い付き、僕の両腕、両足を縛り、吊るし上げる。
「とどめ。ギガント プラント。」
そう言って彼女が地中から出現させたのは木で作られた大きな手。それが握られた状態で身動きの取れない僕へ的中。
「‥ッ。」
ギシギシ。バキッ。
さすがの蔦等もその巨人のような大きな拳には耐え切れず見事、真っ二つに粉砕。その為、僕は拳に押され、高速で壁へと押し潰された。
ドンッ!!
そんな音が土煙を巻き起こし、響く。デビトの防御も間に合わず、僕達は完全にその攻撃を諸にくらった。
「・・・・・・。」
さすがにダメージは強。だが、僕よりも背中にいたデビトの方がダメージは大きい。安否の確認は自分自身、ダメージが大きい為にできないが動きがないところを感じるとそれは深刻な問題なのではないかと心配になる。
「おぉと。段々、煙が晴れてきたぞぉぉぉぉぉ。ミスター シズクはどうなったぁぁぁぁ。」
響くマイクス先生の声。辛うじて意識が残っていた僕にはその声が微かに聞こえた。
「‥はぁ。た、立たないと。」
正直、骨が何本か折れている。だが、そんなのは些細なこと。
勝つ。
それが僕達の目的で夢だから。
「おぉと。ミスター シズクはまだ健在だぁぁぁぁぁ!だが、あまり無茶はするなぁぁぁぁ。」
土煙が晴れ、僕の姿が顕になる。
息は荒く。今にでも倒れそうな僕の姿を見れば誰だって思うだろう。無茶をしていると。
「驚いたわね。。まだやるつもりなの?そんな体で?それともようやく全力で戦う気になったのかしら?」
既に余裕の表情を顔に刻んでいる彼女。デビトの意識が分からない状況ではそこに立つ彼女が本物なのかどうかも分からない。
「はぁ‥はぁ。‥鍛えてあんだよ‥。それより、あんた本物なのか‥?」
そう質問したのは先刻。翼を持って突っ込んだ際、彼女の体が本物のソレではなかったからだ。それは言うなれば分身。彼女は自分に似せた植物分身を創り出し、僕を騙した。それに気付けなかったのは僕達が勝負に急いでいたとしか言いようがない。
「ふふ。私は本物よ。どうせ今の貴方には何もできない。教えるわよ。そんなこと。」
完全に自身の勝利を確信している。余裕の笑みは一層に増し、彼女は髪を振り払う。
「そ、そうかよ‥。」
実際、彼女の言う通りである。今の僕にはこの状況をどうにかできる知恵も力もない。加えて彼女は二種類の魔法を一つずつ使うのではなく同時に使うときた。打つ手がない。
「おい、デビト。おい!」
悪い予感はしているが万が一の事がある。僕は背中に手をやり、そこにいるであろう相棒を呼んでみる。‥のだが、やはり反応がない。
「ねぇ。早く本気を出したらどうなの?」
「はい?」
僕が必死にデビトを呼んでいるとそんな舌打ちするかのような声が耳に届いた。
「その腰にぶら下がっているのは飾りなの?」
「あっ‥いや、これは‥。」
彼女が指差したのは僕の両腰にぶら下がっている二本の魔剣。名をモノクロ。
「遠慮でもしているわけ?自分の友が殺されるって状況なのに?やっぱ、貴方にとってソレはその程度ってことなのね?安心したわ。」
そう言い終わって彼女は薄く笑った。それに腹が立たない訳がない。
「お、お前‥。分かったよ。そんなに死にたいなら抜いてやるよ。」
僕がここまで二本の魔剣を抜かなかった訳は単純。相手を傷付けたくなかったからだ。それにこれは魔剣で剣である。万が一でも相手を殺してしまう恐れがある。だから僕はコレを抜かなかったのではなく、抜けなかったのだ。
だが、しかしこうまで相棒を罵倒された。それは僕にとって、怒りの対象。
『‥駄目だよ。雫‥。それを使っちゃ‥』
「え‥?」
二本の魔剣の柄に手を置いた瞬間、弱りきった小さな声が僕の怒りを和らげる。
『その剣は人に使っちゃ駄目だって言ったでしょ‥。僕達はこの世界で一番になる。人殺しになりたいわけじゃない‥でしょ?』
「あ、あぁ‥。」
その弱々しい声で僕は正気に戻る。確かにこの剣を使えば二種類の魔法を使う彼女にだって勝てる可能性はある。だが、それは勝つのではなく殺す。そんなのは勝利とはとても言えない。
「ごめん。頭、冷えた。この剣だけは今日、使わない。」
『‥うん。』
背中で頷くデビト。その行動のせいで一々、背中がムズくなる。
「ん?どうしたのかしら?やはりソレは飾りかなにかだったのかしら?それとも使えない理由でもあるの?」
手を触れてそれを離した。そんな僕の行動に疑問を抱いたのか。彼女は見下ろすような姿で声を発した。
「まぁ、そんなところだよ。コレは今日、使わない。コレに頼らずともあんたに勝つ!」
「フンッ。何それ?酷く不愉快だわ。」
彼女はゴミを見るような目で僕を見る。そして手を前に突き出し、一声。
「フラワー ストーム。」
前回同様。風魔法と植物魔法の合わせ技。吹き、舞い、向う花弁の一つ一つはまるで尖ったナイフの先端である。
「デビト‥」
『う、うん。』
見えなくても分かる。今、背中で荒い息を吐いている相棒はもう魔力。体力。共に限界がきている筈。このままでは完全に負ける。
「フンッ。どこまで逃げられるかしら?ムーブ プラント。」
殺傷性強の花吹雪に続いて更なる追撃。無くなっていた数本の蔦がまたも地中から姿を見せる。
『し、雫。ごめん。もう‥魔力が。』
「は?え?嘘!」
体を光らせ、加速を可能にして何とか彼女の攻撃を避けていた。だが、遂にそれも限界がきたようだ。
「くっ‥」
背中の輝きが失われ、減速した僕達を狙ってか素早い動きで蔦等が向かってくる。必死に走り、何とか回避を試みる。だが、僕だけの足ではやはり無謀だった。捕まり、縛られ、吊るされる。
「え?ちょっ‥待ったぁぁぁぁぁぁ。」
先端の尖った花弁に皮を剥ぎ取られ、血を流させられる。それが直ぐに止めばいいのだが一向に止む気配がない。僕にはソレに抗う力もない。ゆえ、 当たり続けるしかないのだ。
ここで終わりか?
