のこされた人々
「ハチ怖えな。まっさかザラマンダ・プロト出さずに沈めるとは思わなかった」
決着がつき、公団事務局へ警備員に連れられて行くアイリスを呆然と見送りながら呟く狼型ゾアンの青年にメイフェアが気付いたのは、他のギャラリーが見世物は終わったとばかりに散り散りに立ち去る中一人立ち尽くす姿が目についたからだった。
「卒爾ですが、アイリスさんのお知合いですか?」
「うわ!?あ、いや、…あいりす…菖蒲…うん、はい。リアルの。アイリスって名乗りなんだ、あいつ」
「どちら様ですか?姫様をあいつなどと随分と馴れ馴れしいですが」
クオの視線が冷たい。
「姫様?あれが?…いや、すまん。君は?」
「申し遅れました。姫様の補佐を務めております、クオと申します」
「私はメイフェアと申します。アイリスさんのパーティーメンバーです。クオさん?アイリスさんのお知り合いに失礼があると怒られますよ?」
一部のすきもないお辞儀を敵意を発散させながら行うという器用なことをするクオを窘めつつメイフェアも名乗る。
「あ、すみません、プルナと言います」
遅れてプルナも名乗った。
「失礼した。ここではミケと名乗ってる。クオ君、だったね。ありがとう。リアルの友人を大切にしてくれて」
「ミケさん、ですね?ところでハチ、というのは?」
メイフェアが尋ねる。
「あ、それは忘れてくれ。アイリスさんのリアルに関わる」
「そうですか。ではここだけの事にします」
「そうか、君が艦長さんか」
「ミケさんが調査員さんでしたのね?」
ザラマンダ・プロトのユーザースレ仲間であることが判明したメイフェアとミケはすぐに打ち解けて雑談を始めていた。場所は公団事務局内のラウンジスペースだ。
「メイフェア様、ミケ様、お飲み物はいかがですか?」
ドリンクの自動ベンダーの側からクオが声をかけた。
「お願いしますわ」
「ありがとう。頼むよ。あと俺の事は呼び捨てで構わない」
「そうしたいのはやまやまですが、姫様のお友達とあれば呼び捨てにするわけにはまいりません」
「あの、クオさん?最初の方は伏せておいた方が…」
クオの素直すぎる発言にプルナははらはらしながら突っ込むが、当のミケとクオはあまり気にしてはいない様子だ。
「ミケさん、クオさんは一度呼び方を決めたら変更はまず無いみたいですよ?アイリスさんも姫様と呼ばれるのにずいぶん抵抗したらしいですけど、結局諦めたようですし」
その攻防が容易に想像できてしまったミケが遠い目になった。
「ですが、ミケ様。姫様の危機を放置されたのはいただけません。紳士たるもの盾になるくらいの気概が欲しいものです」
「いやいや、クオ君。あそこに割って入ったとして、獲物を横取りされたアイリスの怒りはどこに発散されると思う?」
「…それなり高確率で強盗さんもろともにミケ様も蹂躙されるかと」
「俺もそう思うよ」
「姫様の理解者であられると認識しました」
すぱん
「ちょっとどういう認識なのか今度ゆっくり話し合いが必要?クオ」
事情聴取から戻ってきたアイリスがそこにいた。
「姫様、お勤めご苦労様でした」
「よしなさい。私が犯罪プレイヤーみたいじゃない」
「失礼しました、姫様」
ああ、こんな調子なんだな、とミケは納得した。




