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陸を、海を、空を

 「本当に動物の姿が無いな」

 バダーの呟きが漏れた。もう2時間くらいは歩き回っているだろうか。

 「節足動物とか小さいのは居なくもないけどね」

 足元をそそくさと去っていく蟹を目で追いながら飛鳥が応じる。ここまで陸上では、大まかに虫扱いされるようなサイズのものはそれなりに見かけるが、両生類や爬虫類、哺乳類はさっぱり見かけない。

 「多分近い陸地がないことと淡水が少ないせいだろうな」

 ムラが理由を推測して見せた。孤島であり、陸上の動物たちの遊泳能力では他の陸地から泳いで到達は困難だろう。小型の動物であれば鳥などに運ばれる可能性はあるが、ごく薄い表層土の下は石灰岩版となるのが環礁州島のセオリーで、湧き水の類がまず無い。このクレセント環礁の礁湖は外海と繋がった塩水湖であり、淡水は雨水や朝露だけと言ってよく、表土の保水力が劣りすぐに海に流れてしまうのでそれすら短時間しかとどまる事が無い。結果、長期間の水中生活をする両生類は、もしやってくることがあっても世代を継ぐことができない。哺乳類はエネルギー消費の多い生き物なので、それを支えるほどには食料が多くない、というのがムラの見解だった。陸生爬虫類は居る可能性あり、と考えてはいたが、それも今のところ出会っていない。

 「まあ、蟹は海から上がってくるよね。虫は?それと植物」

 「嵐に種が運ばれてきたり、漂流物として流れ着いたり、後は鳥、かな」

 アイリスの問いに答えながらムラは上空に視線を向ける。そこには中型の海鳥の姿があった。一部の植物は海に種を落とし潮流で運ばれる。メジャーな所だと椰子がそうだ。椰子くらいになるとしがみついた虫ごと漂着することもなくはない。それ以外だと他の陸地で鳥についた種や昆虫がここまで運ばれてきた可能性はある。

 「恐竜が絶滅しなかった生態系、て設定だったか?なら翼竜とかもかな?」

 「どうだろうな?翼竜がいたとしてもクレセントには来ないんじゃないかな?」

 バダーの指摘にムラは否定的な見解を返した。

 「なんでだ?」

 「ここでもそうとは限らないが、地球での翼竜の鬼門は離陸だ。ここは全体に海抜が低いから」

 翼竜は羽ばたく力はさほど強くない。上昇気流や向かい風を受けて舞い上がるグライダーのような飛行をすると考えられている。もっと切り立った崖があるような地形の方が適しているのだ。

 「そっかー。見たかったな、翼竜」

 「あんたカケヤだけじゃ満足しないのかよ」

 のんきに残念がる飛鳥にアイリスの突っ込みが飛んだ。



 ばすっ。

 礁湖に入り込んでいたカケヤが一つ潮を吹いた。

 「風邪ですか?カケヤ」

 浜辺でそれを見とがめて声をかけたのはクオだ。

 「きゅあ」

 「そうですか。ならいいのですが。ロビン様も外科はともかく、鐘木竜の疾病治療ができるかは未知数ですから。気を付けるのですよ?カケヤ」

 「きゅあ!」

 クオはカケヤの返答に満足気に頷いた。

 珍しく様付けをせず呼び捨てなのは、飛鳥の友人ではあっても本質的に格下で、アイリスの道具である自分とでようやく対等である、と認識しているかららしい。カケヤもそれに不満を見せてはおらず、先輩メイド、くらいの感覚であるようだ。

 「きゅあ?」

 「全島調査ですから時間はかかるでしょう。姫様がおいでなのですから心配はありませんよ。カケヤ」

 「きゅ」



 「むぅ、なんだろうなこれ」

 コノミから送られてきたピット側壁の組成データに、ホルベインは眉間に軽くしわを寄せた。

 「何かわからないことでも出てきたんですか?」

 ホルベインがあげた声に反応したソガがモニターを覗き込んでくる。

 「ピット側壁なんだが、この検査結果だと炭酸カルシウム層の中にかなり大きい炭素結晶があるって事になってる」

 表面を覆う堆積物の下から最初に見つかったのは炭酸カルシウムの層だった。これに関しては二つの解釈が取れる。環礁の成立過程を考えれば、かつてはピットのある水域の水深は現在よりもかなり浅かった可能性はある。そこで生育したサンゴの名残である可能性が一つ。もう一つはコンクリート、ないしはそれに類するものが沈められている可能性だ。幾何学的、規則的にピットが配置されていることから、セサミオープナーもストライカーチームも後者である可能性の方が高い、と見積もっていた。

 『炭素の単結晶といえばダイヤモンドですが、ここまで大きくはならないと思いますね』

 データを送ったコノミもそれがなんであるか判断しかねているようだ。ダイヤモンドは生成にかなりの高圧、高温環境が必要で、結晶を大きく成長させるほどの長時間必要な圧力を維持するのは困難となる。逆に言えばそれが困難であるが故に大粒のダイヤは貴重、とも言える。

 『シンヤさんやロビンさんは心当たりはありませんか?』

 『いや……遺跡建築の類なら金属の骨材が入ってるのは予想してたんだが……』

 『すみません、私もちょっと。ですが……』

 ストライカーダイバーのシンヤもシーカーのロビンも即答できないようだ。が。

 『ロビンさん、なにか?』

 最後に言いよどんだロビンにホルベインが問いかけた。

 『その、材料とか素材とかならセサミオープナーの皆さんの方が詳しいと思います。今は結論先送りでとにかくデータを集める方向でどうでしょう?』

 『……それもそうか。コノミさん、3方の壁のデータをなるべく深くまで取ってくれ。それが済んだら州島外周を頼む』

 ロビンの言う事ももっともだ、と分析をセサミオープナーに丸投げすることにしたホルベインはコノミに調査続行を指示した。

  

 

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