意識が無くなりかけ、見える視界もぼんやりとしてきた頃、そんな思考が頭に過ぎった。
背中のデビトはどうだろうか?もう、気を喪ってしまっただろうか?
不思議なものでこんな状況にも関わらず、僕はこれまでにないほどに落ち着いていた。人間、死ぬ瞬間は冷静にいられるのかもしれない。こんな状況は前にもあったような気がする。
ズバババッ‥
音は止まない。だが、感覚はほぼない。痛みも苦しみも。全てを感じない。
どこかでノエルが叫ぶ声がする。あぁ、後で謝っておかなければ。心配掛けてごめんと。まぁ、それができればだけれど。
「‥あぁ。短い夢だった。」
誰にも聞こえない程の小さな声だった。だが、その声は誰かには聞こえていた。
『‥駄目だよ。諦めちゃ‥。雫。』
瞬間。僕の目前に黒い光‥盾が現れる。
『僕は諦めない。だから‥だからそんな弱々しいこと言わないでよ。』
デビトは背中から体の前。胸らへんに移動して、必死な声を魔力と共に絞り出す。
それまでダラーンとしていた僕であったが、その言葉で少しだけ意識を取り戻せれた。
が。それでもこの勝負に勝つとかそういう思考はもう殆ど無かった。取り戻したのは意識だけであってそれ以上は何もない。
降参でも申し上げれば死ななくてもすむ。
そんなモノを思い出し、取り戻しただけだった。
「‥こ、こう」
『雫!僕達の夢をこんなところで終わらせちゃ駄目だよ!』
殆ど死にかけで手を挙げ、降参しようとした瞬間、デビトの叫ぶような声が耳に煩く響いた。
『僕は‥僕は見たいんだ。世界の頂上。誰も何も言ってこないそんな所。僕は見たい。』
言う言葉には何か意味がありそうだ。だが、それを訊いている時間が今はない。それでも僕同様で死にかけの相棒がこうまで言っている。それがどんな事なのかくらいは分かる。
もう少しだけ頑張ってみたい。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。」
ダラーンとぶら下げていた腕に力を込め、縛られていた蔦に音を軋ませる。
「今更、何をする気?」
それまでつまらなそうに眺めていたアリアナ フローラ。その彼女がまたつまらなそうな言葉を吐く。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。」
声を挙げ、腕に力を込める。僕は懸命に動きを取り戻そうと試みた。 そしてそれは遂に‥
バキッ。
豪快な音を撒き散らして腕を縛っていた二本の蔦が折れた。後は足を縛っているその蔦だけ。
『雫‥。本当にもう魔力が‥』
「分かってる。時間がないんだろ?」
とは言ったが今もなお続いている花吹雪を受け、足の自由を取り戻すことができるとも限らない。今から足に力を込め、蔦を折るにしてもそれなりの時間は要する。
となれば仕方がない。
「デビト。四の五の言ってる場合じゃない。さっきはああ言ったが使うぞ。」
『え‥あっ、うん。分かった。』
僕はデビトの返事を聞く前に二本のソレに手を掛けていた。
「じゃぁ、魔力を頼む。」
『うん。』
ガシャンッ!!
