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魔法世界で剣を握れ  作者: Dk
3/6

始動

 街中央に佇む大きな建物。その周りに設置されるドーム状の建物。ここに住まう民達が十の歳を迎えると必ず訪れるこの場所は何を隠そう世界中の魔法使い(十~十九歳)が集う魔法学校である。この街にあるものは全てが学校の所有物。

 そんな学校の入学式が今日、なされるのだ。


 「はぁ、はぁ。やっと着いた~。」


 『ほんと、雫があんなにも方向音痴だとは思わなかったよ。』


 「は?デビトだってあっちの道だって言ってただろ?」


 『僕は雫に合わせただけだよ。て、早く入学手続きしないと本当に間に合わなくなっちゃうよ。』


 「お、おぉ。そうだな。」


 僕は杖代わりに使っていた一本の剣を腰に戻し、もう殆ど並んでいない受付へ駆ける。今日からが僕の。いや、僕達の始まりだ。


 「お前は隠れていた方がいいな。さっきも受付の姉ちゃん、お前をガン見してたし。魔獣の存在を公にするのはあんまよくないみたいだ。」


 『うん。まぁ、普通はそうだよ。僕達と人間はあんまり良好の仲とは言わないしね。さっきも雫、これは人形です。で乗り切ってたけどばれずに済んだかどうか?』


 今でも肩上に乗るデビトは溜息を口から吐き出す。


 『まぁ、学校内に入ったら僕は極力、人目に付かない所に隠れるよ。雫の服の中とか。』


 言うが早いか早速、服の中に潜り込もうとしているデビト。物凄くこそばゆい。


 「いや、待った。待った。服の中は戦闘の時だけにしてくれ。そうだなぁ。あそこの店でお前が入れそうなショルダーバックとか買うからそれでいいだろ?」


 『ん~?僕はそれでいいけど雫、お金あるの?』


 もぞっ。と服の中から出てきたデビト。正直、背筋から出てくるのは止めて欲しい。


 「そのくらいのお金はあるって。バイトもしてただろ?」


 『う~ん。まぁね。おじさん元気かな~?』


 「元気だろ、あのおじさんは。」


 はは。と、笑いながらも僕達は幾数もの店が連なる一店。小ぢんまりとした店の扉を開け、入った。


 「いらっしゃいませぇ~。」


 中に入ると早々。気前の良い声が店に響く。


「お客様、今日は何をお求めで?ここはありとあらゆる品物が出揃っておりますぞ?ほれ、この帽子なんか先週入荷したばかりの一品でしてね、どこの店にも置いてない品物ですぞ。是非是非、試着なんかしてみてください。あっ、勿論、衣服なんかも多種類揃えておりますので是非是非、試着。購入なんかしてみてくださいな。」


 「あっ、いや‥えっと。」


 店内に入った瞬間、店員さん?丸い眼鏡にピンクの髪がボサボサの女性に捕まった。怒涛の営業トークに付いていけず僕は後ろへ仰け反る。


 「ほれほれ。コレ。コレ。お客様にお似合いですぞ。」


 そうこうしている間にも次々と掛かる商品を手に取り、僕へ差し出してくる店員さん。


 「あ、あの。僕、そんなに買うお金ないです。安いショルダーバックが欲しいんですけど。できれば大きい。そんなのないですか?」


 「ぞよ?そうですか?お金がない?では、仕方がないですな。して、ショルダーバックですか?」


 怒涛の勢いで服だしをしていた彼女はその手を止める。腕に掛かっていた衣服を元の棚やらハンガーに戻し、僕の要望にもちゃんと応えてくれる。


 「ではあ、これなんかどうですかな?価格もお手頃。大きさも当店一のサイズですぞ。」


 全ての服を元に戻し終えた彼女は灰色のショルダーバックを持ってきてくれた。


 「あぁ、いいです。いいです。それ。」


 この大きさならデビトも入るだろう。ん?てか、あれ?デビトは?


