足下注意
「どう見る」
「エレベータにしか見えんね」
アイリスの端的な問いに答えたのはムラだ。
「ですが、この位置は」
「ちょっと思いつきませんよね」
テーブル上のタブレットから投影される【那須】第5小隊のもたらした映像と、クレセント環礁の3D映像に重ねられた【那須】第5小隊の位置にメイフェアと飛鳥が感想を漏らした。
「こことはなぁ」
「まあ、調べたわけでもなかったしなぁ」
バダーとバズーも困惑の表情を見せる。
「他にも見つかるかもしれないけど、一番手っ取り早いのはこれどかすことだとね」
言いつつアイリスは、たん、と踵を踏み鳴らした。
【那須】第5小隊の位置は、コンテナコテージの真下だった。
「んじゃぁ、まあ、一旦外に出るか」
「えーと、こっちを支えるんでしたっけ?先輩」
「そうそ。そこが低いから支えてないと傾くからね」
飛鳥の確認に答えながらアイリスはコンテナコテージの入り口脇に設置されたコントロールパネルを開いた。パネル上のスイッチは大振りに作られており、ザラマンダの太い指でも操作には差しさわり無い。アイリスの操作でオートレベリングが解除され、コンテナコテージ四隅からそれぞれ地表まで伸びて水平を保っていたジャッキが格納される。
「よっと。先輩、今気付いたんですけど」
「なに?」
「どうせギルドバックヤード放り込むんですしちょっとくらい傾いても良かったんでは?」
「もし中ががちゃがちゃに散らかってたら飛鳥ちゃん片付ける?」
「あいすみません浅慮でした」
軽口をたたき合いながらアイリスは飛鳥の支えるコンテナコテージをギルドバックヤードへと転送した。エフェクトを纏って消えたコンテナコテージの跡では、この数日間下敷きになっていた草がぺたんとしおれている。
「ふむ、こうして見ても特に変わった所はないな」
コンテナ設置時にその可能性を考えなかったから何か見落としがあったのかも、とムラは改めてコテージ跡を観察するが、可視光に限っての話だと何も見つからない。それどころか、サーマルヴューを用いてすら通気口ほど明確な違いはなく、ムラは巧妙に偽装するものだ、と感心した。
「だがどうやって開くんだ?」
「中から【那須】に操作させるけど?」
「いや、今そうするのはわかってるが、これを使ってた連中は普段どうしてたんだろうと」
バダーの問いに返したアイリスの答えは少々ずれていたようだ。
「ああ、そっちね」
「例えば、リモートコントロールとかでしょうか?本来専用の端末があるとか」
アイリスのフォローをするようにメイフェアが見解を示した。専用のリモコンでないと外部から開けない仕様は、フィニッシャー級駆逐艦の設計の際に乗り込み白兵を試みる海賊対策にどうか、と検討したことがある。ただしこの時は万一の救助活動に差しさわりが出る上、公団の艦船運用規定に違反する、と廃案になっていた。
「秘密基地的にはありそうなアイデアよね。ともかく、開けるよ」
アイリスはモニター上の【那須】視点映像のウインドを拡大し、エレベータのスイッチをタップした。その指示を受けた【那須】の一機がスイッチを押し込み、エレベータのドアが開く。ぞろぞろと10機の【那須】がエレベータに乗り込むのを待って、アイリスは再度【那須】に指示して上昇ボタンを押させた。
すっ、と地表に光の直線が走り、軽自動車ほどの長方形を描いた。発光する長方形は3秒ほど点滅を繰り返した後、その内側がほとんど無音でするするとせりあがってきた。
「ドーユー君に見せたら喜ぶだろうな。どんな仕掛けになっているんだろう?」
「さあね?」
ムラの感想を流しつつ見守るアイリスの前で自動ドアが開き、行儀よく整列した10体の【那須】が這い出てきた。
「任務の遂行ご苦労様でした。【那須】第5小隊の全機帰還、姫様もお喜びです」
アイリスの後に控えていたクオが【那須】第5小隊に声をかけた。
「お辞儀は無しなんだ?」
「どうやらクオさんにとっては【那須】は格下の同僚、という位置付けのようですよ?」
「ああ、カケヤとおんなじような」
挨拶の際にぺこり、とお辞儀を見せる姿に慣れていた飛鳥の違和感にメイフェアが理由を推察して見せた。
「まあそんなとこ?カケヤの方が【那須】より上位と思ってるみたいだけど」
「クオちゃんの中の序列よりも、こっちはどうする?ザラマンダ装備状態じゃあ二人が限度だと思うが?」
話を目の前の事に引き戻したのはバダーだった。いかついザラマンダを装備してかさの増えた状態だと全員で一度に乗り込むことはできそうでない。
「装備解除すれば6人余裕で乗れるだろ?兄貴」
「だが、そうすると降りた直後の戦力がガタ落ちになるな。バズー君」
単純にかさを減らせばどうか、と提案するバズーにムラが問題点を指摘した。
「それに、装備解除したザラマンダをどうするかも。皆さんバックヤードにそれほど余裕はないかと」
メイフェアが指摘したのは、クオの支援が途切れる可能性も想定し色々と個人バックヤードに放り込んでいる現状だ。さらにバックヤードの空きを作るために各員のザラマンダはフル装備に近くなっている。
「ここであまり時間を使いたくもないね。バダーさん、バズーさん、先行して降りて周辺確保ってことで」
「了解した。行くぞバズー」
「よしきた。じゃあ下で待ってる」
指名を受けたインセクティア兄弟がエレベータに乗り込んでいった。




