素敵なパーティー始めよう
『そうだ、一つ聞き忘れてたんだけど』
ケビンの乗ったルナ・アルケニー・ベーシックを送り出しかけて、アイリスは残っていた疑問を思いだした。
『なんだ?』
『クラーククレーター外周探査中から低出力レーザーの照射を何度も受けたんだけど、あれはチャンドリアンサイバーのもの?中間赤外線域で、低出力だから多分生身で受けても長時間当たってればちょっとポカポカするかな、って程度に無害だったから、私たちは照準レーザーの類かと警戒していたんだけど』
『思い当たることが二つあるな。我々の持つ哨戒用のマイクロドローンの走査レーザーが中間赤外線域だ。実際君たちの事を知ったのもそこからの報告だった。だが、警戒は解除しないほうがいい』
『なぜ?』
『中間赤外線域なのは、ギーガーが近い波長域の生体レーザーを使って索敵するからだ。まぎれて生残性を高める狙いだな』
ギーガーはレーザーを味方識別にも使うので、同波長域のレーザーは無視する傾向にあるらしい。
『つまり受けたレーザーの何割かは連中に【観られた】のかもしれないんだね?』
『そう言う事だ。照射が長くなったら気を付けてくれ。まあ、多分アルケニーは大丈夫だろうが』
ルナ・アルケニーの装甲表層はギーガー由来のバイオセラミックだ。素材解析の結果はギ-ガーに酷似しており、映像情報で人工の機械と判明するまで、チャンドリアンはルナ・アルケニーをギーガーの変異種ではないかと警戒していた。同様にギーガーもレーザーでの走査では同類と誤認する可能性が高い。
『過信はできないけどね』
アイリスはそんな事情は知らないので、単に先の戦闘に立ち会ったケビンがルナ・アルケニーの戦力ならギーガーと遭遇戦になっても切り抜けられると評価したのだと思った。
『そうだな。こちらもせいぜい用心するとしよう』
言い残してケビンはクラーククレーターへとアルケニーを発進させた。
「…はて?最後の方、何か話がかみ合ってるようでかみ合ってない気がするけど、なんだったんだろ」
それを見送るアイリスは、しばし首をひねるのだった。
クラーククレーター内側の麓に据えられた1999の5番基では、あわただしく働く姿が多数あった。
『そうです。食料と水の他は気密は問題にしませんからここで保管します。在庫が定数以下になったらすぐに私かアイリスさんに連絡をください』
指示を出しているのはプルナで、それに従ってストックの整理をしているのはチャンドリアンサイバーが派遣してきた従業員だ。
『黄色のタグの付いてるパッキンは実弾だから取扱注意で。安全装置が付いてるからって雑に扱うと大惨事ですからね。Dブロックに弾種ごとにまとめて置いてください。今混ぜてしまうと絶対後で混乱しますからね』
『プルナ嬢ちゃん、実弾は10カートンづつわしのブースに運ばせてくれ』
『僕のところにはエネルギーパックを頼むよ』
『プロペラントはタンク詰めで売るのか?それとも量り売りかい?』
『ああっ、一度に話さないでください!村田さん、各口径、各弾種全部ですか?かさばり過ぎません?IDEさん、小型汎用と中型汎用だけにしないと。船舶用は倉庫出しにしないとブース占拠します!ムラさん、両方やります。もうそっちに大型タンクが付くと思いますから量り売りはそれから取ってください』
『おおい、ムラさん、このタンクはどこに据えるんだ?』
『うわ、でかいな、ドーユー君。これだと一番奥にしないとどうにもならん』
『メイフェアさんのとこから提供で、インターセプター用のタンクに用意した、とか言ってたな』
まるで戦争のようだ、と思ったプルナだが、実のところ正に戦争の準備といえる。チャンドリアンサイバーとギーガーに関する報告を受けた公団は情報を公開、併せてギーガー討伐を賞金付きの正規クエストとした。主要ギルドにも協力要請が出され、セサミオープナーはベースコンテナ1999の3番基をアタックキャンプに、4,5番基はショップとして使うことを決定、プリンセスメイフェアから、らいてうのピストン輸送で物資を搬入していた。ショップの総責任者がプルナ、村田銃砲店とガンショップIDEがテナントに入り、大地やチェサ、その他調理スキル持ちが持ち回りで厨房に就く。活動中のチャンドリアンサイバーのうち戦闘の力の低い者が従業員として派遣され、その数は200人を超した。公団を通して前線支援の場として公開することを知らせた結果非戦闘職プレイヤーも多数集まり、収容限界を軽く超える勢いとなったので当初倉庫として使う予定だった1999の5番基は店舗用に貸し出し、倉庫にはらいてうの空きコンテナを4基下ろしている。
「まだどこからも突っ込み入らないね」
「そろそろ桃次郎さんやムツキさんは物資が多すぎるんじゃないかと思ってそうですけどね」
プリンセスメイフェアの発着デッキでアイリスの独り言に答えたのはメイフェアだ。
「プリンセスメイフェアのペイロードも未公開ですから、今の所はごまかされてくださっているようです。姫様」
実際には既にプリンセスメイフェアの船倉の1.5倍の物量が降ろされている。出どころはセサミオープナーのギルドバックヤードだ。
「一応この辺で一旦止めようかな?クオ、念のためにファクトリーからのギルドバックヤードへのエネルギーパックと弾薬移送は継続して」
「はい。姫様」




