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海上散歩

 ポーパシングで数回跳ねるうちに接水の抵抗で減速していたとはいえ、かなりの速度を保ったまま水面に突き刺さった2式の右主翼はエンジンナセルの内側からぽっきりと折れた。つんのめるように水面に落ちた2式は水柱を築きつつ斜めに滑り、だが、残った左翼で奇跡的にバランスをとって横転だけは避けて停止した。そんな2式の姿をよそに、ちょいちょい、とアイリスは宙に指を走らせ、メニュー操作をしていた。

 「ちょ、先輩、あれ大丈夫なんですか?」

 「んー、一応3人とも生きてはいるみたいだね」

 「そのようですね。デス表示にはなってませんし、システムメッセージのデス通知も来ないようですし」

 慌てる飛鳥だが、アイリスも、アイリス同様にメニューを確認していたメイフェアも2式に乗り組んでいた3名が生存していると告げる。

 『バダーさんっ、バズーさんっ、ムラさんっ!無事ですかっ!?』

 『う、ああ、とりあえず生きてる』

 飛鳥のフレンド通信での呼びかけに答えたのはバダーだ。

 『すまん。しくじったのは俺だ。侵入姿勢が浅すぎたんだな。機体を壊しちまった』

 『まあ、事故は想定の内だったからそれはいいよ。バズーさん。みんな動けるの?』

 『ああ、多少の打ち身で済んだようだ。俺がその程度だからバダー君もバズー君も動けるだろう」

 バズーの詫びを流したアイリスが状態を確かめ、ムラがそれに応じる。主翼折損が逆に幸いしてコクピットへの衝撃を吸収してくれたのかもしれない。それに航空機用の5点シートベルトを律儀に締めていたのもよかったのだろう。

 『では、早目に機から離れてください。その辺りの水深がどの程度かは存じませんが、おそらく沈みます』

 『『『……え?』』』

 『沈みます』

 メイフェアがさらなる危険を追い打ちで告げた。ビーチでも飛鳥が、ばっ、とばかりにアイリスに振り向く。

 「元々2式の設計には水密処理の不備があって浸水癖あるのよ。レプリカはその辺改良はしてるけど、主翼がもげるほどの衝撃だったみたいだしねぇ。立て付け怪しくなってると思うよ」

 アイリスはこれまた事もなげに解説を加えた。

 『ボートはどこだ?メイフェア君』

 『ありませんよ?そんな物』

 『『『え?』』』

 『内輪で試験してみるだけのつもりでしたから装備関連の省略出来るものは載せてません』

 動揺する3人にメイフェアは淡々と告げる。

 『ど、どうすんだ?』

 『飛び込むか?沈没に巻き込まれないほど離れるまで泳げるか?』

 『省略って、救命具は省略しちゃいかんだろう?』

 メイフェアの口ぶりに冗談ではなく本当に救命具の搭載がないと悟った3人の動揺が深まる。

 「先輩、メイフェアさん、それホント酷いと思いますが?」

 『いや、落ち着いて言う通りにして。まずコクピット天蓋の窓から外に出て』

 飛鳥の突っ込みを無視してアイリスは3人に指示を飛ばした。やがて、コクピットの天窓部分が跳ね上げられ、ごそごそと這い出す人影が遠目に見える。そうこうするうちに浸水が進んでいるのだろう。少しずつ艇体が傾いでいくのも見て取れた。

 『出たぞ、アイリス君』

 焦りもあるのだろう。やや息を切らしたムラから次の指示を求める通信が届く。

 『じゃ、ザラマンダ装備して』

 『『『……あ』』』

 『で、滑走モードで戻ってくればいいでしょ?』 

 ザラマンダの機動補助ユニットは大気圏内では地表効果を併用するホバリング機動で、短時間なら飛行もできる。数百m程度の水上移動は何の問題もない。アイリスとメイフェアが救命具は省略しても良しとしたのは、要するにテストを行うのがセサミオープナーのメンバーであるなら救命具代わりになるザラマンダを全員が所有しているからだ。因みに、全領域基のザラマンダは水密も確保しており深度100m程度であれば潜水もできるが、この場合は海底を歩く事になると思われた。

 『あ、そうだ、ついでに大雑把でいいから水深どのくらいか調べながら戻ってこれるかな?』

 『……分かった。やってみるよ』

 全く動じていないアイリスと、対照的に慌てふためいた自分たちのギャップにひとつため息をついたムラは、ソナーブイをバックヤードから取り出して海面に放り投げた。



 ムラがソナーブイを引っ張って収集した水深のデータは帰還後すぐにクオに接続、処理された。

 「なんか、おかしいかも?」

 「どうした?アイリス君」

 クオの差し出すモニターのグラフを一瞥したアイリスが眉根を寄せる。

 「ええと、ムラさん、ここみたいな環礁って、下は普通なだらかに深くなるんだよね?」

 「まあ、そうかな?」

 環礁、というのはリング状のサンゴ礁でできた島のことを言う。元は火山島であった島の周りにサンゴ礁ができ、火山島の成長と共に時間をかけて成長、やがて海底プレートの移動と共に火山活動が収束し、地下のマグマの冷却や海底プレート自体の沈み込みで岩石でできた火山島部分が水没してできるのが大まかな生成の流れだ。なので周辺の水深はサンゴ礁のエッジで切り立っており、ここの場合でも200mくらいの海中断崖がある。その断崖の先は元の火山のすそ野で、通常はなだらかな傾斜だ。

 「このさ。2式が沈んだあたりからすとんと30m以上深くなってるんだよ」

 「ふむ……調べてみる、かな?」 

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