 「じゃぁ、この商品をお求めという事で?ではでは、レジの方へどぞ、どぞ。」


 「あっ、うん。」


 辺りをキョロキョロしていると彼女の声がそれを妨げる。仕方なく僕はレジの方へ足を赴けた。


 「んじゃぁ、二千五十マイルドでずな。」


 「え?そんなにするの?」


 値札とかたいして見ていなかったからその価格に思わず声が漏れた。今の全財産はよく言って千五百マイルドくらいしかない。


 「ん?まさか足りないとかですかな?」


 「あっ、いや‥はい。」


 ここで見栄を張っても仕方あるまい。正直に白状するもやはり恥ずかしい。


 「ですか~。ですか~。では、いいですぞ。それはあげちゃいます。」


 「え?‥いいんですか?」


 「ぞよ。ぞよ~。いいです。いいです。お客様、入学生ですぞよね?入学祝い。先輩サービスって事で。」


 「あっ、えっと‥その‥ありがとうございます。先輩。」


 お金がない僕にその言葉は素直に嬉しい。この人が先輩だったということは置いとくとして、素晴らしい人間もいたものだ。


 「このお礼は必ずします。ありがとうございました。」


 商品を受け取り、店を出るその時も頭を下げることを忘れない。


 「そんな気にしないでいいですぞ。友達にもよろしく言っておいて下さいな。」


 「あっ、‥え?」


 友達?僕にそんな人はいない。いるとなれば今は姿が見えないデビトだけだ。


 「お外で待っているであろう。」


 彼女はニコニコ。その言葉を僕へと投げる。


 「あっ、はい。分かりました。」


 デビトの姿は店では見ていない。ということは外にずっといたのだ。

 のに、彼女はデビトの存在に気付いていた?


