転落
人生とは選択だ。そして僕の人生はと言うと‥。やはり最後まで誤っていた ―
「何を辛気臭い顔をしておるのじゃ?謝りの言葉なら先刻、申したであろう。悪かったと。」
「いや、はぁ・・・まぁ。そうは言われても・・。」
僕はそう言い、またも息を吐く。
「とにかくじゃ。喚んでしまったものは仕方ない。そなたにはココで生きて貰わねばならない。じゃからいつまでもそんな顔をしておるな。」
「は、はぁ~。」
無気力な返事。それを見て目前の幼女は頭を掻く。
「まぁ、よい。どうせどうもできん。もう、落とすぞ。」
「はぁ~‥」
上の空。適当に返事を返した。 が、僕は気付く。
「いや、いや待った。待った。ちょっ、一旦ストップ!」
その準備をしていた幼女。全身から放たれていた光輝な光が失われた。
「なんじゃ?黙しておったり、騒いだり、気ままな奴じゃな?」
幼女はそう言うも僕へ言葉を求める。
「いや、少し状況を整理していたというか、なんと言うか・・。とにかくまだ早いわけなんだ。まだ、心の準備ができていないんだよ。僕は。」
「じゃぁ、その準備とやらはいつでき、完成するのじゃ?」
「う~ん。一生‥?」
頬をポリポリ。そう呟く。すると幼女は速くに背を僕に向ける。
「待った。待った。冗談。冗談。直ぐにできるから!だから、まだ待って!」
幼女の肩を鷲掴み。僕は懇願の言葉を涙して訴えた。
「はぁ~。分かったよ。少しだけじゃからな。」
「う、うん。勿論。ありがとう。」
「はぁ~。」
と、息を吐く幼女。僕の姿を見て情けないとでも思ったのだろう。僕自身、そう思うのだからそれは思われても仕方がない。
「ところで僕はココで何をすればいいわけ?」
少しでもこの場に長居しようと適当な話題を投げかける。
「そんなのそなたの勝手じゃよ。ワシはただ落とすだけじゃ。」
「いやでも何かあるでしょ?目的とか?使命とか?」
「いんや。そんなのはないな。言ったがそなたをココに喚んだのはワシの手違いで間違いじゃからな。あ間違いに何かをしろとは命じんし、期待もしておらんよ。」
亜麻色の髪で片目を隠す幼女はそんな酷いことを平然と言い放った。
「そ、そっかぁ~。‥じゃぁ、僕はまたつまらない人生を生きなければならないんだ。」
これからのことを考えると早くも疲れが出てくる。何でこんな事に。
「にゃ?そうとも限らんじゃろ?申した筈じゃ。この世界はそなたらが羨望と憧れの目で見ておった世界。魔法の世界なんじゃからな。」
「魔法ねぇ...。」
そんな事を言われても別に望んでココに来たわけではない。そう。これは始めにも言ったが間違いで誤りなのだ。僕がここに。この世界。魔法が当たり前のように使われる世界。通称、マグヒィカトたる世界に喚ばれたのは何を隠そう、目前に立つ幼女セイランと名乗った神様の手違いなのだ。
「まぁ、そのたに魔法は使えんのじゃがな。ははは。」
僕の気持ちも考えず、笑う幼女。
ん?てか、待った。今、なんて?
「ちょっ、え?魔法が使えない?」
「ん?何をそんなに驚いておるのじゃ?当然であろう。そなたはこの世界の者ではないのじゃから。」
「いや、『じゃから。』じゃなくて!どうすんだよ。僕?」
魔法の世界で魔法が使えないってそんなのライオンの檻に子猫放るようなもんだろ。
「はは。まさか、使いたかったのか?魔法?さっきはあんなに興味なさそうな顔しておったのに。」
「いや、それは訳が違うというか‥。」
とにかくこの問題は早くに何とかしておかなければ。
「とにかく、何かないの?魔法が使えないにしろ、何かそれ相応の力とか能力とか?」
懸命に問い質すが幼女は首をひと振り。
「無いな。」
と、何の悪びれもなく言うのだ。
「大体、魔法とは魔力が源となってはじめて成せるもの。そなたにはソレがまぁ、当たり前なのじゃが皆無。全くのゼロじゃ。それで詠唱を覚えようが何をしようとできるわけがなかろう。なんせそなたの体は生前のままなのじゃからな。」
幼女改め、神様は言う。そんなハチャメチャなことをいとも簡単に。それでも僕は、そんなハチャメチャな物言いでも信じざるを得ないのだ。
「まぁ、理屈はそうなんだろうけどさ。まだ僕はこの世界のことをよく知らない。そんな未知で危険な場所に何の準備も無しで特攻するのは心もとないというか‥馬鹿じゃねぇのと言うか‥。」
チラリチラリ。僕が言わんとすることが分かるだろ?という思いで幼女へと視線を投げる。
「はぁ~。そうじゃな。確かに丸腰で行かせるのも少々、心が痛む。分かったコレを持っていけ。」
「ん?コレは剣?」
幼女は横に手を。するとそこにどこからともなく剣が二本現れた。僕はそれにただただ、首を捻る。
「コレは魔剣じゃ。名をモノクロと言う。使い勝手は悪い代物じゃが、魔力の無いそなたには問題なかろう。持っていけ。」
「いや、持っていけと言われても・・。」
そもそも魔力が無いのに意味があるのか?
そんな思いを読み取ったのか幼女は僕が言う前に口を開いた。
「斬れ味はそんじゃそこらの剣よりかはよっぽどマシな筈じゃ。というよりも、剣自体がそもそも無いのじゃがな。この世界には。」
「あぁ。なる程。」
猫に爪でも磨がせた感じかな?
「という訳じゃ。長話をしている暇はワシにはない。そろそろ落とすぞ。」
言うと幼女の体にまたも光が輝く。
「あっ、いや。待った。こんな二本の剣だけとか僕、死んじゃうよ!」
「そんなのは知らん。第一、そなたはもう死んでおろうが。」
「いや、そうなんだけども。ちょっ・・」
との声虚しく。全てを聞かれず、全てを言えず、僕の体はそこから消えた。そして次に僕の両目に映っていたのは間違いなく死の光景。
魔法世界の地へ足を着けた僕は一頭のドラゴンに睨まれていたのだった。