初日終了
アイリスはダウンロードしたテイザーガンを食後に仕上げ、その後ログアウトした。
「ふう、目論見とはまるで違っちゃったけど、違うから新鮮でもあるよね。」
今しがたまでの体験を振り返り、そのままVR機のチェアベッドで就寝したのだった。
翌日、朝食や掃除、洗濯を終えた菖蒲は、食材の補充を兼ねてショッピングモールを訪れていた。知人の経営する雑貨店のHPを作成、更新するアルバイトの報酬が入ったばかりなので、懐はわりに温かい。
「やあ、ハチじゃないか」
ぽいぽいと買い物籠に野菜を放り込んでいると、背後から声をかけられた。
「あぁ、だれかと思えばミケっちか」
菖蒲の姓、八十八から取ったあだ名で呼びかけたのは、高校からの友人でゲーム仲間でもゼミの仲間でもある三宅真司だ。ハチ、などと犬みたいなあだ名をつけられたので、対抗して猫みたいなあだ名で呼ぶことにしているのだがあにはからんや、真司は結構それが気に入ったようで抗議を聞いたことがない。
「買い出しか?」
「うん、ピーマンとかレタスとか、いろいろ使い切りそうなのよ」
「そっか。俺は米だ。」
見れば、真司の買い物籠には確かに5㎏の米袋が乗っている。
「大変だぁね。家はお米は送ってくるからその辺楽できるよ」
米なら売るほどある、とは兼業農家の父の言葉だ。
「ああ、そうだ、。会ったら礼を言っとこうと思ってたんだ。たすかってる」
「へ?何の話さ」
レジ清算後、雑談しながらなんとなく連れ立っていた真司が唐突に礼を言ってきたので、菖蒲は面食らって聞き返した。
「いや、フロンティアプラネット始めたんだわ。で、課金ガチャで出た初期装備が【ザラマンダ・プロト】でさ。あれ製作ハチだろ?使い勝手が良くてたすかってる」
「そうだけど、判るんだ?」
「んー、なんつうか、関節の処理とかオプションラッチのレイアウトとかにハチの芸風が出てると思った」
「芸風ってww まあ、お礼はいいよ。ユーザーが増えればロイヤリティーが入ってくるからね。まあ、よければ時々使用レポートを聞かせてもらえれば」
「じゃあ今、一つ聞いてもいいか?」
「おうどんとこい」
「なんでパワーだけ強化してスピードはユーザーのステ依存なんだ?」
「…あぁ、やっぱそう思うよね」
「あれでスピードも上がれば文句なしって、ええと、巌さんだっけ?βプレイヤーだったフレが言ってた」
「実用化テスト中にさ、際限なく関節駆動速度を上げられる状態で走ってみたのよ」
「壁に突っ込んだとか?」
「いやいやミケさん、そんなものじゃ。まぁそれもやったんだけど」
「だけど?」
「一瞬で死に戻りした」
「なにそれこわい」
「だからさ、その仕様だと関節が有り得ない速度で曲げ伸ばしされるわけよ。で、見る見るうちにダメージ蓄積されるのDEATH」
「…うわぁ」
「まあ速攻ユーザーのスピード値以上にならないようにリミッターを追加したね。あれは酷かった」
「うん、まあ、解かった。巌さんとかにもその話教えても?」
「うん、構わないよ。そのうち生産者掲示板とかにも情報アップするつもりだったし」
会話が一段落して気付けば書店テナントの前まで歩いていた。
「じゃあ、私はちょっと本屋覗いて帰るよ」
「おう。そのうちフロンティアプラネットで」
書店での買い物、狸の写真集




