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魔法世界で剣を握れ  作者: Dk
5/6

強敵

クラス決めのトーナメント戦は順調に進み、それぞれの一回戦は一日を持って終わりを迎えた。あんなに言っていたノエルも無事、一回戦を突破。泣いて喜んでいた。

 かくして夜も終わり、朝を迎えた今。クラス決めの第二回戦が行われようとしていた。


 「だ、大丈夫ですかぁ‥?雫さんも分かっているとは思いますが相手は強いです。」


 二回戦の初試合。その試合は僕が出る事となっている。まぁ、正確には僕とデビトなのだが‥。


 「うん。大丈夫だよ。それより相手。フローラさんだっけ‥?どんな魔法使うの?あまりに早く試合終わったんでよく分からなくて‥。」


 まるで自分の試合のよう、心配してくれているノエル。そんなノエルに僕は表情を緩めて問いを投げた。


 「あ‥はい。えっと…でも‥。すみません。私もよく分からないです。試合が始まったかと思った瞬間、相手の方がいきなり後方へ飛ばされて‥。そのまま試合は終わってしまって…。」


 「ん?でも、詠唱くらいはしていたんじゃないのか?」


 魔法に関しての知識は皆無の僕だがそれくらいは分かる。詠唱で大体どんな系統魔法を使うのかという事も。


 「あ…いえ。それがその‥フローラさんはその詠唱もしていなかったんです。だから、私には何がなんだか‥」 


 それから物凄い速さで「すみません。すみません。」と頭を下げるノエル。。その姿には若干だが慣れつつある。


 「そうか‥。相手に関しては何も分からずか‥。」


 別に相手の情報を把握してその相手に合わせて戦術を組むなどとは考えていない。だが、相手は自分達の事を全てではないだろうが知っていた。これではフェアとは言えない。


 『まぁ、まぁ。雫、言ったでしょ。今日は全力でやろうって。敵がどうであれ関係ないよ。』


 「あ、あぁ。‥そうだな。」


 既に背中へへばりついているデビトが僕に励ましの言葉?を送ってくれる。

 程なくして時刻は試合開始の時間へと針指す。


 「じゃぁ、僕は行ってくるから。」


 「は、はい。頑張って下さいね。私なんかの応援じゃなにもないですが‥。」


「はは。そんなことないって。ありがとう。」


 相変わらずの彼女に声を残し、僕は試合が行われる階下へ向う。 と、その最中。下に続く階段のその場所で。


 「おはよう。今日はバックを掛けていないのね?」


 今日も綺麗な金髪を後ろへ流す彼女は一声。試合の挑発だろうか?声を掛けてきた。


 「あ、あぁ。あなたも言ってたからね。全力を出せって。だから、今日は勝つよ。」


 「ふんっ。精々、尽力を尽くすことね。(にわか)の魔力なんかでは絶対に私に勝てないって事を証明してあげるから。」


 そう言い切ると彼女。アリアナ・フローラさんは一足先に試合会場へ向かった。


 「やっぱ、完全にバレてるか‥」


 『そうだね。魔力も相当だし‥』


 早くも現れた頂点への壁。僕たちはそんな壁に悲観的な意見を交差させる。が、それは当たり前。世界の上がそんな簡単な訳がない。


 「まぁ、なんにせよ。行こうか。」


 『うん、そうだね。僕達は二で一だからね。』


 「あぁ。」


 気持ちを切り替え、僕達も彼女が待つ会場へ向う。背中にはデビトの震えが。僕もそれに同じで体が震えている。

 だが、これは恐怖なんかではない。これは‥そう。これは強敵を前にする戦闘への武者震いというやつだ。

 …と、まぁ。そう思うことにした。


 ―


 「おはようさぁぁぁぁん。昨日はよく眠れたかぁぁぁ?寝不足?そんなの言い訳にもなんないぞぉぉ。さぁて、今日は朝から戦闘だぁぁぁぁぁ!お二人さん、準備はいいかぁぁぁぁ??」