 彼女に対する疑問は絶えないが恩を受けた相手を疑うのはよくない。僕は再度、礼を口に、店の扉を開放した。

 店にいる彼女は最後までニコニコ笑って、そして扉が閉まるとこう呟いた。


 「面白い子が入ってきたですな~。」


 彼女。イリアナ・ペレは口元を更に大きく曲げ、店のプレートをclauseの文字へと変えたのだった。


 *****************


 「何で、お前は外にいたんだよ?」


 例のショルダーバックの中にデビトを入れ、そのバックに囁き声を届かせる。


 『いや‥あの店から、もの凄い魔力を感じて‥。僕、怖くなっちゃったんだ。』


 珍しく萎縮しているデビト。それに不思議を覚える。


 「あの店から魔力ねぇ‥。」


 正直、魔力皆無の僕にはその実感がない。ゆえに気持ちの共感ができない。


 「まぁ、あそこの店主なのかな?は、先輩らしいから強い魔力を感じてもなんら不思議じゃないと思うけど‥。」


 デビトがここまでなるということは相当な実力者だってことだ。彼女だけではない。きっと、ここにいる魔法使い全員が全員、力を持っている。


 『‥うん。そうだね。このくらいでビビってたら世界なんか取れないよね。』


 「あぁ、そうだ。忘れてないよな。僕達の目的はここでの一番ではない。世界の一番だ。」


 『うん、うん。そうだ。そうだ。ここはただの踏み台。ここで一番になってから四法員。最後には魔王(魔法使いの王の略)に挑むんだからね。』


 「あぁ、そうだ。そうだ。」


 と、デビトの気持ちもすっかり回復したところで、そろそろ入学式に向かわねばならない。


 「えーと。僕達の式場は十番ドームか。」


 受付で貰った紙を一目。首を捻る。


 『ん?どうしたの?』


 「あっ、いや。ここまでどうやって行くんだろうなぁ‥とか思ったりして‥?」


 忘れていたわけではないが僕は極度の方向音痴だったのだ。こんな手書きの地図で分かる筈もない。


 『え?まさか分かんないの?もう、僕に見せてよ。』


 「あっ、おい。」


 肩に掛けているバックがもぞもぞ動き始める。外に出られればせっかく買ったのに意味がない。まだ、人通りの多い道だというのに。


 「あっ、あの?」


 「え?」


 ポンッ!と出てきたデビトと同時、後ろから声が掛けられる。


 「あっ、え?それって魔獣?あっ、その‥ごめんなさい。私は美味しくないですから。どうか許して下さい!!」


 「え?は?え?なになに?てか、止めてよ。こんな所で。」


 後ろを振り向いた瞬間、目を潤ませながら土下座をする女の子の姿が。正直、ハテナの連発だ。そして道歩く人達の目がもの凄く心地悪い。


 「取り敢えずお前は鞄の中に戻っとけ。」


 『え~。僕、悪くないのに。』


 「いいから。」


 強い口調でそう言ってデビトを鞄の中へ戻す。


 「ちょっ、君?話掛けてきたんだ。それなりの用事があったんでしょ?何?」


 僕はできる限り優しい口調の元、彼女の前にしゃがみ込む。


 「…あっ。えっと。その‥ごめんなさい。ごめんなさい。魔獣を従えるようなそんな凄い方とは知らず。私なんかがお声を掛けて。」


 ドンッ!と、更に強く額を地面に押し付ける彼女。その音がとても痛そうである。そして僕を見る周囲の目もまた然り。


 「だから止めてって。」


 強引に何かをするのはあまり好きではないが、この場合は仕方がない。僕は彼女の腕を引っ張って無理矢理にでも立たせた。


 「んで、君は何?僕になんの用?」


 尚もまだ瞳を潤ませている彼女。両側に分けられている黒髪の間から見えるデコが赤みを帯びている。


 「わ、私はサーシャ・ノエルと言います。その、十番ドームって聞こえたので良かったら同行をと思いまして‥。すみません。おこがましかったですよね。」


 またも頭を下げるサーシャと名乗った少女。こんな性格ならなんで声を掛けたのだろうかと物凄く不思議に感じる。


 「いや、同行は僕も嬉しいよ。ちょうど迷ってたところだし‥」


 取り敢えず、頭を下げるのは止めてと最後に付け足して頬を掻く。


 「え‥じゃぁ。その‥いいんですか?同行しても?」


 「あぁ、いいよ。てか、僕の方から頼みたいよ。道案内お願いします。」


 今度は僕が頭を下げる。それに少女は「あわわ~。」と、声を漏らし慌てていた。

 とは言え、これで入学式にも間に合う。よかった。よかった。


 「あっ‥あの?それでさっきのアレは‥。いえ、何でもないです。」


 式場までの道を共にしていると、ふっと隣りから声が掛かる。


 「あぁ、デビトのことね‥」


 ばっちりと見られたのだ。また人形だと言って誤魔化せれるとも思えないし、ここは正直に言うべきだろう。


 「あいつはサーシャさんが思っている通り、魔獣だよ。」


 「え?‥やっぱ。そんな方が本当にいるなんて‥。」


 「あぁ、でも僕達はそんな堅い仲じゃないから。デビトは友達で僕のパートナー。それだけだから。」


 「パートナーですか?」


 「うん。」


俯き、ふむむ~と唸る少女に僕は慣れない笑顔で頷く。


 「ん?それは何ですか?」


 「ん?どれ?」


 言われたもののどれだか分からない。訊くと少女はコレです。コレです。と何故か早口で腰に刺さる二本の剣を指差す。


 「あぁ、これは僕の武器だよ。モノクロって魔剣なんだ。これをまともに振るえるようになったのは最近でね、重いのなんのって。」


 ははは。と笑いを含めて言う僕に少女は再度、ふむむ~と唸る。


 「まぁ、でも良かったよ。サーシャさんみたいな子と始めに出会えて。僕一人だったらきっと、式場にさえ辿り着けなかっただろうし。」


 「は?え?そんな事はないですよ。私なんかいたところで何の役にも立ちませんよ。それにあの‥ノエルでいいです。さん付けは恥ずかしいです。」


 「いや、呼び捨ての方が恥ずかしいと思うんだけどな‥。まぁ、いいや。」


 顔を赤らめて言う少女に軽く発言するも本人の申し出を断るわけにもいかず、僕は了承の言葉を口にする。


 「と、そうこう言ってる間にも着いたみたいだ。ありがとう、ノエル。」


 「あっ、いえ。私は何も‥。」


 手をブンブン。空を切る彼女に思わず口元が緩む。


 「そう言えば名前を訊いてませんでした。よかったら教えてくれますか?」


 「あぁ、僕は雫。新月雫って言うんだ。同じクラスとかになったらよろしく頼むよ。」


 「あっ、はい。こちらこそ。」


 手を差し出すとノエルは律儀にも手を拭いてから僕の手を握ってくれた。


 「じゃぁ、行こうか。」


 「はい。」


 そして僕達は歩き出す。目の前に佇む岩造りの大きな式場へ。

 始めに行われるクラス決めというソレも知らずに僕達は仲良く握手を交わしたのだった。

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