抜かれた二本の魔剣は刀身に輝きを見せる。が、輝きはそれに収まらず。更なる輝きを放った。
「りゃぁっ!」
ザザンッ。
高速で二本の魔剣を振るい、足に纏わり付いていた蔦等を一掃。僕は地面へ足を着けた。
そこにすかさず川の流れのように向かってきた無数の花弁。だが、それすらも僕は手に所持する二本の魔剣で斬り落とす。
「はぁ‥はぁ。はぁ‥。」
さすがにキツイ。ダメージは多大。気を抜けば膝が折れ、その場に倒れてしまう。それでも何とか立ってはいられる。
「ようやく全力を出す気になったようね。」
攻撃の手を止めた彼女は薄く微笑む。
「はぁ。はぁ‥はぁ。」
何か言い返そうと思うも疲れか、限界かで頭が上手く回らない。
「まぁ、いいわ。貴方がどれほどできるのか確かめてあげるから。来なさい。」
言って彼女は地面に手を置き、そこから例が如く、蔦を出現させた。
その蔦はまるで地中から這い出た土砂竜みたく長く、ユラユラ動いている。
『‥雫。雫に送って上げられる魔力が本当にもう空になりかけてる。時間はそんなに掛けないで。でも、ちゃんと手を抜くんだよ。斬っていいのは蔦と来る技だけだからね。彼女は斬っちゃ駄目だよ。』
「あぁ。知ってるよ。」
デビトに言われるまでもない。今、両手に握る二本の魔剣。モノクロの斬れ味は言葉で表せれない程に強力である。先程、斬った蔦に至っても斬った感触がない程のものだった。
重量は馬鹿にならないがそれに見合ってのこの力。この剣には斬れないものがない。そう思う程だ。
「一気に決める。」
強力な剣であるからか?それに乗ずる魔力量も半端ない。生憎、僕には魔力というものがない。その為、ソレはデビトが供給してくれるという形となっていた。
しかし、ここまでの戦闘でも分かるがデビトに残されている魔力は殆どが空。魔剣を抜いたのはいいが時間は変わらず。魔力が流れない剣では彼女が繰り出す技に対応できるかどうかが分からない。
僕達の体力的な面から言っても勝負はこの一手に賭けるしかない。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
今ある全ての力を足裏に。握る手に込めて駆け、向う。
その間、来る数々の植物等。それは高速な剣戟で一掃。風が如く、彼女の元へ駆け、走る。
「ちっ。思った以上に速いわね。」
余裕の表情だった彼女の顔が遂に曇り始める。
「アルゴス プラント。ラムページ プラント。」
彼女は僕との距離数メートルとなったその時、体中を魔力で覆い囲み、地に手を置いた。
ドバッ。
「うおっ‥」
大きな音が放たれ、次に現れたのは大きな巨人。植物の蔦が何十・何百。何千と集まりできた巨人は彼女の守護神が如く目の前に立ち塞がる。
更に彼女は自身の周りを鞭のように暴れ狂っている植物の蔦で守りの体制を完璧にしていた。
前に巨神兵。自分は何人たりとも近付かせぬと言わんばかりの鞭打つ蔦の籠の中。完全に僕の自滅を狙っている。
だが、今のぼくはこの一手に全てを賭けている。
「こんなもので僕を止められると思うなよ。」
眉を吊り上げ、握る二本の剣柄を強く握り直す。スピードは緩めない。逆に加速さえさせる。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ‥」
声を高らかに上げ、巨神兵が振るってきた蔦による拳に立ち向かう。
ガッ!ザザザァァァ‥
一度、動きを止めはしたがそれは一瞬。輝く剣は巨神の手から腕。そして頭に向う。立ち塞がった巨神などこの剣の前ではダンボール箱と相違ない。
「なっ‥。」
頭上。彼女が驚く顔がよく見えた。だが、彼女は鞭打つ植物の中。その速さは異状で当たれば痛いだけでは済むまい。
が、今更引けない。
「デビト勝つぞ!」
『うん!』
見えない者同士で声を交差。背中には翼が生える。デビトもこれに全てを賭けているのだ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‥」
スピードマックスの降下。下には鞭打つ植物。それが既に横にある。
ザンッ!
横から向かってきたソレを直ぐに切断。僕は彼女の足元へと潜り込んだ。
「あっ‥えっ‥?」
さっきまで上空にいた者がいきなり足元に現れた。その事態に彼女は混乱を隠せれない。
勝つ!
僕は握る剣を横に振るう。狙うは彼女の首。 …だが、それは彼女には届かない。
彼女の怯えた顔。その顔を見て僕は気付いたのだ。コレを完全に振るってしまえば彼女は死んでしまうと。
だが、剣は既に彼女の首を捉えている。今更、軌道変更はできない。だから‥。だから、僕は後ろへと跳躍した。
「ぐっ‥」
鞭打つ植物。それらは一本を失っただけで何十本は健在していた。そして運悪くも後退したその直後、僕は高速に動く蔦を諸にくらってしまった。
ドンッ!!
もの凄い速さで吹っ飛ばされ、壁へと衝突。元々、限界だった体にこのダメージ。無論、立てる筈もなかった。
薄れゆく意識。マイクス先生が何かを言った後、確かに通り入った言葉。
「Winner アリアナ フローラァァァァァ!」
騒ぐ生徒等の声が徐々に遠く感じ、僕の意識はゆっくりと遠のいた。