 今日も朝から派手な声を響き、聞かせる虹色アフロ。マイクス先生。だが、僕達にそんな声は届いていない。

 否。僕とデビトにはだ。


 「こ、これは‥?」


 『ノエルちゃんが言ってたけど昨日の相手はこれを試合前にやられてたんだ‥』


 「くっ‥まさか試合前から試合が始まっていたとは‥」


 笑えない。


 「試合ゴオォォォォォォォォ!!」


 僕達には聞こえなかったが試合開始の合図が発せられる。それが僕達にも分かったのは次の現象が起きたからだ。


 「うっ‥」


  突如きた圧力。僕はそれに何の対応もできず、真正面から受ける。


 「貴方はこれだけでは終わらないでしょ?」


 後ろへ吹っ飛んでいた僕に彼女は更なる追撃を放つ。というよりも彼女自身が僕に追い付き、自身の前脚を繰り出した。


 「‥ッ。」


 その蹴りは彼女の見てくれからは想像もできない程の重い一撃。まるで鞭を打つように放たれた前脚は勢いに乗っていた僕を後ろ正面の壁へ瞬時に叩きつける。


 ドンッ!!


 響く音。試合を見る生徒等の視線が僕に降り注がれる。


 『大丈夫?雫?』


 「あぁ、おかげさまで‥。」


 本来なら背中を後ろの壁に強打するところだったがデビトの黒色の光による防御でそれは無くすことができた。

 だが、ダメージが無い訳ではない。


 『間違いないね。彼女の魔法。』


 「あぁ。間違いなく彼女は風魔法の使い手だ。」


 「驚いたわね。まだ、意識があるなんて。少し見くびっていたわ。」


 今度はゆっくりと歩き、口を動かす彼女。今の声はしっかり耳に届いていた。


 「彼女は間違いなく強い。けど、そこまでじゃない。あのスピードも僕達の方が速い。デビト。」


 『うん。』


 油断している今なら早々に勝負を決められる筈。直ぐに立ち上がり、デビトも直ぐ、体を輝かせてくれる。


 ダッ。


 地を蹴り、向うは彼女の背後。前の試合同様に首筋に手刀を入れる寸法だ。ただし、今のスピードは昨日の比ではない。


 「よしっ。」


 数秒も掛からず、彼女の後ろを取る。後はその首元に一撃入れるだけでいい。

 のだが。


 「なっ‥」


 手刀を繰り出そうとした瞬間。彼女の回し蹴りが僕の横腹へ的中。僕はまたも吹き飛ばされる。


 ざっ。ざざざざざぁぁぁ。と足裏を滑らせ、勢いを殺すが彼女の攻撃がアレだけで終わる筈がなかった。

 

 「くっ‥」


 またも来たのは凄い速さの風圧。僕の体はさっきとは違う壁へ送られる。


 「な、なんで?あのスピードを目で追えたとでも?」


 既に息を上げる僕は有り得ないと、遠くに映る彼女に目を移す。


 『いいや。違う。彼女は僕達の動きは見ていなかった。彼女が集中したのはその後。雫が彼女の後ろに回った時だよ。』


 「そ、そうか。僕が出す手刀にはデビトのスピードは加わってない。だからそこを狙ったのか。」


 『まぁ、そういう事だね。しかも彼女は自身の周りに風の防壁を張っていた。だから、どちらにしても雫の攻撃は弾かれてたんじゃないかな。』 


 「なっ‥成る程。」


 僕はゆっくりとこちらに向かってくる彼女を目に、少し考える事にした。

 現状。アリアナ・フローラは二つの魔法を持続させているということになる。一つはさっきデビトが言っていた風の防壁。

 そしてもう一つは今もある耳鳴り。背中にへばりついているデビトの声は聞こえるも、その距離が三十センチ以上離れていては全く聞こえない。

 ゆえ、彼女の詠唱が全く聞こえない。それが厄介なのは攻撃を仕掛けてくるタイミングが全く分からないという点だ。

 しかも恐ろしいことに彼女は口を全く動かさない。独学だろう。彼女は腹話術をマスターして自身の技を極限まで高めていた。傍から見ればそれは僕が一人で吹き飛んでいる。そうとしか見えないだろう。


