渚にて?
『お、上がってきたね。そのまま二人とも火力支援お願いしていいかな?あと飛鳥ちゃんはカケヤの事も気にかけといて?』
『了解。こっちに抜けさせないよう頼むよ。殴り合いは苦手だ』
『らじゃ。カケヤは……まあ、しょうがないっすね』
ムラと飛鳥はその到着を認めたアイリスの指示に二人それぞれに承諾の返答を返した。ムラはセサミオープナーの中では生粋の生産職プレイヤーで、戦闘は自己申告の通り苦手とする。むしろムラの方が当たり前で、インセクティア兄弟はそのフォローのために招聘されたようなものだ。飛鳥も大地と組んで行動する都合で、最低限操縦と射撃スキルが必要になっただけでそれほど積極的に伸ばしてきたわけではない。プレイヤースキルやリアルスキルでどうにかしてしまうアイリスやメイフェアの方が異常なのだ。
『さて、そういう事ならこれと、これと、センサーポッドはおおげさか?』
『もう距離がそんなにないですしねぇ。照準補助にはなりますけど』
ムラと飛鳥はシステムメニューを開き、ザラマンダで使用するオプション兵装の選択を始めるが、もう戦端は開かれており、あまりじっくり選んでいる暇はない。
『乱戦になるとミサイルは効果範囲が広いから使いにくいか?M82A2なら腰だめで撃てるか?』
『じゃ、それでいきましょう。あれは装弾数が無いですし5,6丁出しときましょう。あとシールド』
ムラが選び出したのは12.7mm、Cal.50を用いる対物ライフルだ。マガジンや機関部がグリップよりも後方に位置するブルパップ型のレイアウトは、長距離狙撃にデメリットが発生するのに目をつぶり対空射撃にも使える取り回しの良さを求めたものである。生身であれば肩に担ぐ独特のスタイルで構えるが、ザラマンダのパワーサポートを受けられるのであれば片手持ちや腰だめでも撃てる。本来は狙撃用のスコープを乗せる上面のアクセサリーレールに光学センサーポッドが乗るのはセサミオープナーの独自仕様だが、これは無論ザラマンダでの使用を前提にするためだ。装甲で可動部に制限があるのでスコープを覗くのには無理があるし、射線と同軸に調整したセンサーとザラマンダの火器管制を同調させる方が簡単でかつ正確でもある。
村田52式よりもはるかに大口径のM82は威力も高い。セサミオープナーの先行改良が続くザラマンダでもチャンドラーのイベント後になってようやく耐えられるようになったほどだ。一方、大口径の弾丸は当然スペースを占有し、マガジン装弾数は10発しかない。飛鳥の提案はいっそマガジンチェンジするよりも銃ごと持ち換える方が速いかもしれない、という事だ。
『うし!じゃあムラさんフレンドリーファイヤには気を付けて』
『了解。飛鳥君』
準備を整え声をかけあった二人の視界では、インセクティア兄弟のザラマンダがマンティスを従え突撃を敢行していた。
浜辺に上陸したアントの第一集団は自爆したプレシジョンパンジャンドラムに巻き込まれていたが、まだ7体が損傷を負いながらも稼働していた。そこにマンティスと共にインセクティア兄弟が駆け込む。彼らのザラマンダの両腕のウエポンベイには白兵格闘戦向けの新装備が仕込まれているが、まだその出番ではない。今用いるのは鋼の剣身にバイオセラミックの刃を埋め込んだ両刃直身の長剣だ。すれ違いざまにアントの胴を薙いだ二人が並んで残心をとり、続いてアントの間を抜けたマンティスが左右に並ぶ
『振り向くな』
ぼそりとバダーが呟いた。
それが合図であったようにことごとく両断されたアントが崩れ落ち、うち数体が爆発する。
『バダーさん、それはマンティスのセリフではなくて?』
『いや、彼女らしゃべれんだろ?メイフェアさん』
アイリスと共にやや遅れて前進してきたメイフェアの突っ込みにバダーが応じ、そんなやり取りにマンティスらが軽く首を傾げている。
『うん、なんかのネタだってのはわかったけど、それどころじゃないよね』
さらに突っ込みを重ねたアイリスのアジ・ダハーカが荷電粒子砲を発砲するが、海面上を高速で蛇行回避しながら接近するアントには命中しなかった。
『弾速はあるけど速射性はこの相手には不十分みたいね』
『わかってらしたんでしょう?そこは』
『まあね』
メイフェアの指摘を首肯したアイリスのアジ・ダハーカがその動きを止めた。
ことり、と各部装甲がわずかにスライドし、半呼吸の間をおいてその場に追加パーツ群がばらまかれる。その中から現れるのは【ザラマンダ・ブラウエカッツ】だ。
『ここからはこの方が身軽でいいよね』
『先輩、同意しますけどそこはキャストオフーってはじき出すとこじゃないです?』
『そんなことしたら誰にぶつかるかわかんないじゃない』
飛鳥のダメ出しに心外だ、とアイリスが答える。
『あー、まあ、どっちの言い分もわかるが、それどころじゃないよな』
『それな。まあ、見せ場を持ってかれんうちに次行こうぜ?兄貴』
インセクティア兄弟とマンティスは残心を解いて再び駆け出した。




