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五月祭要塞

 開いて行くエアロック内扉に身を隠し、クリス・ベクター短機関銃だけを突き出しての乱射を各1マガジン行った五十鈴らは、通路の様子を伺ったところで言葉を失った。無理もない。そこにいたのはボディーアーマーとヘルメットを着用し、テーザーで武装した10名の兵士、そしてそれを率いて先頭に立つ1体のザラマンダ。

 「投降なさい。ザラマンダは無論、兵のボディーアーマーもスパイダーシルクとバイオセラミックを用いた装備です。45ACPでは抜けませんよ?」

 ザラマンダから若い女性の声で投降勧告が告げられた。

 「ちっ!」

 ボリスが舌打ちと共にトリガーを引き絞り、再び30発の45ACP弾がばらまかれる。後方の兵は頭を守る防御姿勢を取り被弾した者は衝撃に耐える様子が見て取れるが、ザラマンダは悠然とした様子で着弾を気にも留めていない。元よりアサルトライフルに耐えるザラマンダの装甲、ましてやセサミオープナー仕様のザラマンダはアイリス機と同様、cal.50に耐える複合装甲がレトロフィットされているのだから当然45ACPなど豆鉄砲と変わりない。

 「きったねえ……」

 「おかしな事をおっしゃいますね?状況を作り、状況に適した装備を用意し数をそろえた方が勝つ。近代戦とはそういうものですよ?」

 悔しそうなボリスの呟きに涼しげな声でザラマンダ、もちろん中身はメイフェアが応じる。

 『ねえねえメイちゃん』

 『なんですか?アイリスさん』

 と、ザラマンダの通信ウインドが開きアイリスが映し出された。

 『言ってることはまあ正論だけど、まるっきり悪役のセリフだね』

 『……そうでしょうか?それは困りましたね。では』

 アイリスの突っ込みに、メイフェアも多少思うところがあったようだ。

 「とは言ってもこれでは戦力差がありすぎて弱い者いじめみたいですね。一つ、賭けをしませんか?」

 「賭け?」

 メイフェアのやや唐突な提案に風向きが変わったと感じた五十鈴が問い返す。

 「はい。背中の棒を見るに、棒術、あるいは杖術をなさるのでしょう?私と試合ってみませんか?ああ、もちろんザラマンダ抜きで」

 「……」

 「私が負ければ……そうですね、お仲間のところへ戻れる小型艇をお譲りしましょう。もちろん私が勝てばこのまま拘束、ステーションで公安警備に引き渡すことになります」

 五十鈴の反応が鈍いので、メイフェアは続けて条件提示をした。

 「ふん、いいだろう。相手をしてやる」

 おもしろくもなさそうに答え、五十鈴はベクターを捨てて背負った昆を引き抜いた。

 「そうでなくては。ようやくせりふ回しがしっくりきました」

 メイフェアがごん、と掌を合わせて喜ぶ。当人はぽん、と合わせたつもりだったが、ザラマンダを着用したままなのでかわいくない事おびただしい。

 「ああ、いけません。いつまでもザラマンダを着ていては試合になりませんね」

 装備解除のエフェクトと共にメイフェアの姿がザラマンダから平服の袴姿へ変わる。平服、とはいえスパイダーシルクを用いて飛鳥が仕立てたものだ。防弾、防刃性能は高い。

 「改めて自己紹介を。今回の船団の指揮を取っています。プレイヤーネームはメイフェア、恥ずかしながら姫艦長、とも呼ばれております」

 その顔を見た五十鈴は息をのんだ。

 「あんた……山城高の五月祭要塞だね?」

 「あら、それをご存じですか?どこかでお会いしたことが?」

 「あたしだ。プレイヤーネームは五十鈴」

 ヘルメットを外しながら五十鈴も名乗る。

 「ああ、先の大会では当たりませんでしたが……あの、それと身バレは避けていただけると」

 「それは済まなかった。気を付ける」

 


 『なんでしょうね、今のやり取り』

 『あー、多分あの五十鈴って海賊っ娘も薙刀競技者なんだと思う』

 クオから送られる現場の監視カメラによる中継を見ていた飛鳥がアイリスに質問を飛ばし、アイリスも差しさわり無いだろうと思える範囲で答えた。

 『要塞がどうとか、はメイちゃんから聞いたことがあるよ。鉄壁の副将で大将に試合させたことが無いから要塞ってあだ名されたとか。で、薙刀って競技人口多くない世界だから』

 『ああ、ある程度以上のレベルの競技者は大体互いに顔くらいは知ってるし通り名も、と』

 『多分ね。それ以上はメイちゃんに直接聞いてもらったほうがいいかな?』

 競技人口が少ないのでこの程度の断片的な話でも調べようと思えば特定できてしまう。やらない程度には飛鳥の常識に期待はするが、アイリスから明かすのはよろしくないだろう。

 『デスヨネー。まあ、それは今度メイフェアさんにそれとなく聞いてみるとして、制圧しちゃっても良かったんじゃ?』

 『クルーの安全を優先したね。あれは』

 数に任せて捕縛してしまえば終わりで、逃す可能性を作る事もないのでは、と飛鳥は疑問を持った。

 『あの棒が気になったんだろうね。乱戦になると一人にかかれるのは3人とか4人がせいぜいで、今のハリケーンクルーの練度なら私とかメイちゃんならあしらえるから』

 乱戦になればテーザーも誤射が怖く使いにくくなる。もし五十鈴と名乗ったあの海賊が手練れなら、あるいは1小隊くらいはどうにかしてしまうかもしれない。

 『となると、最終的にメイちゃんがどうかするとしてもけが人出すかもしれないからね。むしろ相手が気付く前にこっちのペースに乗せてしまおうってことじゃないかと』

 『まあ、あの様子だと目論み通り行ってるんですかね?でも』

 『でも?』

 アイリスの解説に納得するも、まだ飛鳥には疑問点がある様子だ

 『逃がしちゃうことになってもいいんですか?』

 『元から殲滅しない予定だからね。脅威になるって知っておいてもらうためにも』

 侮れぬ戦力である、と知られなければ【ハリケーン】も【ルービック】も抑止力にならない。そのため

一定数の海賊を見逃すのは予定の内で、その人数が多少前後した所で誤差の内なのだ。

 『はあ、そういうものですか』

 『お話し中申し訳ありませんが、始まりそうです。姫様、飛鳥様』

 クオの報告通り、中継ウインド内では愛用の薙刀を下段に構えたメイフェアとチタン棒を八双に構えた五十鈴が対峙していた。












 

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