 「くっ‥どうするよ。」


 耳鳴り以前に僕の攻撃が全く当たらないという点も大いに問題がある。


 『とにかく来る攻撃に集中しよう。魔力が放出されたら避けるから。雫はその間になんとか考えをまとめて。』


 「あ、あぁ。それしかないか。」


 言うが早いか早速、彼女が攻撃を仕掛けてくる。

 僕の背中は光り、紙一重で彼女が出した風圧を避ける。


 「ふーん。私の戦闘スタイルに関しては理解したようね。」


 呟く彼女の声は勿論、聞こえない。さっき一瞬、解いてくれた耳鳴りも今では継続している。とにかく僕が今、この状況で考える事は一つ。どうにかして彼女に一撃決める。それに限る。

 正直、風の防壁を壊せるか否かと聞かれれば壊せられるだろう。だが、問題はそこに生じる時間だ。しかも彼女が繰り出す攻撃は自身の脚やら、拳やらに風を纏い攻撃力を上げるもの。くらい続ければ確実に負ける。


 「くそっ。どんだけ魔力があるんだよ!」


 嘆いていても仕方がない。デビトの魔力は乏しい。こうして彼女の攻撃を避けていられる時間は短い筈だ。

 手がない訳ではない。だが、これをここで使うのは勿体無い気がした。彼女はまだ全力を出していないだろうし。先に手を見せるのはどういうものか‥。


 「どうしたのかしら?避けてばかりで、勝負を諦めたの?」


 耳鳴りが止み、彼女の挑発が耳に入る。


 「くっ‥」


 そんな安い挑発で頭を熱くさせるな。


 分かってはいたが焦りは募る。そんな頭を冷やそうと見上げた上空。ドームの天井が開け放たれているそこには快晴の空模様が清々しくもあった。


 「あっ‥」


 そこである考えが頭に浮かんだ。


 「デビト上だ。上に跳ぶぞ!」


 『え?上?‥分かった。』


 それまで幾数もの攻撃を避けていたデビトは背中で頷く。


 「行くぞ!」


 僕は言うと膝を曲げ、上へ跳躍した。

 デビトの力を合わせ、その飛距離は空にでも行くとさえ思えた。 だが、狙いは空への退避ではない。


 「よし、デビト今度は下だ。この真下に全力で僕を向かわせてくれ。」


 『うん。』


返事短く、僕はデビトによって高速でその真下へと送られる。その真下。アリアナ・フローラの頭上に。


 「うりゃぁぁぁぁ。」


 掛け声を長く伸ばし、落下の体制で彼女の首元を確認。そこに素早い手刀を振るう。

 思惑通り。その手は何の抵抗も無しに彼女の首元に向かえている。やはり上からの攻撃には風の防壁は効果を発揮しないようだ。


 うしっ!


 心中、ガッツポーズを決めた直後。彼女の体が素早く動いた。


 バッ!!


 物凄い速さでフローラさんの体が沈む。

 ブォンッ。腕からはそんな虚しい音が発たれただけ。彼女はそのままの姿勢。素早く風を体に纏い、その場から退避してから口を開ける。


 「惜しかったわね。」


 少し髪を乱した彼女は平然としていた。


 「はぁ。はぁ。身体能力も高いのか‥」


 さっきの攻撃は完璧だった。確実に決まると思った。それなのに当たらなかった。それは彼女による反射神経によるもの。脳で考えるよりも早く、体が動いた。

 魔法に関しては疎い僕だからか、直感的にそんな事が分かった。彼女は魔力と魔法だけではなく身体能力も化物だったのだ。


 「今度は私がいくわ。」


 再度の耳鳴り。彼女の体が動く。


 「くっ‥うっ‥。」


 突き出された腕から放たれたのは風の圧力。その速度はさっきよりも上がっている。しかもそこに彼女の物理攻撃(蹴りや拳撃など)も加わる。

 デビトの高速移動でもこれらを処理するのは容易ではなかった。数撃たれる度に頬を掠め、拳や脚が体に当たる。

 厄介なのは勿論、例の耳鳴り。デビトに課っせられる負担が半端ない。

 魔法が撃たれるその時が分からない為、魔力だけでその攻撃を判断しなければならないのだ。生憎、僕にそれを判断する能力がない。だから全てをデビトに任すしかなかった。


 『雫!このままじゃ負ける!何か手はないの?』


 「分かってる。けど、それを考えてる時間が‥」


 必死な声のやり取りは猛撃を繰り返す彼女にはどう映っているのだろうか?攻撃の数は時間が経つ度に多くなっている。

 

