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鐘木竜リターン

挿絵(By みてみん) 


「なんと言うか……紐だけですね」

 「ですよねぇ……」

 飛鳥の【手直し】を終えた水着を受け取ったロビンが上機嫌で再び海中へ没したのを見送ったメイフェアの感想に、飛鳥はひとつ首肯して答えた。サイレーンで使用できないクロッチ部を取り外し、ストリングをウエストに巻き付けるようにレイアウトを変更、バストカップもサイレーンの元々のデザインがアイリスにしては珍しく装飾的に処理されていたため、せっかくだから、と覆い隠さぬようにした結果であった。

 「このへん、先輩ともうちょっと詰めたほうがいいかな?」

 クラークモールでも水着を購入したサイバーはそれなりにいる。サイレーンの方が遅れた、というよりは、水着の販売実績がサイレーンの開発を後押しした側面があるのだが、ビキニ・セパレートならボトムを使用しなければ済むので全員ではないにしてもせっかく購入した水着を無駄にさせるのは忍びない。ちなみにユバが最終的に購入したのもワンピースだったので、サイレーンのジュニアサイズを作成した場合水着を選び直さねばならないだろう。

 「改修を無償で行うくらいなら、交換に応じる方針にした方が早いですね」

 「ですよねぇ。プルナさんとも相談しなきゃだわ」

 改修のために必要な時間を思えば、確かに返品交換に応じた方が早い。まさかのセサミオープナー初のリコール案件である。ここらは商取引主任たるプルナとも打ち合わせが必要になる。いずれにせよ、サイレーンの仕様が固まりデリバリーに至る際には水着に対応・不対応のタグくらいは付ける必要があるだろう。

 「まあ、ロビンさんは満足してるようですからよろしかったのでは?」

 「甘いね。メイフェアさん」

 メイフェアのフォローに、しかし飛鳥は軽く眉を寄せる。

 「よくよく気を付けてもらわないと、うっかりロビンさんが人前であの水着のまま標準ボディーに換装すると」

 「……大惨事ですね」

 何しろクロッチを撤去しているのだ。衣類装備を合わせて変更するように気を付けてもらわないと通報必至で、3度目ともなるとアカウント停止も有り得なくはない。

 『おーい、ロビンさーん』

 とりあえず、気付いたのだから忘れぬうちに忠告しておこう、と飛鳥はロビンに呼び掛けた。

 「呼びましたー?」

 20mほど母船から離れた所で海面から顔を出したロビンの背景で、別の何かが海面からジャンプした。

 ばっ、と飛鳥は船内に振り返る。

 「飛鳥さん!ロビンさんに船上への避難指示を!」

 「やばそう?」

 なんだか昨日の自分と状況が被るなあ、と思いつつ飛鳥はメイフェアに状況を正した。

 「昨日の飛鳥さんよりは距離はありますね。2kmくらいは離れています。ですが、早目の避難の方が安全ですから」

 「ごもっとも。『ロビンさん、後ろ大きいのがいるみたいです。船に上がってください』」

 「えっ?はいっ!」

 飛鳥は波音で声が届きにくくなる可能性を考慮し、フレンド通信でロビンに呼び掛ける。身体能力の低い自覚があるロビンも警告に対する反応は早く、まっすぐに母船に向かい始めた。

 「メイフェアさん、クオちゃん、詳細わかる?」

 「現在相対位置、南東1,800m。2頭確認しました。やや大型1頭、大型1頭です。飛鳥様」

 クオからの報告はまだ詳細な、とは言えない。飛鳥は先ほどの跳躍点に再び目を向ける。

 『ロビンさん、スラスター出力最大なら少しの助走で船上に届くジャンプができます』

 『はいっ!』

 メイフェアの助言を受けたロビンはジャンプするが、勢い余って船を飛び越してしまう。飛鳥はロビンのフォローはメイフェアに任せる事にし、監視を続けつつクオの続報を待った。

 「修正します。1体は体長約7m、鐘木竜と見られます。もう1体は15m、地球産のタルホサウルス類に似た特徴があります。両者交戦中と見られます。飛鳥様」

 クオからのさらなる詳報が入ったのは、3度目のジャンプで甲板をとらえたロビンをメイフェアが捕まえたのと同時だった。

 「7mの鐘木竜って、昨日のあいつかなぁ?」

 体格と種族の一致にそんな想像をする飛鳥の視界で、再び跳躍の水柱が上がる。その頂点に身を躍らせているのは、確かに鐘木竜のシルエットだ。

 「交戦中、と言うよりは、襲われていませんか?あれは」

 「きゅう……」

 「そうですね。って、ロビンさんどうしたの?」

 メイフェアの声に返事をしつつ飛鳥が振り向くと、なぜかメイフェアの足元ではロビンが目を回していた。

 「勢いをそぐために3回ほど回って床に降ろしたのですが」

 「……落とした、でなくて?」

 「解釈の違いですね」

 非常時とはいえ、何気に酷い話ではある。何が、という訳ではないがシンパシーを込めた目で飛鳥はロビンを一瞥した。が、鐘木竜らが気になるのも事実で、飛鳥は三度海上へと視線を移す。そこでは鐘木竜が3度目のジャンプを敢行していた。

 「あれ?今のジャンプ、何か変でない?」

 「なにか……姿勢が不自然でしたね」

 メイフェアも異常を感じたようだった。

 『自分で跳ねたのではないようです。タルホサウルス、と仮に申し上げますが、あれの鼻先で跳ね上げられたと見られます。飛鳥様、メイフェア様」

 クオから発せられた観測情報は、そんなものだった。

 

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