わんだばだ、だ。
無重力区画でエレベータから降りた時点で、アイリスはメニューからザラマンダ・プロトを呼び出して装備した。システム上宇宙服の扱いだからできることだが、β中に初めて人前で実行した時は特に年長プレイヤーから「蒸着ww」と囃されたものだ。生やされた、でも合っていたかもしれない。
「こちらです」
入り口のドアは横スライドの自動ドアタイプ。「電子ロックでございます」と言わんばかりのボックスが脇についている。ボックスのキーボードでIDを打ち込むとドアが開く。中の広さは今のところちょっと広めのガレージ、といったところだ。今はそのほとんどを作業ポッドが占有している。
「ところで、クオはザラマンダ・プロトと通信、データリンクはできるの?」
「少々お待ちください、回線リンクを構築します…いかがでしょう?」
視野の隅に先ほど執務室で見たセサミシードの立体映像が映る。要修理個所のマーカーの他に、ベイブロックの片隅に水色の光点が追加されている。
「水色の光点が姫様のザラマンダ・プロトを示します。ザラマンダ・プロト及びポッドはすでに保険対象から除外されていますから、回収不能になるとアイテムロストとなるのでご注意ください」
「忠告ありがとう。それと呼び名」
「失礼しました、アイリス様」
ハッチを開け、改装コクピットにザラマンダ・プロトを固定する。ポッドの正面にはエアロックがあり、ここからベイブロックの真空区画に出ることができる。
「BGMかコーラスをおつけしますか?」
「なにそれ」
「様式美的にいかがかと」
「ばか言ってないで退避なさい」
「では、行ってらっしゃいませ、姫様」
ぺこり、とお辞儀をする姿が様になっていて、呼び名の訂正を忘れていたのに気付くのはずいぶん後になってからだった。
クオがバックヤードから退出するのを待ってエアロックから滑り出したポッドは外壁沿いに走るレールに向かう。
**メンテナンス用トラム コロニー外壁でのメンテナンス機材を運搬するための簡易鉄道。運行システムは港湾機能に付随する、**
「つまり、メンテナンスポイントの近くまでこれをたどって行けそう?クオ」
「はい」
「要修理個所の近くを通るトラムを表示」
「かしこまりました」
セサミシード画像の表面に直線が走り、光点をつないでいく。とりあえず一番近くのポイントへのルートに辺りをつけて、マニピュレータでレールを引っかけて滑走を開始する。
「ああ、そうか。自転と同調してると宇宙空間がわに体感重力があるんだ」
頭の上に一面の巨大構造物、足元が体感では下なのに、何もない宇宙空間という不思議感覚を楽しみながらアイリスは最初のポイントを目指した。