 「うっ‥」


 遂に彼女の攻撃が僕に直撃。高速に振られた脚は僕の横腹を強くめり込ませた。


 『くっ‥』


 間一髪。デビトの防御が間に合う。


 「はぁ。はぁ。はぁ‥」


 『はぁ。はぁ。はぁ‥』


 荒い息を口から吐く僕らには素早く動く彼女の姿が視認できた。息を整える時間さえもくれない。


 「デビト。彼女と一旦、距離を取ってくれ。」


 『あっ‥うん。』


 時間がない。素早く言葉を伝え、それを実行してもらう。僕自身も地を踏み、加速。来た数々の攻撃は僕達には当たらない。


 『雫。何か考えたの?なら、早く教えてよ。話合ってる時間はそんなに無いよ。』


 「あぁ。分かってる。」


 デビトに言われるまでもない。彼女は勝負を決める気でいる。考えや話す時間などくれる筈がない。しかもデビトによる魔力量もそんなに期待はできない。だから僕はここで一枚カードを切る。


 「デビト。羽だ。羽を出せ。」


 『え?でも‥』


 「あぁ。だが、それしか手がない。言い訳は後で適当に考えるから。この勝負、僕は負けたくない。」


 『‥分かった。でも、これはそんなに長くは続かないよ。』


 「了解!」


 既にフローラさんは僕達に風の弾丸を放っている。それに彼女自身、こちらへ風の勢いで向かってきている。


 『じゃぁ、行って雫。』


 「あぁ。」


 マイクス先生が何かを言っている。背中の服を突き破り、両側に生えた二本の翼は光り、ここにいる者全ての目をそこに集中させた。

 だが、そんなのは気にしない。今は目の前の相手だけに集中していればいい。


 「うわぁぁぁぁぁ。」


 地を蹴り上げ、デビトの全てを出した移動術は正に光速。光の一線にしか映ってないとさえ思える。


 「ッ‥」


 撃たれていた風圧を真正面から受けてもスピードは緩みはしない。そのスピードを持ってしての体当たり。彼女の体は僕と一緒に後方へ流される。


 「‥まだ。」


 完全に勝利を確信していた僕にそんな声が聞こえると彼女の姿が急速に後ろへ下がる。その行動の狙いは直ぐに分かった。

 

 ダダッ。


 一足先に後ろの壁に到着した彼女は僕がそこに行く前に壁を二回程、蹴って上へと回避。その後直ぐ、僕は壁に突き刺さるように音を()てた。


 「くっ‥逃がしたか。」


 あのまま彼女を壁に押し付けていれば勝負は決まっていた筈だ。だが、残念なことに彼女は健在。息は乱れ、余裕だった顔には緊張が表れていたがまだ勝負は終わっていない。 


 「悪いデビト。もう一度頼む。次はああはさせない。彼女の腕を掴んで逃さない。」


 『分かった。じゃぁ、決めてきて!』


 再度、背中に生えた翼が光る。僕は先刻同様のスピードで彼女の元へ向かった。このスピードの前ではどんな風も弾き返す。また、このスピードに対応できるとも思えない。これで決める。

 

 だが。


 「え?」


 決める。そう思っていたのだがそれは不可能となった。それよりも逆。僕の方が決められた。


 「ぐわぁぁぁぁ!!!」


 「プラント ラプンツェル。」


 彼女の腕を掴んだその時。耳鳴りは止んでそんな言葉が聞こえた。


 そして今。僕は天井がない上空に高々と持ち上げられていた。突如となく生えた大樹のような植物の先端に僕の体はあった。


 「まだ手札を全て見せていないようだったから出し惜しみしていたけれど、仕方がないわね。第二回戦といきましょうか。」


 風の防壁を解いたアリアナ・フローラは薄く笑うと上空の方へ顔を向けたのだった。

 

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