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だから見せ場を食われるってあれほど

 『いやまあなんというか付き合いのいい連中だね』

 『おかげで助かりますけどね』

 突入したインセクティア兄弟、及びマンティスにアントもまた白兵戦で応じたため、時代劇あるいはファンタジーのようなチャンバラの様相を見せる戦場を他人事の様にアイリスが評し、メイフェアもそれに応じた。

 『乱戦に持ち込んだのはそれはそれで正解かもとは思うがね。アントの後続が撃ちあぐねて遊兵になってる』

 『フレンドリーファイヤを嫌がってるんですかね』

 ムラの見解に返しながら飛鳥は腰だめに構えたM82A2のトリガーを引いた。

 トリガーバーにシアが引かれ、貯め込んだスプリングの力で突進するストライカーが12.7mmブローニングの雷管を叩く。轟音と共に弾頭が撃ち出され、特徴的なマズルブレーキからマズルブラストが斜め後方に噴出される。銃身とボルトはわずかな距離共に後退し、銃内部のカムにより60度回転したボルトは銃身基部の薬室から空ケースを引き出し排出、ストライカーとシアを基の位置に戻してリターンスプリングの力で前進し、次弾を薬室にけり込み、再び60度回転して閉鎖する。ライフルとしては珍しい、自動拳銃をそのままスケールアップしたような動作メカニズムだ。

 発射された弾頭は、後方で射撃位置を求めて斜行するアントに襲い掛かった。わずかに狙いを外したが、それでも左肩に着弾した12.7mm徹甲弾はアントの肩装甲を貫き、肩関節軸をもぎ取る。

 左腕を丸ごと失ったアントは一瞬バランスを崩したが、すぐに立て直し射撃位置を求めて海面の滑走を再開した。

 『あっちゃ。片腕もいだくらいじゃダメ?』

 『やるなら右肩だったな。レーザーガンをなくせば前衛に出ざるを得ないだろうから』

 短い間隔で数発連射しながらムラは飛鳥に指摘した。

 『ムラさんのは全部外れだけどね』

 『……言ったろう?不得手だと』

 注文を付けたムラの体たらくにここぞと飛鳥が突っ込む。ムラもこれは酷い、と思ったようで、返しに勢いがない。

 『火器管制使ってます?』

 不得手、とはいえザラマンダの火器管制のサポートを使えば射撃スキルを持っていなくても照準はつけられるはずだ。なんとなればクラウドサイティングを有効にすれば、ムラ自身は照準なしで撃ってもセサミオープナーの誰かがロックした目標に向けて射撃している、という状態にすることもできる。

 『どうもサイトモニターにとらえきれなくてな。アントが速いからモニター外に逃げられてしまう。クラウドだと射線上に仲間がいる相手に発砲しかねんし』

 確かにクラウドサイティングは距離が開いた状況や誘導火器向けの仕掛けではある。乱戦になると誤射のリスクが大きくなるのだ。が、飛鳥はムラの弁明の前段に違和感を感じた。

 『ん?……あ、ムラさん、サイト倍率上げてません?このくらいの距離ですばしっこい奴に精密照準向けの倍率だと使えないですよ?』

 火器管制システムのサイティングモニターには精密照準のために望遠拡大機能がある。倍率は可変で等倍から20倍まで上げることもできる。

 『そんなには上げてないつもりだが……4倍はやり過ぎなのか?飛鳥君』

 『やり過ぎです。倍率4倍ってことは、視野は1/4っていうのと同じですから』

 付け加えれば見かけ上の目標移動速度や銃のブレによる狙点の揺らぎも4倍になるともいえる。今回の様にそれほど距離が無く回避行動をとり続ける相手だと狙えなくて当たり前だ。

 『そういうモノか?ふむ……ああ、なるほど、あの大きさでこの距離、体のどこかに当たればいい、という水準なら等倍の方が狙いやすいのか』

 飛鳥の指摘を受け、倍率を落としてみたところでムラも納得した。照準画面上のアントの動きが小さくなり、視野から外れにくくなる。同時に狙点を示すターゲットドットも安定するので格段に狙いやすい。そのままの流れで引き金を引くと、目標のアントの頭部が飛散していく。

 『なるほど。確かに』

 『でしょう?』

 ムラの言葉に通信モニターの中の飛鳥がどや顔で応じた。

 『視野が広くなったから状況も読みやすくなってきたな。どうしてこんな簡単なことに気付かなかったのやら』

 『私も最初は似たようなことをやらかしましたしねぇ。あの時は大地に教わったんです。あの子、FPSとかでその辺コツが分かってるらしくて』

 頭部を失っても活動停止しなかったアントにムラの追撃が撃ち込まれる。

 『ふむ。経験者かく語りき、というわけだ』

 アントは腰に命中弾を受け、そのままバランスを崩し海中に没していった。

 『らいとぅ。で、あれは拙くないです?』

 『あれ、とは?』

 唐突な指示代名詞にムラが飛鳥に視線を振ると、ちょいちょい、とライフルで前線を指し示している。その先では、インセクティア兄弟がそろって柄だけになった長剣を掲げていた。

 『『折れたあっ!?』』


 



 


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